藤本健のソーラーリポート
全量買取を受けて、国内外のメーカーが技術力競う――「PV JAPAN」イベントリポート
by 藤本 健(2012/12/11 00:00)
12月5日~7日の3日間、太陽光発電に関する総合イベント「PVJapan 2012」が、千葉県の幕張メッセで開催された。
今年5回目となるPVJapanは、出展社数は196(昨年242)、出展小間数が485(昨年596)と、震災直後で太陽光発電が大きく注目を集めた昨年と比較するとやや規模が小さくはなっているものの、それでも多くの人で賑わっていた。大きなテーマになっていたのは、やはり7月にスタートした10kW規模以上における全量買取だ。会場を見て回った中で、気になったブースをいろいろとピックアップしてみよう。
シースルー太陽電池と変換効率37.7%のセルで技術力をアピール――シャープ
まずは大手メーカーのブースへ行ってみた。シャープのブースで全面的に打ち出していたのは、シースルー型の太陽電池モジュールだ。先日のCEATECでも大きく展示していたし、今回が初お目見えというわけではないが、発電と採光を両立でき、建築用ガラスとして活用できるということで、多くの人が集まっていた。
もともとシャープがシースルータイプのものを出したのは5年ほど前だが、当時はあくまでもオーダーメイドという形での高価な製品だったという。それを今年10月に定型化するとともに、一般的なガラス建材と同様にサッシや手すりの枠などに納めることを可能にし、価格を抑えたとのこと。コストという面においては、通常の太陽電池と比べるとかなり高価になってしまうようだが、新築ビルのガラスの建材と考えれば、やや割高になる程度で収まるそうだ。実際、このシースルー太陽電池モジュールは複層ガラスとなっているので、断熱性の高い省エネガラスとしての効果もあるという。もちろん、これで膨大な発電ができるわけではないだろうが、こうしたビルが増えてくれば面白そうだ。
そのシャープが参考出品として、会場で発表したのは、研究レベルにおける非集光太陽電池セルとして、世界最高の発電効率37.7%を実現した太陽電池セル。これはNEDOの「革新的太陽光発電技術研究開発」テーマの一環として開発に取り組んだ結果、産業技術総合研究所(AIST)において、世界最高変換効率を更新する測定結果が確認されたというものだ。
さらに、そのシャープブースでもう1つ気になる製品が参考展示されていた。それは4.8kWhの容量を持つ家庭用のリチウムイオン電池。屋外設置可能なもので、上にあるのがリチウムイオン電池用のパワコン、下にあるのが電池となっている。スマートハウス向けの通信規格「ECHONET Lite(エコーネットライト)」に対応したデバイスになっており、クラウド連携型のHEMS(ヘムス。家庭用エネルギー管理システム)と通信をしながら効率的な充放電を行ない、ピークシフトに対応したり、非常時に活用したりできるようになっている。来年の発売を目指しているという。
京セラと東芝、ソーラーフロンティアもパネルを高出力化
京セラが打ち出したのは、新型太陽電池セルの「Gyna(ガイナ)」とそれを使ったGynaモジュール。太陽電池セルの構造上起こり得るプラスとマイナスの再結合を最大限に防ぐなどの新たな技術により、量産品の多結晶シリコン型太陽電池セルにおける世界最高変換効率17.8%を達成したというもの。京セラによれば、これまでセルの変換効率は年に0.1%程度しか向上してこなかったが、このGynaによって今年は飛躍的に伸びたという。
そして、このGynaを採用した200Wのパネルとして、住宅用太陽光発電システム「ECONOROOTS(エコノルーツ)」シリーズの新ラインナップを発表している。すでに住宅用の販売はスタートしているが、今後はGynaを採用した産業用のパネルも出すとのことだ。
東芝ブースで大きく展示していたのは、世界No.1のモジュール変換効率20.1%を謳う250Wの家庭用のパネルだ。
従来の東芝ブランドの家庭用のシステムと同様に、太陽電池は米サンパワー社の製品を採用し、パワコンにはオムロンおよび独SMAの製品を採用しているが、やはりモジュール変換効率20.1%のインパクトは大きい。1,559×798×46mm(幅×奥行き×高さ)というサイズで250Wの出力を持つため、狭い屋根においてもかなりの容量のパネルを設置することが可能となる。
東芝のパネルの供給元であるサンパワーもブースを出していた。聞いてみたところ、量産レベルのセルとしては、22.6%の変換効率を実現しており、それを6×12=72セル搭載した250Wのモジュールとして、20.1%を実現しているのだそうだ。また産業用には、96セルを搭載し、1枚327Wの出力を持つモジュールも出している。住宅用においては国内ではすべて東芝が流通を担っているが、産業用は東芝に限らず、幅広く展開しているという。
なお、サンパワーのセルはフィリピンおよびマレーシアで、モジュールはフィリピン、メキシ、ポーランドで主に生産しており、日本で販売しているものは、基本的にフィリピンのマニラで生産されたものだという。
