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掃除にあわせて変形! 2万円台のシロカ紙パック掃除機が生まれた理由とは?

シロカの「らくらクリーナー SV-SK151」(直販価格24,860円)。左が本体を上に付けたスタイル。右が下スタイルだ

現在主流となっているコードレススティック掃除機に新しい潮流が生まれようとしている。それが紙パック式だ。大手メーカーも含めて、近年は紙パックを採用するコードレススティック掃除機が増えているのだ。

もともとスティック掃除機はダイソンがリードしながら市場が形成された経緯があるため、サイクロンの方式を採用するのがスタンダードだった。その中で吸引力の向上やバッテリー駆動時間の延長といった進化が進んでいった。そのとき、市場を奪われたのは、紙パック式のキャニスター型(本体とヘッド部が別体の)掃除機だ。

なぜ、また紙パック式掃除機が増えているのか。2月に紙パック式のコードレスクリーナー「らくらクリーナー SV-SK151」を発売したシロカの担当者にその理由と開発経緯を聞いた。

左からシロカのプロダクトマネジメント部 プロダクトマネジメント1グループ 西原康博チームリーダー、開発部 開発グループ 田中哲生グループマネジャー、同グループ 劉春輝チームリーダー

紙パック式の需要が高まったわけは?

シロカの「らくらクリーナー SV-SK151」はゼロから開発された新しい紙パック式のスティック掃除機だ。最大の特徴はモーターや紙パックなどが内蔵された本体部分の位置が変更できる「モーターユニット可変式」の採用。延長パイプやヘッドを取り外すと、モーターユニットを上位置または下位置へ組み替えができる。

また、紙パック式を採用し、ゴミに手を触れることなく捨てやすいのもポイント。もしランニングコストが気になる場合は、繰り返し使える不織布製のダストバッグも使用できるようになっている。

スティック状態のサイズは211×15.3×103.5mm(幅×奥行き×高さ)、重さは1.55kg。

このらくらクリーナーの企画はコロナ禍のステイホーム期に生まれた。製品開発を担当した劉春輝さんによると、「コロナ禍によって家庭内の掃除のニーズが高まったことが、開発のきっかけ」になったそうだ。

専用の紙パックをホルダーに取り付けて、本体に入れる仕組み

サイクロン掃除機が一定以上に普及したこともあり、フィルター掃除の手間やゴミ捨て時にホコリが舞う問題などを気にする声も大きくなってきた。

「コロナ禍で家の中の掃除の考え方が少し変わってきた印象があります。より清潔に使える掃除が欲しいという、原点回帰のような変化が起きました。そういう流れがあって、大手メーカーさんも紙パック式を出すようになってきているの状況だと思います」(西原さん)

シロカではこれまでのいくつかのスティック掃除機をラインナップしていたが、紙パック式掃除機は用意しておらず、企画開発は工場探しから始まったそうだ。

軽量化とバッテリー駆動時間のバランスでやり直しも

掃除機の企画はコロナ禍の時期にスタートしたという。目指したのは軽くてしっかり吸う、そして清潔に使える紙パック式のコードレス掃除機だ。しかも、掃除機市場での認知度が高くないだけに販売価格も3万円以下に抑えたい。開発は難航した。

「軽量化とバッテリー駆動時間、ゴミをしっかり吸うためのモーターや全体のプロポーションはどうするのがいいのか。吸引力を発揮するための紙パックの構造など、もともと知見があったわけではないので、ひとつひとつ考察しながら突き詰めて行くのに時間がかかりました。本当はもっと早く発売したかったのですが」(田中さん)

強力な吸引力でカーペットの上なども掃除できる

らくらクリーナーでは紙パックを固定するホルダーが取り外せるようになっており、ホルダーを持ってゴミ箱の上でクリップを外すようにするだけで紙パックが捨てられる。ゴミが入った後の紙パックを触らなくていいようになっている。吸引力を最大限活かすため、フロアヘッドから紙パック、モーターまでが一直線に並ぶデザインを採用した。

