大河原克行の「白物家電 業界展望」

白物家電事業における主要各社の2010年度決算を振り返る

~猛暑、エコポイント、新興国需要で各社とも成長遂げる
by 大河原 克行

 2010年度(2010年4月~2011年3月)業績が電機大手から出揃った。

 白物家電事業は、エアコンが夏場の猛暑の影響とエコポイント制度の影響が大幅な伸びを見せたほか、冷蔵庫もエコポイントの影響で成長したことで、各社の好調な業績に寄与している。さらに、海外進出を果たしている電機大手では、新興国市場における事業拡大や、世界的な好天を背景にしたエアコン需要の堅調ぶりがみられており、パナソニックでは、家電事業としては過去最高の業績を達成するといった結果も出ている。

 白物家電事業にとっては、極めて好調な1年だったといっていいだろう。

 電機主要各社の白物家電事業の成果を、2010年度業績から振り返ってみた。

過去最高の業績となったパナソニックの白物家電

 白物家電事業で最大手となるパナソニックは、2011年度のアプライアンス部門の売上高が前年比6%増の1兆2,759億円、営業利益は40%増の923億円となった。

 同社では、「エアコン、冷蔵庫、コンプレッサーの売上げ増加し、とくに国内はエコポイント制度の影響で実需が増加したエアコンの好調ぶりもあり、国内家電事業部門としては過去最高の売上高になった」としている。

 営業利益率も前年から1.7ポイント良化して7.2%と高い水準となっている。海外も2桁成長という好調ぶりだ。

 同社によると、エアコンの売上高は18%増の2,731億円、冷蔵庫は8%増の1,294億円になった。

パナソニックのアプライアンス部門の売り上げは好調で、国内家電事業部門としては過去最高を記録パナソニックが3月下旬に発売した“省エネNo.1”を謳うプレミアムモデルのエアコン「HXシリーズ」

 また、参考データとしてパナソニックが発表した三洋電機の従来セグメントにおける業績概況によると、洗濯機を含むコマーシャル部門は前年比5%減の3,941億円、営業利益が72%減の13億円となったものの、炊飯器、掃除機などの白物家電製品を中心としたコンシューマエレクトロニクス部門では、売上高が1%増の2,424億円、営業利益が22%増の115億円と増収増益になった。

パナソニックが参考データとして発表した三洋電機のセグメント別売上高。掃除機や炊飯器などの白物家電を中心としたコンシューマーエレクトロニクス部門では、増収増益の結果となった三洋電機のサイクロン式掃除機「airsis(エアシス) SC-XD4000」炊飯器「匠純銅 おどり炊き ECJ-XP2000」
インドなどの新興国市場の攻略に乗り出すという

 パナソニックでは、2011年度の業績見通しとして、アプライアンス部門の売上高が前年比5%増の9,700億円、営業利益は10%増の1,020億円としており、引き続き高い成長を維持するとみている。

 アプライアンス部門では海外市場での成長を大きなドライバーと位置づけており、ベトナムにASEAN向け製品の中核開発拠点を設置し、さらにインド向けおよび欧州市場向け洗濯機、冷蔵庫ではOEMを活用することで前年比1.5倍にラインアップを拡大。とくにインド市場では大増販プロジェクトを展開して、Panasonic Beauty製品の展開や、白物商品15機種の展開、ブランドショップの拡大による地方市場の攻略などに乗り出すという。

 なお、2011年度の計画値の中には東日本大震災の影響は反映していない。

日立、実質価値の追求を目指す白物家電戦略を展開

 日立製作所は、デジタルメディア・民生機器の売上高が2%増の9,515億円、営業利益は221億円改善し、149億円の黒字となった。

 家庭用空調機器や冷蔵庫といったエコポイント対象製品が国内において好調となったほか、空調機器が海外を中心に好調に推移したという。

日立のエアコン最新シリーズ。白くまくん Sシリーズ「フロストリサイクル冷却 真空チルドW(ワイド)」シリーズ。R-A6200 クリスタルブラウン(左) クリスタルプラチナ(右)