ソーラーフロンティアでは、従来同様、CIS太陽電池の実質的な効率の良さを大きく打ち出していたが、その効率も徐々に向上しているという。地味にパネル1枚で展示していただけではあったが、カドミウムフリーである単セルのCIS太陽電池で、世界最高の変換効率「19.5%」を達成したという。これを次世代の製品として生産していくとのことだ。
海外勢はデザイン性を追求。表面の格子形状がないパネルも
一方、中国メーカーとして日本での存在感をどんどん高めてきているサンテックパワーは、住宅用では発電効率の高い単結晶シリコン型を、産業用ではよりコストを安く抑えられる多結晶シリコン型の製品を展示して、アピールしていた。
ユニークだったのは住宅用のパネルで、同じ単結晶のセルを用いながら、それを敷くボードとして、デザイン性重視の黒いものと、一般的によく見られる白いものの2種類が製品化されているという点。サイズや構造はまったく同じで、違いは色だけなのだが、この色の違いによって発電効率や出力が若干違っている。黒が最大出力250Wで変換効率15.4%であるのに対し、白ならば255W、15.7%とわずかながら向上するのだ。
この理由について聞いてみたところ、白による反射光がある程度影響するのと同時に、白のほうが温度がやや低くなるために、発電量が増えるようだと話していた。なお、海外ではメガソーラーなど圧倒的に産業用が多いサンテックだが、日本国内では6:4と、現在でも住宅用が中心とのことだった。
同じく海外メーカーとして力をつけてきており、すでに住宅用として16,000棟の実績を持つというのがカナディアンソーラー。昨年のPVJapanにおいて参考出品していた「ELPS Module(エルプス・モジュール)」というちょっと変わったモジュールが、新製品として展示されていた。
ELPSとは「Efficient[効率的な]」、「Long-term[長期の]」、「Photovoltaic Solution[太陽光発電ソリューション]」を意味するものとのこと。モジュールのバスバー(セル表面にある格子模様)をセルの背面に配置することで、集光率を3%改善する「メタルラップスルー技術」を採用することで、トータルで従来モジュールより発電量を10%程度押し上げるという技術だ。
パッと見て、明らかにほかの太陽電池セルと違うのは、セルの格子模様がない点。。近寄ってみると、くもの巣のような模様になっているのが確認できるが、この構造によって発電効率を向上させているとのことだった。
個人でも再生可能エネルギーの全量買取制度が利用できる! 専用サービスが続々
そのカナディアンソーラーが、今年7月から販売開始した日本独自のサービスがある。それが、「サンガーデン」というソーラーシステムだ。これは遊休地や耕作放棄地、汚染地などに、発電容量50kW未満の太陽光発電システムを設置して、土地を有効に再生させようという、全量買取の制度をうまく利用できるようにしたサービスだ。現行の全量買取システムでは、50kW未満で設置した場合、変電システムを自前で設置する義務が生じないため、遊休地のある個人などにとってもいい投資方法といわれている。
個人が全量買取制度を利用する場合、ネックとなるのが保証の問題。これが各社によってかなり違い、投資の回収率とも大きく関係してくるのだが、カナディアンソーラーでは基本的に住宅で行なってきたのと同じ保証をサンガーデンにも当てはめているため、システム保証10年、太陽電池モジュールの出力保証25年をうたっている。設置価格がいくらくらいになるかはケースバイケースということで、ハッキリとした数字はわからなかったが、電力の買取価格の42円/kWhが20年間保障される来年3月まで、設置は増えていきそうだ。
同様に主に個人を相手にした全量買取用のシステムを安価で発売しているのが、文京区に本社を構える日本の会社「Looop」だ。
同社では以前からDIY型の太陽光発電システム「MY発電所キット」を扱っており、単結晶シリコン型のパネル12kW分と、地上に設置するアルミ架台、そして10kWのパワコンなど必要となるもの一式で、税込み3,307,500円という価格で販売している。kW単価で計算すれば275,625円と非常に安い価格であり、42円での売電を考えるとかなり短期に元がとれそうだ。
ただし、これはDIYを前提とした価格であり、工事を頼むとしたらそれは別料金。また保証は25年となっているが、あくまでもソーラーパネルの保証であり、それ以外の故障についてはハッキリとした決まりができていないようだ。
DIYとはいえ、300万円を超える出費になるので、それなりの覚悟も必要となってきそうだが、100~200平方mの土地と余裕資金があれば、収入にもつながる、とても面白い趣味が楽しめそうだ。
そのLooopでは、そのMY発電所キットに「空中型」という新たな製品を追加している。これも容量的には同じ12kWなのだが、面積を広げ約200平方mの土地に設置するシステムとなっている。写真を見てもわかるとおり、地上約2.5mの高さに太陽電池パネルを飛び飛びに置くため、パネルの下にも光が当たる形になるのだ。
