藤本健のソーラーリポート
太陽光発電システムが“実質タダ”で導入できる?
神奈川県の「ソーラーバンクシステム」とは
「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
■太陽光発電は初期費用が高くて……そんな時は「かながわソーラーバンクシステム」
昨年の電力不足により注目を集めた太陽光発電。自宅に導入してみたいと考えている人も多いだろうが、その一方で、高くて手が出せない、という人も少なくないだろう。
しかし現在、太陽光発電システムが格安で導入できる「かながわソーラーバンクシステム」というサービスが、神奈川県にて昨年12月22日にスタートしているのをご存知だろうか? システムの詳細は後で述べるが、このシステムで購入することは、客観的に見てもかなり「お得」だ。発電した電気を売電することで、導入から約9年で購入資金の元が取れるという試算もある。オーバーな表現かもしれないが、“実質タダ”で太陽光発電システムが導入できるのだ。
しかし、神奈川県のPR不足か、マスコミでの扱いが小さいためか、当の神奈川県民にすらあまり知られていないのが実情。現状の応募も非常に少ない。一般個人にとっては複雑に見えるサービスではあるが、一戸建ての自宅を持っている神奈川県民にとっては、安価で太陽光発電システムが導入できる、非常に大きなチャンス。また、ほかの都道府県でも、この仕組みを真似れば展開できる内容なのだ。
今回はこの「かながわソーラーバンクシステム」について紹介してみよう。
■黒岩知事のソーラー戦略から誕生。でも、なんで安く導入できるの?
2011年4月23日、神奈川県内に4年間で200万戸分の太陽光発電システムを設置することを公約に、黒岩祐治氏が神奈川県知事に当選した。しかし就任後は、具体的な政策などがなかなか出ず、新聞などのマスメディアの記事も、それを批判する内容ばかりが目立った。しかし最近になって、ようやくいろいろな施策が打ち出されてきた。
その中で注目したいのが、今回のテーマである「かながわソーラーバンクシステム」だ。これは「県民に住宅用太陽光発電設備を適正で安い価格で設置してもらう」ことを狙いに作られた仕組みで、普通に太陽光発電システムを導入するよりも、安価に導入できるというもの。10年あればほぼ元を取ることができるという試算もあり、“実質タダ”で太陽光発電システムが導入できるという内容なのだ。
かながわソーラーバンクの仕組み |
なぜ太陽光発電システムが安く導入できるのか。その要因はいくつかあるが、理由の1つが「量」。ソーラーバンク開始前の2011年11月、神奈川県は業者に対し設置プランの募集を行ったのだが、ここにはパネルメーカーを中心とした47のジョイントベンチャー(企業の共同体)から、387件のプランの応募があり、この中から価格や内容、実績などを元に、12グループ、33プランを絞り込んだ。会社側も多くの受注を見込み、安い提示をしてきたというわけだ。
もうひとつが、「営業経費の削減」だ。一般的に太陽光発電の場合、訪問販売をしたり、さまざまなPRを行うなど、営業経費が大きな比重となっている。そこで、それを神奈川県側が行なうことで、この営業経費を大幅に削減することができ、結果として安く導入できるようになっているのだ。
■初期導入費で50万円以上も安くできる
では実際、どのくらいの価格で導入できるのか? 具体的な試算プランをご覧いただこう。
かながわソーラーバンクシステムでは、全部で33種類のプランを用意している。このうち「A-1」というプランでは、シャープ製の多結晶シリコンの太陽電池3.28kW分を切妻屋根に載せる、というプランになる。
かながわソーラーバンクのプラン一覧。全33種類のプランが用意されているが、本稿では「A-1」プランを例に挙げて紹介しよう |
この「A-1」プランの設置参考金額は、税込みで1,217,460円。つまり約122万円で太陽光パネルが導入できることになる。
これを、出力1kW当たりの単価で計算すると、以下のような計算になる。
・1,217,460円÷3.28kW=371,177円
「A-1」プランでは、発電1kW当たり、約37万円で購入できるということだ。
恐らく、この数値を見せられても、どれだけ安いかいまいちピンと来ない人が多いだろう。しかし実はこれ、私もちょっと聞いたことがないほどの安さだ。
