藤本健のソーラーリポート
なぜ8万円で太陽光発電システムが導入できるのか?
「DMMソーラー」の秘密に迫る
「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
2月15日、通販サイトのDMM.comから家庭用の太陽光発電システムの設置に関する非常にユニークなサービス「DMMソーラー」の発表があった。一言でいえば、設置するのに100万円、200万円がかかる太陽光発電システムを、わずか8万円で導入できる、というサービスだ。
しかし、この極端な価格設定に「本当なのだろうか?」という疑問もいろいろと沸いてくる。先日、募集開始から1カ月半で2,500件の申し込みがあったというリリースもあったが、このDMMソーラーというサービスは、いったいどんなカラクリになっているのか。ユーザーにとってリスクや落とし穴などはないのか。
そこで、DMMソーラーの責任者である、DMM.com エナジー事業長、福井雄造氏をインタビューした。
■なぜ宅配レンタル会社のDMMがソーラー事業をはじめるのか
――DMMソーラーの前に、まずは「DMM.com」という会社のことからおうかがいします。DMMはテレビのCMなどでもよく見かけますが、そもそもDMM.comとはどんな会社であり、なぜ太陽光のビジネスを手がけることになったのでしょうか?
DMM.com 福井雄造 エナジー事業長 |
弊社はもともとレンタルビデオチェーンから始まりました。その後、多角的な経営展開を行ない、現在はデジタルコンテンツの配信と、DVDやCDなどパッケージメディアの販売、そしてFX(外国為替証拠金取引)が3つの大きな事業の柱となっております。
なぜ太陽光ビジネスを始めたかといいますと、昨年の3月11日の震災以降、当社でも一企業として何か社会に貢献することはないだろうかと、検討を始めました。震災においては、エネルギー問題について非常に考えさせられました。そこで、みんながエネルギーに取り組めるような仕組みを作れないだろうかと考えたのです。
DMM.comはITを中心としたビジネス展開を行なっていますが、それならばITというツールを利用しつつ、いかに仕組みを作りあげるかが、当社のできる一番重要な役割だろうと考えました。
――確かに震災をきっかけに、多くの人がエネルギーに関心を持つようになりました。とはいえ、まったく違う業態の会社が、突然、太陽光発電といっても、少し唐突な感じもしますが……
確かに、従来の事業の延長線上にあるビジネスではないので、不思議に思われる方もいらっしゃると思います。実際、今回の件に関しては、当初、私一人でリサーチを行なっていました。約1カ月半をかけて世界8カ国を回りながら環境、エネルギーに関するビジネスモデルをリサーチし、自分なりに吸収しました。この経験から、日本のマーケットに対してどんなことをすればビジネスに繋げられるか、という絵を描き出したのです。
■本当はタダで提供したかった? 初期投資額“8万円”の理由
――そのリサーチを元に、DMMソーラーの仕組みが生まれたのですね
はい。世界だけでなく、もちろん国内でも調査をしました。震災以降の日本では、多くの人が太陽光発電に関心を示すようになり、非常に有望なエネルギーだと考える人が多いものの、どうしても(初期投資額が)高いというのがネックになっているようです。
実際に、太陽光発電システムを導入している人に対してインタビューを行いましたが「いつ投資資金を回収できるのか?」という点では、どうもハッキリしないことが多いと感じられました。DMMの社内にも太陽光発電システムを設置した者がおりましたが、回収の見込みが立たずに、奥さんから非難されている……というような話もありました。
もちろん環境への貢献、リスク回避のメリットというものもありますが、お金の面では、そうした声が日本の現状を表しているのだろうと感じました。
また補助金や電力買取にするする制度も複雑で分かりにくく、自分で回収に関するシミュレーションをするのも難しい。だからこそ、普及が進んでいるとはいえ、普及率は全体の2%程度にすぎないのでしょう。
そこで、もっとユーザー目線で、シンプルで、カジュアルにサービスを提供できないだろうか、と考えていったのです。
太陽光発電システムを導入するには、一般的に150~200万円程度が必要になるという |
――確かに現在のところ、初期投資額を回収することだけを目的に考えると、なかなか難しいとは思います
住宅向けのシステムの導入に掛かる費用は、一般的に150~200万円程度となっており、一家庭の投資額としては非常に大きいです。それを圧倒的に安い価格にしようと考えました。補助金制度などもうまく利用しつつ、もっとも安いコスト、ということで「8万円」という数字のをはじき出したのです。
個人的にはゼロ円で太陽光発電のデバイスを提供したかったのですが、結果的にこうなりました。我々も慈善事業をするわけではありません。やはり企業なので収益を上げることが大きな目的でもあるため、発電した成果を按分していくという考え方をとっています。
■発電量を2:8でシェア。“最初の8万円は3年半で回収できる”
――その按分のところがDMMソーラーのポイントだと思うのですが、基本的なモデルをもう一度確認させてください。DMMソーラーでは、パネルを設置した家庭で作った電気を、ユーザーを2割、DMMが8割がシェアするということになっています。これは、電力会社に売電した金額を2:8に按分するということですか?
