藤本健のソーラーリポート
「PV EXPO 2015」で聞く! 買取価格の更なる値下がりで太陽光発電は今後どうなるの?
by 藤本 健(2015/3/5 07:00)
2月25日~27日の3日間、東京ビッグサイトで「スマートエネルギーWEEK2015」と題した大規模な展示会が開催された。これは第8回目となる太陽光発電の展示会「PV EXPO 2015」や第5回目となる「国際スマートグリッドEXPO」、第11回目となる水素・燃料電池の展示会「FC EXPO 2015」など計9つの展示会を集合させたもので、トータルで世界30か国から1,510社が出展した。また、この9つの中には、来年の電力自由化を見据えた「電力自由化 EXPO」も今年初のイベントとして開催された。この中で、PV EXPOと電力自由化 EXPOを見てきたので、どんな内容だったのかレポートしてみたい。
買取価格の更なる値下がりで、再生可能エネルギーのビジネスは成り立つのか
このPV EXPO 2015の開催日程を睨んでのことだったのかどうかは知らないが、開催前日に経済産業省の調達価格等算定委員会が2015年度の再生可能エネルギーの買取価格を発表したため、PV EXPO会場内でもこの話題が飛び交っていた。ある程度予想されていたものの、売電単価が大きく引き下げられたのだ。
具体的にいうと、住宅の屋根につけるタイプの10kW未満のシステムの場合、今年度の37円/kWh(税込)から33円/kWhおよび35円/kWhに、また産業用の全量買取である10kW以上は今年度の32円/kWhから29円/kWhに引き下げられ、さらに7月から27円/kWhと下がることになったのだ。
住宅用の単価が2つに分かれている理由は東京電力、中部電力、関西電力を除く7電力会社の地域では4月以降、出力抑制のための制御機器の取り付けが義務付けられたためで、これを補助する目的から若干高い単価となっているようだ。
この辺の状況については、また改めて記事にしようと思っているが、気になるのはこれだけ売電単価が下がってきた状況で、各社のビジネスが成り立つのか、ということ。会場を見回してみると、やはり中国メーカーを中心に海外メーカーがズラリとブースを出している。
これまで海外からの新規進出企業は、こぞって値下げをし、15年保証、20年保証さらには25年保証などと保証期間を延ばすことをアピールしてきたが、「やっぱり日本では採算が合わない」などと撤退されてしまったら、保証制度など意味のないものとなってしまう。実際のところ、各社どのように考えてみるのだろうか? まずは中国メーカーのブースでいくつか話を聞いてみた。
世界的に見れば高い単価で、問題なくビジネス展開できる~JAソーラー
会場に入って、すぐに目にした大きなブース、JAソーラーで聞いてみたところ「29円/kWh、27円/kWhという単価は、確かに従来と比較すると大きく下がったが、世界的に見れば十分に採算の合う高い単価です。今後も下がる可能性はあるでしょうが、まだ5年くらいはまったく問題なくビジネス展開できると考えています」とのこと。
またJAソーラーを含め、各社ともに口にしていたのは「40円や36円、32円で申請したけれど、まだ未着工のところが数多くある。これをこなしていくだけでも、十分すぎるほどの需要がある」ということ。現在の制度上、予め申請した機器でないと設置ができないことになっているが、申請した機器のメーカーがなくなってしまったりする場合は、代替えメーカーの製品も認められるようなので、こうした需要は大きいようだ。
「こうした需要に答えつつ、もちろんメンテナンスのビジネスも徐々に大きくなってくると考えています。20年もすれば交換需要も出てきますから、将来的にもずっと日本でビジネスを続けられると考えています」と話していた。
コストを下げる努力をしていく~ガラスパネルを打ち出す上海メーカー
2013年に日本法人を設立したという、上海に本社を置く航天機電もJAソーラーと同様の話をする。「もちろん、単価ダウンに伴い、コストを下げる努力はしていきます。当社ではベトナムで生産を行なうことで、コストダウンを図る一方、日本からの要請によって、農地で使えるモジュールの生産も進めているところです」という。ガラスパネルを使った光を透過するタイプのモジュールであり、発電と耕作を平行して行なえる製品を拡大していく考えのようだ。
充分ビジネスできる~台湾の太陽光モジュールメーカー
台湾の太陽光モジュールメーカー、TSECも基本的には同様の考え方だ。同社は都内に事務所を開設するとともに代理店を通じて日本への製品出荷を行なっているが、「29円でも十分ビジネスができますし、27円になってもまったく問題ありません。すでに日本では5MWの実績がありますが、今後もどんどん増やしていけると考えています」と思っていた以上に楽観視しているようだ。
現在の延長線上でのビジネス展開が可能~ドイツメーカーならではの信頼性で勝負
もちろん、中国や台湾のメーカーだけでなく、ヨーロッパのメーカーも考え方に違いはない。ドイツのパネルメーカー、LUXORは2年前の9月に日本法人を設立し、産業用を中心にビジネス展開しているが、まだまだ今の延長線上でのビジネスができると見ている。