通常パネルを設置するとその下は土地はまったく活用できなくなってしまうが、これならばある程度の日があたるので、家庭菜園などに利用できるという。こちらは従来のMY発電所キットよりやや高く、3,517,500円となっている。
全量買取制度には欠かせないモニタリングサービスも
このようにカナディアンソーラーやLooopのような個人用の全量買取のシステムのニーズが高まっているが、設置する側として気になるのはやはり故障の問題。せっかく大容量のシステムでも、システムトラブルで本来の発電量が得られなくなると、それはそのまま損失につながる。
そこで重要になってくるのが発電量を計測するモニタリングシステムだ。そうしたニーズを狙ったサービスもいくつか登場してきている。
まずは、以前当連載でも取り上げた、NTTスマイルエナジーの「エコめがね」。これはもともと家庭の太陽光発電の発電量を計測するシステムであり、言ってみれば簡易型のHEMSだ。そこで使われていたハードウェア、ソフトウェア、クラウドシステムをうまく組み合わせながら、全量買取用のシステム「エコめがね全量モバイルパック」なるものがリリースされている。
これは家庭用で使っているPVセンサーを必要容量分組み合わせた上で、3G WiFiルーターとセットにして利用するというもの。そのため、自宅から離れた遠隔地に発電所を設置し、しかもそこが電話もない土地だとしても、NTTドコモの電波さえ届いていればモニタリングが利用できるようになっているのだ。
家庭用のものと同じく、毎日の発電量や売電金額がチェックできるほか、複数のシステムに分かれている場合、それぞれの状況のチェックや合計データの確認などもできる。また発電が停止したり、通信に問題が生じたり、発電量が明らかに低下した場合などはアラートメールが届く仕組みも用意されるなど、家庭用とは少し異なるサービスが用意されている。
なお、システムによって利用金額は変わってくるとのことだが、月々の利用費用を含めたトータル費用が、投資額の3%以内になるようにしているという話だった。
より正確に電力を計測する「ソーラー見張り番」。各種申請資料も管理されている
エコめがねのシステムでは、分電盤部分に「CT」という器具を取り付け、電流を計測することで、簡易的に発電した電力などを割り出すシステムになっているが、より正確に計測するシステムも登場していた。
ソーラーハットが提供する遠隔モニタリングシステム「ソーラー見張り番」も、エコめがねと同様に日々の発電量や異常の検知などができるシステムとなっている。これはパワコンとセンサーを直接接続し、パワコンから正確なデータを直接取り出した上で、クラウドを経由してモニタリングできるサービスとなっている。また、単に発電状況を見るだけでなく、全天日射計で天候をチェックして、発電量との整合性を確認したり、ビデオレコーダーを通じて盗難などの監視も行なえるようになっている。
さらにこのクラウド上には、図面や申請書類など、後々必要になってくる情報もすべて一括管理されているので、いざというときにもしっかり利用できるうえ、こうした個人情報も暗号化して管理しているのだそうだ。こちらは初期費用として50万円、月額利用料が3,000円となっているので、エコめがねに比較するとかなり割高ではあるが、どこに重点を置くかによってシステム選びも変わってきそうだ。
太陽光を追尾するパネルや自動ホコリ落とし装置も
ほかにもいくつか面白いものがあったので紹介してみよう。
もともと天窓からの採光システムを作っていた会社である特殊技研金属が展示していたのは、ソーラーパネル追尾式の蓄電器システム。同社では従来から、採光システムにおいて太陽を追尾する技術を持っていたが、それを太陽電池に応用するとともに、蓄電池と組み合わせたというのがこれ(下の写真)。
売電を目的としたものではなく、被災地や集会場などに設置し、より効率よく発電するとともに、そこに蓄電池を利用して電気を活用できることを狙っている。パネルは容量290Wのものであるため、5,76kWhの容量を持つ電池をフル充電するには3日近くかかってしまうというが、狭い敷地でできるだけ多く発電するためのシステムとしては、面白い試みだ。
基本的に掃除などをする必要はないとされる太陽電池パネルに対し、少しでも発電量を上げるためということで、クリーニングシステムを開発した会社もある。トリコのブースで展示していた「セルスイーパー」というのがそれ。太陽電池パネルの上をブラシつきのローラーが動き、水を使って自動的に洗浄してくれるというものだ。
開発理由は、「ソーラーパネルの清掃にまつわる詐欺犯罪が増えてきたこと」、「火山灰で汚れた場合は雨だけでは落ちない」、「山間部などにある壮大なメガソーラーではメンテナンスもしにくいはず」ということだそうだが、5mまでの幅を最大50mまで動いて掃除してくれるシステムの価格は、50m分のレールを別にした本体価格が120万円。これをどう考えるかはユーザー次第だろう。
以上、PVJapanで見かけた気になる製品、サービスなどを取り上げてみたが、いかがだっただろうか? 全部で196もの出展社数となっているので、紹介したのはその本の一部ではあるが、太陽光発電関連製品はまだまだ発展途上段階。今後、どんなものが登場してくるのか楽しみなところだ。