老師オグチの家電カンフー

ドン・キホーテ「ケ●毛トリマー」とバラエティー家電

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 また下ネタかよ! と編集さん(女性)に嫌がられそうなので、タイトルを伏せ字にしましたが、実際の商品名が「押忍! ケツ毛トリマー」です。これまで、こんなふざけた名前の家電製品があったでしょうか。ちなみに日本語入力ソフトのATOKでは、変換候補に「ケツ毛」は出てきません。

 そんなATOKにも排除される“意識低い”ワードを冠した商品を売っているのが、ドン・キホーテです。今でこそ、全国に340店舗以上(MEGAドン・キホーテ含む)を展開し、老若男女が楽しめるお店として人気ですが、20年ぐらい前までは、客のヤンキー比率が高めで、駐車場には改造車が目立ち、店舗内では狭い通路で客同士肩がぶつかり、すぐにケンカが勃発しそうな緊張感がありました(ちょっと大げさに書いています)。

 2017年、5万4,800円の50V型4Kテレビでドン・キホーテの家電は一躍注目を集めます。現在では、全自動洗濯機や冷蔵庫、炊飯器といった白物家電から、ロボット掃除機、ドライブレコーダー、LEDシーリングライト、ヨーグルトメーカーなどもプライベートブランド「情熱価格PLUS」として取りそろえています。

 有名メーカーとのコラボ商品も多く、炊飯器やヨーグルトメーカー、LEDシーリングライトはアイリスオーヤマ、コーヒーメーカーはメリタ、ドライヤーはテスコムと組んで開発されています。その名前がふざけきった「押忍! ケツ毛トリマー」は、美容家電、調理家電の分野では有名な小泉成器とのコラボです。

店舗ディスプレイ。すごいPOPの数だが、店内全域にわたってこんな感じなので、探し出すのに苦労した
筆文字で書かれた商品名。イラストが、遠目に「葵のご紋」を思わせる。控えおろう! と堂々とレジに持っていった
パッケージ裏。裏側からしか中の商品が見えないのは画期的なパッケージじゃなかろうか
「男のケツ意 五ヶ条」社員の人はケツケツと笑いながら考えたんだろう

 「驚安の殿堂」を謳うドン・キホーテ。驚安(きょうやす)は同社が作った言葉で、「単なる安さを表す言葉ではなく、お客様をワクワク・ドキドキさせる楽しさに溢れた驚きの安さ」を表しているそう(同社ホームページより)。

 家電製品も、単に安いのではなく、バラエティー感を演出してきた。これは、家電業界全体に当てはまるトレンドかもしれません。ドウシシャやサンコーなど、必要性はそんなに高くないニッチ狙い、話題性のある製品を出すメーカーが目立ってきました。

 テレビのバラエティー番組のようなもので、必要性よりは楽しさ重視です。面白く時間を過ごせればいい。「押忍! ケツ毛トリマー」の価格は1,480円と、ネタとして買える範疇。そのネーミングも、お笑い芸人に必要な、恥じらいを捨てて突き抜けた感が出ています。スベるのを気にしていたら、ドンキの店内じゃまったく目立ちませんからね。

 さて、製品としての実用度はどうでしょう。「押忍! ケツ毛トリマー」には、カットする部位を確認するための鏡とLEDライトが搭載されています。なかなかのアイデア商品で、便利そうな気がします。しかし実際には、鏡の大きさや角度、刃の形状などが微妙で、簡単かつ安全にケツ毛をトリミングするのは、けっこうな修練が必要でしょう。すごく身体の柔らかい人にとっては実用的なのかもしれませんが。

 でも、バラエティー家電だと思えば、これで十分です。歴史や科学など、勉強の内容を取り扱ったバラエティー番組を見たところで、受験に合格するはずがないのと同じです。これをきっかけにムダ毛処理や勉強に興味を持てればOKというレベル。

 もっとも、意識低い系マーケティングで成功した(と個人的には考えている)ドン・キホーテだけに、今後もぜひこの方向に突き進んでいただきたいです。

本体
部位を確認するための鏡とLEDライトを備える。刃は本体から取り外せば水洗いが可能
使用方法。難易度高いと思うのだが、男らしさが足りないのだろうか……。ワキなどのムダ毛処理には普通に使えます
電源は単4形アルカリ乾電池1本(別売)
取扱説明書と掃除用ブラシ

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>