そこが知りたい家電の新技術

パナソニックの美容家電製品「Panasonic Beauty」の成功のワケ

by 阿部 夏子
パナソニックが9月より発売を開始した美容家電製品。2011年は4モデルを新たに発売した

 パナソニックは先日、自宅で本格的なフェイスケアができるスチーマーなどの美容家電製品を一斉に発表した。ラインナップは、6製品にも及び、自宅だけでなく、オフィスや外出先で使えるものまで、様々なタイプの製品が並ぶ。

 独自のナノケア技術を搭載した同社の美容家電製品は、20~30代で知らない人はいないという位の人気シリーズとなっている。自宅で、専用の機器を使って顔のケアをする「おうちエステ」という言葉が一般的になったのも、パナソニックの製品によるところが大きいだろう。

 しかし、美容家電製品は最初から市場に受け入れられたわけではない。人によって効果に差があること、効果を断言できないこともあって、なんとなくうさんくさいイメージがついていたのも確かだ。

 それが、ナショナルメーカーであるパナソニックが、確かな技術と共に、美容家電を取り扱うようになってから、イメージが随分と変わった。今や自宅で、スチーマーや美顔器を使うのは当たり前になり、大手家電量販店には専用スペースが設けられている。今回は、美容家電製品の位置をそこまで高めたパナソニックの戦略を追っていこう。

きっかけは「ナノケア」。女性に合ったマーケティングを

 

パナソニック 商品グループ ビューティー・ヘルスケア商品チーム 主事 山田詩織さん
 パナソニックの美容家電の歴史は古い。

 1980年に初めてスチーマーを発売。その後コンスタントに新製品を出し続けている。しかし、最初から順風満帆だったわけではない。今のようにタレントを呼んだ大々的な発表会をしたり、いくつものラインナップを揃えるようになったのは、ここ10年の話だ。

 入社当時から美容家電製品に関わるパナソニック 商品グループ ビューティー・ヘルスケア商品チーム 主事 山田詩織さんは、「一番のきっかけになったのは2004年に発売したスチーマー『ナノケア』でした。実感できる確かな技術が搭載されただけでなく、美顔器やスチーマーへの大きな不満点であった、値段やサイズといった問題も解消された画期的な製品だったのです。社内の女性の評判も良く、2005年からは同ジャンルの製品としては初めてテレビCMをするようになりました」と語る。

パナソニックでは1993年以降から美容家電製品を展開している

 パナソニックでは、1993年以降「エステジェンヌ」というブランドで、美容家電を展開していたが、従来よりスチームの粒子が大幅に小さくなった2004年の新製品移行、ブランドを「ナノケア」に変更。しかし、変わったのは製品だけではなかった。

 「従来の製品は、技術先行で、マーケティングや企画・開発も男性が行なっていました。それが、ナノケアからは、マーケティング担当が女性に変わったのです。それによって、製品のイメージも大きく変化。結果的には、それが良い方向につながったと思います」

 女性が担当者にになったことで、何が変わったのだろう。

 「女性が新しい製品を手に取る大きなきっかけとして、口コミがあります。特に美容関係の製品はその傾向が強い。そのため、まずはインターネットのコスメサイト『@コスメ』などの情報は常にチェックするようになりました。また、広告の掲載も美容雑誌など、これまでとは違った場所にするようになりました」

 その結果、ナノケアは@コスメの美容家電部門で連続1位を取るなど、さらに評判が広がった。

 「女性が欲しいのは、メーカー側からの情報じゃなくて、使った人のリアルな情報。ほかの家電製品とは売り方が違うんです」

女性の、女性だけのアイディアを活かした製品造り

就寝中に使用することで、肌や髪をケアする「ナイトスチーマー」

 パナソニックの美容家電製品群「Panasonic Beauty」は、2004年のスチーマー「ナノケア」以降、ドライヤー「ナノケア」など立て続けにヒット商品を出し続けた。

 そんな中、山田さんをはじめとするチームの女性陣はある目標があった。就寝中に使える製品を出すことだ。のちに「ナイトスチーマー」という名前で製品化されるこのアイディア。アイディア自体はかなり前からあったのだという。

