藤山哲人の電力自由化対策室

第5回:筆者が選んだプランと日本のエネルギー事情

 2016年4月1日からはじまる電力自由化。連載をはじめたころに比べると、たくさんのメディアで「電力自由化」という言葉が飛び交い、みなさんも関心も高まってきて何より。

 ただ「電力自由化=電気代を安くする手段」というイメージが強いので、第5回はちょっとマジメに日本のエネルギー問題と電力自由化、そして結局筆者はどこの、どんなプランを選んだのか? について紹介していこう。

電力会社やプランの乗り換えが必要な世帯は?

 連載では、関東の場合を中心に、来るべきその日に向けて、電力自由化とは何か? から、電力会社やプランの選び方を説明してきた。

 またあまり電気を使わない独身世帯では、ヘタに乗り換えないほうが電気代も安く済むことも紹介した。振り返ってポイントをおさらいしておくと、次のような表になる。

乗り換えるべきか否か? 月々の電気代の目安
乗り換えると損する 8,000円未満
乗り換えを検討 8,000〜1万7,000円程度
乗り換えた方がお得 1万7,000円以上

 電力自由化は2016年4月1日から始まるが、そこまでに電力会社を選び切れなくても電気が切れてしまうことはない。会社や学校、友人や知人などの話を聞きつつ、じっくり選んでもいいだろう。

 何しろ博報堂が昨年11月に行なった調査では、「すぐに変える」という17.5%のヒトに対して、47.1%のヒトが「最初に変えた人の様子を見て」という結果だった。筆者の個人的な見解でいえば、移行期間は1年間、2年先までには決めたいという感じだ。

電力会社の変更時期
出典:博報堂エネルギーマーケティング推進室 第6回 生活者調査(2016年1月14日)

 電力会社は顧客獲得のために、盛んに急かすキャッチフレーズを打ってくるが、筆者には目標達成できなくてあせっている会社にしか見えない(笑)。

 さて電力会社やプランは、家族構成や電気の使い方、家電の種類や台数によって、人(世帯)それぞれ。なので筆者宅を例に挙げても、あまり参考にならないかも知れないが、選び方の考え方をまとめておこう。

家族構成 筆者夫婦、中学3年、大学1年、大学3年
住宅 築15年
月々の電気代 1万4,000円ぐらい
地域 神奈川県横浜市
他のサービス インターネット、都市ガス
現在のブレーカー 50A
現在の契約 従量電灯B 50A

筆者が選んだのはこのプラン

 以前に紹介した電力会社比較サイトをつかってみたところ、候補となったのは、東京ガスのトリプル割引(電気・ガス・ネット)、ENEOSでんき、東急パワーサプライ、東京電力のスタンダードSプランだ。

 東急パワーサプライのプランは、これまでの東京電力の従量電灯Bとほぼ同じ契約。電気代が安くなって見えるが、すでに契約しているインターネット&CATVとのセット割引。どちらかというと電気代が安くなるというより、インターネットとCATVが割り引かれるという感じだ。

 東京ガスは確かに安いのだが、速度も使いやすさもサービスも満足できる東急のインターネットサービスに比べると、「?」が付く上にサーバ類の引っ越しが面倒。なによりライフラインを1社に託していいのか? という疑問が大きかった。

東急パワーサプライ。付けれるものはぜんぶつけます! 的だが、筆者にはそれほど魅力的じゃなかった……
東京ガスの「東京ガストリプル割」。割引率は高いのだが、筆者にはあまりマッチせず

 もう少し子どもたちが小さかったら、ガソリン代も安くなるENEOSでんきもあっただろう。しかし一番下は中学3年、お姉ちゃん2人は大学生で、家族で車に乗る機会も少なくなったので、将来的にはさほど魅力を感じない。

子どもがもう少し小さかったらENEOSでんきだった確率がかなり高い

 一方東京電力のスタンダードSプランも、従量電灯B契約と変わらない。電気代は、従量電灯Bより少し安い程度で、他社に比べると少し高めだが、利用額に応じたポイントがたまるという点で、それも安くなる代金として考えた。よって、筆者は実際にこのプランを選択。

 これも筆者宅の特殊事情となるが、24時間サーバが稼動しているので電気代は普通の家庭よりも高く、いつも第3段階まで食い込み1万4,000円ほど支払っている。

 ポイントは、電気料金1,000円につき5ポイントが貯まり、ツタヤ(ファミリーマート)系のTポイントか、ローソン系のPontaポイントに変えられる。インターネットやガソリンはそれ以外にはならないが、Tポイントはツタヤのレンタルはもちろん、コンビニで飲み物やお弁当を買ったり、ネットショッピングで家電を買う場合などにも使える。つまり「ポイントは何にでも化ける」という通貨としての利用価値が高く、その便利さを尊重した。