いいえ、売電量ではなく、発電量をシェアします。たとえば、100kWhを発電する家庭では、そのうち30kWhを使おうが、100kWhすべてを使おうが、とにかく100kWhを元に計算します。
DMMソーラーの基本的なシステム。発電量をDMM側8割、ユーザー側2割でシェアする |
実は発表当初は、発電量を7:3で按分し、その単価を42円にするとしていました。しかしこの場合だと、お客様が30%を超えて電気を使った場合、本来、電力会社から購入するよりも高い42円という単価で、当社が請求することになり、リスクが発生してしまいます。
そこで、単価はあくまでもお客様が電力会社と契約している電気の購入単価に設定するようにし、比率を2:8という設定に変更させていただきました。これによって、従来より多くの電気代を請求されるということはなくなったわけです。
――なるほど、これであれば太陽光発電システムを設置していても、設置していなくても電気代そのものに違いはなくなるはずですね。その上で2割だけとはいえ、電気を得られると
そのため、お客様にとってリスクがないうえに、発電した20%分はユーザーメリットとして残る。それを8万円で提供するわけなので、平均的には3年半で(投資額の8万円は)ほぼ回収でき、それ以降は利益になるはずです。
また契約は10年となっており、11年目以降はシステムはユーザーのものとなるので、ご自由にお使いください、と。シンプルでカジュアルに、エネルギーに携わってもらえるという基本理念に合致するだろうと考えています。
■昼間に電力の使用を控えれば、DMMからお金が貰える
――とはいえ、8割分についてはDMM側から毎月請求が来るとなると、価格が一定でないローンを払っているような感じにもなりそうですが
いいえ、実際には多くの場合で、当社からお客様へお金をお支払いする形になるだろうと考えています。
――え? それはどうしてですか?
売電による収益の振込先は当社の口座になるためです。電力会社との契約自体はお客様個人となるのですが、売電金額の振込み先は、契約者が指定する口座にすることになっています。できるだけ昼間、電力を使わないようにして売電していけば、多くの収入が生まれるので、そこから80%分を差し引いても、お釣りが出るという計算になります。
とはいえ、売電金額が少なかった場合には、お客様にその分の請求が行く形にはなりますが。
――つまり、ユーザーの電気料金自体は従来とまったく変わらず。一方で、昼間節電して売電金額が大きくなれば、売電した“お小遣い”が振り込まれる、ということですね。ところで、そもそも発電量はどのようにして計測するのですか?
それは太陽光発電システムの設置と同時に、スマートメーターも取り付けさせていただく形になっており、メーターはネットに接続されます。したがって、当社側から常に発電量や使用電力を常にモニターリングできるため、それを元に計測し、金額を算出する形になっています。
■発電量が少ないところに設置するのは、ユーザーにもDMMにもデメリット
導入にあたっては事前審査が必要。ほとんど太陽光が当たらないような屋根などは審査が通りにくいという |
――でも、本当にそんな形でDMM側は採算がとれるのですか? 新年度からはさらに補助金も減り、売電価格も下がると予想されていますが……
採算がとれなければ、我々も参入しませんよ。もっとも、採算性を考えているからこそ、どの家にでも取り付けるというわけにはいかず、審査をさせていただき、条件が整っているご家庭にのみ提供させていただくようにしています。
――実際には、どのように申し込むのですか?
電話とメールの窓口を用意しているので、そこへお問い合わせいただく形になります。まずは我々のオペレータが応対しますが、その上で設置する家の立面図と平面図を送っていただきます。それを元に方角や屋根の大きさ、角度などから発電量を試算し、合否判定を行ないます。
ですから、ほとんど陽が当たらないような屋根の場合には、ごめんなさい、ということになります。
――よく訪問販売などでは、まともに日が当たらないのに強引に売ってしまったり、ひどいと北面の屋根に設置するという詐欺のようなケースがあると聞きます
DMMソーラーでは、実際にお金を出すのは我々ですから、そこは慎重に審査します。間違っても北面に設置するようなことはありえませんね(笑)。お客様にデメリットなことは、我々にとってはもっとデメリットになるわけですから。
このようなシミュレーションをした上で、設置できるそうであれば、お客様と連絡をした上で、現地調査をさせていただきます。やはり図面だけではわからないこともありますから、現地にいって、より正確な数値を出し、本当によく発電できるのかをチェックするわけです。その上で、ようやく契約ということになります。結局、申し込んでから設置まで1カ月半程度を要する形にはなります。
――屋根の大きさなどによって、設置するパネルの大きさ、容量も変わってくるわけですよね?
