やじうまミニレビュー

エンジニア「ネジザウルス PZ-55」

~錆びたりネジ頭が潰れたネジでも外せるスーパー工具
by 藤山 哲人


やじうまミニレビューは、生活雑貨やちょっとした便利なグッズなど幅広いジャンルの製品を紹介するコーナーです


エンジニア「ネジザウルス PZ-55」。他にも太いネジ用のネジザウルスXP、精密機器などの小さいネジ用のネジザウルスM2、電線の切断もできるネジザウルスGTがある

 おそらくこの工具を始めて使った人は「何でこんな工具がもっと早く製品化されなかったんだ! 」とプロ・アマ問わず声を上げるだろう。それが今回紹介するエンジニアの「ネジザウルス PZ-55」だ。

 今回は冒頭から結論を言ってしまおう。プロ・アマ問わず工事・工作をする人は、今すぐネジザウルスを買うべきだ!

 


メーカーエンジニア
製品名ネジザウルス PZ-55
購入場所Amazon.co.jp
購入価格1,821円

 

 ネジザウルスは、ネジ止めしている金属と一体化するほど錆びてしまったネジや、ネジ頭の溝をドライバで削ってしまい(これを「ネジをなめる」と言う)ドライバが引っかからなくなったネジ、分解防止やいたずら防止の特殊ネジまで、コレ1本で外せてしまう工具なのだ。

 実売価格は2,000円前後。外見は、ボルトやナットを回せる「プライヤ」と呼ばれる工具と変わらない。

おもに車やバイクの修理などで使われる、大きなボルト用のプライヤ。屋外に長いこと晒されサビで本体と一体化してしまったネジ。ドライバで外そうとしたらネジをなめてしまって、もうお手上げだパソコンのネジは粗悪品(中には柔らかいアルミ製の場合も!)が多く、ネジをなめてしまい易い
ネジ類はサビ安い「ユニクロ」で、ベースの金属と一体化するほど錆びている

 まずはどのぐらい凄いのかを見てもらうために「コレ絶対ネジ外れないだろ? 」というものからお見せしよう。それは、いつか捨てようと思って、10年近く外に放置してあったVTRだ。

 ベースの金属とネジが一体化するほど錆びている。しかも屋内用の機器なので、ネジ類はサビやすい「ユニクロ」と呼ばれるタイプ。サビにくいステンレスネジだったら、まだ外せる希望の光もあるが、ユニクロは絶望的だ。

 この錆び切ったネジをまずはドライバーでネジを外してみたのが、次の動画だ。ここまで錆びていなかったならば、あらかじめネジと金属の間に「クレ556」などのマシン油を染み込ませてからネジを回すという手もあるが、まったく歯が立たなかった。

詳しい人が見ると「案の定」という結果。ネジ頭が錆びているので、ドライバで大きな力をかけるとネジをなめてしまって2度とはずすことができなくなる

 さて、ネジ頭をなめてしまったら、もうドライバーは使えない。そこで登場するのがプライヤやペンチだ。これでネジを咥えて外そうという魂胆だが、今回の錆びたVTRは、ニッパでも歯が立たなかった。ニッパを使うとプライヤよりネジをしっかり噛めるが、ニッパは柔らかい銅線を切るための道具なので、刃はダメになってしまう。

プライヤはおもに自動車の修理などに使うもの。溝の切ってある部分ではネジを噛めず、先端で噛もうとすると滑ってしまう

 ここまでやっても外せない場合、最終兵器はドリル。こうなるとネジを外すというより、ネジ頭をぶっ壊すというアプローチだ。

ネジ頭は比較的簡単に(それでも1本10分以上)取れるが、奥に入っているネジ本体をドリルで削り取るのは、さらに手間がかかる上、ドリル刃をまっすぐ入れていかなければならないので、精神的にも疲労困ぱいする

 ネジ頭をなめてしまうと、どれだけ大変かが普段工作をしない人にも分かっていただけただろう。エンジニアの多くは、ネジを舐めてしまうと「うぉ~~~~っ! やっちまったーっ! 」と絶叫するものなのだ。

これを見たら欲しくなるネジザウルスの衝撃シーン

 そんなときの救世主がネジザウルス。ネジ頭をなめてしまってもノープロプレム! いままで苦労してドリルを使っていたのがバカらしくなるぐらいだ。


ネジザウルスならガッチリネジ頭に食いつくので、いともカンタンにさび付いて密着したネジも外せる

 ネジザウルス最大の特徴は、縦に持ってもネジをガッチリ咥える点。プライヤやペンチでは横向きに持たないとネジを咥えられない。ネジザウルスなら、ハードディスクなどでよく使われる分解防止ネジや、凹みに入っているような部分のネジでも外せる。