割引率は低いがTポイントが貯まる点と、日本のエネルギーの将来を担ってもらう投資として東京電力を選択
電気料金1,000円につき5ポイントが貯まり、ツタヤ系のTポイントかローソン系のPontaポイントに変えられる。ポイントは何にでも変えられる点が魅力的

ピーク電力を知るために、最初の1年間は「スタンダードX」で契約

 また、筆者が自宅を建てたのは2000年。節電の「せ」の字もないころで、ブレーカーも当初は100A相当(10kVA)契約となっていたが、さすがにバブルすぎということで、一度50Aまで落としている。

 とはいえウチの家族は、みなエアコンに弱く、寒さはエアコンやストーブより、コタツで凌ぐタイプが多いので、メインのブレーカーが落ちたことがない。

50Aのメインブレーカーは16年落ちたことがない。おそらく40Aでも1年過ごせそうという目論見なのだが……

 そこでウチのピーク電力を調べるために、スタンダードSではなく一旦スタンダードXに加入することにした。とりあえずこれで1年間、30分毎の電力をスマートメーターで確認できるので、来年からはピークにあわせたブレーカーに切り替え、スタンダードSにする予定だ。

 筆者の目論見では、通常は30Aもあれば十分で、猛暑や真冬日のピークを越すのに40Aまで落とせるんじゃないか? と見ている。子どもが巣立つ10年後は30Aでも一年乗り越せるだろう。

東京電力のスタンダードXプランに1年間契約して、ピーク電力を調べてから、スタンダードSプランのアンペア数を決める予定。これで基本料金もミニマムにできるはず

 ちなみにピーク電力のチェックは、「家の配電盤に取り付けるタイプのワットメーター」が市販されている。家電 Watchのレビューでも紹介しているが、機材にもそれなりにお金がかかる上、筆者はそんなにマメじゃないので1年間データを取り続けるのは苦行でしかない。なのでスタンダードXで楽することにした。

 これから先の人生、何十年間も電気代を払い続けなければならない。なので従量の電気代もさることながら、月々の基本料金も電力自由化を機に安くしておきたい。

サンワサプライの「消費電力モニタ(クランプ式・無線電力計) CHE-TSTCLW」。自分でピーク電力を調べるという手もある

バランスが崩れた日本のエネルギー事情も考えてみて欲しい

 さて電力自由化で電気代とともにぜひ考えて欲しいのは、日本のエネルギー事情だ。はっきり言って震災以降、シビアな状況に置かれているのが実情で、こんなときでもなければ考えることなんてないので、ぜひ知って欲しいのだ。

 その昔、ビジネスをするうえで欠かせないものと言えば「ヒト」「モノ」「カネ」だった。しかし今はスマホをはじめとしたコンピュータが欠かせないものとなり、電力なしに産業は成り立たない。つまり「ヒト」「モノ」「カネ」に加え「電力」がなければ経済、つまりは日本がまわらないのだ。

 エコノミストじゃない筆者が言っても説得力がないので、経済産業省の資料を見て欲しい(経済産業省 資源エネルギー庁が発行する「日本のエネルギー2015」)。

 政府の資料の割には、スゴク分かりやすく9ページしかない(笑)のでぜひ全文に目を通しておきたい。おそらく中学生ぐらいにも十分理解できるハズだ。

とても政府が作ったとは思えない、よくできたパンフレット(最大のほめ言葉)。これは一見の価値アリ!
出典:経済産業省「日本のエネルギー2015」

 日本が直面しているエネルギー問題は、電気代の急激な上昇。おそらく肌身でも感じているとおりで、震災直後は節電して凄く電気代が安くなったのに、気づくと震災前より電気代が高くなっている。テレビは液晶、照明はLEDに変えているにも関わらずだ。

ここ20年の電気代の推移。急激に高騰していることが分かる。
出典:経済産業省「日本のエネルギー2015」

 1990年代は技術革新などで徐々に安くなってきた電気代だが、震災以降のたった4年間で15年ぶんの電気代が値上がりしている。なぜか電気代だけが、再びバブル期に突入してしまっているのだ。

 これにより日本の電気代は、産業用では世界一高く、一般家庭用は世界2位まで高騰してしまった。これからは世界経済で戦わなければならない日本にとって、高騰する電気代は国際競争力の大きな足かせになっている。