というのも、資源エネルギー庁が発表しているデータによれば、2010年10月~12月の住宅用太陽光発電システムの平均価格は、出力1kW当たり「56万1千円」としている。また、神奈川県の資料では、2011年4月~6月の平均価格が「54万4千円」。導入価格は年々下がっているものの、それでも20万円以上の差がある。この「54万4千円」を、A-1プランの出力3.28kWに合わせると、初期投資額は約178万円で、50万円以上も安く済む計算になる。
もちろん、屋根の材質や大きさなどによって多少の金額の違いは出てくるが、「かながわソーラーバンクシステム」を利用することで、基本的にはこの金額での導入が可能となっているのだ。
■県や市区町村の補助金を合わせれば、さらに安く導入できる
さらにお得な情報として、先に挙げた「1kW当たり37万円」よりも、さらに安くなる可能性もある。
実は前述の価格では、国からの補助金である1kWあたり4万8千円が既に差し引かれている。これに市区町村の補助金を加わることで、さらに安く済ませることができる。
たとえば川崎市の場合、市と県の両方から補助金が下りる。市からは1kWあたり2万5千円、県からも1kWあたり1万5千円。例えば出力3.28kWの場合なら、補助金は約13万円になる。
・(25,000円+15,000円)×3.28kW=131,200円
この約13万円を、先ほどの「A-1」プランから引くと、合計金額は約108万円になる。前述の一般的な初期投資額と比べても、約70万円ほど安くなる計算だ。
・1,217,460-131,200=1,086,260円
この約108万円で導入した太陽光発電システムを、出力1kW当たりに変換すると、約33万円で導入できる。ただでさえ安いうえに、各自治体の補助金を合わせれば、さらに安く済ませられるのだ。
・1,086,260円÷3.28kW=333,177円
■9~10年で初期導入費は回収できる。以後は売電で黒字化も
導入までの価格がわかったところで、次に初期投入費を回収し、“実質タダ”となるのがいつになるかを考えてみよう。
神奈川県の試算では、平均的な3.3kWシステムを導入した家庭の10年間での発電メリット(売電収入と、発電分を自家消費することによる節約の合計)を、約120万円としている(神奈川県の資料より)。
この120万円を、先ほど試算した「A-1」プランと照らし合わせてみる。
【初期導入費 1,086,260円】- 【発電メリット 1,200,000円】= 【113,740円の黒字】 ※県・市区町村の補助金ありの場合[川崎市]
県・市の補助金が出た場合だと、初期導入費はほぼ9年でペイでき、さらに10年目には11万円の収入が得られることになる。これはかなり画期的なプランだ。
設置から10年後の収支構造の試算(県・市区町村の補助金ありの場合)。初期導入費を回収し、かつ売電により11万円の利益が出ることになる |
もちろん、これはあくまでもモデルケースではあるが、家庭で使う電気を節約すれば、その分多くを売電に回すことができ、結果として資金回収が早めることもできる。
設置プランは屋根の形状によって異なる。今回例に挙げた「A-1」プランは、左の「切妻」形状となる |
なお、ここまでは「A-1」というプランを例に挙げて紹介したが、屋根の形状と屋根の材質によってプランは大きく5つに別れる。
Aタイプ:「切妻屋根」ストレート材・ガルバリウム材
Bタイプ:「寄棟屋根」ステレート材・ガルバリウム材
Cタイプ:「切妻屋根」瓦材
Dタイプ:「寄棟屋根」瓦材
Eタイプ:「陸屋根」
この中にも、各タイプ別にさまざまなプランが計33種類用意されている。パネルメーカーとしては、シャープ、京セラ、ソーラーフロンティア、ノーリツ、カナディアンソーラー……と、主だったメーカー12社が参画。プランによって価格も結構違ってくるので、“絶対10年で元が取れる”とは言い切れない。しかし、いずれの場合も、一般的な太陽光発電システムの導入価格に比較すると、かなり割安になっているのだ。
■資金に余裕がない場合は「ソーラーローン」という手もある
とはいえ、初期投資として100万円以上の金額が必要になるのも事実。「A-1」プランの場合、初期投資費を1,217,460円としていたが、実は国からの補助金は、後から降りるという仕組みになっている。そのため、一旦は補助金分である、
48,000円×3.28kW=157,440円
を加えた、計1,374,900円を支払う必要がある。資金に余裕があれば一番いいが、この不景気の中、なかなか厳しい……という人も少なくないはず。
