藤本健のソーラーリポート
中国・韓国・スペイン企業も日本に進出。太陽光発電の新規市場参入は今がピーク?
~PV EXPOイベントリポート
by 藤本 健(2013/3/6 00:00)
2月27日~3月1日の3日間、東京ビッグサイトで「スマートエネルギーWeek2013」と題した大規模な展示会が開催された。これは太陽光、風力、エコハウスなどスマートエネルギーに関する8種類の展示会を一挙に開催するというもの。世界中から多くの企業が出展し、国内外から76,000人以上が集まったという。今回はその中から、今年で6回目の開催となる「PV EXPO 2013~第6回国際太陽電池展~」を回ってみた。
PV EXPO 2013は東4~6ホールの3つのホールをつなげた大きなスペースに、国内、国外合わせて558社が出展していた。もちろん日本でのイベントであるためシャープ、パナソニック、京セラ、ソーラーフロンティア、カネカ……といった日本の大手太陽電池メーカーがブースを出していたのはもちろんだが、それ以上に目立っていたのが海外メーカーだ。とくに中国、台湾、韓国といったアジア勢が続々と日本進出を行なっているという感じである。
昨年のPV EXPOでも、やはり海外メーカーの進出がめざましかったが、今年は“それ以上”という印象であり、大きめのブースはこうした海外メーカーが大半を抑えていたようだ。そこで今回は、以前から日本進出を果たしているメーカーではなく、最近日本で会社設立をしたり、代理店を通じてのビジネス展開をスタートさせた会社を中心に、各社の特色や日本進出の目的などを見ていくことにしよう。
【中国】原材料からモジュールまで一貫生産で“価格面には自信がある”
ビッグサイトの中に入ってから、会場の東ホールに歩いていく中で、ポスターが目立っていたのが「日地電力(SUN EARTH SOLAR POWER)」のブースだ。同社は中国東部の浙江省に本拠地を置くセル・モジュールのメーカー。年間生産量650MWの工場を持ち、さらに2GWの工場を作っているとのことだが、歴史的にはかなり古く、1966年に3インチ、4インチの単結晶インゴット(太陽電池の原材料となるシリコンの塊)をメインに、半導体原料の生産を開始したのが始まりだ。
2004年からヨーロッパ市場で大量出荷を行なっていたが、全量買取がスタートしたことで、昨年から日本との取引がスタートし、これからまさに本格的に日本市場に入っていくという。現在のところ、日本法人を作るのではなく、代理店となる大昌通商を介しての販売であり、まずはヨーロッパと同じメガソーラーから攻めていく。パワコンに関しては、日本のメーカーのものと組み合わせての販売を考えており、将来的には住宅用にも進出する予定。インゴットからモジュールまですべて一貫して生産しているため、価格面では自信がある、という。
「TALLESUN SOLAR(テルサンソーラー)」は、上海に近い江蘇省のモジュールメーカーで、2010年12月に生産を開始したばかりという新しい会社。とはいえ、2011年で1,500MW、2012年で約2,000MWの生産実績を持つなど、急成長している。国内ではすてきナイスグループで住宅資材を販売するナイス株式会社の子会社「スマートパワー」が扱っており、住宅用、また店舗や倉庫の屋根などに設置する比較的小規模なシステムを手がけている。
すでに10MW程度の実績があるが、その多くは店舗・倉庫の屋根に設置したものであり、こうした引き合いはかなり多いとのこと。パワコンにはオムロン製のものを用いるなど、パネル以外はすべて国内メーカーのものを用いており、住宅のプロとしてのノウハウを生かし、既存ルートとともに量販店などでも展開していくという。
「ET Solar」も江蘇省に本社を置くモジュールメーカーで、台湾メーカーのセルとドイツメーカーのセルを利用してモジュール生産を行なっている。年間生産規模は200MWと、かなり大規模。2012年11月には東京に支社を設立した。担当者によれば「品質、発電効率、アフターケアの3本柱で、価格だけでなくソリューションを提供していきます」とのことだが、他社との違いをどう打ち出すかが大きな課題になっていきそうだ。
【中国】ガリウム入りのシリコンパネルで、劣化を抑えて“世界一の出力”も実現
「正信ソーラージャパン」は、江蘇省にある「ZNSHINE SOLAR」が2012年8月に福岡に設立した日本法人。ZNSHINE自体は1988年にガラス製品の製造販売会社として誕生した会社で、太陽光を手がけたのは2006年から。ヨーロッパやアメリカではメガソーラーを大きなターゲットにしているが、日本の正信ソーラージャパンは、まずは住宅用システムからスタートさせ、徐々に産業用も手がけていくという。福岡の会社であるため、まずは九州を中心に営業していき、徐々に全国へと広げていく予定。
モジュールとしては単結晶および多結晶を扱っているが、同社がオンリーワン技術として打ち出しているのが、シリコンにガリウムを添加することで劣化が少ないという点。劣化加速実験による減衰率は5年で3%、25年で8%とのこと。また太陽光発電業界でよく話題に上るドイツの評価機関「PHOTON Laboratory」が行なった、世界130社を対象としたモジュール出力テストでは、2011年7月~12年2月の8カ月連続で1位を獲得するなど、実績も出ているそうだ。こうした技術力を背景に、ガリウムタイプの全製品に対し、10年間で92%、25年で85%の出力レベル保証を行なっている。
「LDK」は中国の江西省に本社を置くモジュールメーカーで、2007年には米国ニューヨーク証券取引所でも上場し、ヨーロッパ各地に販売拠点を置くグローバル展開企業。そのLDKが2013年1月に日本法人、LDKソーラーテック ジャパンを設立し、産業用を中心に日本での販売を進めていく。
同社もインゴットからモジュールまでの一貫生産を行なっており、単結晶、多結晶のモジュールを生産。各製品ともに10年の製品保証に加えて、25年の出力保証も付いている(12年で90%、25年で80%)。同社の強みは「価格」とのことだが、昨今の円安で状況は少し変わってきているとのこと。なるべく安く抑えて日本市場を開拓していくという。
【中国】“絶対に保証が続く”国営企業の独特な損害補償とは?