 2011年は白物家電生産において、サプライチェーンの制約が懸念されるものの、新興国市場向けに積極的な展開を図ることで業績は堅調に推移すると予測している。

 白物家電を担当する日立アプライアンスでは、2011年度の事業方針として、従来通りの「日立はエコにたし算」のキャンペーンを継続しながら、「省エネ(エコ)+実質価値」を掲げ、省エネの徹底追求を前提に実質価値の提供を図るとした。

 「未曾有の災害と電力供給不足により、無駄の排除、贅沢を控え、徹底した省エネ、節電志向が顕在化している。そのなかで、贅沢ではない実質価値の追求が求められている。日立は引き続き白物家電事業において、プレミアム戦略を展開するが、2011年度においては、実質価値の追求が重要な課題になると考えている」(日立アプライアンス 常務取締役 家電事業部長 石井吉太郎氏)とした。

白物家電などを含むデジタルメディア・民生機器の売上高は2%増の9,515億円、営業利益は221億円改善し、149億円の黒字となった「未曾有の災害」を受けて、省エネの徹底追及を前提とした「省エネ(エコ)+実質価値」を掲げる

白物家電事業黒字化で、新興国に攻める東芝

 東芝は、家庭電器の売上高は前年同期比3%増の5,998億円、営業利益は142億円増の88億円と黒字化した。

 エコポイント制度の効果と猛暑による需要増加などにより、白物家電および家庭用エアコンが好調となったほか、照明では、LED照明の販売数量の増加や、住宅着工数の回復などにより好調だったという。

 また家庭電器部門における拠点再編、事業再編などの構造改革効果が黒字化に貢献。白物家電、照明、空調のいずれもが黒字になったという。

 洗濯機の国内シェアは7年連続で第1位を獲得したほか、LED照明では、仏ルーヴル美術館とパートナー契約を締結したことで、世界的な事業展開にも足がかりをつかんだという。

東芝の家庭電器の売上高は前年同期比3%増の5,998億円、営業利益は142億円増の88億円と好調だった大清快 JDRシリーズ プレシャスホワイト(上) プレシャスシャンパン(下)ドラム式洗濯乾燥機「ZABOON(ザブーン)」
海外においての販売力強化のため、海外での生産能力を強化、さらに、デジタルプロダクツ簿門徒の新興国総合販社を設置するという

 一方、2011年度通期見通しとして、家庭電器の売上高は前年比8.4%増の6,500億円、営業利益は12億円増の100億円とした。

 新興国を含む商品力、販売力を強化するために、デジタルプロダクツ部門との連携を強化し、年度内には10カ所に新興国総合販社を設置。さらに、中国およびシンガポールにデザイン・マーケティング拠点を新設。グローバルな設計開発、製造体制を構築していく考えを示しており、とくに、空調新製品を中国、インド、ASEAN諸国に投入するなど、新興国市場での売上げ拡大を図るという。

 国内市場向けには、冷蔵庫、洗濯機で26機種の省エネ新製品を投入する予定であり、国内白物家電事業で前年比6%増(市場成長予測は2%増)を見込んでいる。

太陽光の収益に苦戦するシャープ、エアコンが好調な三菱電機

 シャープは、健康・環境機器の売上高が11%増の2,695億円、営業利益が23%増の199億円。

 健康・環境機器では、冷蔵庫、エアコンが国内外ともに好調に推移したほか、プラズマクラスターイオン搭載商品が、エアコン、冷蔵庫、掃除機などにも拡大。ラインアップを強化したことも売上げ増に貢献しているという。