ネジザウルスの先端は、絞り込まれた形状になっているので、凹みに入ったネジもガッチリ咥えられる
グリップでネジを咥える力が5、回す力が5という感じでググッと回せば、ネジが少し緩む。あとは咥える力を減らしてネジを回すだけ特殊ドライバでないと外せないようなネジでも、ネジザウルス1つあれば外せる。プライヤだと分解はムリ

ネジザウルスの単純だけど凄い秘密

 ネジザウルスの最大の特徴は、先端部の溝だ。同じようにボルトやナットを回すプライヤに比べ、溝はかなり尖っている。そしてこの溝、単純に切ってあるだけでなく、緩やかなカーブを描いており、丸いネジ頭にガッチリ噛み付くようになっている。

ネジザウルスの大きい溝は、三角の頂点がかなり鋭利になっている。先端構造も様々な工夫が施されていて、各国でパテントも取得している。2012年4月には文部科学大臣表彰(技術部門)を受賞するほかグッドデザイン賞や、数々の発明賞を受賞していて、既存の工具とは一味違うプライヤの溝は、山に若干丸みがある
 噛めるネジの太さはM16(直径 16mm)のナットほどだが、太すぎるとグリップが大きく開いてしまうので、回す力をかけられない。そのため実用的な範囲は、組み立て家具などで使われる M6~M8(直径6~8mmのネジ)位が限度だろう。
ネジザウルスの場合、M6のボルトなら横向きで回すといい。メーカー公表値ではM5までとなっているが、もう一息、上までイケる感じだプライヤは、M8の鍋ネジ(ネジ頭が鍋を逆さまにした形をしているもの)程度なら回せそうだ。ただし錆びているとかなりキツイかも?
 もう1つプライヤと違う点は、 先端部の溝が縦向きで、狭い隙間でもネジが回せることだ。これは最大M4程度の細いネジ用。微妙にカーブを描いているので、丸いネジ頭を数点の溝で噛めるように工夫されている。
ネジザウルスの先端には、縦にも溝が切ってあるので縦に使ってもネジにしっかり噛み付く。しかも緩やかなカーブを描いているので、複数の溝がネジに食いつくのだプライヤの先端は、横に溝が切ってあるので縦にして使うと、ネジがスベってしまう一般的なネジなら、ネジザウルスの硬い溝がしっかり噛み付くので、ネジには歯型が残るほど。ただし強度を高めた(焼き入れ)したような特殊なネジだと、歯がネジに入らずスベる場合も稀にある

 なかなか外れない硬いネジは、横方向にして回すといいだろう。ただしネジ頭を強力に噛むので、腐食の進んだネジだと、文字通り頭だけをねじ切ってしまうかも知れない。

ネジザウルスは、先端部にも細かい溝があるので、小さいネジでも回す力が必要な場合は横向きに使うといいネジザウルスは、組み立て家具などでよく使われるM4~M6程度のボルトならスパナ代わりにも使える
 さらにネジでだけでなく、M4~M8程度のボルトやナットもガッチリ咥えられるので、スパナやモンキーレンチ替わりとしても使える。

 特に便利に使えるのは、パソコン用やカメラの三脚などのネジだろう。これらで使われているネジは、国内で使われている“ミリ”規準ではなく“インチ”規準のネジとなっている。そのためインチネジの6角のナットをミリ規格のスパナで回そうとすると、ガタつきボルトやナットの角をなめてしまうことがあったのだ。

国内ではインチネジ用のスパナがなかなか手に入らないので、ミリ規格で代用しようとすると、これだけグラつくネジザウルスを使うとインチネジも、ミリネジも関係なくガッチリ噛んで回せるので便利

 なお、ネジザウルスの素材は、通常のペンチより硬い炭素鋼を使い、刃先も包丁なみに硬くする処理が施されている。本体にはS58Cという炭素鋼を採用。これはいわゆる“鋼(はがね)”で、鉄に炭素を0.58%程度混ぜた硬い鉄だ。車のギアやエンジンの回転を伝えるシャフトといった、強度の必要な部分で使われている。安い工具だと、グリップをギュッ! と握るとグリップ全体がしなるものがあるが、それは炭素の量が少ない柔らかいな鋼を使っているため。

 さらにネジザウルスの刃の硬さも、鋼製の包丁並みの硬さがあるので、咥えたネジにガッチリ食いつくのだ。

 一方で、硬い鋼は柔軟性がないので欠け易いという性質がある。そこで、落としてしまった時に欠ける心配がないか、念のためメーカーに問い合わせてみた。担当さん曰く「鍛造後の全身焼入れ後、適切な焼き戻しを行なった上で先端のみ高周波焼入れを行なっていますので、適切な靭性も兼ね備えています」ということだ。つまり普通に使っている分にはまず欠ける心配はない。