そのとおりです。やはり大きい屋根のほうがより有利になり、その分、合格の可能性も上がるわけです。
また、小さい出力のシステムでも、大きな出力のシステムでも、お客様がご負担いただく金額は8万円と均一にしています。その意味では大きな屋根のほうが、お客様にとってもさらに回収が早まり、利益も増やせるはずです。
■実際に家に設置されるグリッド社のソーラーパネルってどんなの?
グリッド社のソーラーパネルのサンプル品。同社のパネルは多結晶で、積雪荷重に強いという |
――ところで、DMM.comで取り付ける太陽電池パネルやパワコンは、特定のメーカーのものになるのですか?
はい、パネルは株式会社グリッドという日本のメーカーのもの、パワコンはオムロン製のものを採用しています。
――すみません、グリッドというメーカーについては知りませんでした。どういった会社なんですか?
グリッドは太陽電池パネルの製造・販売をする日本の企業です。2010年に化学品専門商社の長瀬産業と資本・業務提携をしており、長瀬産業の全面的なバックアップを受けています。セル自体は台湾製で、長瀬産業を通じて輸入しています。
グリッド製品の最大の特徴は、パネルの厚みが4mmあり、非常に丈夫であるということです。他社製の多くが3mmのところ、4mmあるため、2m50cmの積雪加重に耐えられ、豪雪地帯でも利用可能です。やはり我々としても、しっかり発電するもの、いい結果をだせるものでないと困りますからね。
――写真を見ると、これは多結晶のパネルですよね?
その通りです。型番は「SO-KPC5-182G」というものです。変換効率的には13%程度と一般的なものではありますが、重要なのは変換効率ではなく、実際の出力がどのくらいあるか、実際どれだけ発電するかですからね。
――その通りだと思います。報道などを見ていても、変換効率の話ばかり出ていますが、重要なのはそこではないですから。このことは実際のユーザーでないと、なかなか実感できないところではありますが。
■合格率は約3割の狭き門
――気になるのは、先ほどおっしゃっていた合否判定における合格率がどのくらいなのか、ということなのですが
これまでのところは約3割です。逆に言うと、いままでいかに多くの販売業者が無理やり売っていたか、ということではないでしょうか? だから、いろいろなトラブルやクレームが出ていた。無理なものは無理という必要があるだろうと思うのです。
――3割というと、狭き門ではありますが、逆にDMMソーラーに申し込んで、不合格だった家はそもそもつけないほうが無難ということになりそうですね(笑)。一方、導入後の保障やメンテナンスなどはどうなりますか?
保障は他社と同様に、メーカーの10年出力保障があります。またスマートメーターを元に常時発電量をモニタリングしているので、異常が発見された、すぐにお客様のもとに伺ってチェックを行なうようにします。
――そういう点でも安心できそうですね。あとは、どれだけスピーディーに多く普及させられるかが重要になってきそうです
個人については、できるだけ速やかに設置を進めて行きたいと思っています。また個人以外にも、BtoBの法人向けビジネスについてもスタートしています。
――法人向けも、それもやはり8万円で?
これは7月にスタートする「全量買取」を狙って、企業に対して完全売り切りの形でビジネスを行ないます。DMMソーラーというBtoCによるスケールメリットを生かして、安く提供できるので、企業にとっても十分に収益が取れる投資商品としてみていただくことができると考えております。
――ちなみにどのくらいの価格なんですか?
現在、法人向けの産業用システムは1kWあたり35万円程度というのが相場だと思います。それに対して我々は、容量にもよりますが25万円から提供を行なっていきます。もちろんこれは工事費込みですから、国内でも最安値になるのでは……と思っております。これが起爆剤となって、国内でもより多くの太陽電池が設置されれば、と願っております。
――本日はありがとうございました
藤本健 本職はオーディオ関連ライターだが、実は30年来の“ソーラーマニア”。自宅に太陽光発電システムを導入し、毎日太陽で作られた電力で生活している。太陽光発電ネットワークの「PV-NET」の会員で、神奈川地域交流会の世話人も務める。僚誌AV Watchでは「藤本健のDigital Audio Laboratory」を連載。メールマガジン「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」も配信中。ブログは「DTMステーション」、Twitterは「@kenfujimoto」。 |
2012年4月9日 00:00