 エアコンの売上高は前年比24%増の574億円、冷蔵庫の売上高は前年比18%増の796億円となった。

シャープの部門別売上高。プラズマクラスターイオン搭載商品を含む健康・環境機器が好調だったシャープのプラズマクラスターエアコン「SXシリーズ」シャープ「プラズマクラスターサイクロン式掃除機 EC-VX220」
シャープが大阪府・堺市の「グリーンフロント 堺」において量産を開始した新型高効率単結晶太陽電池

 また太陽電池については、導入補助金制度の影響や再生可能エネルギーに対する関心の高まりなどもあり、国内外ともに好調に販売が増加したが、価格競争の激化によって収益性が悪化。太陽電池の売上高は前年比27%増の2,655億円、営業利益は58.7%減の21億円となった。

 太陽電池に関しては、グリーンフロント堺において、受光面に電極がないバックコンタクト構造の新型高効率単結晶太陽電池の量産を開始。さらに米国大手発電開発事業者であるリカレント・エナジー社を完全子会社化したことで、トータル・ソリューション・カンパニーとしての事業体制構築を実現したという。

三菱「霧ヶ峰 ZWシリーズ」

 三菱電機は、家庭電器部門の売上高が前年比12%増の9,244億円、営業利益は 約8.6倍となる420億円となった。

 昨夏の猛暑によって国内外向けの空調機器や、第3四半期の家電エコポイント制度変更に伴った駆け込み需要による国内向け家庭用空調機器や冷蔵庫の販売が好調だったことに加えて、各国政府補助金制度の効果などによる国内外向け太陽光発電システムの伸長が貢献したという。

ダイキンは光ストリーマ搭載エアコンに高評価

 空調機器の好調ぶりは白物家電事業を展開している各社に共通したものだが、なかでも専業メーカーの業績を大きく引き上げているのが特筆できよう。

 ダイキンは、連結売上高が前年比13%増の1兆1,603億円、営業利益は71%増の754億円。そのうち、空調・冷凍機事業の売上高は前年比11%増の1兆45億円、営業利益は40%増の646億円となった。

 国内向けルームエアコンが、昨年7月以降の記録的な猛暑の効果や、家電エコポイント制度変更前の駆け込み需要効果、厳冬によるクリーン暖房の需要増大が追い風となり、販売台数、売上高ともに前年実績を大きく上回ったという。2010年度の住宅用空調製品の販売台数は前年比28%増になった。

 独自の「うるる加湿」、「上下左右の4方気流」に加えて、部屋の空気だけでなくエアコン内部も除菌する「光速ストリーマ」技術を新搭載した高付加価値商品の拡販に努め、エコポイント需要を取り込んだという。

 また、国内業務用空調機器においても設備投資抑制のなかでも、パッケージエアコンが猛暑の好影響を受け前年実績を上回った。店舗・オフィス用エアコン「スカイエア」シリーズの新商品「Eco-ZEAS80」が、15年前の同社エアコンに比べて、CO2排出量および消費電力を最大約80%削減可能である点などが評価を得ている。

 海外空調事業でも、為替影響が発生したものの各地域での販売数量の拡大により、売上高では前年実績を上回った。

 さらに、エコキュートは差別化商品の投入や住宅設備に強い販売店であるエコ・プランナーズ・クラブ店の展開などの独自の販売網強化によりシェアを高めたほか、空気清浄機も前年の販売水準を維持。またエコキュートでは前年比27%増と、業界平均の12%増を大きく上回った。また、「水まで除菌」するストリーマ技術の訴求と花粉シーズンに備えた積極的な拡販活動などによって、第4四半期には売上げを大きく伸ばしたという。

ダイキンのエアコン「うるるとさらら Rシリーズ」独自の除菌技術「ストリーマ技術」搭載の空気清浄機「うるおい光クリエール MCK75L」

 2011年度は、2015年度を目標年度とする新戦略経営計画「FUSION15(フュージョン フィフティーン)」のスタートの年として、新興国ボリュームゾーンの拡大や環境事業の加速などに取り組む姿勢を示したが、夏期シーズンを含む今後の電力供給状況や消費マインドの冷え込みなどに伴う景気下ぶれリスク、下期以降に想定される復興需要といった東日本大震災の影響が不透明であることから、業績見通しの公表を6月中旬までに見送った。