「売電単価が下がっていることは気になりますが、おそらくこれによって撤退する企業や潰れる企業も出てくるでしょう。こうしたことで、申請はしたけれど未設置の案件が、当社にやってくるケースも増えており、今後しばらくはそれで手一杯になりそうです。中国メーカーと異なり、高い品質、高い信頼性を打ち出し、パワコンもドイツのSMAと組んで展開しています。そのため、中国メーカー製品ほど安くはありませんが、ニーズは高まっています」と話す。
単価値下がりよりも円安の方が遙かに大きい問題~中国メーカーの本音
一方、産業用から住宅用へのシフトを進めたいとする企業も多く見かけた。たとえば
上海に本社を置く2006年設立のメーカー、アップソーラーは「現時点で件数ベースでは産業用と住宅用は半々ですが、売り上げ規模的に見れば99:1といってもいい状況です。それはメガソーラー案件が多いからなのですが、今後は住宅用および50kW未満の低圧案件を増やしていきたいと考えています」と話す。
ただ、担当者によると「29円や27円といった単価よりも、円安のほうが、遥かに大きい問題なのです。この半年で採算ラインも大きく変わってしまいましたから……。いずれにせよ、利幅の小さいメガソーラーから、手間はかかるだろうけれど利幅のある案件へのシフトが重要だと考えています」と本音を漏らす。
江蘇省に本社を置くルンダ・ソーラーも、「これまで日本へは産業用を中心に輸出していました。今年、日本にもオフィスを開設する予定ですが、今後は住宅用、産業用を50:50で進められるよう展開していきたいと思います」と話す。
またすでに売電ビジネスからの転換を模索する面白い事例を紹介している中国メーカーもあった。江蘇省に本社を持つETソーラーは「FITが終わることによって、投資目的だけの人がいなくなり、当社としても本来のビジネスができるようになります」と話す。
そうはいってもこれから3年は、未着工のものの工事がビジネスの主軸ではあるが、今後はもっと新しいビジネスモデルを模索すると話している。では、その新しいビジネスモデルとは何なのか?
「現在、シエスタゲートという日本の会社が、当社のパネルを利用して展開を始めている植物工場が非常にいい例だと思います。これは太陽光で発電した電気を用いて、クリーン環境で農作物を育てるというビジネスです。基本的に系統連系をせず、作ったエネルギーだけで生産を賄うのですが、十分に採算の合うものとなっています。その植物工場自体は、不要になっているコンテナを再利用しているので、コスト的にも非常に安く抑えることができるのです」と話す。どのくらいで投資が回収できるものなのか気になるところだが、確かにユニークな事例であり、太陽光発電の活用法として気になるところだ。
日本メーカーの対応は?
こうした状況に対し、日本のメーカーはどうしているのだろうか?
シャープはクラウドや蓄電池と組み合わせた付加価値ビジネスへシフト
シャープは、PV EXPOの直前に発表していたクラウド蓄電池システムの新製品を大きく展示していた。これは1つのパワコンで太陽光発電システムと蓄電池を連携させるとともに、これをクラウドと接続して、より効率のいい運用を行なうというものだ。
「たとえば、朝の天気予報で雨が予想されている日なら、夜間に充電した割安な電気を、料金が割高な昼間に放電するようにクラウド蓄電池を自動制御することなどが可能になります」と担当者。
今回発表された新製品は従来製品の倍の容量となる9.6kWhで、パワコンの容量も3割アップしている。このシステム自体は、太陽電池パネルとのセットというわけではなく、シャープとしての新しい提案。やはり太陽光発電システムだけでのビジネスがだんだん難しくなってきているので、こうした付加価値ビジネスへとシフトしているようだ。
もちろん、日本メーカーとして太陽電池パネル自体の高性能化も着々と進めている。現在、シャープではBLACKSOLARのブランド名で単結晶の高変換効率を誇る製品を展開しており、最新製品では1つのモジュールで210Wの出力となっている。しかし、すでに220Wという次世代製品を近いうちに市場投入することが確定しており、その新BLACKSOLARが参考出品されていた。今後のロードマップによると、出力250Wというものも見えてきており、それに向けた開発も平行して進められているようだ。
京セラの蓄電池も大容量化&高付加価値
京セラも、シャープと同様に蓄電池を全面に出した展示となっていた。京セラの製品はさらに大容量の12kWhというもので、従来製品の7.2kWhから大幅にアップしている。また従来製品は太陽光発電の売電時は蓄電池が放電しないようにコントロールするシステムと、多少売電単価が下がってもより積極的に売電を行なうダブル発電タイプのシステムと2種類のラインナップになっていたが、今回の製品は設定によって、どちらにもなり得る両対応型になっているとのこと。
