趣味の節電道入門

第1回:趣味の節電家たるもの、義務感でやるべからず

 先の大震災以降、夏や冬といった電力が逼迫する季節になると、節電が喚起される。このままいくと、季節の風物詩的な存在になるのだろうか。すでに何らかの節電対策を実施してきた人も多いだろうし、書籍やWebでノウハウも一通り出回っている。

 だが、この連載で語りたいのは、趣味としての節電である。しかもタイトルに「道」とあるように、本気で極める気持ちで、だ。私はその道を行く者として「節電家」を名乗ろうと思う。いわゆる家元だが弟子はとらない。弟子になりたい人もいないだろう。

 節電家は、単純に電気製品を使わないという方法はとらない。震災直後は、テレビなどのメディアが「あらゆる家電を処分して、月の電気代が500円です」なんて方を紹介していたが、そちらは目指さない。使わないほど偉い、というルールなら、江戸時代の人には負けるからね。「これまで、さんざん電気を使ってきたけど、嫌いになったので拒否します」には、摂食障害のような不健康さを感じてしまう。趣味の節電家は、否定形ではない、前向きな節電を目指すのである。

 ついでに言えば、これまで節電は2つの視点で語られてきた。ひとつは、経済産業省による数値目標や、トイレに貼られた「節電にご協力ください」ポスターに見られる、「義務としての節電」。もうひとつは、環境保護であるとか、原発を稼働させないためといった「主義としての節電」である。

 趣味の節電は、これら「ねばならない」「べき」とは一線を画する。純粋に節電自体を楽しむものだ。まぁ、趣味とはいえ、電気代が安くなるという実益はあるし、環境に貢献しているという気持ちよさを感じてもらっても別に構わないんだけどね。

 というわけで、趣味の節電における3大原則を発表する。

その1 家族に迷惑をかけない
その2 節電をストレスにしない
その3 コストを惜しまない

 さきほど、「否定形ではない節電を目指す」と言っておきながら、すべて否定形になってしまった(笑)。順に解説していこう。

その1 家族に迷惑をかけない

 節電の初期段階にやってしまいがちなのが、家族への強制だ。これは良くない。子供に「勉強、勉強」言っても効果がないのと同じで、下手をすると逆効果になる。年頃の娘に、「ドライヤーで髪を乾かすのは5分以内で」などと言おうものなら一発で嫌われる。

 強制しないにしても、家族の電気を消し忘れなどに対してイライラすることも避けたい。家庭の雰囲気を悪くするからね。家族に「節電、節電」言いたくないですよね! では、どうすればいいか?

 まずは、努力なしに節電できる方法から始める。たとえば、照明器具をLEDに替えれば、家族がこまめに消さなくても気にならない。金持ちになれば家族の無駄遣いが気にならないのと同じ理屈だ。最終的には、趣味として節電する親の後ろ姿を見せることで、子供はケチ臭くならず、節電の意識や工夫することを学べるのではないだろうか。

その2 節電をストレスにしない

 「節電しなければ」という意識は、ストレスを生みやすい。ダイエットや節約と同じで、我慢がベースにあると長続きしないし、反動も起こりやすい。そうならないために、節電を一種のゲームだと考えよう。ゲームのスコアは月に1回、電力会社から届けられる。過去の成績(電気使用量)はWebでも確認できる。ハイスコアを出した分(電気節電の場合、数値が低いほどハイスコアになるが)、リアルマネーで還元されるから、ゲーム好きでなくても熱くなれる可能性はある。

電力会社の検針員が投函する電気使用量のお知らせ。これは4人世帯で190kWhという新記録を達成したときのもの。震災前は200 kWh後半〜400kWhの間で推移していた
Web上で電力使用量・料金の推移が確認できる東京電力の「でんき家計簿」。他の電力会社でも同様のサービスを実施している

その3 コストを惜しまない

 節電を節約のためにしている人も多いだろうが、趣味の節電では、そのための資金投入を惜しまない。家電の買い替えなど、投資に応じた効果が期待できる。ゲームで言えば「有料アイテム」に相当する。もちろん、資金投入は無理のない範囲で、そして、得られる効果を考えた上で戦略的に行なうのがスマート。金にまかせて家電を全部買い替えるなんてのは下品だし、節電道に反する行為であると言っておこう。

電気製品の消費電力と使用時間から電気料金を計算したり、家電を節電タイプに買い替えたらどのぐらいの期間で「元が取れるか」を計算できるシミュレーターをExcelで作ってみた

 次回からは、具体的な実例を交えて、節電道の作法について解説する予定だ。

小口 覺