藤山哲人の電力自由化対策室

第4回:電気の使い方によってはかなりお得な東電の裏メニュー

スマート契約で基本料金も安くする

 ここまでの連載で色々な電力会社のさまざまなメニューをご紹介してきた。でもあまりにも選択肢が多いので、目星をつけるのに便利な検索サイトを紹介した。

 今回紹介するのは、一般家庭にはあまりオススメできないが、電気の使い方によってはかなりお得になる、東京電力の裏メニュー的なサービスを紹介しよう。ただコレまでの電気料金の考え方とかなり変わってくるので、メリットやデメリットもわかりづらく、誰に向いていて誰に不向きかも不透明。電気料金の基本として「そんなものがあったな」と、頭の隅にとどめておくと将来きっと役に立つはずだ。

ポイント

 この記事は頭から読んでいくことで電気料金のしくみを理解した上で、新しい「スマート契約」が理解できるようになっています。スマート契約の向き不向きをまず知りたい方は、記事末の「スマート契約を検討したいのはこんなヒト」をご覧ください。ただし加入の検討前には、必ず全体をお読みになりリスクを理解するようにしてください。

基本料金が固定のスタンダードS、Lプラン

 以前の連載でも紹介した通り、スタンダードS、Lプランは、従来の従量電灯B、C契約にならったベーシックな料金設定。毎月の請求書にあるとおり、○○A(アンペア、もしくはkVA)という契約になっていて使える電力の最大値が決まっている。

 だから夏や冬にエアコンを入れながら、炊飯器でご飯を炊き、レンジで食品を温めているところで、風呂からあがった娘がドライヤーをかけると、スポーン! と停電する。つまり契約電流を越えると、(サービス)ブレーカーが落ちて、家全体の電気がOFFになるというもの。

カラーのシールに数字が書いてあるのがサービスブレーカー
契約容量に応じてサービスブレーカーの色が違う

 同時にたくさんの電気製品を使う場合は、高いA数で契約しておかないと、頻繁にブレーカーが落ちて「誰だよ!」って話になる。しかし最近の住宅は、各部屋にエアコンをつけることが前提になっているので、高めのA数になってる場合がほとんどだ。

 とくに最近の一戸建ての場合だと、50~60Aもしくは6kVA以上の契約が多いのではないだろうか? 筆者の経験だと、リビングダイニングで30A(3kVA)、これに1部屋10A(1kVA)計算となっている場合が多く、2LDKなら50A、4DLKなら7kVAあたりだろう。

 さてこのブレーカーによる契約は、契約しているAやkVAに応じて、基本料金を設定している。

【従量電灯B】
30A842円40銭
40A1,123円20銭
50A1,404円00銭
60A1,684円80銭
【従量電灯C】
1kVA280円80銭

 つまり「冷暖房をフル回転させる真夏と真冬のために、残りの10カ月高い基本料を払い続ける」これがブレーカー契約なのだ。しかもブレーカーなんて入居するときに替える程で、落ちなければまず交換することはない。子どもが大きくなり家を出て行っても、ブレーカーを交換していなければ、入居当時の高い基本料をずっと払い続けることになる。

 たとえば家を建てたときなどは、ブレーカーの値を最大値で見積もる。真冬のある日の夕方、リビングと子ども部屋でエアコンをつけ、キッチンでは炊飯器とオーブンで調理。子どもはお風呂から上がり、コタツでぬくもりながらドライヤーで髪を乾かす。お兄ちゃんは、受験も近く子ども部屋で勉強。足元が寒いのでホットカーペットを使っていて、お父さんはと言えば新聞を読みながらトイレの温水便座でひとときを過ごす。ここでは話を簡単にするため、スタンダードSとLプランで説明していこう。

※現状の東京電力のサービスエリア内の単価にて試算

 同時にこれだけを使うことなどないかも知れないが、かなりマージンを見込んで契約するのが常だ。たとえばこの家庭なら9kVA契約になり、基本料金は約2,527円になるだろう。冷暖房を使わない春や秋は、40A以下でも過ごせるがイチイチ契約を替えたりしないので、1年中「9kVA使うかも知れない」に備えて高い基本料金を払い続ける。ライフスタイルに合わせてブレーカーを定期的に交換する家庭などまずないので、高い基本料金を何年も払い続けているかも知れない。

