そこが知りたい家電の新技術

キングジムのプチランドリー「スウォッシュ」が目指すもの

~オフィスの給湯室で使えるミニ洗濯機

キングジム「プチランドリー スウォッシュ」LA5。希望小売価格は14,700円

 事務用品メーカーのキングジムから2013年2月、コンパクトな簡易洗濯機「スウォッシュ」が発売された。家電メーカーでもないキングジムがなぜ今、洗濯機なのか。オフィスの給湯室での使用を考えて商品企画されたものらしいが、その意図はどこにあるのだろう。

 今回は「スウォッシュ」の企画・開発を手掛けたキングジム 開発本部商品開発部 開発一課の小山玲奈氏に、着想のきっかけや製品に込めた思い、開発時の苦労などについてお話を伺ってきた。

5年前に誕生した「オフィス環境改善用品」シリーズの新ラインアップ

 キングジムは事務用品や文具を扱うメーカーだが、昨今では入力専用の「ポメラ」や「ショットノート」などいわゆるデジアナ製品の展開でも知られている。そんな同社のもう1つの顔が、約5年前から企画・開発を進めている「オフィス改善用品」シリーズだ。「心地よいオフィスにするために、悩みを解決するためのもの」をコンセプトとしており、事務用品という枠にとらわれないで柔軟に対応している。

オフィス環境改善用品の第一弾として約5年前に誕生した「ハイブリッドファン」

 その第1号となったのが、オフィス内の温度ムラを解消するために生まれた「ハイブリッド・ファン」シリーズだ。天井の空調機に取り付けるだけで、エアコンの直撃風を解消し、空調効率がアップ。ファンはエアコンの風で動くので電気代もかからず、エアコンの設定温度自体も高めに設定できるという“省エネ”製品でもある。そのほか、オフィスで冷えがちな女性の足元を温めるために生まれた暖房器「うらぽか」や、A4ファイルサイズのパッケージに納めた防災常備品「帰宅支援キット」などもある。

 そんな「オフィス環境改善用品」シリーズの新たなラインアップとして発売されたのがプチランドリー「スウォッシュ」だ。

給湯室のふきんや雑巾を洗うための小さな洗濯機が欲しい

開発本部商品開発部 開発一課の小山玲奈氏

 小山氏によると、きっかけは会社の給湯当番だったという。

 「当社ではオフィスの机の上を拭いたり、お茶を入れたりする『給湯当番』というものがあり、女性も男性も順番に担当することになっています。でも、男性が当番になると、使ったふきんをきちんと洗って干しておくということをしないで、そのまま放置しておく人が多いのです。それで、結局、それに気づいた女性が代わりに洗って干すはめになっていました。冬場は水が冷たいし、手荒れも気になります。何かいい方法はないかと思って“給湯室で使える小さな洗濯機”を作りたいと思ったのです。こうした道具があれば、男性にも分担してもらいやすいですから」

 社内で提案したところ、女性たちだけでなく男性からも「そんな便利なものがあれば使いたい」という声が上がった。市場調査の結果からも給湯室で使用するふきんや雑巾洗いへの不満は高く、コンパクトな洗濯機があれば使いたいという声が多かったことから、商品開発へのゴーサインがでたのだという。

 これまでも「電気バケツ」などの名称で、似たような家電製品が販売されていたこともあったが、「スウォッシュ」の違いはどこにあるのだろうか。

 小山氏によると「何よりこだわったのは、おオフィスの給湯室に置いても邪魔にならないような“コンパクトさ”。脱水機能をつけるかどうかも迷いましたが、本体内にもう1つバケツを入れて水分を遠心分離させる構造にしないといけません。すると、どうしても大きく、重くなってしまいます。かといって、本体をひっくり返して排水する構造では、女性が使うには不便なので、排水ホースは絶対に必要」と、機能の取捨選択が不可欠だったという。実際に完成した製品は、直径約29cmで、高さは44cm。重さも約3.6kgと軽量で、持ち運びに便利なように側面に取っ手の役割をする凹みが設けられている。

