藤山哲人の実践! 家電ラボ
第25回
こんなのアリ!? 三菱電機の「エアコン解体ショー」で霧ヶ峰がバラバラに!
by 藤山 哲人(2016/3/16 07:00)
三菱電機の新型エアコン「霧ヶ峰」がオモシロイことをやりだした。エアコンと言えば、長い筒状のラインフローファン(だいたい黒いヤツ)が入っているのを見たことがあるはず。いや、家庭用のエアコンでこれ以外のファンを使っているものを見たことない。
が! 2015年10月に発売された同社のエアコンブランド「霧ヶ峰♪」の、ハイエンドモデル「FZシリーズ」が、イノベーションを起こしてレボリューション! 目からウロコのイリュージョン! を引っさげて登場した。
なんと! エアコンの中に入っている2台の扇風機で送風するというのだ! マジっすか!?
しかもエアコンを解体し、新型ファンの機構も見せちゃいますよという、その名も「エアコン解体ショー」を開催するという。もしかして「ポロリもあるよ!」的な期待も寄せつつ、え? 三菱電機どうかしちゃった? と思う反面、シャレが分かる企業にモットヤレー! な筆者は、さっそくイベント会場に斬り込んできた。
築地の魚屋さんを彷ふつとさせるエンジニアが捌く!
イベント前半は色んなブログで紹介するだろうし、三菱電機のカタログやホームページに載っている情報なので割愛(笑)。
壇上に登場したのは、静岡製作所でエアコンを製造しているエンジニアのお二人だ。驚くのは、その前掛け。魚屋のオヤジそのものだ。しかも魚屋さんから借りてきたモノじゃなくて、ちゃんと「霧ヶ峰 命名昭和四十二年 品質本位 快適省エネ」と。お手軽にアイロンプリントしましたという安物じゃなく、シルク印刷してるっぽいのだ。霧ヶ峰ヤベー、マジ本気です!
さて、まな板というか机に乗った1匹の「FZシリーズ」。今朝、静岡製作所で水揚げされたとあって、丸々と太って脂も乗ってる。なにより新鮮で、黒い布きんの上から見てても、スクエアのいい形っぷりが分かる。
カバーを取ると会場に集まった100人ほどの報道関係者から「おぅ~」という歓声。三浦でやってるマグロの解体ショーのまんまじゃん!
ちょっとわかりづらいが、2つの丸い穴が開いている面が、エアコンの天井面。上を向いているのが正面となる。この写真を見ただけで「マジかよ?」と思う技術系の方も多いだろう。詳しくは後述しますが、ええ、マジなんです(笑)。
さて解体ショーを続けて見ていくと、室内機の制御基板を取り出したり、フロントカバーや風向を変えるフラップを解体。いよいよファンの白いカバーを外すと、メインイベントに突入!
ぬおぉー! 換気扇が2台入ってるー! 実はこれ換気扇のように見えて、最新技術をメチャクチャ盛り込んだ「パーソナルツインフロー」と呼ばれるもの。どんだけ凄いか? は、後述するとして先へ進もう。
さらに今度は、ファンの付いている送風ユニットを取り外す。驚きはその薄さ。扇風機の半分ほどしか厚みがないのだ。ファンの角度と形状、枚数を何度もトライ&テストして、この形に至ったんだろう(涙)。
「流体(空気の流れ)って、なかなかコンピュータのシミュレーションどおりに行かないものなんですよ」って、オレ大きな声で代弁しておきます!
がっ! 本当に注目すべきは、こっちの本体! 残りのスペースがW型の熱交換器で全部埋まっている! 今までのラインフローファンではできなかった構造に感動! 省エネ&冷暖房効果の効きが一味違うのは、これを見れば一目瞭然! 理由は後述するのでお楽しみに!
そして大きく重いラインフローファン1本を駆動するのではなく、軽いファン2台を駆動するため小型モーターも新たに開発。
小型化のポイントは、従来モーターの中に入っていた制御用半導体を外に出したこと。モーターを小型化でき、大きな翼面を持つファンを搭載できるようになった。
英国紳士並に寒がりレディーに優しいパーソナルツインフロー
最近の高級乗用車は、運転席と助手席でそれぞれ独立して温度調整できるエアコンが搭載されている。助手席の女性が寒く感じないように、少し設定温度を上げたりできるのだ。まるでジェームズボンド並みの英国紳士の気配りができるのが「霧ヶ峰 FZシリーズ」。寒がりさんのレディーに優しいのが特徴だ。
これまでのエアコンはラインフローファン1本で、風向を左右に振っているだけだった。そのため部屋を均一に冷暖房こそできるが、寒がりと暑がりの人が共存することができなかった。
しかしFZシリーズは、パーソナルツインフローを搭載しているので、エアコンから見て左側の暑がりさんには室温を下げ、右側の寒がりさんには室温を上げるという、家庭用エアコンとして革新的な機能を備えた。その左右の最大温度差は暖房なら3℃まで出せるという。冬なら暑がりさんには足元を23℃、寒がりさんの足元は26℃に自動で調節されるという具合だ。
扇風機と同じ羽でもウネリのない自然な風、これが霧ヶ峰のそよ風なのか!?