 しかし子どもが大きくなり家を出て行ったり、最新家電に買い換えたりすることで、同時に使う電力が少なくなったらどうだろう。夫婦二人で40Aでまかなえるとしたら、基本料金は1,123円。9kVAの契約のままにしておくと、月々1,404円も損していることになる。1年に換算すると1万6,848円。ヘタなプランの乗り換えより、よっぼど電気代が節約できるのだ(詳しくはこちら→「第3回:プランや電力会社選びで悩んでいるヒト必見! 乗り換えない方がお得なヒトもいる!」)

スタンダードX(スマート契約)というミステリアスなプラン

 スタンダードXプランは、過去1年間の実績に基づいて基本料金が変わるというプラン。過去1年間の実績を見て、実態に合わせた契約容量にすることで、基本料金を安くすることができるプランだ。つまり、実績に応じて契約(実際にブレーカーの交換は行なわない)を自動更新してくれるというものだ。ただし基本料金は少し高めで1kWあたり561円60銭となる。

 なんかスゴクお得そうなプランなんだが、「過去1年間の実績」というのがちょっと曲者なので、詳しく見ていこう。

【ご注意】

 従量電灯B、CとスタンダードS、Lプランの基本料金はA(アンペア)もしくはkVA(キロボルトアンペア)という単位を使ってます。スタンダードX(スマート契約)では単位がkW(キロワット)となる点に注意してください。正確に言うと、それぞれ異なりますが、おおまかな計算する場合以下のように換算してください。

50A=5kVA=5kW

 エアコンやIH調理器など、200Vの機器が複数台ある場合は、計算が面倒になるため窓口などでご相談ください。

電気代は同時利用できる消費電力+使ったぶんの電力料金

 まずは電気代の計算方法を見ておこう。毎月来る請求書は、大きく「基本料金」と「電力量料金」の2つに分かれている。他にも「燃料費調整」やら「再生可能エネルギー発電促進賦課金」などあるが、ここでは割愛させてもらおう。

 まず分かりやすいのが「使用量」。kWhで表され、1カ月にどれだけ電気を使ったかを示している。目に見える水道にたとえるなら、じゃぶじゃぶ水を張るお風呂から、朝晩の歯磨きで使うコップ2杯ぶんの水まで合わせて、1カ月何L使った? を示している。

使用量と料金の内訳に注目

 トイレが壊れてチョロチョロ水が流れっぱなしになっていると、瞬間的にはわずかだが月額にするとビックリ! ということがある。電気代も同じで、何も充電していないのにACアダプタを挿しっぱなしにしていたりすると、壊れたトイレのようにチョロチョロと電気を食ってしまうので注意。

 kWhに対応する料金が、請求額の下に書かれている1~3段料金の合計だ。独身サラリーマン世帯などで、電気をほとんど使わない場合は、2段、3段目が0円になっている場合もある。料金体系は、こんな感じだ。

 つまり「使用量」は、契約しているAやkVA数に関係なく、使わなければ安い単価の電気で済んでしまい、たくさん使うと単価の1.5倍高い電気を買わなくてはならなくなる。

第1段階料金(最初の120kWhまで)19円43銭
第2段階料金(120kWh~300kWh)25円91銭
第3段階料金(300kWh超)29円93銭

※従来の東京電力の従量電灯契約
※料金は1kWh辺りの単価
※2016年5月31日までの料金単価(税込)となります

 次は先に説明した「基本料金」。電気代で言うと「ご契約容量」の数値で決まり、実際の料金は内訳欄の「基本料金」となる。この料金はブレーカーの取り付けなどで決まるので、これまで契約の変更をしなければ、変動することがなかった料金だ。

