そこが知りたい家電の新技術

京セラの太陽電池戦略

~信念に則った事業展開でユーザーの信頼を勝ち取る
by 阿部 夏子

補助金導入によって再び盛り上がりを見せる太陽電池市場

京セラの住宅用太陽電池パネル「SAMURAI」

 今、太陽電池が盛り上がっている。

 2009年1月から再び始まった国による補助金制度に加え、新たに余剰電気の買い取り制度も開始することが決定し、電機メーカーはもちろん、住宅設備メーカーもにわかに色めきだっている。

 太陽の光をエネルギーとして電気を作り出す太陽電池は、1994年に国が補助金制度を設けたいわば国家事業でもあった。それが制度がいったん廃止されてからは、水素と酸素を反応させることで、水と電子(電気)を生成する燃料電池や、ヒートポンプの技術を用いるエコキュートなどの給湯設備も“クリーンエネルギー”として注目され、国内のクリーンエネルギーを取り巻く環境はここ数年多様化していた。

 それが、昨年度政府が一般住宅への太陽光発電システムの普及を支援する補助制度を開始。国が太陽電池をバックアップすることを正式に発表した。

 太陽電池を扱う国内の主要なメーカーを見てみると、シャープや三洋電機などの電機メーカーが立ち並ぶ。その中で異彩を放つのが本来はデバイスメーカーでもある京セラの存在だ。トヨタのハイブリッドカー「プリウス」への太陽電池提供、今年5月には流通大手であるイオンとの提携を発表するなど、その動向が注目されているメーカーだ。同社は今の太陽電池を取り巻く環境をどう捉えているか、また今後の販売戦略について聞いた。

太陽電池は創業者の信念で取り組んできた事業

京セラソーラーコーポレーション 取締役 営業本部 プロジェクト推進部 責任者の小西 耕太郎氏

 話を伺ったのは、京セラソーラーコーポレーション 取締役 営業本部 プロジェクト推進部 責任者の小西 耕太郎氏。

 国策として太陽電池を推進することが決まったこの状況をメーカーはどう捉えているのだろうか。

「正直、この展開は読めなかったです。2005年度の補助金廃止の時は売上もがくんと落ち込んでしまいましたしね。うちは30年以上太陽電池をやっていますけど、黒字になったのもここ最近ですよ」(小西氏)

 と、語る小西氏だが、会社としては事業を進める上では当然、利益が必要だ。その点に関してはどうだろうか。

「そもそもうちみたいなメーカーが太陽電池をやっているというのは、創業者でもある稲盛の強い想いがあるからなんです」(小西氏)と話し始めた。

 京セラでは1975年から太陽電池事業に取り組み始めたが、その経緯には興味深いエピソードがあった。

「創業者の稲盛和夫が、第一次オイルショックに強い危機感を持ちましてね。石油に代わる新しいエネルギーを絶対に確立すると強く心に決めたといいます。それからは太陽電池の技術が必要とされる時代が来るとの確信を持ち、有能な技術者を集めて、太陽電池事業を確立してきたんです」(小西氏)

 稲盛氏はそこからすぐに動きだした。1975年には、京セラが中心となり、松下電器産業、シャープ、モービル、タイコラボラトリーズなど主要な電機メーカーとの合併会社を設立し太陽電池の研究開発をスタート。その後、この合併会社は解散しているが、京セラが事業を引き継いだ。

 稲盛氏の想いは「太陽エネルギーの利用を通じて人々の幸せに貢献する」という事業創業の理念となり、同社ではそれから34年間太陽電池事業に取り組んできた。京セラが太陽電池に深く関わってきたのにはこのような経緯があったのだ。

訪問販売で培った京セラならではの強み

 と、同社の太陽電池への熱い想いを伺った上で改めて今の業界動向について聞いた。

「たとえば、他の電機メーカーさんが本気で太陽電池を売ろうとしてきたら、それはかなわないと思っていますよ。うちは家電量販店さんとの付き合いもないですし、売るためのノウハウもないですからね。ただ、それを逆に強みにもっていくこともできるんです」(小西氏)

 流通の経路や大型量販店との付き合いがないメーカーの強みとは何か。

「そもそも、太陽電池というのは売ってそこで終わりではないんですよ。売って終わりだったら、それこそインターネットで売るのが一番経費も少なくてありがたいですけど、太陽電池は販売だけでなくて施工も商品に含まれます。施工というのは、型にはまったやり方ではできないんです。それこそ一軒ごとの家の建て方や、築年数なんかも密接に関わってきます。話をしないと売れない商品なんですよね。そこでうちが有利なのは訪問販売のノウハウを持っているということなんです」(小西氏)

 実際、京セラではこれまで太陽電池はほとんど訪問販売に頼ってきた。実績は15年で10万棟。この数字に対して小西氏は「商品としては成り立っているとは言えないような数字です。ただ、これからは間違いなく太陽電池はメインストリームになっていくでしょうね」と断言する。