扇風機のようなプロペラを使った送風は、旋回流と呼ばれるうねりを伴った風になる。いわば小さな竜巻状の風ともいえるだろう。それゆえ扇風機は狙った1点にしか風が送れない(船のスクリューの気泡が直線状に後方に残るのが見えるアレと同じ)。
しかしFZシリーズは、ファンの後ろに案内翼というものを設け、旋回方向とは逆向きに案内翼を向けることで、より自然な風を送るようになっている。その構造は、プロペラを使っているとは思えない自然な風だった。
しかも案内翼は、外周と内周で羽の数が異なっている点に注目して欲しい。これによりファンの内側と外側の風の強さも均一化して、霧ヶ峰の高原のそよ風を作り出しているといえるだろう。
左右独立して回転数を変えられるファンだが、同じ回転数で運転すれば、従来のラインフローファンのように室温を均一にすることも可能だ。
また熱交換器の中央には仕切りを設け、気流の独立性を高めている。これによって2つのファンを違う回転数て運転しても、風に偏りができないようになっている。
開発当初は、左右を逆回転にしてモーターの共振(ビリビリなる現象:通称ビビリ)を抑える実験なども行なったそう。だが、多くの実験の結果、同回転でも共振がないことを実証できたという。
こうしてめっちゃこだわりを持った風を実際に浴びてみた感覚は、ラインフローファン以上に自然なそよ風という印象だった。霧ヶ峰高原の風ってこんな感じなのかなぁ?
決め手は超大型化できた熱交換器! 5年未来の省エネ性を実現
高効率で小型のハイパワーモーター、パーソナルツインフローの搭載。そして2015年モデルのエアコンに比べ、22%も大型化できたW字型熱交換器により、昨年モデル「MSZ-ZW565S」と比べて2016年モデル「MSZ-FZ5616S」は、13.3%の省エネ向上を実現している。
この数値は、2010年~2015年の5年かかってZシリーズで実現できた13.2%の省エネ性向上とほぼ同じ。つまりFZシリーズは、5年未来の省エネ性を先取りしたと言っていい。
ラインフローファンを使ったエアコンの熱交換器は、当初はI字、L字、コの字と進化し多くの空気が熱交換器にふれる(表面積が増える)ことで、高効率・省エネ化してきた。しかしここ数年コの字(ちょっと広げたク字が限界)で進化が止まってしまっていた。それは熱交換器の中にラインフローファンを挟み込む必要があったためだ。
霧ヶ峰 FZシリーズ技術陣は、技術が進化しなかった原因のラインフローファンを、エアコン上部に設置する超薄型パーソナルツインフロー(プロペラ)化することで、熱交換器を次世代のW字まで拡大。エアコン本体の半分近くを熱交換器にできたのだ。おそらくこれは他社への相当なアドバンテージになるだろう。
エアコンの熱交換器革命を起こしたと言っても過言ではないだろう。しかもW字がポイントなのだ。他の4画のMやロの字ではダメ。なぜなら湿気の水を排水するドレイン(排水路)がWだと2本で済むからなのだ。
静音性も高く感じたパーソナルツインフロー
これまでエアコンの静音性があまり問われることはなかった。どんなにエアコンを弱くつけていても、「コーー」というラインフローファンの音が当たり前としてされてきたからだ。エアコンの音をうるさいというのは、ラジオやテレビの放送関係者ぐらい。でもエアコンのスイッチを消して始めて分かる、エアコンの運転音の大きさ。
会場で筆者が耳にした運転音は、最新式のデスクトップパソコンや、高級DCモーター扇風機ほど。ほとんど音が聞こえないのだ。会場の天井が高いというのが原因かもしれないが、実際に家に設置したときの運転音はかなり静かになるだろう(原理的に考えて)。
ラインフローファンは羽の枚数も多く、ある程度の回転数がないと送風できない。それにくらべパーソナルツインフローは、羽1枚の面積が大きいぶん羽の数が少ないので、微弱な風なら回転数を下げても送風できる。つまりラインフローファンのような高い「コーー」という音があまりしないのだ。聞こえるのは、わずかに風を切る低い音。
しかもエンジニアに聞くと、相当に気を使って静音性を高めている。まず1点はエアフィルターの形状。従来式の四角い格子だと、ネットの部分を抜ける風と格子のワクを抜ける風がライン上になっている。ファンの羽はこれを直線状にバッサバッサと切るため風切り音が大きくなる。包丁でまな板を叩きつけるように風を切るところを想像して欲しい。
