藤本健のソーラーリポート

0円でソーラーパネルが設置できる、ソフトバンクの「おうち発電プロジェクト」の仕組みとは?

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
「おうち発電プロジェクト」のポスター。ソフトバンクの携帯電話のCMでもお馴染みの「お父さん犬」が前面に押し出されている

 12月12日、ソフトバンクモバイルとSBエナジーは共同で、個人宅の屋根を借り受けて太陽光発電を行なう「おうち発電プロジェクト」を開始することを発表した。この制度を利用することにより、一般個人は無料で自宅の屋根に太陽光発電システムを設置することができ、売電による収入も得られるという、非常にユニークなシステムとなっている。

 発表によると、収入として得られるのは全売電金額のうち15%で、契約期間は20年間になるとのこと。個人にとっては非常に魅力的に見えるプロジェクトだが、ここにリスクはないのか、誰でも参加できるのかなど、気になる点もいろいろある。

 そこで、この「おうち発電プロジェクト」を企画したソフトバンクモバイルに、その詳細を聞いてみた。話をうかがったのは商品統括 新事業準備室室長 兼 MD本部 事業推進統括部 統括部長の冨澤文秀氏と、商品統括 発電スポット事業推進室 担当部長の中村誉氏の二人だ。

ユーザー側の“負担金ゼロ”が重要な要素。でもそれは太陽光で成り立つのか?

――先日の「おうち発電プロジェクト」の発表、各所で大きな話題になっているようです。まずは、このプロジェクトをはじめるに至ったきっかけについて教えてください

ソフトバンク 商品統括 発電スポット事業推進室 中村誉担当部長

中村誉氏(以下、中村):やはり、そもそものきっかけは震災でした。社長の孫(正義)も震災によって原発に疑問を持つようになり、自然エネルギーの重要性を痛感しております。メガソーラー発電事業を始めるようになったのもそれによってですし、最近はモンゴルで自然エネルギーに関する検討会社も立ち上げています。

 ただ、これらは一般消費者とは違う世界。うまく一般の人たちといっしょに自然エネルギーに取り組んでいきたいと考えていました。

――でも、どのようにして今回のようなスキーム(計画)を思いつかれたのでしょうか?

ソフトバンク 商品統括 新事業準備室室長 兼 MD本部 事業推進統括部 冨澤文秀 統括部長

冨澤文秀氏(以下、冨澤):当社ではこれまでもいろいろなビジネスを展開してきましたが、お客様の負担を限りなくゼロにするということが、キーファクターであると考えています。

――確かに御社の携帯電話の宣伝文句にも、よく「ゼロ負担」というのが登場してきます。でも、太陽光において、そうしたことが本当に成り立つのでしょうか?

中村:実際に「このビジネスは行ける」と見えたわけではありません。このゼロ負担を実現するためには、太陽光発電システムを仕入れるための原価はこの程度でなくてはならない、お客様のシェア(取り分)はこの程度、月々の発電量はこの程度以上は必要……とさまざまな要素を検討しながら、まずはモニターということで、先着1,000棟をトライアルしてみることにしました。

冨澤:やはり大きな投資になりますから、いろいろなリスクがあります。これについては、社内でもかなり議論はしてきたし、ここにかなりの時間を要しました。

 実際、設置後にトラブルなどが起きたら、目も当てられない。また前例がないというのも大きなリスクですね。すでに誰かがやってきたことであれば、それをトレースしていけばいい。でも、誰もやったことのない事業なので、スタートするまでも大変でしたし、今後も試行錯誤が続くと思っています。

 これまで住宅では余剰電力買取(自家消費分を差し引いた余りの電気を売電する)という方式がとられていましたが、これは発電した全電力を売電する全量買取制度です。前例がないために、電力会社とのやりとり、経産省とのやりとりなど、さまざまな交渉、打ち合わせなどがあって実現しました。

「余剰電力買取」ではなく「全量買取」。経産省の方針の1つ“屋根貸し”を利用

――なるほど、全量買取なのですね。通常、全量買取は10kW以上のシステムでないと実現できません。それ以下の一般家庭の屋根に設置した場合は、まず自宅で使い、余った分を売電できるという余剰電力買取という制度になっています。なぜ、今回のケースでは全量買取が実現しているのでしょうか? 何かその交渉によって特例が設けられたということなのですか?