資源が少なく加工業が中心の日本において、電気代が世界一高いのは国際競争において足かせとなる。
出典:経済産業省「日本のエネルギー2015」

 その原因となっているのが、化石燃料への依存率。震災前は62%だったものに対し、2014年は88%に跳ね上がっている。内訳を見ると、ほとんどがLNG(液化天然ガス)の増加分だ。原子力発電所の運転停止を、LNGでまかなっている構図となっている。

 もうひとつの問題は、電力を作る際に必要となるエネルギー(燃料)のバランスだ。震災前は原子力(グラフ水色)とLNG(オレンジ)、そして石炭(茶)がほぼバランスよく1/3となっていたが、今はおよそ半分がLNGに依存している。つまりLNGの価格が高騰すると、バランスを取る材料が少ないので、さらに電気代が高騰するのは避けれらないということだ。

電気を作るのに必要な燃料の変化(グラフの黒部分)。もともと資源の少ない日本なのに、燃料自給率は6.1%と世界最低レベルまで落ち込んでいる現状がある。これはかなり由々しき事態。
出典:経済産業省「日本のエネルギー2015」

 筆者は闇雲に原子力を推進するわけではないが、エネルギー効率が悪く、コストも高く、安定供給できないクリーンエネルギーがすぐに主力になるとは考えられない。

今は全部(水力以外)合わせても、発電量のグラフにすると「線」にしか見えない。原発が停止中の今、火力発電が92%をまかない、残りは水力発電(6%)を含めても8%しかない。緑が太陽光などの新エネルギーで水色が水力。
出典:東京電力 川崎火力発電所 視察会
ちょっと期待値の倍数が高い気もするが、2030年までにこれらを改善できるように研究開発が必要。
出典:経済産業省「日本のエネルギー2015」

 また再び燃料として見直されてきた石炭にも注目だ。埋蔵量も多く安全面でも優れている、今の課題はLNGに比べ排出されるCO2が多いという点。しかしすでに技術開発も進み、低CO2排出タイプの発電所が稼動し始めている。

 発電の技術も進歩しており、発電は高温の燃焼ガスで巨大なガスタービンを回し、排ガスの熱は排熱回収ボイラーで回収され、その熱で蒸気を作り、高圧・中圧蒸気タービンと低圧蒸気タービンを回転させ、燃料使用量とCO2排出量を削減させている(東京電力 川崎火力発電所)。

左からメインのガスタービン(高温)、高中圧蒸気タービン、低圧蒸気タービン、一番右が発電機。ガスタービンで発生した熱で蒸気を作り、その蒸気を再々利用する世界最高水準のMACC II型のLNG発電機。左が模型で、右が実物。壁を越えた左側屋外に熱交換器ユニットの排熱回収ボイラーがある
右奥の四角い部屋がガスタービン。その手前の四角い部屋に高中圧蒸気タービン。手前のかまぼこ型が低圧蒸気タービン
ガスタービンを回した後の高温の排熱を利用し、水を加熱して蒸気を作る排熱回収ボイラー。ここで作った蒸気で3つのタービン(高・中圧蒸気タービン、低圧蒸気タービン)を運転する。いずれも東京電力 川崎火力発電所

 また今はまだエネルギー効率が悪いクリーンエネルギーだが、将来の高効率化・高品質・高安定に向けて、研究していく必要もあるだろう。太陽光や風力、水力はもちろんのこと、まだ研究が始まったばかりのバイオマス(微生物による発酵現象による燃料生成)や、地熱発電の可能性も模索する必要がありそうだ(コントロールが難しいと聞く)。

 とくに、火山大国日本において地熱は有効とされているが、いかんせん敷地が国立・国定公園や温泉ということで発電施設が作れないジレンマがあり、法整備が進められている状況だ。

 電気代が安くなることはいいことだが、各発電方式の効率を考えていかなければいけない。

 筆者が一番危険に感じているのは、発電所を持っていない電力会社。とにかく安い電気を仕入れたいので、原発が再稼動すれば最も発電コストの安い原発に、一気に傾きかねない。発電設備を持っていないので、そのリスクや基礎研究もなしに闇雲に原発へ傾かないよう、モラルが働くことを祈るばかりだ。

電力自由化は日本のエネルギーの未来を決める交差点になるかも知れない。結構、珍しい送電線でしょ?(東京電力 川崎火力線と平行するJR 境ー新線。その下を交差する東京電力 相武線)
電力自由化が日本の将来のエネルギーの明るい未来につながりますように

 筆者はあまりカッコイイこと言いたくない(アホな記事が専門なので……)のだが、オール日本で将来の電力事情を考えると、これまでのノウハウを活かして電力を考えていかないといけないのではないだろうか。

(藤山 哲人)