難波賢二のe-bikeアラウンド

気軽に乗ったら犯罪行為になることも。違法電動モペットの購入はやめよう

ずっと気になっていましたが、昨秋から警察庁も取り締まりを強化し始めたので、あらためて考えてみたいことがあります。今回は電動モペットの話です。モペットとはペダルが付いたオートバイの日本での通称です。自転車であるe-bikeとは異なり、スロットルで走れたり、法律で制限されている以上のスピードでアシストする電動モビリティのこと。街中で見かけた読者の方も多いでしょう。

この乗り物を表現するにあたって、警察も新聞もテレビも、電動アシスト自転車が悪者になってしまうような「違法電動アシスト自転車」という言葉を使わずに、「電動モペット」という単語を選んでくれたことは自転車業界としてはありがたい限りです。しかし、まず現実の大きな問題としては、電動モペットを買おうと思えばオンラインで1クリックで購入できます。

また、日本の法規制である24km/h以上のアシスト速度域が可能なe-bikeも売られています。大手メーカーのドライブユニットを搭載するモデルに、海外サイトで購入したデバイスを挟んだりすると、電動モペットに改造することもできてしまいます。

日本で展開する主要メーカーのドライブユニットは法規制を守り、しっかり型式認定も取得しています

電動モペットは「自転車」ではない

日本は法治国家で民主主義国家なので、憲法と法令に違反しない限りは個人の権利は広く保障されています。なので、自分が趣味として購入した自転車を改造して所有すること自体は犯罪行為でもありません。しかし、道路(公道)で走るとなると、まったく違う世界が待っています。

街中を見回すと、(筆者の印象でもありますが)特に東京・大阪の繁華街では、そのリスクを考えずにあまりにも気軽に電動モペットに乗りすぎてはいないか、と。これまで長く交通安全を考えながら自転車に乗って来た身としては、そう考えてしまいます。

違法にチューニングされたドライブユニットを搭載するe-bike。つまり、電動モペットにアシストされた状態で公道を走ることは、当然、法律上は自転車に乗っている人としては扱われません。その出力から原動機付自転車、原付バイクに乗っていることになります。これが意味するのは何でしょうか?

原付バイクを運転するのには運転免許が必要です。クルマを運転する人ならば誰でも知っていることでしょう。運転免許がなくてもご存じだと思います。ナンバープレートが装着されていない、それを取得するための保安装備が付いていない原付バイクに乗ることは犯罪行為。自賠責保険に加入していない原付バイクで公道を走るのも犯罪行為です。もちろん、ヘルメットも罰則付きの義務となっています。

昨年末に更新された警視庁のサイトより

「電動自転車」って自転車?バイク?

違法なアシスト&スピードの電動モペットに対しては警察が本格的に取り締まりを開始しており、当然、捕まるとそれなりの罰則を受けることになります。例えば免許を取得していない人が運転していたら、それは無免許運転となり、3年以下の懲役もしくは罰金刑の付く犯罪です。違反点数は25点。同時に自賠責保険の加入がないことを問われると、1年以下の懲役もしくは罰金刑と違反点数が6点。

これでも気軽に電動モペットで公道を走る気になれるでしょうか? 日本は犯罪に対して併合罪が適用される国なので、同時に複数の犯罪を問われると、それらの罰則が併合されてしっかり処罰されます。

裁判員裁判を経験。電動モペットでもしっかり裁かれることを実感

パッと見ても違いが分からないし、まともに取り締まるの? と考える人も少なからずいるかもしれません。考えたくはないですが、仮に違法な電動モペットを自転車感覚で乗って、歩行者とぶつかって相手が亡くなってしまった。そんな場合を考えてみましょう。

近年の痛ましい自動車事故の数々を受けて、日本では「危険運転致死傷罪」という犯罪ができたのはご存知のとおり。最長で懲役20年、加重で30年となる犯罪ですが、当初は「四輪以上の自動車」に限定されていました。それが2007年の法改正で「四輪以上の自動車」が外され、原動機付自転車を運転して人を死傷させた場合にも適用されるようになっています(※自転車の運転はこの犯罪を構成しないとされる)。赤信号無視も危険運転致死傷罪の構成要素となると知ったら、どうでしょう?

電動モペットの事故で危険運転致死傷罪なんて起こりえないでしょ? という意見もあるかもしれません。実は、筆者は昨年に裁判員制度で選ばれて、東京地方裁判所で裁判員裁判を経験しました。この経験から言うと、明確な犯罪行為があり、検察が起訴することを決めたら、裁判所は危険運転致死傷罪に対して裁判員裁判を開廷します。

「ほんの出来心で電動モペットに乗ってしまいました……」「電動モペットとは知らなかった……」なんて言い訳は通用するでしょうか? 当然、そんな身勝手な言い訳は聞き入れられずに、裁判で争われるのは、起こった出来事が真実かどうかのみとなります。そして、被告の有罪が決定後の懲役刑には情状酌量の余地はほとんどなく(実際の数字は裁判員として経験しておりますが、ここには書けません)、日本の司法制度で犯罪者が行なった犯罪行為の罪の大きさに対して応報の考え方で刑期が決められます。

なので、電動モペットだから罪が軽くなるということは考えられません。となると……ここまで読んでもそれでもあなたは違法の電動モペット買いますか? という話になります。

オシャレっぽいし知人に勧められたから。ペダルを踏まなくてよくて気軽だから。そんな理由で違法の電動モペットを買おうと思っていたなら、思いとどまってください。身近に乗っている人がいるなら、他人や自分の人生を破壊する前に、きちんと説明をして今すぐ止めてあげてください。

モペットに乗るならヘルメットなど法規制に従う。改造しないのは当たり前。日本の法規制に合わせて開発されたe-bikeなら、自転車としてもっと自由に走れる。といった選択肢を出してあげてはどうでしょうか? それでもペダルを踏むのが嫌だという人は、電動モペットよりも安く入手できるエンジン付きのスクーターという日本が誇る製品をオススメします。

そして、電動アシスト自転車に関しても「違法」となるモデルもあります。

平成29年度の交通局交通課による広報資料

平成29年度の交通局交通課による広報資料(PDF)

平成28年度の交通局交通課による広報資料(PDF)

では、一体どんな自転車を買うべきなのか? 何を買えばこの先安心してe-bikeを楽しめるのか? 次回はこの話についてご説明したいと思います。

難波賢二

国際派自転車ジャーナリスト 1979年生まれ。20年近く昔のe-bikeの黎明期よりその動向を取材してきた自転車ジャーナリスト。洋の東西を問わず自転車トレンド全般に詳しく世界の自転車業界に強いコネクションを持つ。MTBの始祖ゲイリー・フィッシャーの結婚式にアジアから唯一招待された人物として知られる。