このように続々とやってくる中国メーカーの多くが、“10年保証”、“25年出力保証”を謳っているが、本当に10年後、25年後にに会社が存続しているのか心配に感じる人も少なくないはず。そうした中、「うちは絶対に大丈夫」という中国メーカーもあった。それが「Phono Solar」だ。
同社は中国有数の国営企業「中国机械工業集団有限公司」、通称“国机集団”のメンバー企業であり、太陽光関連では唯一の中国国営企業とのこと。中国という国家がある限り、潰れるようなことはないと胸を張る。
そのPhono Solarが日本進出したのは2012年3月。ちょうど1年経過したが、これまでのところ産業用中心に展開をしており、着実に実績を伸ばしてきているという。
ユニークなのは産業用システムにおいて、10年の損害保険「JOY Phono Solar保険」というものを用意していること。全額買取が実施されている産業用の太陽光発電では、投資に対してしっかりとしたリターンを得るためには、「壊れない」ということが何よりも重要。しかし重要用と違い産業用では通常保証は1年となっており、その後の故障は大きなリスクとなる。
そこで同社では、もしもなんらかの問題が生じて発電できなくなったとき、その損害分を補償する。そう、単に壊れたものを直すのではなく、発電が停止して売電できなかった日数分の損害が補填されるというわけだ。まだこうした保険制度を整えている企業は少ないが、補償のニーズはかなり大きいと思われるため、企業の安定性と保険を武器に国内での力をつけていきそうだ。
【韓国】湖の水面に浮かせて発電する太陽光パネルは、藻の発生を抑える効果も
中国だけでなく、韓国、台湾、ヨーロッパのメーカーも台頭してきている。
まずは、韓国の財閥系企業として有名なLGグループの「LS産電」。同社はすでに5年半前に日本進出を果たしており、住宅用、産業用ともに展開している。大手電機メーカーだけにパネルだけでなくパワコンも作っており、システムとして国内展開している。
今回のPV EXPOの展示で非常にユニークだったのが、水上太陽光システムだ。これは同社が世界初の専用システムとして開発したもので、湖の水面に設置して発電するというもの。通常使用しない場所であり、土地の購入や造成コスト削減が可能なこと、また水面の自然冷却効率により発電効率が向上するメリットなどがある。
太陽光パネル設置による日陰で、環境面での問題が起きないのか質問してみたところ、適度な日射に抑えることから藻の発生を抑制するなど、環境的にはいい効果があるという話だった。すでに2009年より韓国国内のダムなどで設置されているが、2013年内には、日本国内でも埼玉県桶川市で建設が進められる予定になっている。
同じ韓国メーカーとして、2009年より日本で展開している「ハンファ」は、先日、「ハンファQセルズジャパン」と社名変更をし、再スタートを切った。ドイツのメーカーであり、かつて世界最大規模となったQセルズは、経営悪化により2012年4月に破産申告をしていたが、10月にハンファグループが買収したことで、両社が合併し、ハンファQセルズとなったのだ。
ただし、今後もQセルズとハンファのダブルブランドで展開していくとのことで、製品もそれぞれが旧来のものを引き継いでいくという。国内においては住宅用をQセルズ、産業用をハンファとして展開するが、住宅用のQセルズは高効率を前面に押し出して展開していくとのこと。そのため、競合となるのは高効率のパネルを使用するパナソニックや東芝(サンパワー)となる。メーカーでは、これらと比較すると若干安い価格である点をアピールして展開していきたいという。また今後は、つくば市に技術センターを作り、実証実験を行ないながらシェアを伸ばしていきたいとのことだ。
スペインからは30年出力保証するメーカーが登場。台湾はパワコン専門メーカーも
2012年3月に初の日本法人を設立したというのは、スペインで太陽光専門に30年の歴史を持つメーカー「ISOFOTON(イソフォトン)」だ。国内では住宅用、メガソーラー用、小規模産業用の大きく3分野で展開していき、すでに宇都宮市役所などトータル7MW分の受注をしているとのことだ。
ヨーロッパメーカーで生産もスペインとアメリカのオハイオ州で行なっているだけに、価格競争力という面では中国メーカーに引けをとるようだが、その分、技術力と信頼性で勝負することで、日本メーカーと中国メーカーの間という地位を確立することを狙っている。
