ぷーこの家電日記

第553回

今年も趣味を求めて三千里。生涯の趣味を探すのは難しい

夫には少々悩みがある。といっても深刻に悩みすぎているわけではないのだけれど、漠然とした不安に近い悩みだ。それは「これといった趣味がない」ということである。

日々暇で困っているとかでもないし、充実していないわけではない。でも、これといって打ち込める趣味がないことに少しばかり悩まされているのである。

現在40代後半、アラフィフ世代の我々夫婦。私たちが50近いということは、親はちょうど80歳くらいの世代。つまり介護問題だとかに直面したりするお年頃。一緒に住んでいなくても、心身ともにそれなりに負担はある。様々な問題に対応していかなければいけないし、感情は追いつかないし何とも切なく心重くなる。そして色々対応していくと、老後というものに対して解像度がグッと上がっていく。そして自分の老後について考え始める。

前までは「老後はのんびりゆっくり過ごしたいなぁ」くらいに考えていたものが、「仕事辞めたら何する? 優雅に旅行とかたくさん行くような余裕なんてない。ちょっと散歩して、図書館行って、テレビ見て……」と、そんな未来が見えてしまって焦るのだ。そして辿り着くのが冒頭の「趣味がない」という悩みである。強いて言えばスポーツ観戦が趣味だけれど、これもテレビを見ると同様に受動的なものだし、もっと能動的に自分が打ち込める趣味が欲しいと思っているようである。

私はといえば、とっ散らかり系の多趣味人間。家庭菜園に陶芸に料理に編み物に……。夫はそんな私がちょっと羨ましいらしい。なので、ここ数年趣味を模索中。ちょっと前に少しだけハマったソロキャンは1年以上行っていないし、「駅ピアノ・空港ピアノ・街角ピアノ」というテレビ番組が好きで、ピアノが弾けるようになりたい! と、電子ピアノを買ってピアノ教室も通ってみたりしたけれど、仕事の忙しさと重なった頃から下火になって、家でもほぼ練習をすることはなくなった。

釣りを趣味にしてくれたら魚好きの私も嬉しいなぁなんて思っていたけれど、数回行っただけで全然ハマらなかったし、家庭菜園楽しいよなんて一瞬誘ってみたけれど、私も口出しちゃうし夫も楽しめず、お互い別々の趣味の方が平和だよねって結果になった(笑)。

やりたいことがあって、それをとことん追求していくスタイルもいいし、それがある人はとても幸せなことだと思うけれど、仕事にしても趣味にしても、多くの人はやりたいことが特になかったり分からなかったりするのが普通だと思う。やってみてから好きになったり得意になったりすることだって多いと思うのだ。

誰に迷惑をかけるでもない趣味だもの。「初志貫徹! 始めたからにはやめるのは悪」みたいな根性論はいらなくって、入り口は広く持って、何でもやってみたらいいし、飽きたら飽きたで軽い気持ちで次に行けばいいのである。仕事を引退するまで15年以上ありそうだし、趣味探しの時間猶予はまだ十分にある。

そんな夫が新年明けてすぐに始めてみたもの。それがオンライン料理教室の「chefrepi(シェフレピ)」である。プロのシェフのレシピを動画で学べて作れるというものだ。「シェフレピ楽しいらしいよ」と私が言ったときは「へー」と関心がないような反応だったけど、先日不定期のポップアップレストランに食べにいった時に、そこの大好きなシェフも講師として教えてると知って急に興味を示し、さらに夫も知っている友人もやっているというと「ちょっとやってみようかなぁ」と言い出した。私は心の中で「いいぞいいぞー!」と叫んでしまった。

私はそこそこ料理もするけれど、それはあくまでも家庭料理だし、レストランで食べるようなご馳走を作るのが趣味なんてことになったら、私が1番美味しい思いをする(笑)。そして夫は正月早々に「プレミアムプラン入ったよ!」と新年趣味探し初めがスタートしたのであります。

シェフレピはオンラインで料理を学べるだけじゃなくて、レシピに必要な食材も購入することができる。普通のスーパーでは買うのが難しそうなハーブや、そんなに量を使わないスパイスなども、必要な分だけレシピキットのような形で届くので、ありがちな「この料理は材料揃えるの無理だからやめよう」という最初のつまずきを回避できるのは便利だし画期的だと思う。

さらに入会特典で、1つ食材キットプレゼントというものがあったので、「今度の週末は何かのステーキなんとか風を作ります!」と宣言された。正確には「牛肉のステーキじゃがいものリヨン風」だった(笑)。「え? 週末ご馳走作ってくれるの?」とワクワク。

土曜日の朝にピンポーンと宅配便で食材キットが届いた。そして夫は昼過ぎにちょっと出掛けて、ワインなんか買ってきて、夕方から動画を見ながら家レストランの準備を始めた。私も興味はあるけれど、触れず触らず、別の部屋でゴロゴロしながら待機する。途中から家で嗅いだことのない高貴な香りが漂ってきて、「家庭料理の香りじゃない! 何かいいレストランの香りがするー」と心地よくなったところで寝落ちしてしまった(笑)。

ハッと目を覚ましたら1時間以上経っていたけれど、まだまだ準備は続いていて、「私の知っているステーキというものの概念と全く違うわ」と食べる前からシェフの作る本格メニューへの期待に胸が高なる。そしてしばらくして「こちら、えっと……ステーキです」と、やっぱり名前を覚えられないご馳走を出してくれた。

3種類のペッパーを纏ったステーキはそれはそれは美味しくてワインが進むし、高貴な香りの元は、丁寧にじっくり時間をかけて炒めた玉ねぎで、この玉ねぎが「わー、これは家では中々出せない味だわ!」と、とにかく絶品だった。

この趣味は素敵すぎる! 喜ぶ私と裏腹に、「2カ月に1回くらいのペースで作ろうかなぁ」なんて言っていたので、夫の趣味として定着するには怪しい風向き(笑)。まだまだ時間はあるので、何か楽しい趣味が1つや2つ見つかるといいねと思いながら、「この人は趣味を見つけるのが趣味なのかも」なぁんて思っている私なのでありました(笑)。

徳王 美智子

1978年生まれ。アナログ過ぎる環境で育った幼少期の反動で、家電含めデジタル機器にロマンスと憧れを感じて止まないアラフォー世代。知見は無いが好きで仕方が無い。家電量販店はテーマパーク。ハードに携わる全ての方に尊敬を抱きつつ、本人はソフト寄りの業務をこなす日々。