中村:これは特例ではなく、経産省の方針に則ったものとなっています。今年7月1日にスタートした、再生可能エネルギーの全量買取の制度に関する経産省の文書の中で「屋根貸し」というものについて触れられています。当社の「おうち発電プロジェクト」はこの「屋根貸し」に沿った仕組みになっているのです。つまり、複数棟を束ねることで10kW以上の規模としているわけです。

図は7月1日にスタートした、再生可能エネルギーの全量買取制度における太陽光の売電金額。おうち発電プロジェクトでは、余った電力を売電する「余剰電力買取」ではなく、発電した電力すべてを売電する「全量買取」を利用している点がポイント

――個人が太陽光発電システムを設置して、余剰電力買取の形で電力会社に買い取ってもらう場合、まず電力会社の検針の際に、通常の買電伝票と同時に売電伝票が届き、その後直接個人にお金が振り込まれる形になっています。それに対し、この全量買取の場合は、どのようなお金の流れになるのですか?

中村:これは電力会社と個人との契約ではなく、電力会社とは当社が契約をする形となるため、まず売電料金は当社に振り込まれる形になります。その後、振り込まれた金額の15%を屋根の賃料ということで、個人の方に当社からお支払いするという流れになっています。

おうち発電プロジェクトの概要。ソフトバンクはユーザーから借り受けた屋根で発電した電気を、電力会社にまとめて売電する
ソフトバンクから振り込まれる金額は、売電金額の15%程度。事務手数料として210円を負担する必要がある

条件は「戸建て」「3階建て未満」「築15年以下」など。31都府県は“手堅く指定”

――さて、今回の「おうち発電プロジェクト」においては、先着1,000棟となっていますが、さすがに申し込めば誰でもOKというものではないですよね? 具体的に、この先着というのは、どういうことなのでしょうか?

冨澤:実際のエントリーは12月21日からのスタートを予定しておりますが、ここではまず最初に必要最低限の項目チェックを行ないます。具体的には、「マンションやアパートなどの集合住宅ではなく、戸建住宅であること」、「設置する物件のある地域が当社指定の地域であること」、「3階建て以下であること」、「持ち家であるかどうか」、「築年数が15年以下であること」などです。

おうち発電プロジェクトに申し込める家の条件。このほか、後述する対象地域内であることも条件となる

 この項目で弾かれることがなければエントリー可能となり、そこでお名前や連絡先などを入力していただきます。その後、当社で審査を行なった結果、的確な物件であれば正式に契約となるわけで、その契約にたどり着く人が先着1,000棟ということです。

おうち発電プロジェクトに申し込める都府県は31。日射量の多い地域を“手堅く”選んでいるという

――その地域についてですが、発表資料においては全国31都府県となっています。なぜ、この地域であって、ほかはダメなのでしょうか?

冨澤:日射量の多い地域を選定していす。また台風などによる自然災害のリスクの大きい地域、豪雪地域などを除外させていただきました。とくに今回はモニタリング的な意味を持つトライアルの1,000棟なので、かなり手堅く指定させていただきました。

――たとえば京都府が入っていないのも気になりました

中村:京都が入っていないのは日射量の関係ですね。今後、本サービスをスタートする場合には、少し見直しを行なっていく可能性はありますが、まずは、この地域に限定させていただきました。

設置前には現地調査。発電できないとソフトバンクが損をする

――先ほどの話だと、エントリー後、審査を行なうとのことでしたが、どんな審査になっているのでしょうか?

