そこが知りたい家電の新技術
家電からこだわりのある暮らしを提案、パナソニックが進める「ふだんプレミアム」とは
by 西村 夢音(2016/1/12 07:00)
パナソニックは、白物家電の新たなコンセプトとして「ふだんプレミアム」を掲げた。
同コンセプトには、豪華であることや贅沢することだけでなく、なんでもない日常にあるくつろぎや和みなどに価値があるといった意味が込められている。今後は、製品の機能だけでなく、ライフスタイルなど空間価値も提案していくという。
現在は、洗濯機・冷蔵庫・エアコンの3製品を主軸に、「ふだんプレミアム」の世界を表現した特設サイトを公開中。俳優の西島秀俊さんが主演するショートムービーなどを用意しており、毎日の暮らしを丁寧に過ごす家族の風景と、それを支える家電といった「ふだんプレミアム」の世界を提案する。
個人のこだわりやナチュラルさを重視、普通を高めるをキーワードに
白物家電の新たなコンセプトとして、なぜ「ふだんプレミアム」を掲げたのか。白物家電のコミュニケーション戦略を担当する、パナソニック アプライアンス社 プランニング課 主幹 古長 亮二氏は、以下のように語る。
「2009年より、省エネ技術をベースとした『エコナビ』で製品の訴求をしてきましたが、今後は新しいメッセージとして、ライフスタイルの提案に切り替えていこうという話が出てきました。エコナビは機能として前提にありながら、丁寧なくらしを提案して、パナソニックの白物家電のブランディングを強化する目的で始めたのが『ふだんプレミアム』です。最近は、30代を中心として求められている価値観が、丁寧であることや、高品質、個人のこだわり、ナチュラルといったものにシフトしているように感じます。そこに家電がお役立ちできることがあると思い、検討が始まりました」
「ふだんプレミアム」というコンセプトが決定してから、広告デザインやコピー制作には紆余曲折があったという。
デザインやコピーを担当した、クリエイティブ課 高須 泰行氏は、制作について次のように話す。
「ふだんプレミアムには、“普通を高める”というキーワードがあります。家電は日常的に使われるものですが、そこをプレミアムにすることが多くの方に共感いただけるのではと話をしました。最初はプレミアムという言葉から、豪華なトーンで作ってみたんです。しかし派手なイメージが強く、丁寧さやナチュラルさといったコンセプトにマッチする気がせずボツになりました。
ブランドを作るには共感されることが大切であって、その共感がどこに生まれるかと考えると、高級じゃなくて“こだわったもの”なんだと思います。サードウェーブコーヒーとか、適正な素材で作られたものが今は認められますよね。
ステータスではなく、自分の気に入った物と暮らしたいというメッセージを、白物家電を作っているパナソニックが発信することで、ユーザーに共感してもらえるのではと思いました。そこで生まれたコピーが“なんでもないふだんを、宝物にしよう”です」
空間と調和する家電「Cuble」でユーザーの感性に響く製品を目指す
「ふだんプレミアム」のコンセプトを体現する製品の1つが、キューブ型を採用したななめドラム洗濯機「Cuble(キューブル)」だ。これまでのドラム式洗濯機とは異なる、直線的でシンプルな「キュービックフォルム」により、サニタリー空間を美しく演出する。空間価値を向上させ、その家電があることで部屋が明るく感じたり、日々を充実させたりと、ユーザーの感性に響く製品を目指している。
通常のカタログとは別に、キューブルにはコンセプトブックが用意されている。家電とともに暮らす、少し上質な日常の風景を描く。
「コンセプトブックでは、決して単なるカタログのような撮り方にしないようにしました。生活感があっても良いじゃないか、という思いがあります。そこには家族がいて、日常があって幸せがある。上質ではあるけど飾っていない、日常の暮らしの中で家電が活躍していく目線で、自然光で撮ることなどにこだわりました」(高須氏)
古長氏は、「機能を前面に出すのではなく、その家電を使うことのベネフィットだったり、ライフスタイルを提案することは今までにあまりないことでした。しかし、お客様の心に、感性に響く訴求をした方が最終的に商品の価値向上につながるのではないかと考えました」という。
メーカーの意思がユーザーに伝わる時代
パナソニックでは、「ふだんプレミアム」のコンセプトを強化することで、白物家電のブランディングを進める狙いもあるという。しかし、国内メーカーとして既にブランドは完成しているのではという疑問も生まれる。
「自分たちではそうは思っていないですね。家電をなぜ作っているのか? という問いにきちんと答えられるか、そこをユーザーと共有できているかが、白物家電のブランド作りには大切だと思います。いいものだから買ってくださいはもう通用しません。値段ではなく、こういう思いで作っているんだと。そこがしっかりしているとブランドが形成されていきますが、現時点でブランドが確立しているとは思っていません」(高須氏)
古長氏は、「安心感というブランドイメージはありますが、今は外資系メーカーが参入して競争が激しくなっている時代です。パナソニックはナショナル時代から、国内メーカーとして展開していますが競争力が高まっているとはいえません。ユーザーとの距離感が正しいのかという疑問もあり、2018年の100周年に向けて、距離感やブランドをどう構築していくか考えたときに、きちんとブランディングしていくべきという結論に至りました」と話す。
ユーザーが見にくる動画を提供
「ふだんプレミアム」を掲げるのに合わせて、3つの新たな取組みを行なった。
1つめはデジタルの強化。ウェブやSNSを活用し、動画コンテンツを豊富に用意してスマートフォンからターゲットへのリーチを狙う。「ふだんプレミアム」特設サイトでは、現在全62種類の動画コンテンツを公開中。
