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ロボット工学の第一人者に聞く! ぶっちゃけ今のロボット掃除機ってどうですか?

 現在、家電量販店の売り場には多くのロボット掃除機が売られている。たくさん種類がありすぎてどれがいいのかいまいちよくわからない。量販店の店員や、実際に使っている知人に聞いてみても、どのように掃除をするのかがいまいちピンとこない。というのも、ほとんどの人にとって「ロボット」はまだまだ遠い存在で、どのように掃除するのか、仕組みを把握していないからだ。

 今、最新のロボット掃除機にはどのような種類があり、どのような仕組みで掃除をしているのか。ロボット工学の第一人者として活躍する、“ロボットのプロ”古田貴之氏に話を聞いた。

古田貴之
ふるた たかゆき 1968年生まれ

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo」所長。「ロボットにはもっと多様な可能性がある・不自由なものを不自由でなくする」を持論に8本足の電気自動車プロトタイプモデル「ハルキゲニア01」や、福島第一原発原子炉建屋内の調査用ロボット、未来の乗り物「ILY-A」など、奇想天外で画期的なロボットを開発。また、ドラマ「安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~」や映画「キカイダー REBOOT」など多くのSF作品において、ロボット出演シーンの監修/ロボット技術設定等も手がける。www.furo.org

 1回目となる今回は、「ロボット掃除機の仕組み」についてお話を伺った。今後、全3回で「一番優秀なロボット掃除機は?」、「ロボット掃除機の未来について」も随時公開していく。

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現行のロボット掃除機は“昆虫型”と“SLAM型”

ルンバは、「行動規範型AI」という昆虫ロボットのようなタイプだという。写真は、iRobot(アイロボット)のCEO(最高経営責任者)のColin Angle氏(コリン・アングル)氏

――ロボット掃除機は、実際使っている人と使ってない人で認識の差に大きな違いがあります。使ったことのない人にとっては、未知のものというか。「ロボット」の部分があまりにも知られていないと思うんです。今回は、古田さんにロボット掃除機の仕組みをロボット工学の視点から教えてもらいたいと思っています。

古田 現行のロボット掃除機は大きく分けて2つのタイプがあります。主流なのは、サブサンプション・アーキテクチャ。「行動規範型AI」っていう昆虫ロボットのようなタイプですね。ルンバや日本の大手メーカーから出ている機種はこれになります。

――つまり春に発売されたパナソニックのルーロや、新作が出たばかりのシャープのココロボ、あと東芝のトルネオロボなんかもそのタイプですね。

古田 このタイプは条件反射だけで動く。とにかく動きまわって、ガンガンぶつかったり、ギリギリまで近づいたりして、障害物や壁を認識する。それを条件反射的によけ、また動きっていうのを繰り返してなんとなく大まかな地図を作っていくんです。簡単にいうと「昆虫」ですね。虫のような低知能の、動きまわるロボットです。

三角形を採用したパナソニックのルーロ
シャープのココロボ
東芝のトルネオロボ

――なんかそういうと身もふたもないですが(笑)。

古田 もちろんそれだけじゃなくって、その昆虫に、いかに効率よく掃除するかっていう戦略プログラムが入ってる。まずとりあえず動きまわって部屋の形を覚えていくんですね。距離と何回ターンしたかをつかんでいくんです。人間でいうと目をつぶって手探りで歩いてる感じかな。何歩進んで、あっ、このへんに障害物あったから、とりあえずこういうときは右に何度曲がりましょうって大体部屋の形把握しながら進んでるのと一緒ですね。あのへん、行ってないなーってそっちに行ってね。あっ、今、ゴミをいっぱい吸ったな。じゃあこの辺を集中的に吸ってみるかって。

――それが現在主流のロボット掃除機なんですね。

古田 で、もう一方は「SLAM」(Simultaneous Localization and Mapping:同時に位置確認と地図化)を使った機種。

――日本では昨年発売された米国のネイトロボティクス社のボットバックや、ドイツのフォアベルク社のコーボルトですね。どちらもアルファベットの「D」のような形と、上部に丸いレーザーがついているのが特長の機種です。

古田 この2つの機種はその「SLAM」という技術を使ってマップを作りながら自分の位置を特定する。ぶつかったり近づいてはじめて障害物を見つけるんじゃなくて、最初に、ばーっと周りを見渡すんですね。それで、あっ、そのへんになんかあるな。じゃあこう行って、こう行こうかなって、全体をちゃんと見たうえで地図を作ってから戦略を考えて動く。ロボットとしてみれば、手探りの昆虫タイプよりも効率がいい。

コーボルトジャパンの「コーボルト VR200」
米のロボット掃除機メーカーNeato Robotics Incの「ネイト Botvac」

――それはどのような仕組みで地図を作るんですか?

古田 レーザーSLAMを採用している。レーザーを発射して距離を測ってるんですね。レーザースキャナーは我々ロボット屋の中では一番確実で実用的といわれている高機能なセンサーです。ただレーザースキャナーはとにかく高額で、我々が使ってるものだと数百万円、安いものでも数十万円はする。

――ではなぜこの2機種はこんな低価格でレーザーを使えるんですか?

古田 我々が使うレーザースキャナーっていうのは数十本のレーザーが360度可動するんです。ミラーが動いて水平方向一気に全部スキャニングできる。だけどこの2つのロボット掃除機には、レーザーの発信機と受信機がそれぞれ一つしかない。レーザー自体は動かずに、本体が動くことによってスキャニングしてるんです。

――たしかに最初に動き出すときに、ぐるっと本体が回ってますね。

古田 まずそれで大まかにスキャニングしている。たった1本の距離レーザーセンサーだけで三点測量の原理で、ある程度部屋をマッピングしている。これは結構すごい技術だと思いますね。

――ではそうして最初に作った部屋の地図を元に走行してるんですか?

