老師オグチの家電カンフー

電子工作のはんだ付けにはヒーリング効果があります

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 ゴールデンウィーク、NHK風に言うなら春の大型連休が終わりました。とくに外出の用事もなく普通に仕事をしていたのですが、少しは趣味的なことをしたく、電子工作をしました。

 小学生の頃は、トランジスターラジオなどを作っていましたが、本格的に“はんだごて”を握るのは30年以上ぶりです。

 購入したのは、デジタル時計のキット。今や液晶ディスプレイなどが氾濫していますが、昔デジタルといえば、7つのLEDを組み合わせて数字を表示する「7セグメントディスプレイ」で、イケてるデバイスにはこれが使われていたんですよ。

 パーツを机に並べて、さあ作るぞと意気込んだのですが、いきなりトラブルが発生します。はんだごてを何十分加熱しても、はんだが溶けないのです。まさか、はんだに消費期限があるとは思えないので、十分に加熱されていないのではと、新しいはんだごてをホームセンターに買いに行きました。

 1,000円ちょいとはいえ、使用頻度の低いものに出費するのは痛いなと思っていたら、良い製品を見つけました。はんだごてとしても使えるホットナイフ(ヒートカッター)です。プラスチックや塩化ビニール、アクリル、発泡スチロールなどを、加熱した刃で切る工具で、各種工作などに用いられています。

 しかし、日常的に役立ちそうなのは、工具やパソコン周辺機器などに多い、固く透明な樹脂で覆われたパッケージ(ブリスターパッケージというらしいです)を開封する際です。ハサミでは固すぎて切りづらく、カッターは勢い余って中の商品を傷つけてしまいそうで恐い、アレを切るのに便利そうです。

セラーテクノン「秒表示付きDIYデジタルクロック」(Amazonにて1,220円で購入)
部品がなくならないよう、とりあえずお皿に入れる
基板の表裏。幼い頃のハイテクへの憧れが思い起こされます。基板萌えってやつです
太陽電気産業「ホットナイフ」(近所のホームセンターにて1,380円で購入)。こて先を交換でき、はんだごてとホットナイフの両方で使える

 閑話休題。はんだ付け作業に入ります。基板と部品の足を3秒ぐらい加熱、はんだを押し当てる。溶けたら、はんだを離し、こてを離す、とこんな手順です。

 否が応でも集中力が求められます。はんだが溶けた瞬間、指先にその感覚が伝わり、独特のニオイが発生する。それを繰り返していくと、さらに集中力が増してきて、はんだがキレイに付く確率が上がってくる。写経や瞑想のような無心になれる、ヒーリング効果がありますよ、はんだ付けには! 癒やされたい女子もやったらいいと思います。

 考えてみれば、基板って見た目が仏教のマンダラみたいですよね。トランジスターは如来ですかね。大仏などの仏像には金や銅、鉛、すずが使われますが、電子回路もまさにこういった成分で構成されています。電子回路がハードウェアとしての仏像なら、そこに載せられるソフトウェアはお経でしょうか。日本や中国で電子産業が発展したのも、東洋思想が関係しているのかもしれません。小学生にプログラミングを教えるのもいいけど、はんだ付けも必修にしたらいいんじゃないか……などの妄想も交えながら、ようやくすべての部品を付け終えました。

 ドキドキしながら電池を接続すると、パッとLEDが点灯。しかし、LEDの一部が点灯しない。しかも、時間の1ケタ目なので時計としては致命的。おかしいなぁ、はんだはちゃんと付いてるんだが……。そんな「チーーーン!」な結末でしたが、自分で作ってみると、製品の初期不良にも少しは寛容になれる気がしました。合掌。

老眼なので作業にはハズキルーペが欠かせません(笑)
トランジスターの型番が小さすぎて見えなーい! 抵抗のカラーコードも色味が微妙すぎて肉眼では判別不可能
スマホで撮影して拡大。抵抗のカラーコードを入力すると数値がわかるWebページがあって、これも便利
トランジスターをはんだ付け。ちゃんとはんだ付けされたかを確認するのにもスマホが便利
完成(9Vの電池と配線は別売り)。あれ、時間表示の1ケタ目が表示されていない!?

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>