「紙パック(ホルダー)が入っていないと電源が入らないようになっています。そのままゴミがモーターに入っちゃうと故障の原因になってしまうので、そのあたりの構造もしっかり対策しています。また、吸引力をキープするために形状は変えず、しかも軽くすることに1番苦労しました。その部分で何回か作り直しが発生して時間がかかりました」(田中さん)

バッテリーはハンドル部に内蔵。延長パイプと本体(モーター部)の位置を入れ替えるだけで簡単にスタイルが変更できる仕組みだ。本体を上に配置すると、重心が上に来るため、機動性がアップする。また、延長パイプを取り外すことでハンディでも使える。それにたいして、本体を下につけた方が重心が下になるため、小さい力で床掃除ができる。掃除する場所に応じて切り替えられるわけだ。

本体の位置で、ソファー下などの掃除のしやすさが変わる。狭い場所は本体上の方が入りやすい

この本体の切り替え構造は企画段階からアイデアとしてあったが、開発の過程で今回の紙パック式で採用することになったそうだ。

「以前、従来の掃除機で、ハンディの状態の吸口と延長パイプの先にフロアブラシを付けた状態の吸口で吸引力を計測したらかなり違いがありました。モーターからの距離が違うから当然なのですが、だったらモーター部を床に近づければいいと考えました」(西原さん)

実際、らくらクリーナーでは、床掃除をする場合、本体を下に配置することでより強力に吸引できるそうだ。

ヘッド部

紙パックの素材やサイズはどうやって決まった?

試作機ができた後も、コスト問題による部品の変更や、少しでも軽くできないか、といった改良は続いた。中でも苦心したのが紙パックだ。らくらクリーナーでは約1カ月分のゴミが集められる0.33Lの紙パックを採用している。

「最初はもう少し大きいサイズの紙パックを考えていたのですが、そうするとどうしても本体サイズが大きくなってしまいます。また、軽量化とスリム化のためにモーターを変更したこともあって、紙パック側で吸引力とスリムさが担保できるよう調整しました」(西原さん)

左が不織布製のダストバッグ。右が紙パック。さまざまな生地を試した結果、1層式の生地を採用した。6枚入りが付属するので約半年分として使える
【訂正】初出時、左のダストバッグについて写真の説明が誤っていたため訂正しました(9月20日)

紙パックには大きさだけでなく、厚みによる違いがあるという。厚い方が微細な汚れが抜けにくいが、目詰まりしやすくなり、吸引力が低下しやすくなる。モーターとの組み合わせで、ベストな紙パックを追求していったそうだ。

「本体カバーを開けると、もっと大きな紙パックが付けられるように見えるのですが、紙パックでパンパンにすると吸わなくなってしまいます。空気の流れや吸引力のバランスを考えて現在のカタチになりました」(劉さん)

らくらクリーナーの紙パックは、他のスティック掃除機の紙パックの中でも小さめのサイズ。その代わりにゴミが溜まった状態でも簡単に取り外せて、触ることなく捨てられるのがメリットだ。

ホルダーのクリップ部を挟むだけでゴミ捨てができる「触れずにポイ」仕様となっている

シロカといえば、これまで調理家電や空調家電を数多く展開してきた家電メーカー。掃除機もラインナップにはあったが、低価格な製品が多く、注力しているジャンルではないイメージだった。しかし、らくらクリーナーはゼロから企画/開発するなど、非常に力が入っているのがよくわかる。直販24,860円という価格は、同社のこれまでのラインナップの中では最も高いが、そのユニークな使い勝手も面白い。

もちろん、大手メーカーの高級モデルと比べるとパワーやバッテリー駆動時間などで下回る部分はあるが、3万円以下と考えたら納得できる範囲であり、普及価格帯のスティック掃除機としては非常に魅力的。少人数世帯なら、これ一台でも家中の掃除ができそうだ。

コヤマタカヒロ

フリーランスライター。1973年生まれ。学生時代より雑誌ライターとして活動を開始。PC、IT関連から家電製品全般までに造詣が深く、製品やビジネスを専門的ではなく一般の方がわかるように解説するスタンスで執筆活動を展開している。近年は、デジタルとアナログ、IT機器と家電が交差、融合するエリアを中心に取材活動を行なっている。雑誌やWebに連載多数。企業のアドバイザー活動なども行なっている。 Twitter: @takh0120