それに対し、実は神奈川県では金利が安い「ソーラーローン」というものが利用できるようになっている。これは黒岩知事の提唱する「かながわソーラープロジェクト」の趣旨に賛同した各金融機関が創設したものであり、住宅ローンと同程度の金利が適用される形になっているのだ。
具体的には7つの金融機関がソーラーローンを用意しており、細かく見ると融資金額や融資期間、そして金利などにも違いがあるようだ。
「ソーラーローン」のプラン一覧。金利は低く設定されている |
そこで、先ほどのA-1プランを例に、ローンのシミュレーションを行なってみた。頭金として374,900円を用意し、100万円を10年ローンで横浜銀行から借りるという設定だ。変動金利ではあるが、ここでは10年間2.35%で変わらなかったと仮定してみよう。
元利均等返済をしたとすると、毎月の返済額は9,359円で、年間返済額が112,307円。10年分では1,123,070円になるわけで、トータル123,070円の利息を支払うことになる。しかし、先ほど試算した回収プランでは、10年後には113,740円の黒字になっていることになる(県・市区町村の補助金ありの場合)。これと相殺するとローンが終了した10年後にほぼトントンとなり、11年目からは黒字になる計算だ。
もちろん、これはあくまでもシミュレーションであり、10年後今と同じ利息である保証はないし、そもそも電気代は大きく上がっていきそうなので、電気の使い方によってはさらに大きな効果が出るかもしれないし、120万円も発電メリットが得られないかもしれない……。この辺は、導入後の太陽光発電との付き合い方で大きく変わってくるだろう。
とりあえず現状が維持されたことを前提とすれば、ローンを使った場合でも、「10年間で実質タダ」を実現できるプランになっているのである。
■まずは「かながわソーラーセンター」でプランを見てみよう
では、この「かながわソーラーバンクシステム」に申し込むにはどうすればいいのだろうか? 基本的には下のような流れになっている。
かながわソーラーバンクシステムに申し込む際の手順。インターネットが使える場合も使えない場合も、まずは「かながわソーラーセンター」に問い合わせることになる |
まずは「かながわソーラーセンター」のWebページにアクセスし、33種類のプランから、自分にマッチするものを選択する。そして、そのプランを指定した形で見積申込みフォームをメールで送る。すると、販売店が現地調査にやってくるとともに、後日見積書が作成される。その価格、内容で納得がいけば申し込むと取り付け工事が行なわれる手順だ。
メールの送り先は「かながわソーラーセンター」。ここは「かながわソーラーシステム」の事務局的なところであり、電話相談、さらには面談(要予約)による対応も行なっているので、疑問点や不安がある場合には相談してみるといいだろう。現在、土日・祝日を含む毎日、午前9時~午後5時まで受付を行なっている。
この「かながわソーラーセンター」は、神奈川県から委託される形でNPO法人太陽光発電所ネットワーク(PV-NET)が運営を行なっているが、PV-NETは太陽光発電システムのユーザー団体。実際、相談受付を行なっている人たちも全員が設置している人たちなので、豊富な知識、経験を持っているというわけだ。
なお、ソーラーローンに関しては、「かながわソーラーシステム」と連携しているわけではないので、この申し込みとは別に、個別に金融機関に行なって交渉する必要がある。
■来年も継続される予定だが、国からの補助金が引き下げられる可能性も
ここで気になるのは、「かながわソーラーバンクシステム」の実施期間だが、現在のところ今年の3月31日までの受付となっている。来年度以降も基本的に継続される見通しであるが、プラン内容については見直される可能性もある。また、国からの48,000円/kWの補助金の申し込み受付は3月30日までとなっており、来年度以降は引き下げが予想されるため、急いだほうがよさそうだ。
また神奈川県および市町村からの補助金の受付は、地域によって異なるが、その多くは2月15日までとなっていることを考えると、アクションに出ないと、間に合わないかもしれない。
とはいえ、いくら“実質タダ”とはいっても初期投資額を見れば高い買い物ではあるので、じっくり検討することも重要。神奈川県にお住まいの方は、まずは33のプランをチェックし、見積もりだけ取ってみるというのも良いだろう。
2012年2月3日 00:00