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太陽光パネルの下で種植えや収穫する農業ロボットを早稲田大が開発
2023年2月9日 08:30
早稲田大学 理工学術院総合研究所の大谷拓也次席研究員と同大理工学術院の高西淳夫教授らの研究グループは、サステナジーとの産学連携・共同研究により、ソーラーパネル下での作業が可能な農業用ロボットと遠隔操縦システムを開発したと、2月8日に発表した。
ソーラーパネルの下の限られたスペースで、移動および種植え、雑草剪定、収穫の3作業が可能なロボットと、その遠隔作業を実現する新たな操縦システムを開発。砂漠化地域や土壌が劣化した農地などでも実施可能な「協生農法」を、本研究開発によりソーラーパネル下で大規模に行なうことができれば、気候変動対策としての緑化・再生可能エネルギー生産、食料生産も進められることが期待されているという。
協生農法とはソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)のシニアリサーチャー・舩橋真俊さんが提唱するもので、耕起、施肥、農薬散布を行なわず、生物多様性を高度に増進した拡張生態系を構築して食料生産を行なう方法。従来の農法が適さない土地であっても、段階的に生態系を構築し緑化しながら食料生産を行なえるという。
ただし、協生農法を従来の農法が適用できない土地で行なう場合には、導入初期の未熟な生態系を日光や風雨から保護するため、事前に低木などを植え、半日陰を形成した上で開始する必要がある。ソーラーパネル下にできる半日陰を有効活用し協生農法を行なえれば、同じ土地で食料生産と再生可能エネルギーによる電気エネルギー生産を両立できるとしている。
協生農法では生育時期や生育速度の異なる複数種の植物を同じ土地で混生密生させるため、従来農法に比べ、時期を問わず種植え、雑草剪定、収穫といった複数の作業が必要となる。しかし既存の農業機械や農業ロボットは複数作業を連続的に実行できるように開発されておらず、協生農法は基本的に人の手で行なうほかなく、広範囲な農地を対象に実施することは困難だった。
今回開発されたロボット「SynRobo(シンロボ)」(Synは人とともにという意味)は、さまざまな作業を行なうためのパワーと機能を持ちながら、小型で植物との接触を少なくする操縦型を目指した。新開発の操縦システムを用いると、従来システムと比較して、3タスク連続動作において、動作時間の49%削減、障害物との干渉率の50%削減を達成。
ロボットには、前後左右方向に移動しつつ伸縮する作業アームを備え、雑草剪定用のハサミ機構、収穫物の把持と切断の両方を行なう収穫用機構を開発。作業に合わせてそれらの作業ツールを使い分け、別作業時には邪魔にならない構造とした。ロボットの操作系についても開発を進め、ツール位置と操縦者視点を一致させる操縦システム、初心者も操縦を容易に理解できるメニューインターフェースによるタスク切り替えなどを実装。作業アーム先端には360度カメラを採用し、作業地点周囲の環境を広範囲に認識できるようにした。
同ロボットは協生農法だけでなく、一般的な農業においても、育てる植物ごとに作業ツール部を変更するだけで幅広く使用可能。また複雑な環境でも使用できるため、一般農法においても育てる植物同士の距離を近くすることができ、単位面積あたりの収穫量向上や作業効率向上への波及も期待できるという。
今後は環境の自動認識と組み合わせた作業自動化・作業ツールの自動交換、夜間も含めた長時間の作業に対するロボットの堅牢性の向上、全体の作業時間と製造・運用コストの低減を進めるほか、協生農法が生物多様性や緑化に与える効果を大規模に検証するため、サステナジーが日本国内の耕作放棄地やケニアなどの砂漠化地域での本プロジェクトの事業化の準備を進めてくという。
本研究での各機関の役割は、早稲田大学がロボットの研究開発、サステナジーがソーラーパネル下の協生農法農地の運営、プロジェクトの事業化、ソニーコンピュータサイエンス研究所が協生農法のノウハウ伝達、ロボットによる管理課題の抽出を行なった。