 「毎日時間に追われた生活をしていると、気持ち的にも時間的にも余裕がなくて、スチーマーをやった方がいいのは分かっていても、できないことがある。そこで、以前からずっと、寝ている時間に使える製品を作ってくれという話はしていました」(山田詩織さん)

 しかし「就寝中にきれいになる」という夢のようなアイディアは、当初なかなか受け入れてもらえなかったという。その1つの理由に「従来のスチーマーと比べて効果が実感しにくい」というものがある。

 就寝中に使うという用途を考えると、スチーマーに搭載されているような複雑なプログラムを搭載するのは現実的ではない。しかし、効果がすぐに実感できるという「ナノケア」シリーズのイメージも維持したい。山田さんたちがこのアイディアに固執したのは、何よりも自分たちの要望が詰まっていたからだ。

 「就寝中にケアできるというのは、忙しい女性にとって夢のような話。でも、男性社員にはどうしてもその感覚が理解できなかったんです。そこで、パナソニックとしては初めてとなる女性だけのプロジェクトを結成したんです。プロジェクトでは、製品の企画はもちろん、量販店でのリサーチ、インターネットを通じた調査やグループインタビューまで全て女性が担当しました」(山田詩織さん)

 女性だけのプロジェクトを結成したことで、一番変わったのはどんなところだろう。

 「一番は、共感できるというところですね。男性に肌のケアの大切さを訴えても、根本のところでは理解できない。たとえば、これまで1つの製品の企画を通すためには、肌をこうすると、こう良い、だからこういうアプローチで、こういう使用シーンを想定して、というように1から10まで説明する必要があったんです。それが女性だけのチームとなると、10言わなくても分かってもらえる」(山田詩織さん)

 その後、女性だけで結成されたプロジェクトチームによってナイトスチーマーは製品化。就寝中に肌のケアができるという、これまでになかった発想で、製品は大ヒットとなった。一方、山田さんは、女性向けの美容家電だからこそ、この方式が当てはまったとも付け加える。

「本来ならば1つの製品を作り上げていくには、様々な視点が必要で、男性ならではの理論的な思考も重要です。実際、美容家電以外の製品チームの場合、男女バランス良く配置することが良い製品作りへのポイントになることがある。ナイトスチーマーのプロジェクトがうまくいったのは、あくまで女性の美に関わることだったからだと思います」(山田詩織さん)

毎週水曜のランチミーティングが成功のカギ

広報を担当する佐々木真弓さん

 ナイトスチーマーの成功以来、Panasonic Beautyの女性向け製品は、ほぼ全てを女性が担当するようになった。製品を企画、製作、さらに売り出していく上で、役にたったのは、毎週水曜日に行なっていたランチミーティングだったという。

 ランチミーティングでは、広報、宣伝、商品企画、マーケティングなどをそれぞれ担当するメンバーが集合し、各自の進捗状況やお互いの仕事内容について報告、それについてどう思うか、それぞれ意見を交わす。

 製品の広報を担当する佐々木真弓さんは、ランチミーティングを「それぞれの仕事の特徴を活かしながら、視野を広げていく良い機会。単なるミーティングではなく、凝り固まった頭をほぐせる場所」と表現する。それぞれが持ち寄った情報を吟味しながら、次の製品について、新製品を展開していくかを毎回話合っているという。

 実際、Panasonic Beautyはマーケティングやプロモーションもこれまでとは違った角度から展開している。たとえば、家電量販店での売り方だ。化粧品売り場のような雰囲気を出すために、コーナー全体をピンクに変更、さらに試してもらえるようなコーナーも提案していった。

販売促進企画を担当する石井由美さん

 販売促進企画を担当する石井由美さんは「特に反響が大きかったのはドライヤーの試用コーナーです。これまでは家電量販店でドライヤーを試すなんてことは考えられなかったですよね。でも、実際に試してもらうとすごく評判が良かったんです。ナノイードライヤーは効果がわかりやすく、たとえば髪の半分だけに1分間ナノイーを当てると、手触りが全く違います」