 また錆びついたネジを扱うので、ネジザウルスが錆びないかを聞いたところ「先端内面の黒い金属部分は熱処理時に発生する酸化被膜で覆われていますので、比較的錆には強くなっています」ということだ。ただ末永く使うには「使用後はマシン油などを染みこませた布などで拭くといい」とアドバイスをもらった。

一般的なネジなら何でも外せる。でも弱点は皿ネジ

 ネジには木ネジやタッピングネジ、皿ネジや鍋ネジ、インチネジにトラスネジなどさまざまな種類(これらについては後述)がある。しかもそれぞれにサイズがたくさんあるので、スペシャルな実験装置を作って、ネジサウルスがどれだけ万能かをテストしてみた。

ネジの頭が鍋の形をした鉄(ユニクロ)製のM3ネジは楽勝六角穴のM3ネジも楽勝トラスネジと呼ばれる鍋ネジよりネジ頭の高さがないネジは、噛み付ける部分がわずかだが、ネジザウルスは難なく外してくれた
ネジ頭がお皿の形をした皿ネジは、0.3mmほど出っ張っていれば食いつく。右の写真はトラスネジとの出っ張りの違いだが、こんな厳しい状況でも食いつくのは凄い段差がまったくない皿ネジは、さすがに掴むことができなかった
鉄より硬いステンレス製のM2鍋ネジでも噛み付く。ネジザウルスは、さらに1段小さいM1.6から対応しているステンレス製のM2皿ネジも0.3mmの段差があれば外せる小物などで使われる組ネジ(ステンレス製)もトラスネジなみに、引っかかりが少ないが外せた
これも小物などで使われる、皿ネジ用のワッシャーだが、いくら強く握ってもワッシャーが回るだけで外せずパソコンでよく使われる、ワッシャーとネジが一体化したネジも余裕で外せる

 このようにネジザウルスは、ほとんどのネジやボルトを外せるが、皿ネジは少し苦手だ。ただ皿ネジでも段差が0.3mmあれば刃先が食いつくので、8~9割は外せると言っていいだろう。また今回のテストでは金属を使ったが、木材用のネジでも同じ結果となる。ただし木材は削りやすいので、皿ネジの場合は回りを少し削り段差を作ってやれば、多くの皿ネジも外せるだろう。

外せなかったネジは、段差のない皿ネジだけ。ほかはすべて外せた

工作好きと自作パソコンユーザーは必携!

 これまでになかった革新的なネジザウルスを使ってみたが、その凄さを記事からビンビン感じてもらえただろう。個人的には「一家に1つ揃えたいアイテム」と言いたいところだが、さらにお勧めしたい人を絞って記事を終えることにしよう。

・これからプライヤを買おうと思っている人
 ネジザウルスは、プライヤの機能をほぼカバーしている。今回紹介したネジザウルス(PZ-55)は切断機能がないが、ネジザウルスGT(PZ-58)であれば、完全にプライヤ代わりに使える。もしプライヤをこれから買おうと思っている人は、ネジザウルスをまず買った方がいい。

ホースクリップの取り付けにも便利。先端の溝が縦横に入っているので、プライヤよりしっかりクリップをグリップできるのだグリップ側にも溝が切ってあるので、針金を曲げるのにも便利

 ネジから外れてしまうが、先端の溝が縦横に入っているので、ホースクリップなどのグリップもプライヤより格段に上だ。さらにグリップ側には溝が切られた部分があるので、針金などを曲げるのにも便利。硬い針金ハンガーで試してみたが、使い勝手はプライヤと変わらなかった。

・工作が趣味・仕事という人は必携アイテム
 金属やアクリル、木材問わず、工作が趣味や仕事という場合は、イザというときにぜひ揃えたい。とくに屋外で使うものは、ネジも錆びやすく、たとえ錆びにくいステンレス製のネジを使っていても、カチカチに密着してしまう場合がある。また冬場は金属などが収縮するので、ネジを外しにくい。こんなときは、ドライバーより力が入るネジザウルスがお勧めだ。

・自作パソコンユーザーも必携アイテム
 粗悪なネジが多いパソコンに添付されているネジは、なめやすくインチとミリネジが混在している。しかしネジザウルスがあれば、問題は一挙解決。わざわざインチの工具を買う必要もなく、また特殊ネジ用のドライバーも買う必要がなくなる。ベストな使い方としては、とりあえずドライバーで借り止めしてネジザウスで増し締めしたり、その逆でネジを外せば粗悪ネジでもなめてしまうことが少なくなるだろう。

 ネジ頭をなめてから慌てて購入してもかまわないし、イザというときに備えておくのもかまわない。ただ1つ共通して言えるのは、「この工具スゲーじゃん! 」と実感できることだ。いや、マジで……。





2012年 6月 14日   00:00