 「太陽電池は使ってみないとわからない」そう話す小西氏は、自身の体験談を語り始めた。

 「仕事柄、私も自宅にも太陽電池を入れたんですよ。新築の家の屋根をはいでね。当時で約300万円かけて。当初は家内に文句は言われるわ、近所の人にまで、何をやっているんだと言う目で見られましたよ。それが、変わったのは関西電力から余剰買い取りの振り込みがあったときです。普通に生活してたらね、電力会社にお金を払うことはあっても払われるなんてことはまずないでしょう? それが通帳に“カンサイデンリヨク”という字が並んだことに家内がもう感動しちゃって。その時家内に言われたのは、なんでもっと載せなかったの、ということでしたよ。あとは父がずーっと電気のメーターをにらみつけているんですよ。室内で電気使っているのに、メーターが微動だにしないってね。要は室内で使っている電気を太陽電池がまかなっている状態なんですが、それにはえらく感動していましたね。そういう思考とか、感動なんかについては、店頭で話しただけでは伝わりませんからね」(小西氏)

 そう話す小西氏だが、当然それだけで売れるはずがない。

「そうはいっても過去の販売実績を見れば分かるとおり、そうそう甘い話ではないんですよね。ただ、30年以上の販売実績を通して我々は4つの品質というものを確立しました」(小西氏)

 小西氏が語る4つの品質とは「製品品質」「営業品質」「施工品質」「アフターサービス品質」の4つ。いずれもこれまでの事業経験から培ったものだという。

「太陽電池っていうのは、使い始めた時の感動や、余剰電気が初めて買い取られた時の感動。もっといえば、地球環境のために先行投資するような製品ですからね、それをしっかりお客さんに伝える必要があるんです」(小西氏)

 それを伝えるのは、大型量販店での店頭販売や、インターネットでの販売ではどうにもまかなえないという。そこで、同社が販売戦略として編み出したがフランチャイズ展開だ。全国に京セラの提携店を構え、同社の熱意を地域に密着して伝えていくのが目的だという。しかし、系列店を持つというこのやり方は電機メーカーが得意とするやり方だ。

「正直電気店のフランチャイズ展開にかなうとは思ってませんよ。でも、電気店には出来ないことを我々はする。そのための準備をしている段階です」(小西氏)

 “電気店にはできないこと”前述した4つの品質に乗っ取った徹底的な研修制度がそのその代表例だ。特に同社が力を入れているのが施工とアフターケアの2点だという。

施工工事例。同社では施工に力をいれた研修を行なっている

「結局、施工は外注に頼るしかないわけですから、とにかく徹底した事前研修、さらに施工までには何段階もの確認作業が行なわれます。まず見積もり段階で一度、施工前に一度、さらに施工後は全景と細部を細かく撮影した写真をメーカーで確認。メーカーがOKを出さない限りはシステムを使えない仕組みを採用しています」(小西氏)

 施工後すぐに使いたいというのが消費者心理だが、なぜそこまで厳しく設定するのだろうか。小西氏によると、これは徹底的なアフターケアを行なうためだという。

「弊社では10年の品質保証をしています。もっと長い保証をしているメーカーもありますがうちはあえて、10年です」(小西氏)

 というのも、太陽電池は比較的新しい製品のため、設置後30年経過した施工例がないからだという。10年保証は「まだ未確認の年数を安易に保証はできない」という京セラならではのこだわりが表われた数字でもあるのだ。


イオンのショールームは太陽電池の案内所に過ぎない

イオン提携後初出店したイオン越谷レイクタウン

 ここまで話を伺うと、京セラはこれまでの事業経験で培ったノウハウを上手くフランチャイズ展開に活用するなど、独自のやり方を確立してきたかのように見える。さらに次の手が、今年の5月に発表した大手流通のイオンとの業務提携だ。

 なぜ、今イオンとの業務提携なのだろうか。

 「ここは、案内所のような役割なんですよね。ここでは、製品の販売は基本的にはしません。お客様のアクセスしやすい場所に店舗を構えることで、まずは太陽電池を知ってもらう。この場所ではあくまでお客様へのガイドを目的として、販売はフランチャイズの店舗でしてもらっています」(小西氏)

 この発言は記者にとっては意外なものだった。というのも、イオンにショールームを出店という話を聞いた時点では、新しいシステムを確立して店頭で手軽に太陽電池を注文できるのかなと安易な想像をしていたからだ。

 ただ、話を聞いてから店内の中を見回してみると、それも納得できる造りだ。立ち寄りやすい間口の広い店舗、さらに子供が遊べるキッズスペース、グリーンを基調とした店内は、一見、何を売っている店なのか分からないほど。店内には太陽電池を扱った雑誌が無造作に置かれ、誰でも自由に見ることができるようになっている。