しかしFZシリーズのネットは、羽の形状にあわせた独自の格子。ネットと格子の間を抜ける異なる風に対して、羽が点状に空気を切る。例えて言うなら、竹を刀でスパッ! と切る感じ。ほとんど音がしないのをイメージできるだろう。
しかも羽の先には、わずかな切り欠きがついている。たったこれだけのことなのだが、ここに切り欠きがあることで1本の空気の流れをわずかに乱し、ほぐした状態の空気を羽で切ることで、風切り音を減らしているのだ。先の竹を例にするなら、切る直前に竹を少し繊維状ほぐして、刀でスパッ! とやるのでより静かになるというしくみ。
今回は静音性に触れていなかったが、次世代あたりから静音性能を謳いだすエアコンが登場するのではないだろうか? まあ、フル回転にしたらラインフローだろうとプロペラだとウルサイのはしょうがない(笑)。
解像度が桁違いの「ムーブアイ 極」
霧ヶ峰と言えば温度センサーのムーブアイ。部屋中をクルクル見回し、部屋のどこに何人の人が居るのか? 西日や直射日光が当たっている場所は? 空気が滞って温度ムラがある場所がどこか? などを内蔵コンピュータで解析し、送風する方向などを制御していた。
今回搭載された「ムーブアイ 極(きわみ)」は解像度が桁違いで、2015年モデルZシリーズの4倍となる18,392エリアを実現。
写真を見れば分かるとおり、初代ファミコンのドット画とWiiUの3D画像ぐらいの違いだ。ちょっと言いすぎかな(笑)。写真はエアコンに搭載されているムーブアイから、人や部屋がどのように見えているかを可視化したもの。
これまでは部屋に人が何人? というレベルでしか認識できなかったが、FZシリーズは人の顔、手、足の温度を見分け、それに応じて温度や気流をコントロールするようになった。
またこれまで左右180度しか見ていなかったが、360度見渡すようになっている。なぜそんな無駄なことをするのか? とエンジニアに質問すると、エアコンが取り付けてある壁の温度をしらべて、日光の状況も見ているのだという。それを「無駄なこと」と質問してしまった筆者は、ものスゲー凹んだのは言うまでもない。三菱電機のエンジニアスゲー!
人の頭、手、足を見分ける画像解析プログラムで、エアコンからの距離も3次元的に把握しているという。なおセンサーは、電源をOFFすると本体内部にヒュッ! と格納され、電源OFF時はがっちりスクエアデザインになる。
インテリアに調和するデザインと高い快適性を両立したモデル
体験会で合わせて同時お披露目されたのは、革新的なデザインの「FLシリーズ」。こちらは従来式のラインフローファンモデルだが、カッチリとしたスクエアデザインが革新的で、デザインにこだわり抜いたモデルだ。カラーはパウダースノウとボルドーレッドの2色を用意している。
「赤いエアコンなんて家には合わない」という場合は、ホワイトモデルを選べばいい。でもちょっと冒険して、リビングにボルドーレッドモデルを入れても、インテリアを損なうことなくマッチする。もちろん和室でも。
登壇したお二人によれば、塗装にはとくにこだわりがあり、大きなポイントとして赤も白も透明アクリルの裏面にヘアライン柄を浮き上がらせたという。
たしかに、このヘアラインが非常に微妙なデザインになっていて、ステンレスの金属のような質感にも、桐やスギ、ヒノキの美しい木目にも見える。しかも「プラスチックに印刷しました」的な安っぽさのかけらもなく、木の板に何重にもクリアコートを吹き付けたような高級感あふれる仕上がりになっている。
数10センチという間近で見ても、自動車の塗装のようなコーティング感が素晴らしい。木工をやる方には、ウレタンニスを数ミリ吹いた感じと言ったほうが通じるかも知れない。
ボルドーレッドの場合は、洋室に設置すれば、白い壁に落ち着いたボルドーレッドがワンポイントで映えるだろう。和室に設置すれば、高級感あふれるマホガニー系の茶色にも見えるはずだ。
ホワイトがどんな部屋にもマッチするのは説明するまでもないだろう。
エアコンに革命を起こした、霧ヶ峰「FZシリーズ」「FLシリーズ」
今まで当然のように使われてきたラインフローファンを、2基のプロペラファンにしたFZシリーズ。また、エアコンは隠すものという常識を覆して、魅せるエアコンを目指したFLシリーズ。エアコンの進化の中でも革新的な二台といえるだろう。
協力:三菱電機