冨澤:まずは簡易的な振り分けを行なった後、図面のやりとりをし、図面審査を行ないます。さらに現地調査を行なったうえで、設置となります。(※下の図を参照)

おうち発電プロジェクトに申し込み、設置されるまでの流れ

――なるほど、しっかり現地調査も行なうわけですね。一般住宅への設置の場合、現地調査もまともに行なわずに設置し、結果的に影にかかるために、思ったとおりの発電ができないといったトラブルもあるようですが、そうした心配はなさそうですね

冨澤:それはもちろんです。影があって、発電できないといった場合になれば、損をするのは我々ですから、しっかり調査もさせていただきます。その結果、条件が悪ければ契約に至らないというケースも出てくると思います。いずれにせよ、お客様にとってのデメリットは何もありません。つまり完全にWin-Winの関係にあります。

契約期間20年は全量買取制度が20年だから。解約されるほど会社に大打撃

――契約期間は20年となっていて、10年以内に解約すると契約解除料が取られるということでした。その報道を見て、一部では「解約金目当てのビジネスではないか」といった指摘もありますが……

冨澤:解約金目当てもなにも、取り外すだけでかなりの費用がかかりますし、一度取り外したら再利用は難しいのが実情で、1つのシステムの設置に膨大な費用がかかっているわけです。一方で解約金は98,000円(パネル出力が6kW未満の場合)ですから、解約されればされるほど、当社は大打撃ですよ。

――980,000円ならともかく、98,000円なんですね? それは確かに解約金目当てというのは見当違いですね(笑) とはいえ、20年間という長期契約について不安を感じる方もいるようです

中村:経産省の示した全量買取の制度自体が20年となっているので、必然的に20年間という契約期間になります。それでも契約違約金が発生するのは10年以内に解約した場合であり、それ以降を違約金で縛るものではありません。

冨澤:そもそも、解約する理由は存在しないはずです。普通に住んでいる分には、取り外す理由はないでしょう。あるとしたら、引越しをする場合、家を取り壊さなくてはならない事情が発生した場合などに限定されると思います。

 引越しする場合でも、次に入居する方が継続を希望すれば、そこで権利譲渡によって継続することは可能になります。ただし、引越しされた先に設備を持っていくことはできません。もし、どうしてもということであれば、引越し先で新たに契約し、工事を行なう形になるでしょう。

パネルメーカーがシャープとサンテックの理由。停電時は非常用電源としても利用可

設置されるパネルメーカーはシャープとサンテックの2社。ユーザー側からは選べない

――ところで今回の1,000棟に取り付けるパネルはシャープとサンテック(サンテックパワージャパン)とのことですが、なぜこの2社になったのでしょうか?

冨澤:我々からもこの2社に限らず、いくつかの会社に声をかけました。そうした中で、性能、価格、設置に関連する事項など、当社の考える条件にマッチしたのがこの2社だったということです。

――ユーザー側でシャープにするか、サンテックにするかを選ぶことはできるのですか?

冨澤:これについては当社の独自基準で選定するので、選択は当社にお任せください。正直なところ、地域によって設置工事業者が異なり、その工事業者とメーカーが紐付けられているので、地域によって決まってしまうケースも多いです。

――契約するに当たってもう1つ心配なのが、事故があった場合、どうなるのかということです。たとえば、雨漏りなどについての保障はあるのでしょうか?

冨澤:雨漏りを起こすといったことは、まずありえないと思いますが、万が一そうしたケースが起きた場合も、保障します。保険会社との契約をしているので、その点は大丈夫です。もっとも、我々が各社と話をするなか、雨漏りといったことは聞いたことがないので、その点はあまり心配していません。なお、工事会社はメーカーの研修をしっかり受けているところですので、工事のエキスパートとしても信頼のおけるところです。さらに、弊社独自の研修も受けてもらっています。

――「独自の研修」とはどんなことなのでしょうか?