 店頭での反応を見て、それをまたランチミーティングに持ち帰る。こうして新たなアイディアが次々に生まれていったという。

量販店のディスプレイカラーをピンクに変更女性らしいイメージを全面に出すことで、女性が立ち寄りやすいコーナーを作ったドライヤーの試用コーナーを作ることで、ナノイーの効果をより伝えられるようになったという
コピーを担当している齊藤美和子さん

 また、Panasonic Beautyでは、昨年から「忙しいひとを、美しいひとへ」というコンセプトを掲げている。これも、自分たちの実感から生まれた言葉だという。

 コピーを担当している齊藤美和子さんは、「これまでの製品コピーは、『これを使うとこういいよ』と伝えるものが多かったんですが、Panasonic Beautyでは、機能を具体的に説明する前にますライフスタイルから考えてもらいたかった。『どういう人をどうできるのか』というのを考えて、忙しい人でもきれいになれるというメッセージが自然に出てきたんです」

 忙しく働く現代女性をターゲットとしたこのコンセプトは、実は自分たちに向けたものでもあったという。

 「ランチミーティングをしているメンバーはみんな忙しくて、議題は美容なのに、じゃあ自分たちはどうなの? という話になることも多かったんです」

 そこで出たアイディアが「Panasonic Beauty 美容部」によるFacebookの開設だった。そもそも、ランチミーティングのメンバー間では、情報を効率的に集めるために、各自の担当が決まっていた。たとえば、販売促進企画の石井さんはネイルと髪型、広報の佐々木さんは美白担当、さらにはお子さんがいる鳥山さんはママ目線での意見など。

  「でも、社内の人間だけでアイディアを出し続けるのには、やはり限界がありました。美容関係の仕事だけをしている訳ではないので、情報にも限りがあるし、同じメンバーで話合っているだけでは、考え方も偏ってきてしまう。Facebookを開設することで、もっとユーザーの身近な情報が得られる、さらに製品のことをもっと知ってもらえると考えたんです」(佐々木真弓さん)

 大ヒット美容製品を次々と生み出す“美容家電のプロ”の情報が得られるとあって、Facebookは好調に推移。さらに、新製品の発表会にもPanasonic Beauty 美容部が駆り出されることになった。

「仲間由紀恵さんと並んで挨拶するのは皆、抵抗がありました(笑)でも、毎日忙しく仕事をしている私たちが前に出ることで伝えられることもあるかなと思ったんです」(佐々木真弓さん)

美容部では、それぞれの担当が決められているネイルと髪型担当の石井さんの爪はしっかりケアされていた製品発表会では、「Panasonic Beauty 美容部」も製品をアピール

ターゲットは10~70代

 2011年の新製品では、これまでとは違うコンセプトの製品も追加されている。たとえば、「1人暮らしで部屋のスペースが限られている女性にも使ってもらえるように」と考えられた、花瓶のような形をしたスチーマーや、資生堂の化粧水とコラボレーションしたハンディミストなどだ。

化粧品メーカーの資生堂とコラボレーションした「ハンディミスト EH-SM30」中に資生堂の化粧水を入れて使うことで、外出先でも手軽に保湿ができるという20代前半の1人暮らしをターゲットとした「スチーマー EH-SA31」

 「Panasonic Beauty 美容部」では、これまで女性ならではの感性や柔軟性を活かして、次々にヒット商品を生み出してきた。今年の新製品の目指すところはどういった点だろう。

「年齢関係なく多くの人に使っていただくことです。最初はメインターゲットとして、20~30代をターゲットにしていましたが、製品を多くの方に知ってもらい、使っていただくうちに、実際には10~70代の人まで幅広い年代に使っていただいていることが分かりました。美容家電製品を特別なものとして捉えるのではなく、毎日使っていただけるものにするために、価格設定を下げたものや、操作が単純なものなど、ラインナップをさらに広げていきたいと思います」(山田詩織さん)





2011年10月17日 00:00