基本料金と契約のアンペア数に注目

 目で見える水道でたとえるなら、家に引き込む大元に水道栓(電気の契約でいうブレーカー)があり、低い値の契約だとチョロチョロ、高い値で契約すると勢いよく水を出せるようにするものと考えるといい。

契約しているブレーカーの数値で基本料金が変わってくる

 低い値で契約すると、夕食の洗い物をやりながらシャワーを浴びようとすると水が出てこないなんてことがあるが、高い値で契約すれば、同時に気持ちよく使える「贅沢料」と言っていいかも知れない。電気の場合は、高い値で契約すると、同時にたくさんの家電を使えるようになる。逆に低い場合は、レンジとドライヤーの同時使用でブレーカーが落ちたりというわけだ。

 さてこれまでの電力量計は、1カ月に一度検針員さんがメーターを読み、月に使用した量(kWh)を測っていた。しかし電力自由化により電力計もコンピュータ化され、スマートメーターの登場により、ほぼリアルタイム(使用量は30分単位)に把握できるようになった。そのためブレーカーで電気の量を制限しなくても、スマートメーターで「単位時間にどれだけ電気が流れているか?」を把握できる。だからスタンダードXプランのようなサービスが可能になったのだ。

スマートメーター

 先の水道を例にとれば、各家庭の契約水圧を決める水栓を取っ払い水圧は常に最大。でもそのかわりに通信機能をつけた水量計で、個々の家々が今どれだけ使っているかを把握できるというわけだ。実際スマートメーターには通信機能が搭載されていて、電気の消費状況をリアルタイムで送信するようになっている。

 実はこのスマートメーターの通信システムが凄いのだが、ここでは割愛。ひとつだけ言っておきたいのは、専用無線通信網と電力線(家に引き込んでいる100Vの電線)を使った通信をしているので、プロバイダー費用などはかからないという点だ。

 さてここまで「スタンダードX」と言ってきたが、実はスタンダードプラン以外のプレミアムプランやスマートライフプラン、夜トクプランにもスタンダードXと同じ仕組みがある。それが「スマート契約」だ。

スマート契約は基本料金変動性。活用するとかなりお得に

 スマート契約の基本料金は、過去1年間で一番多く電気を使ったときのkWが使われる。このkWを「ピーク電力」と呼ぶことにしよう。
 最初の1年間は過去の実績がないので、加入当初からのピーク電力の基本料金が適用される。

スマート契約では毎月の電力量が基本料金に関わってくる

 たとえば4月からスマート契約に加入した場合、4月のピーク電力は炊飯器とオーブンレンジを同時に使った2kW(2,000W)だとすると、4月の基本料金は2kW(ここでは2kVAと同じと考えていい)の基本料金が適用される。5月はたまたま同じ時間に長時間ドライヤーも使ってしまったので、ピーク電力が3kWとなり、以降1年間は3つを同時に使わず2kWだったとしても基本料金は過去1年で最大の3kWが適用される。

 しかし夏が到来しエアコンをつける季節になると、エアコン2台とオーブンレンジ、炊飯器を同時利用したことでピーク電力が4kWに更新され、以降エアコンを使わない秋になっても4kWの基本料金が適用される。

 例えば、電子レンジで飲み物を2分温めるといっただけなら、さほどピーク電力が更新されることはない。しかしケーキやローストチキンなどを、オーブンで30分以上使うとピークが更新されやすくなるので注意したい。これはスマートメーターが、30分間の平均消費電力から1時間あたりのピーク電力を算出しているためだ。

 電気に詳しい人は、30分のピークから契約容量(kW)を算出するのはズルイ! と思うかもしれないが、東京電力のいまのところの約款はこのようになっている。もしかすると1時間の平均を取ってくれる別の電力会社が現れるかもしれない。

・基本料金は過去1年間のピークから決まる
・ピーク電力は30分ごとの使用電力量をもとに算定

 加入して1年を過ぎると、過去1年間で一番多く電気製品を使ったピーク電力の基本料金が適用されることになる。たいていは、8月の真夏日か1、2月の真冬日に暖房を使ったときになるだろう。

