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[ダウン症児と私61]私を楽にしてくれた、ダウン症児ママの詩との出会い

5年に及ぶユキトくんの子育てを紹介してきた連載も、最終回となりました。今回は、あるダウン症児のママが書いた詩「オランダへようこそ」のご紹介と、この詩に共感したナナさんの気持ちについて伺いました。これまで思い悩むことも多かった子育てに、寄り添い、心を支えてくれる詩に出会い、ナナさんは勇気付けられたそうです。

 

子育てに、少しだけゆとりが出てきたころに出会った詩

ユキトが生まれて3歳半くらいまでは、病院や訓練にほぼ毎日通い、将来の不安を抱えながら、とても慌ただしく過ごしていました。やっとホッとできるようになったのは、福祉の幼稚園に入園して、少しずつ柔らかい食事が食べられるようになった、年少のころです。

そして、いずれ通いたいと思う特別支援学校を見付けて見学したことで、「絶対に通いたい」というハッキリとした目標ができました。耳や心臓疾患の病院通いも一段落し、将来の見通しも立てられ、ようやく私も精神的に少し落ち着くことができるようになりました。ユキトが生まれて初めて、ゆとりをもつことができたのです。そしてそのころ、「オランダへようこそ」という詩に出会いました。

 

ドラマ「コウノドリ」で紹介された、ダウン症児のママの詩

私が「オランダへようこそ」という詩を知ったのは、2017年秋に放映されたドラマ「コウノドリ」第2シーズンのなかでした。この詩は、ダウン症児のママであり、障がいのある人々のことを知らせる活動を続けてきた米国人作家エミリー・パール・キングスレイさんが1987年に書いたものです。

内容は、「障がいのある子を育てるのってどんな感じ?」と聞かれたときに、障がい児を育てるというユニークな経験を、「楽しみにしていたイタリアに行くはずが、到着したのは思ってもみなかった国オランダだったというようなもの。ただ行き先が『違う場所』だっただけ」と、分かりやすく例えて書いた詩です。英語の原文は全米ダウン症協会で、日本語訳は日本ダウン症協会のWebページで紹介されています。

 

◇日本ダウン症協会「オランダへようこそ」
http://www.jdss.or.jp/tane2017/

 

強く心を揺さぶられ、何度読んでも涙があふれる詩

私はこの詩を初めて読んだとき、自分の気持ちとあまりにもぴったり重なって、心が強く揺さぶられ、締め付けられ、たくさん泣いてしまいました。初めて読んだときだけではありません。5回読んでも、10回読んでも、20回読んでも、そして今でも、どうしても涙があふれるように流れます。この詩にある、全ての言葉に共感しています。

例えば、「(期せずしてオランダに着いたあと)しばらくそこにいて、呼吸をととのえて、まわりを見渡してみると、オランダには風車があり、チューリップが咲き、レンブラントの絵画だってあることに気付くはず」とあります。私自身は、子育てが3年半すぎてやっと呼吸が整った感じでした。

 

心に痛みを感じてもいい、と思えるようになる

そして、1番共感し感動したのは、「(夢見ていた場所と違う場所に来てしまったという)心の痛みは決して、決して、消えることはありません。だって、失った夢はあまりに大きすぎるから」の部分でした。

私は、自分の子どもがダウン症と診断されたとき、ものすごく辛かったし、今も辛い気持ちはもちろんあります。でも、「ダウン症だから辛い」とか「障害があるから嫌だ」とは、絶対に言ってはいけないと思っているし、健常の子も障害のある子も同じように可愛いと思うので、心の中にその思いをしまって鍵を掛けて何年も頑張って子育てをしてきました。でも、この部分を読んで、「心の痛みがあることを言っていいんだ」「認めていいんだ」と思えるようになり、楽になったのです。

そうです。「心の痛みは決して、決して、消えることはありません。だって、失った夢はあまりに大きすぎるから」。

今も私は、ときどきこの詩を思い出し、「そろそろオランダ生活を楽しめるようになれるかな?なってもいいのかな?」と考えながら、ユキトの子育てを続けています。

 

 

 

 

ナナ

5歳のダウン症の息子「ユキト」と、3歳半の弟「マサト」のママの「ナナ」と申します。ダウン症の子どもを育てている様子や、母親の気持ちなどを率直にお話ししたいと思います。