ターゲットは30~40代と、これまでよりも若いユーザーを中心に訴求する。動画をメインに制作した理由には、スマートフォンで動画を見るユーザーは、テレビCMを流し見するのとは異なり、より関心を持って閲覧する可能性が高いという。ユーザーの求める情報を、欲しい時に届けることに注力している。
「これまでは、ワンメッセージマルチユースを基本として、1つのメッセージを浸透させることに注力していました。しかし、ユーザーのニーズにあったものを作るとしたら、常に同じメッセージにはなりません。そのために、テレビCMとは別に動画コンテンツを多く制作し、SNSやウェブを通じて発信しています。ウェブで見せることを前提に現時点で約60種類以上作りましたが、ビュー数も滞在時間も増えているので、より商品の関心度が向上したかなと感じています。また、冷蔵庫や洗濯機は女性が選ぶ可能性が高いのですが、特に女性ユーザーの反応が良く、アプローチは成功しているのではと思います」(古長氏)
浅く広くではなく、深く広く
12月中旬時点で、ショートムービーの総再生回数は900万回を突破。テレビCMとは異なる、見たいと思わせる動画の作り方にポイントはあるのだろうか。
「今回はテレビCMを作るのではなく、最初からウェブやSNSでの視聴を前提に作ろうという逆の発想でいました。お客様の生活シーンをイメージして、興味を持ってくれている人に、いかに深く広く届けるかといったことを考えました。
スマートフォンなどでじっくり見てもらったり、共有してもらうことが大事なので、冷蔵庫や洗濯機のさまざまな特徴に1つずつアプローチしました。また、商品の先にある豊かな暮らし提案にもヒントがあります。商品のことしか言ってないじゃんという風になるのではなく、いかに僕らがみんなの暮らしを豊かにしたいと思っているかを表現しました。その目線があったので、再生回数が伸びたのではないでしょうか。機能訴求だけではそこまでいかなかったと思います」(高須氏)
また、「ふだんプレミアム」の特設サイトでは、同社のCMキャラクターを務める西島 秀俊さんを継続して起用。
男性を起用する理由については「家事を取り巻く環境も変わって、男性も家事をするという風に社会的認識が変わってきているので、料理も洗濯も自然に行なう西島さんの姿は大変好評です」(古長氏)という。
POPなし、デザインが映える展示を
2つめに掲げるのはリアル店舗での取組み。
都内の大型3店舗では、「Cuble」が実際にサニタリースペースに設置されたイメージを再現している。空間とともに提案している。店舗内にスペースを大きく設け、木目調の床材を採用し化粧台のデザインにこだわるなど、アパレルショップのようなスタイルで製品を陳列。
「リアル店舗での提案は、実際に置いた時のイメージを浮かべながら、商品を見てもらいたいと思っています。売り場でもっと気づきや発見を感じてほしいですね。この先、リアル店舗の役割は少しずつ変わっていくと思います。店舗でお客様が欲しい情報はなんだろう、ということをもう少し考えていきたいです」と、古長氏は話す。
「現在はトライアル段階です。今回の試みが最終的にディスプレイに終わるのか、魅力が伝わって商品価値を高められるのか、今後の反響を見ていきたいですね」(古長氏)
ユーザーイベントで生の声を
3つめは、CRM(顧客管理システム)の活用。会員サイト「CLUB Panasonic」は現在会員数が800万人を超えており、プラットフォームを有効活用しようといった動きが始まっている。10月10日と11日には、後楽園にあるプリズムホールで会員向けのイベントを実施。2日間で4,000人の会員が参加した。
イベントでは、「ふだんプレミアム」製品を空間提案とともに機能を説明するブースや、炊飯器やスモーク&ロースターを使った実食、4Kテレビの展示やステージでの商品説明などが行なわれた。参加者の満足度は高く、実際に製品を触って購入したくなったなどの声も多くあったという。
「クラブパナソニックの会員の方々との接点を強化することで、当社に対するロイヤリティを高めていただくことを目的に初めて開催しました。私たち社員もクラブパナソニックの会員の皆さまと実際に触れ合い、想像以上に商品に対する興味が深いことに驚きました。製品を使ってくださっている皆さまからのお声を伺える貴重な機会でした」(古長氏)
2020年のオリンピックは日本メーカーとしてのアイデンティティを
現在、さまざまなメーカーが、2020年の東京オリンピックに向けて動き始めている。パナソニックでは「ビューティフルジャパン 2020」として、47都道府県を訪ね、オリンピックを目指すアスリートの思いを届けながら、日本の良さを再発見するプロジェクトを進行中。今後は、どのような取組みを行なっていくのだろうか。
「オリンピックがあることで、日本の良さや、暮らし、文化を再認識すると思うんですね。日本の家電メーカーであるパナソニックとしては、日本の暮らしを良くしようと思っていて、どう伝えようかを考えています。
47都道府県の地方の文化や料理などにも、魅力は散らばっています。そういうところを一緒に発見できるか考えていきたいです。白物家電と相性の良い何かがないか探っていきたいですね」と、高須氏は語った。
古長氏は、「今のところビューティフルジャパンのプロジェクトは、4Kテレビを中心に取り組んでいて、まだ白物家電での展開は一部しかありません。日本のメーカーを支えてきたパナソニックとして、アイデンティティをより強く出していきたいです」と話した。
白物家電を通して、日本の生活を支えてきたパナソニック。暮らしや空間作りにこだわるといった価値観は、さらに広がっていくだろう。今後の展開も楽しみだ。