 このプランのメリットは、意識して消費電力の多いものを同時に使わないようにすると、基本料金をかなり安くできる点にある。たとえば炊飯器はタイマーを使い、エアコンと同時に使わないようにしたり、食洗機が回っているときはドライヤーを使わないなどすればいい。電気に詳しい人や一人暮らしの世帯は、極限まで基本料金を下げられるはず。がんばれば2kW(20A相当)も夢じゃない!。

意識して使用する時間をずらせば基本料金を安くできる

 ただリスクも大きい点に注意が必要だ。リビングでエアコンと炊飯器、オーブンを使って調理していたところに、たまたま子どもが暑くてエアコンをかけながら、ドライヤーを30分以上使ってしまった。という場合、その30分ほどのピーク電力のために、以降1年分の基本料金が上がってしまう恐れもあるためだ。

 ただひとついえるのは、これまでの基本料金の契約は、「最大使うかも知れない」契約で、例えば実際には9kWも使っていないのに9kWの基本料金を払っていたということ。「スマート契約」は、「実際に使った」契約になるので、安くなる可能性を大いに秘めているといえる。

スマート契約を検討したいのはこんなヒト

 基本料金が変動するという東電の新しいサービス、「スマート契約」。「スタンダードプランX」と「プレミアムプラン」の両方に用意されているが、どんなヒト向けなのかを、ご紹介しておこう。

住みはじめて一度もメインのブレーカーが落ちたことがない

 小さなブレーカーではなく、大きなブレーカーが一度も落ちたことがない家庭は、かなり安全マージンを見たAやkVAの契約になっている可能性がある。つまり必要以上の基本料金を払っている可能性が大きい。とはいえどこまで下げればいいのか分からない場合は、スマート契約に2年ほど加入してみて、ピーク電力を探ってみるといいだろう。

ブレーカーが一度も落ちたことない家庭は検討してみても良いだろう
一緒に住む家族が増減したりライフサイクルが変わったヒト

 とくに子どもが巣立って行き、家族が少なくなった世帯などは、契約当初とかなりライフスタイルが変わっているので、基本料金を安くできる可能性が大きい。

 家族が増えたりライフサイクルが変わった場合は、逆に電気の使用量が増える可能性がある。こんなときもスマート契約に2年ほど加入してみて、自分に合った契約を調べてみるのもいいだろう。

次に挙げる電気製品をあまり使わないヒト

 基本料金を安く抑えるには、同時に利用する電力を少なくすればいい。つまり長時間使って消費電力の多い機器をあまり使わない世帯は、しかるべきしてピーク電力が抑えられる。

 エアコン、オイルヒーター、電気ストーブ、オーブンレンジ、ホットプレート、ドライヤー(髪を乾かすのに30分以上ドライヤーを温風モードでかける髪の長いヒト)、温水便座、食洗機、乾燥機(ヒートポンプ以外)、IH調理器、電気ポット、布団乾燥機。

 これらの電気製品をあまり使わない、もしくは同時に利用しないというヒトは、スマート契約を検討してみたい。

電気代が年間通してほぼ一定なヒト

 電気代が月によってさほど変わらないというヒトも、ぜひ検討してみたい。おそらく冷暖房機器として電気を使ってないので、ピーク電力が見込み(契約)より低く、基本料金を下げられる可能性がある。

 ただし、しょっちゅうメインのブレーカーが落ちてしまうという場合は、スマート契約にすると電気代が上がる可能性大なので注意。

電気代をどれだけ安くできるかチャレンジしてみたいヒト

 節電をゲーム感覚で楽しめるヒトにしかオススメできない。ただし電気に強く、先に挙げた家電を意識的に同時使用しないように、自分でコントロールできるヒト。つまり独身であれば、かなり楽しみながら節電できるかもしれない。家族がいる場合は、不便を強いることになるのでオススメできない。

 ただしそれ以前に電気の使用量が少なく、従量電灯B、Cプランから変更しないほうがいいという場合もあるので注意だ。

藤山 哲人