老師オグチの家電カンフー

ワイヤレスの自由と信頼性、犬とキーボード

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
隣の家の犬にパンを与えるも、着弾地点失敗の図。悪いことをした……

40年ほど前の記憶です。小学校の給食で出る食パンが不味くてね、ほぼ毎日のように残していました。ランドセルに入れて持ち帰り、隣の家で飼っている犬に食べさせていました。隣の犬、散歩させてもらえないせいか、常にストレスフルでよく吠えられていたんですが、パンにはがっついてましたよ。Win-Winです。

当時は、防犯目的もあったのでしょう、一軒家であれば犬は外で飼うのが普通でした。たいていは庭に放し飼いか、鎖でつながれていました。隣の犬も鎖でつながれていたんですが、たまに放り込んだパンの距離が伸びず、手前に落ちることがありました。必死に届かないパンを食べようとしている様が笑えるやら申し訳ないやら。まあ、ひどいガキでしたね。

何が言いたいかというと、ひもにつながれるのは不自由って話です。人類の歴史は、束縛から自由になろうとする歴史。大きくは社会制度、デバイスでは、電話などの通信機器をはじめ家電も充電式になるなど、様々なデバイスがワイヤレス化してきました。ラクよねワイヤレス。というわけで、キーボードを先日ワイヤレスに変更しました。PFUの「HHKB Professional BT」なんですけど、HHKBシリーズの打鍵感云々みたいな話は、すでにたくさん書かれているので、興味ある方は他所で読んでください。

PFU「HHKB Professional BT」(下)と、これまで使用していた「HHKB Professional JP」。キー配列などはまったく同じ

キーボードが有線で何が不自由かわからない人もいるかもしれません。小さなことです。ディスプレイとキーボードの間に、紙の資料などを置くことが多いのですが、その状態だとキーボードを動かしにくい。

書類にペンで書き込むといった作業では、机の上にスペースを確保する必要がありますが、ケーブルの上に紙の資料などが積み重なっているのでキーボードが動かせない。1日の半分以上を机の前ですごしているので、チリツモでは大きなストレスです。

特にコロナ以降は食事や飲みもデスクトップが増えたので、ワイヤレス化によりキーボードが簡単に移動できるようになったメリットは大きいです(防水じゃないから飲食物をこぼすと大変だし)。Bluetooth接続なので、スマホやタブレットとの相性も良く、出張先に持って行くことも今後あるかもしれません。

USBケーブルの上に書類などが積まれた状態。キーボードが動かしづらくなっていた

懸念材料だった、接続性や遅延も今のところ問題ありません。ゲーマーじゃないし、こんな原稿をポチポチ書いてるだけですからね。自由の前提には信頼性が必要です。犬がつながれていたのも、人に噛み付いたり逃げたりするおそれがあったから。しつけが行き届くようになった、また室内で飼われるようになったので、そうした心配がなくなりつながれなくなったわけです。

家電もいずれ電源コードから解放されるようになるんでしょうが、安全面含めてどこまで信頼性を上げられるかがカギとなるでしょう。編集部との信頼関係を保とうと、最後で無理やり家電につなげてみました。

ケーブルがなくなったことで邪魔にならない場所へ簡単に移動できる。このような縦置きも可能
ワイヤレスにして唯一不満だったのは、30分間キー入力がないと自動的にオフになったこと。これは、ディップスイッチの6をオンにして省電力モードを切ることで解決できた

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>