 だがその一方で、ダイキンでは「今回の震災発生を契機にクローズアップされた節電ニーズに対しては、当社が保有する節電技術や環境対応商品を活用した節電対策メニューの提案に加え、今後も、空調グローバルNO.1メーカーとして、節電に寄与する技術開発、商品開発や商品、サービスの提供に積極的に取り組む」としている。

第4四半期にエアコン工場停止も好調を維持した富士通ゼネラル

富士通ゼネラル「ノクリア Sシリーズ」

 富士通ゼネラルは、売上高は前年比11%増の1,821億円、営業利益は17%増の110億円となり、過去最高益を達成したという。

 空調機部門の売上高は、13%増の1,565億円、営業利益は4%増の74億円。空調機部門では、欧米地域の経済回復に加え、日本をはじめとする北半球各地での猛暑や省エネ製品への補助政策が追い風となったこと、また、新興国でも需要拡大が続くなど、天候不順であったオセアニアを除いて、市況が好調に推移。エアコン販売に弾みがついた。

 省エネ性能を強化した商品の投入やVRF(ビル用マルチエアコン)、大型住宅向けや学校、病院、レストランといったライトコマーシャル向け製品の販売ルート強化に取り組んだことが功を奏したという。

 一方、新興国を中心とした世界的な消費拡大や環境規制の強化に伴い、インバーター関連部材や汎用電子部品の供給不足、入手難が続いたが、設計、調達、生産、物流、販売の各部門が連携してプロセス管理の徹底や代替部品の確保、および地域別・商品別の所要変動に応じた増産、出荷対応を進めたこともプラスに働いたという。

 第4四半期においては、東日本大震災による売上減少や、タイのエアコン生産工場での一時的な操業停止による生産の遅れが発生したが、影響を最小限に抑えたとした。

 エアコンでは、猛暑とエコポイント制度の相乗効果に伴う需要急増に対し、リビング向け中大型クラスの売上構成比を拡大。2011年1月から順次発売している新型ノクリアは、高い省エネ性能を実現するとともに、業界初の電波式リモコンを採用したこと、節電の手助けとなる電気代管理機能を搭載したことで人気を博した。

 ホーム機器では、従来より約30%小型化し、新たに加湿機能を追加した脱臭機「プラズィオン」を発売。また従来の暖房機能に加え、夏には電気を使わず涼感が得られるオールシーズン電気カーペットが好評だという。

 2011年度は、売上高で前年比9.8%増の2,000億円、営業利益では前年比0.3%減の110億円を見込んでいる。

2011年度は懸念材料と成長要因が混在

 2011年度の業績見通しについては、パナソニックや東芝などが公表しているものの、東日本大震災の影響によって、サプライチェーンの復旧や復興需要の動きが不透明であるとして、6月以降に発表する企業が目立つ。

 また、白物家電事業や空調事業に関しては、2010年度の猛暑、エコポイント制度といった追い風の反動が、2011年度に顕在化するのではないかとの懸念材料も聞こえてくる。

 しかし、その一方で、東日本大震災の被災地による復興需要が、今年度後半以降に期待されることや、節電意識の高まりによって、省エネ家電に注目が集まり、新たな需要を創出するのではないかとの期待感もある。

 2011年度は、節電機能に注目が集まるのは確実で、そこにおいてどんな差異化製品を出すことができるのかが、各社の製品戦略において重要なポイントになる。

 さらには新興国での存在感をいかに高めていくかといったことも見逃せない要素になろう。

 白物家電事業が成長戦略のなかで、これまではドメスティックと言われてきた白物家電事業の海外進出は欠かすことができないものといえ、2011年度は次の成長に向けて、どこまで海外戦略を加速できるかが大きな鍵になりそうだ。





2011年5月30日 00:00