古田 そうですね。さらに動きながらもレーザーでマッピングは続けている。でもSLAMを使った機種も結局、その地図だけでは心もとないし、見えていない死角もあるから、グローバルに「全体を見る目」つまりSLAMの他に、ローカルに行き当たりばったりな動きにも対応する「近傍の目」が必要なんです。

ネイト Botvacは、ルンバなどのようにランダムな動き(左)ではなく、直線的で効率の良い動きをする

――地図があっても、行ってみて初めて気づくことがあるっていうか。

古田 そう。だから結局、他のセンサーもついている。両方なきゃいけないんですよ。それで「近傍の目」の部分は昆虫タイプと一緒なんですね。メーカーによってセンサーの違いはありますが、接触センサーや赤外線、あとは超音波センサーを使って感知してる。

 つまり、スタート時になにも情報がない状態で、動きまわりながら手探りで地図を作っていく「手探りで動くタイプ」と、最初にまわりを見渡して、おおまかな地図を作ってからスタートする「事前に地図を作成するタイプ」。現行のロボット掃除機は、ざっくり分けると、この2タイプになりますね。

ロボット掃除機はゴミを見えていない?

――でも、まわりが見えていない状態だとすると、ロボット掃除機はどのようにしてゴミを見つけてるんでしょうか。たとえば「手探りタイプ」の代表といえる、ルンバの動きを見ていると、ゴミを見つけると吸引力がアップして集中的に掃除する。まるでロボット掃除機がゴミを探し出しているように見えるんです。あれはどういう仕組みなんですか?

古田 ロボットと聞くと、カメラのようなセンサーでゴミを探してるように思ってる人も多いだろうけど、それは間違い。さっきも言ったように基本的に目が見えてないですからね。たとえばルンバだとマイクのような形の「音の周波数を感知するセンサー」がついている。音の周波数見てるんです。大きなゴミを吸うと、吸引するときの音が変わりますよね。たくさんごみあってザザザーって吸い出すと、おっ、このへんたくさんごみあるなって、ごみ処理集中モードに切り替わる。最新のルンバには他にもゴミの通り道に光センサーが入ってて、通過したら感知する。

ルンバ880の吸い込み口

――つまり、ゴミを吸ってからはじめて判別しているってことですか?

古田 そう。他のメーカーの機種も「集中モード」がある機種は同じようなセンサーが入っているはずです。それは、事前に地図を作成するタイプも一緒ですね。大まかな地図は作れても、ゴミまでは認識できないからね。

――その動きが、端から見ていると、まるでロボット掃除機が自分でゴミがある場所を見つけて、一生懸命吸いに行ってるように見えるわけですね。というか、私も今、この話を聞くまでそうなんだと思ってました(笑)。ちなみに掃除が終わったあとにホームベース(充電ドック)に戻るのは、どのような構造になってるんですか?

古田 いま、掃除機ロボットに使われている障害物検知センサーの主流は、赤外線センサー。赤外線っていうのは、要はテレビのリモコンに使われているやつ。つまり、このリモコンの赤外線発信機とテレビ側の受光機をワンセットに組み合わせたものが赤外線距離センサー。赤外線を発射して物体に反射して受光部にかえってくるまで、どれくらいの時間がかかるかで、おおまかな距離を見れる。反射させて、壁との距離を測るんですね。安いのでほとんどのロボット掃除機に搭載されているセンサーなんですけど、ホームベースに帰るときも、この赤外線を頼りに戻って来る。ホームベースから出てる赤外線をロボットが探すんです。灯台の光みたいなイメージですね。それを頼りに戻ってくるわけです。

――いま、赤外線センサーの話が出ましたけど、ロボット掃除機っていろんなセンサーを搭載していますよね。赤外線だったり、超音波だったり。いろんなタイプのセンサーを搭載することでどういったメリットがあるんですか?

古田 それぞれセンサーには弱点があるんです。たとえば、赤外線センサーは真っ黒いものに弱い。ルンバを筆頭に、ほとんどの機種は、落下防止用に赤外線センサーが本体裏に複数ついてるんですね。このセンサーで段差があるか、つまり床があるかないかを常時チェックしている。玄関の段差のふちまで来て本体前部がはみ出ると、「お、今進みかけている場所には床がないぞ!」と、赤外線センサーで感知するわけです。だけど、例えば玄関のふちのところに黒い革靴をずらっと並べたとします。すると黒っていうのは赤外線吸収しちゃって反射しないから認識できなくて、ロボット掃除機はそのまま落っこちます。反応できないんです。

 他にも超音波センサーは早めに障害物の存在がわかるけど、細くて丸い物に弱かったりと得意不得意があるんです。世の中100%の完璧なセンサーっていうのはない。だから複数のセンサーで補完しあうんですね。

――では、できるだけ多くの種類のセンサーを使用しているほうがいいんですね。

古田 それはそうですけど、上を見たらきりがない。つければつけるほど値段が上がりますからね。だから効率よくつけることが重要。たとえばコーボルトは、レーザースキャナーと超音波センサーを併用しているんですが、これはとてもうまい使い方ですね。レーザーはガラスに弱いけど超音波は強いからね。さらに万が一のためにバンパーに接触センサーもついてる。これは優秀ですね。こうして弱点を他のセンサーで補完し合うことで死角がなくなるんですね。

「コーボルト VR200」では、3つの超音波センサーを搭載。障害物への接触をほぼ防げるという

 第1回では、現行のロボット掃除機のタイプや特徴について、ロボット工学の視点から語ってもらった。第2回は、それを踏まえた上で、「結局、どのロボット掃除機がいいのか」を古田所長がわかりやすく紹介する! 来週の掲載をお楽しみに~。

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河上 拓