もっとも、どちらの設定にするかは施工前に決めるので、ユーザーがモード切替をすることはできないが、やはり高付加価値というところに進んでいるようだ。「現時点では、まだあまりアピールしていませんが、発電した電気をできる限り自家消費するというモードも用意しています。今後、売電単価が買電単価よりも下がる可能性が高まっていますが、そうなれば自分で使うほうがより有利となります。今後はそうした使い方も増えていくはずです」と京セラ担当者は話す。確かに売電単価が、いつ買電単価とクロスするのかは、みんなが気になるところだろう。
グリッドパリティーを前面に打ち立てたソーラーフロンティア
売電単価が安くなってきたところで気になってくるキーワードが「グリッドパリティー」だろう。これは発電コストが買電単価を下回ることを意味するのだが、ソーラーフロンティアは「2016年グリッドパリティーへ」というキャッチコピーを全面に打ち立てての展示となっていた。
「グリッドパリティーはパネルだけで実現できるものではありません、パワコンや架台、また工事など業界全体が連携して実現するものです。その各社の努力により、ようやく来年でのグリッドパリティー実現が見えてきました」と広報担当者も自信を示す。
ソーラーフロンティアではこれまで産業用での引き合いが多く、これから3年はまだ産業用の需要が続くと見ているが、徐々に住宅用にシフトしてきているとのこと。やはり考え方は海外メーカーと同様のようだ。なお、同社では一昨年、フレームレスで6.5mmと非常に薄いSolacis neoという製品を出して話題になっていたが、さらに同じCISパネルでより柔軟性を持たせた曲がるパネルをコンセプトモデルとして展示していた。従来のガラスではなく、金属と樹脂でセルを挟む形にすることで、曲げることを可能にし、曲面への設置も可能にするとのこと。まだ発売などのメドが立っているわけではないが、日本メーカーだからこそできる高い技術に取り組んでいるようだ。
第1回 電力自由化 EXPOでは売電価格+αで買い取るサービスも
2016年の電力自由化を見据えて、今回初めて開催された電力自由化 EXPOのほうは、どんな内容なのだろうか? こちらは「新電力会社(PPS)設立のためのコンサルティング」などB to Bの色合いの強い展示がほとんどではあったが、太陽光発電の売電と絡めたメニューの提案もいくつかあった。
たとえばDIYの低価格システムでシェアを伸ばしているLOOOPでは、売電単価をFIT価格+1円で買い取るというサービスをアピール。こうした+αの単価での買取りについては、前回の記事でもソフトバンクやエナリス、NTTスマイルエナジーなどが行なっていることを紹介したが、LOOOPの場合、+1円での買取りだけでなく、友達を紹介したら+α、さらに「みえるーぷ」というモニタリングシステムを無料でつけてくれるといったサービス展開も行なうとのこと。
同じく太陽光発電システムのメンテナンスを無料で行なう「Zメンテ」というサービスを打ち出しているのはネクストエンジニアリングだ。
「売電先を電力会社から当社に切り替えてくれれば、FIT価格のまま当社が買取ると同時にメンテナンスを無料で行ないます」という。ここでいうメンテナンスとは基本的に年に1度の定期点検のことで、目視でのモジュール調査やパワコンや接続箱・終電箱の調査、絶縁抵抗や開放電圧の測定といったものだ。ここではモニタリングのための機器を取り付けるといったことはないようなので、リアルタイムでの不具合検出などはできないようだが、こうしたサービスの違いがあるのも電力自由化によるものなのだろう。
電力自由化 EXPOの出展ブースの中で唯一、家庭向けでの展示を行なっていたのがエプコがイギリスのケンブリッジエナジーデータラボと組んでサービス展開をしている「エネチェンジ」だ。
現在月間アクセスユーザーが30万人以上となっているこのサイト、現在は、家庭での電気の使用状況によってどの電気料金プランが安くなるかを比較してくれるサービスとなっているが、2016年以降、その意味合いが大きく変わるという。
「2016年の電力自由化以降、多くの会社がPPSとして電力を提供することになるでしょう。とくに、電話会社やガス会社なども積極的に展開することが予想されるのですが、こうした会社は電気だけでなく、携帯電話料金と組み合わせての割引といったサービスをすることが想定されます。そうしたとき、どのサービスとどのサービスを組み合わせるのが得なのかを考えるのは非常に難しくなってきます。エネチェンジでは、こうした中から最適な組み合わせを導き出すシステムへと進化してきます」という。
すでに電力自由化が行なわれているイギリスでは消費者の34%が電気料金比較診断サービスを利用しているとのことで、こうしたニーズは国内でも高まりそうだ。まだ、自由化が行なわれていないだけに、なかなか実感が湧かないが、どのくらいの差がでるのか、気になるところだ。
以上、PV EXPOと電力自由化 EXPOについて、目が留まったところを紹介してみた。2015年度からの売電単価の引き下げで、急に勢いがなくなるという感じでもなさそうだが、太陽光発電への世間の関心が薄れそうなのは心配なところだ。当連載では、単価が下がった状況で、太陽光発電へどう接していけばいいのかといったことをテーマに今後もレポートを続けていきたい。