レイクタウン内の京セラショールーム店内には太陽電池関連の書籍などが並べられているが、特に京セラの商品に偏ったものはないパステルカラーのイスが並べられており、自由に書籍を読める雰囲気がある
店舗入り口に設置されている液晶画面が付いた柱。全体的にグリーンをイメージした内装が特徴的だ託児スペースまで設けられており、買い物途中の子連れの人でも気軽に立ち寄れるスペースとなっている

 京セラという看板は掲げているものの、見た目はまるでエコを推進する資料館のようなのだ。京セラのパンフレットが並ぶわけでもなく、特定のユニフォームを着た販売員が待ちかまえているわけでもない。「入ったら最後」というような住設販売のお店とは180度違う雰囲気だ。京セラソーラーFCレイクタウン 店長を務める井上 達也氏は次のように語る。

京セラソーラーFCレイクタウン 店長 井上 達也氏

 「太陽電池が盛り上がっているといってもそれは我々メーカーサイドから見た話ですよね。一般のお客様にとって、太陽電池はまだまだ遠い存在で、じゃあ実際にどういうものかというのは全く知らないという人がほとんどです。テレビや雑誌で補助金の話を知っても、じゃあどこにいけば太陽電池のことを教えてくれるのというのはわからない。今回のショールームはそういうお客様に、ここに来れば太陽電池のことがわかる、というスペースを提供するつもりで考えています」(井上氏)

 実際、取材中にも店内に立ち寄る子供連れの女性がいた。ただ、雑誌をゆっくりと眺める女性に対して、店員が積極的に接客をする様子はまるで見られなかった。あくまでもサポートという姿勢は接客態度にまで徹底されている。「電機メーカー、家電量販店にはできない独自の売り方」と概念は店舗造りにもしっかり反映されていた。

ショールームではコンピューターを使用した設置シュミレーションを画像で確認できるシステム「PhotoPA」を導入。自宅の設計図などがあればその場で見積もりまで出すことができるという
様々な角度から施工を検証できるので、知識がない人でもイメージがしやすくなっているPhotoPAによるシュミレーション画像
店舗では実際に使用しているパネルも展示されている施工例も模型で展示されているのでイメージしやすいこちらは同社のソーラー発電モニタ「エコノナビットii」。売電、買電レベルが表示されるほか、発電状況や、その時に消費している電力などが表示される。これもユーザーが太陽電池を楽しく捉えるための工夫の1つだ


太陽電池を“国策として勝てる技術へ”

 小西氏が懸念しているのは、太陽電池の普及拡大につながる、補助金制度の継続についてだ。

「太陽電池の技術には絶対の自信を持っています。ただ、技術があってもそれがすぐに普及拡大につながるとは思っていません。現時点では国のバックアップに頼らざるを得ないというのが実情です。実際、2005年の打ち切りの時の冷え込みはすごかったですよ。今回の補助金は2005年の時と比べると、金額的に大きくなっていますが、金額ではなくて制度の継続に期待します。太陽電池を“国策として勝てる技術”にするには政府のバックアップが不可欠でしょうね」(小西氏)

 と、おもむろに小西氏が取り出したのは、実際のパネルだ。

「たとえばこのパネル見てくださいよ。パネルの間に線が入っているのが見えるでしょ。この線をいかに細くしてパネルの面積を広くするか。そうすることで作り出すエネルギーの量が増えるんですよね」(小西氏)

 記者に手渡されたパネルは実物のもの。確かにパネルの間に細い線が入っているのが確認できる。

「そのラインをいかに細くするか、それが技術なんです」(小西氏)

同社の住宅用太陽電池パネルパネル全体の発電量を増やすために、この線をいかに細くするか、など同社の太陽電池技術は小さな改良の積み重ねから成るという

 最後に京セラの今後のビジョンについて伺った。

 「まずはフランチャイズ展開を増やしていくことです。現在の認定パートナーは74店舗ですが来年3月までには100店舗、最終的に2011年度で200店舗という数を掲げています。またイオングループへの出店も順次計画しています」(小西氏)

「ただ、やっぱりそれだけではダメなんですよね。お客様と話していると採算がとれるかどうかということばかり気にする人がやっぱりまだ多いんです。もちろん、大金をかけて施工していただくわけですからそれは大事なことだとは思うんですが、弊社では太陽電池ってそもそもそういうものだとは思ってないんですよね。プリウスのようにお金を掛けてもそうすることがかっこいい、地球環境の事を考えているという意識表明になるようにもっていかなければダメなんですよ」(小西氏)

 「太陽電池イコールかっこいい」そのような意識はまだまだ浸透していないのが現実だ。今後、消費者心理をどう変えていくか――同社だけでなく業界全体の課題と言えそうだ。





2009年11月4日 00:00