インタビュー
ダイソンのトップエンジニアに聞く「air multiplier」の魅力
ダイソン インダストリアルデザインディレクター アレックス・ノックス氏 |
羽根のない扇風機として話題を注目を集めているダイソンの「air multiplier(エアマルチプライアー)」。7月より「AM02 タワーファン」と「AM03 フロアーファン」の2機種が加わってラインナップが強化された。独自の機構を搭載したことで実現した斬新なデザインが注目を浴びることが多い製品だが、実は100件以上の特許を申請中という技術の塊のような製品だ。
今回、新製品の発売を機に来日した、インダストリアルデザインディレクター アレックス・ノックス氏にair multiplierについてインタビューする機会を得た。
アレックス・ノックス氏は、現在ダイソン・マレーシアで研究開発と設計の責任者を務めている。ダイソン創立時から事業に関わる同社の中枢人物の一人だ。
■ラインナップ拡大は当初から予定していたこと
air multiplierの新たなラインナップとして加わった「フロアファン」(手前)と「タワーファン」(奥) |
――今回新たに形やサイズの異なる製品を発売されましたが、ラインナップを増やすことは当初から予定していたことなのですか? あるいは、製品が好調なことを受けて新たに開発を進めたのでしょうか。
エアーマルチプライヤーを最初に発売したのは昨年の10月(アメリカにおいて)ですが、発売前から次の製品の開発を進めていました。ただし、最初の製品において技術の完成度が高く、事前のユーザーテストにおいても高評価をいただいたことが、ラインナップを広げるための開発につながっています。
また、最初の製品は卓上用のものでしたが、扇風機の需要や使用シーンを考えると、卓上用以外のモデルも必ず需要が出るだろうと考えました。ただ、新しい製品の開発に当たっては、サイズを大きくすればいいというわけではなくて技術面をもう一度やり直さなければなりませんでした。今回発売した2モデルについては、開発に16カ月かかっています。
air multiplierの最初のモデル。卓上用で、直径30cmと25cmの2モデルを展開している | 「AM03 フロアーファン」は、ラインナップ中、もっとも風量が多いモデル。高さは最大1,408mmまで伸ばすことができ、広い部屋での使用に向く | 「AM02 タワーファン」は、限られたスペースにも設置できる省スペース設計のモデル |
プレス向けの製品発表会では、ノックス氏自らが製品のプレゼンを行なった |
――掃除機も扇風機も風にまつわる機器ですが、ダイソンでは風にまつわる技術に強みや関心があるのでしょうか。
我々が扱っている製品は、考え方や技術面で全てつながっていると考えています。1つの技術を追求していきますと、ほかの関連するアイディアもどんどん出てきます。エアーマルチプライヤーの技術を思いついたのは、ハンドドライヤーの開発中でした。
ハンドドライヤーは、強力な風を作りだし、手の水分を飛ばします。その開発中に、あるエンジニアが、高速の空気が流れる時にその周りの空気も一緒に巻き込まれるという現象に気付いたのです。この現象をうまく利用してファンを作れるのではないかと考えたのが、そもそものきっかけになっています。
――日本の家電製品というのは、独自の住宅事情もあって静音性を非常に重要視する傾向があります。エアーマルチプライヤーにおいて、静音性で工夫したところがあったら教えてください。
私たちの開発チームには、音響エンジニアがいます。開発プロセスにおいて、初期段階から音響エンジニアと共同で作業をすすめ、デザインや機能を変えるたびに静音性について確認していきます。常にできるだけ、音を静かにすることを心がけています。
エアーマルチプライヤーにおいては、音を考慮するため、モーターの場所や、固定方法、風路に工夫を凝らしています。モーターのカバーや、部品の仕様などすべてのディティールすべてにおいて清音性に配慮しています。
■デザインと技術の間に垣根はない
羽根のない独特のデザインが注目を集めたエアーマルチプライヤーだが、ノックス氏によるとデザインは技術の結果であって目標ではないという |
我々は、最初はデザインについて全く考えません。デザインは結果であって、目標ではありません。
どんな製品においても、まずは機能が第一優先です。そのため、最初の試作品の外観は、完成品とは程遠い物ばかりです。ただし、試作品の時点でも機能については重要視しています。我々にとって一番重要なのは、目指している機能を実現できるかという点です。
機能を改良していくことで辿り着く形が我々にとってのデザインなのです。
――カラーリングについてはどうですか。
カラーについては、技術をうまく表す、伝えられるような色を目指しています。エアマルチプライアーであれば、居住空間の中にうまく溶け込むような色を心がけました。
――ダイソンでは、技術者視点の製品造りやマーケティングがとてもユニークです。そのような社風は製品開発にも関わっているのでしょうか。
各メーカーそれぞれ色々な開発の方法があると思いますが、我々が製品開発を進めるうえで、一番重要視しているのは、今ある製品の問題点を解決することです。ほかのメーカーとは違ったアプローチ、違う観点に目を向けるように心がけています。
我々の製品はよくデザインについて聞かれることが多いのですが、製品を作る時には、デザインのことは考えもしません。それよりも技術的な問題をどうやって解決するかというのを何よりも重要と考えています。我々はデザインとエンジニアに垣根はないと考えています。そのため、デザインチーム、エンジニアチームといった区別は一切ありません。
私たちにとってはすべてが一緒です。極端な話、一人の人がデザインも技術も両方担当している。これが、私たちのものづくりです。
もちろんです。すべての製品の統括を彼がしています。ジェームスは今でも、ダイソンのチーフエンジニアなのです。最初のアイディアの状態から、製品が出来上がるまでプロセスのすべてに関わっています。
――本日はありがとうございました。
2010年7月6日 00:00