現時点でも25年の出力保証(25年後に81%の出力)をしているが、2013年3月からは30年の出力保証という長期保証を実現していくことで、他社との違いをアピールしていくという。この1年の実績ではまだ住宅用は少ないが、今後は京都のCV21エンジニアリング社と組むことで、増やして行きたいとのこと。
モジュール以外にも、パワコン専門のメーカーも出てきていた。「iEnergy」は台湾のメーカーで、各モジュールごとに取り付ける小型のパワコン「i-Micro inverter」を開発している。
通常、パワコンは複数のパネルの出力を1つにまとめて交流に変換するが、これは1つのパネルに1つ取り付けて変換するため、コスト的には少し高くなる。ただ、こうすることにより、影などがあっても効率を最大化することができるだけでなく、各モジュールごとの発電状況をチェックすることができるため、システムに異常が起きていないか常に監視できるというのが大きな特徴だ。まだ国内での使用のための認証がとれていないが、近いうちに取得し、住宅用、産業用ともに販売を展開していく予定とのことだ。
日本国内でも新規参入。東京・大阪・山形・愛媛から続々登場
と、ここまで海外メーカーばかり見てきたが、日本の会社もさまざまな企業が新規参入してきているので、少し紹介してみよう。
まずは「山形県産」というのぼり旗を立て、さくらんぼマークの「サンチェリーソーラー」というブランドを打ち出していたのが、山形県天童市のメーカー「エスパワー」だ。同社は2007年に設立されたベンチャー企業で、インゴットから太陽電池モジュールの量産までのすべての工程を一貫して行なうという、国内でも珍しいメーカー。小さな会社だが、品質優先で高い機能と耐久性をほこる、雪国育ちの高出力のモジュールを生産しているのが特徴だ。
実際の生産がスタートしてまだ2年ではあるが、年間20~30MWという規模での生産を行なっており、現在のところモジュールベースでいえば、産業用への出荷が圧倒的だとのこと。耐塩害、耐積雪という特徴を背景にして展開していくようだ。
一方、「愛媛産」を打ち出していたのが愛媛県松山市の「E-Solar」。同社は台湾の大手ウエハーメーカー「EVERSOL」と、日本の住宅用太陽光発電システム販売施工会社のウエストホールディングスの合弁会社であり、セルは台湾から持ってきているが、モジュールは松山市の工場で生産している。日本製だとどうしてもコスト高になってしまうが、国内では珍しい全自動生産ラインを導入していることで、コストを大幅に抑えているとのこと。住宅用を中心に展開していくようだ。
もちろん日本での生産にこだわらず、海外メーカーと協業して展開しているメーカーもある。「ジャパン・ソーラー・パワー」は、2011年11月、東京・渋谷に設立された日本のメーカー。同社自身は生産はせず、モジュールは中国メーカーからのOEM、パワコンはオムロン製を用い、低価格を武器に展開している。現在、国内では需要が急速に伸びているため、モジュールが品薄状態であると言われているが、OEMとはいえ自前のパネルを持っているために、納期が早いのがポイントとなっているという。今後、円安が進むと価格面での差が出にくくなりそうなのが不安だが、同社では家庭用や小規模な産業用は今後7、8年は延びていくはず、と見ている。
シリコン廃材を再利用するリサイクル事業を手がける大阪の企業・アンフィニの子会社である「ジャパン・ソーラー」は、中国、韓国、台湾などからさまざまなモジュールを仕入れてシステム販売を行なっている輸入商社的なメーカー。扱っているのも単結晶シリコン、多結晶シリコンに限らず、化合物系、アモルファス、薄膜と多岐にわたっている。シリコン原料メーカーとしてコスト圧縮、品質管理を図っているほか、架台メーカーもグループ企業として存在しているため、トータル的なメリットを打ち出していくという。
ソーラー事業の新規参入は今がピーク?
以上、PV EXPOの会場で目立っていた企業をピックアップしてみたが、ここに取り上げられなかった新規参入メーカーも多数存在していた。いくら全量買取がスタートしたからといって、これだけたくさんの企業がやってきて成り立つのだろうか? と疑問に感じてしまったが、2013年度の全量買取の単価がいくらになるかによって、これらの企業の動向も大きく変わってくるだろう。その意味では、2012年度が新規参入のピークだったのではないかとも思う。
今後予想される熾烈な競争で、敗退する企業はないのか、それでもさらに日本進出を試みる企業が出てくるのかなど、これから1年は特に業界動向を注視していきたい。