藤山哲人の電力自由化対策室

第2回:電力会社を選ぶってどういうこと? 電力自由化の仕組みを徹底解説

 電力自由化を難しくしている要因のひとつは、電気が目に見えないこと。第1回では「肉や野菜と同じように安い店から買える」とお伝えしたが、電気は手に取ることも目で見ることもできない。

 今回は見えない電気と、必ずしも一致しない電気料金の流れを、目に見えるようにお届けしよう!

東京電力は事実上分割!? 発電会社と送電会社に

 これまで燃料の買い付けに始まり、発電所を運転し、送電網の整備や運用、そして各家庭への請求から料金徴収まで1社でしてきた東京電力をはじめとする各地方の電力会社。

 しかし4月からは事実上2つの会社に分割されることになる。本当に別会社になるわけでないが、分社化されると考えると電力自由化が整理しやすくなる。

 たとえば東京電力の場合は、TEPCO発電会社とTEPCO送電会社に分割されるとしよう。

発電所を運転する会社と、送電網の整備などを担当する会社に分かれるようなイメージ

 TEPCO発電会社は、その名のとおり発電を専門に行なう会社だ。燃料を安く仕入れて発電所を運転し、送電線に電気を流すまでを担当する。場合によってはクリーンエネルギーや、より高効率で安い電力を供給できる発電所を建設・運営する。でも、台風や雪で送電線が切れてしまった場合に復旧工事などは行なわない。

 一方TEPCO送電会社は、発電設備を一切持たない。持っているのは高圧送電線や電柱などの送電網のみ。おもな仕事は送電網の運営管理と、自然災害などで受けた被害の復旧だ。

 そして電力自由化で新興会社が続々と名乗りを上げているのは、発電を専門に行なう会社の方だけ。送電会社は社会的なインフラでもあるため、ここは従来どおり各地方の電力会社が運営管理することになっている。

 さて発電と送電が別会社に分かれる電力自由化だが、支払いはこれまでどおり1本化できるので安心してほしい。月々の電気料金には、電力会社に支払う電気代のほかに、送電会社の施設維持費なども含まれているのだ。この維持費は地方によってこそ多少差はあるが、国が認可した金額なので、同じ管内の電力会社なら単価は同じとなる。そして使った電力の量に応じて課金されるようになっている。

電気料金の内訳

発電所を持たない電力会社もあるって本当!?

 4月から実施される電力自由化。許可さえあれば、誰でも電力を売買できるとあって、すでに全国規模では何百社も参入に名乗りを上げている。東京ガスやKDDI(au)、東急電鉄系の東急パワーサプライに、インターネットやケーブルテレビ大手のJ:COM、ガソリンでおなじみのENEOSでんきなどなどだ。

 東京ガスやENEOSなど、燃料元売り各社が電力自由化に名を連ねているのは分かるが、??? という会社も。その代表例がKDDI(au)やJ:COMだろう。もちろんこれらの会社は発電所を持っていない。では、一般家庭に売る電気をどうやって調達するのだろう? その答えは、発電所を持っている会社から電気を安くまとめ買いして、一般家庭に小売するのだ。言わば卸問屋さんといった感じ。

 でもなぜ携帯電話会社が、電気を売り始めるのか? という疑問が残る。発電所から電気を大量に安く買って、薄く広く利益乗せ小売して稼ぐという会社もある。かも知れないが、儲ける仕組みが少し違うのだ。

発電所を持たない会社は、発電所から電気を買って転売する

 さて電力需要は時々刻々と変化するため、きめ細かく発電量を調整している。それは気温や天気、社会情勢から政治情勢まであらゆることを考慮し、発電量を予測する一種の賭けと言ってもいいだろう。そんな予測だが電力会社にしてみれば、大口の顧客にグロスで電力を売れると分かっていればある程度リスク分散ができる。

 逆に携帯電話会社にしてみれば、電力と通信の2つのインフラを同時に世帯に売り込めるので、セット割引などのお得感を出しやすくなる。しかもわずかなサービスや金額の違いで、簡単にキャリアを変えられてしまう通信インフラのみでの販売より、電力とセットにすることで世帯や個人とのつながりをより強くできる武器になる。なにより利用者にとっては、より電気代や通信費が安くなるというメリットがあるのだ。

 電力会社選びのポイントは、個々の企業だけで見てはダメ。必ず業務提携している企業も見て、連合(アライアンス)として検討するといい。

電気の流れと、電気料金の流れは必ずしも一致しない自由化

 電力自由化で「こんなハズじゃなかった!」と間違えやすそうなのが、クリーンエネルギーを買いたいという場合だ。一般の電力と比べると多少割高になる太陽光や風力など地球に優しい電力会社と提携しても、自宅のコンセントが100%クリーンエネルギーとはならない。

 最初に説明したように、発電所から家庭のコンセントまで電力を届けるのは送電会社。火力や原子力発電所も、風力や太陽光発電所も、同じ送電網を流れて家庭のコンセントに届く。だから100%クリーンエネルギーという電力会社と契約しても、色々な発電所の電力が混じっているというわけだ。

 逆に電力をミックスできるようにしておかなければ、太陽が出ていない夜間や風がない日は停電してしまう。電気はなにより安定して供給する必要があるので、クリーンエネルギーが利用できないときは、契約している会社が別の電力会社から一時的に電気を買い取り、契約者の元へ届けるという運用になっているのだ。

電力会社に投資(多くが支持する会社が未来の電力を担う)するという考え

 つまり月々に支払う電気料金は、契約している電力会社に対して支払うが、電力の流れとは違うこともある点を理解しておく必要があるだろう。また電気料金を支払うという感覚ではなく、その発電会社に対する投資と考えると納得いくかもしれない。

 化石燃料を使っても安い電力が欲しいなら火力発電に投資し、未来のためにクリーンエネルギーを推進すべきという場合はそれらの会社へ投資する。こうすることで、それぞれの電力会社が電気料金の一部を研究開発に使い、よりよい電力を供給できる技術やしくみを開発するため投票していると考えるといいだろう。

次回、電気代がどれぐらい安くなるのか? を紹介

 気の早い人は、自分で電気代がいくら安くなるか試算しているかもしれない。しかし1月の時点では、電力各社が互いの動きを見つつ、さらに安い電力プランを小出しにしている常態が続いている。ただ2月に入り、そろそろこう着状態になってきたようなので、次回は電気代を試算してみたい。

 電力自由化は市場の競争原理で、安い電気を実現しようというもの。あせって自由化が始まる4月までに電力会社を決める必要は一切ない!

 筆者の持論となるが、こういう場合はしっかり腰を据えて、各社が底値を出すタイミングを待つのだ! 4~7月が成り行きを見守る期間。電気をたくさん使う、8月以降が腰を動かすときと考えよう。

藤山 哲人