老師オグチの家電カンフー

マンションポエムっぽいフレーズを家電に付けてみた

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 衝動が抑えられなかった。

 まるで犯罪者の供述ですが、寝起きに「マンションポエムを家電に適用したらどうなるんだろう」という
考えが浮かび、ずっと作業に没頭してしまいました。

 マンションポエム、ご存じですか? 主に分譲マンションに広告に見られる「静謐の○○(地名)に住まう」「名邸の高みへ」みたいな、やたら仰々しいコピーです。どんな意識高い系が書いてんだよと思いますが、マンションって製品そのものの機能には大きな差がなく、立地や周囲の環境で買うものなので、ああいった表現が好まれるのでしょう。

 家電の場合、まだ機能や性能が売りになるカテゴリーではありますが、ポエム表現だとどう見えるかの実験です。ま、他にいいネタも思いつかなかったし。写真素材は「ぱくたそ」さんからご提供いただきました。

マンションポエムにありがちな当て字と普段使わないような漢字。長いと中国語や暴走族の名前っぽくなるのが難点ですね
問いかけるようなフレーズもマンションポエムっぽくなります。「最善か、無か」みたいな。しかし詩的表現もApple製品だとあまり違和感がないですね
マンションの広告には自然の写真が多く使われます。生活環境の良さのアピールですな。また、高い買い物なので、高級感を押し出した言葉も頻出します。
写真に生活感があると、とたんにポエムとして違和感が出てしまう
自分で書いていて、だんだん目眩がしてきました。思考を正常じゃない状態にして「買いたい」と思わせるのがマンションポエムの効用なのかもしれません
意味深げな言葉を入れると、知的な層に刺さりそうな気がします。「多くを問う者は多くを学ぶ」はイギリスの諺。ちなみにAmazon Echoにこのフレーズを聞かせたところ、「すみません、よくわかりませn」と返されました。学んで
音楽などアート系の言葉もマンションポエムには使われがちです。C調なんて言葉、サザンの曲でしか聞いたことないですが、音楽用語のC調(ハ長調)が陽気であり、逆に読むと調子(ちょうし)となることから、「調子のいい人」を指す言葉になったそうです。USBのType-Cも充電やデータ転送の調子がよい規格です
レンズ沼に住まう。一応説明しておくと、一眼レフカメラなどの交換レンズを次々と購入してしまう、沼にはまり込んだような状態を挿して使う言葉です。この企画、泥沼にはまり込んでやしませんかね……

 以上、いずれも本職のコピーライターに殴りかかられそうなレベルですが、家電製品とポエムの相性はあまり良くないことが実感できました。しかしカテゴリーによって、たとえば空気清浄機やエアコンといった環境を改善する空調家電では「あり」かもしれません。

 空気清浄機はインテリアにマッチするデザインが重視された製品が多いですし、エアコンも「霧ヶ峰」(三菱電機)や、かつての「楽園」(ナショナル)など、マンション広告のように土地のイメージや幸福感をイメージさせる名前が付けられています。

 ポエムはともかく、今住んでるマンションが狭すぎるので引っ越したいです。

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>