本体の重さは約3.6kgと軽量。持ち運びに便利なように側面に凹みをつけ、取っ手の役割を持たせている
直径約29cm、高さは44cmとコンパクトサイズ。排水ホースが外れないように、ホルダーでしっかりと固定できるようになっている
洗濯・すすぎ時の使用水量は約5L。バケツなどを使用して入れる
洗濯物の容量は250gまで。ふきんなら12枚程度、雑巾なら5枚、軍手なら4対、Tシャツは2枚程度洗濯可能
洗濯、すすぎのタイマーが設けられている
洗濯は15分、すすぎは3分が基本だが汚れ具合などに応じてタイマーで調節できる

洗っているところは見せるが、汚れは見せない

電気洗濯機のJIS規格には準じていない製品だが、出来る限りの洗浄力を追求するため、槽の底にあるパルセーターの形状にもこだわった。ピンクのパルセーターの外側に1か所設けられている壁も水流を起こして洗浄力を高めるためのもの

 スウォッシュは「JIS規格C9606」で規定されている電気洗濯機には準じていない製品のため、正式な洗濯機とは名乗れず「プチランドリー」という名称を使っている。「でも、できるだけ洗浄力の高いものにしたいと思い、パルセーターや本体の形にもこだわって試作を繰り返しました」(小山氏)。

 本体をよく見ると円形でなく、八角形をしているが、これも水流を起こすためのもの。底部のパルセーターの外側に1か所設けられている壁も水流を起こして洗浄力を高めるために設けられている。水流の勢いが強すぎると、水ハネが起こるので、その度合いを見極めるのに苦心したという。

 そしてもう1つこだわったのが清潔感のあるデザインにすることだ。淡いブルーの本体をどこまで透明にするかについて社内デザイナーと話し合い、“洗っているところは見せるが、汚れは見せない”程度の透明度に落ち着いた。取材時に実際にふきんを数枚洗って実演してもらったが、確かに水流に従って、洗濯物が回転している様子はうかがえるが、洗濯液の汚れ具合まではわからない絶妙な透け具合になっている。もちろん、洗剤・柔軟剤・漂白剤などの使用もできる。

排水時はホースの下にバケツ・洗面器を置くか、オフィスの給湯室などのシンクに流す仕組み
洗っているところは見せるが、汚れは見せない絶妙な透け具合

オフィスだけでなく“家庭での2台目洗濯機”に

 スウォッシュは「オフィス環境改善用品」として発売されているが、試作品を同社の給湯室で使用している際に「これをペット用の洗濯機として家で使いたい」という声が聞かれ、「これは、家庭用としても受け入れられるのではないかと思いました」と小山氏は語る。

 2槽式の洗濯機が一般的だったころには、汚れのひどさに合わせて洗濯液を何回も使い回したり、下洗いをしたり、ちょっとした小物を洗ったりという洗濯もしやすかった。だが、全自動洗濯機やドラム式洗濯機が普及した現在では、1台の洗濯機で汚れのひどいものを別洗いしたり、育児・介護用品やペット用品を別洗い・下洗いしたりすることができにくい。

 スウォッシュを2台目の洗濯機として使うことで、こうした不便さが解消されるというのは、新しい発想かもしれない。脱水機能がなくとも、排水ホースで洗濯液を流し、すすぎを行なった後であれば、きれいになったものを絞ることはたいして面倒ではないだろう。

 たとえば、育児用品の1つとして、ミルク汚れのついたスタイやエプロンなどはそのまま洗濯してしまうと、汚れが落ちにくく、乾燥までさせた場合、独特のニオイが他の洗濯物にまで移ってしまうというような話もよく聞く。そんな時にも、スウォッシュで一度、下洗いをしてから家族の洗濯物と一緒に普通の洗濯機で洗えば、これまでの不満が解消されるだろう。ペット用品、介護用品もまた然りだ。オフィスにも置けるコンパクトで清潔感のあるデザインは、家庭でも受け入れらそうだ。

 同社では今後も市場を広げ、活性化するために新たな商品提案を行なっていきたいとしている。オフィス改善用品に端を発し、家事の不満の改善にもつながるとしたら、喜ばしいことだ。

神原サリー