冨澤:「おうち発電プロジェクト」は、一般の余剰電力買取とは工事内容に違いがありますので、この点の教育およびサービス内容をしっかりと把握してもらうことですね。また電力会社とのやりとりや書類申請の窓口や申請内容にも違いがあるので、こうしたことを研修内容として盛り込んでいます。

――実際、工事が完了して、発電が始まったら、その家の人は特に何もすることはないのですよね? 従来からの太陽光発電の設置の場合、通常は発電モニターなどを通じて、毎日の発電量や売電金額をチェックするという楽しみがあったり、より売電料を増やそうと節電意識が高まるといったことも言われていますが……

中村:今回のトライアルの1,000棟においては、発電モニターの設置などは考えておりません。そのためお客様側で発電量のチェックを行なうとしたら、各自で売電メーターを見てもらうくらいしか方法はないですね。逆にいえば、通常は何もしなくてよく、しばらくすると弊社からの通知が届くのとともに、そこに記載された金額が振り込まれる形になります。

冨澤:そもそも自ら太陽光発電を設置したい、自然エネルギーに感心があり、それによる節電意識も高めていきたいという方々は、すでに設置されている方も多いと思うし、それが基本形だと思っています。しかし、そうした意識の薄い方々もたくさんおり、その結果、日本には使われていない屋根がたくさんあります。そうしたところへ、どうすればリーチできるかというのが、今回の目的でもあります。

――今後、万が一、災害が発生して停電が生じたというような場合、設置した太陽光発電を活用する手段はあるのですか?

冨澤:はい、設置するパワコンには非常用コンセントというものがあり、停電が生じた場合は、これを活用できるようになっています。普段は全量買取なのでこのコンセントは利用できませんが、いざというときにはいろいろと役に立つはずです。これもお客様にとって大きなメリットになると考えているところです。

――確かシャープのパワコンは外付け、サンテックのは室内設置でしたよね?

中村:そのとおりです。それぞれパワコンに非常用コンセントがついていますが、シャープのパワコンでは、場合によっては室内に非常用コンセントを設置させていただくケースも出てくるとは思います。

ケータイ・プロバイダ利用者には割引プランも。サービス本格開始は早ければ来春から

一般ユーザーとの窓口になるのは、グループ内で携帯電話を担当するソフトバンクモバイル。ソフトバンクの携帯電話ユーザーやプロバイダ契約者に対する割引プランもある

――ところで、今回、窓口になるのは携帯電話の会社であるソフトバンクモバイルになるのですよね? ちょっと不思議な気もします

冨澤:本事業はSBエナジーとの共同事業であり、太陽光発電におけるノウハウのあるSBエナジーがあるからこそ実現できているわけですが、お客様への窓口はソフトバンクモバイルが引き受け、一部店舗においても受付を行ないます。

 また通信サービスの割引も行なうことで、シナジー効果を出していきたいと考えております。「ホーム」というキーワードにおいてユーザーとの一体化を図って行きたい、と。ご加入いただくと、ソフトバンクの携帯サービス、または固定ブロードバンドサービスの通信料が割引となります。

 具体的には、ホワイトプランの基本料金(毎月980円)を3年間、3回線まで無料にするとともに、ホワイトBB月額使用料の1,000円引きが適用されます。また別プランとして光サービスプロバイダー料(毎月1,260円)を3年間無料にするか、ADSLサービス月額使用料を3年間に限り毎月1,000円引きにするというものも用意しております。こうしたものを合わせることで、さらにお客様のメリットを大きくできると考えております。

――なるほど、このあたりははソフトバンクモバイルだからこそのサービスということですね。最後に今後についてお伺いします。今回の1,000棟の募集はトライアルということですが、その後はどうなっていきそうですか?

冨澤:まずは、1,000棟について早く動かしていきます。ただ審査、契約、設置まではどうしても2~3カ月を要するので、設置開始が2月ごろから、お申し込みが遅い方だと4月以降になってしまうかもしれません。現在の全量買取の単価が42円というのは3月末までなので、4月に入るケースの場合、単価が下がり、お客様の収益も下がってしまう可能性があるので、なるべくお早めに申し込んでいただくことをお勧めしております。

 我々としても、その単価がいくらになるのかが収益とも大きく関連するところなので、まずはその推移を見守りつつ、設置した太陽光発電の稼働状況をチェックしていきたいと思っています。その上で、本格的なサービスを早ければ来年春くらいから、遅くても夏までにはスタートさせたいと考えているところです。

――今後が楽しみです。ありがとうございました。

藤本 健