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脱コロナの阪神甲子園球場に「LEDカクテル光線」が新たな感動を届けた

甲子園球場に導入されたLED照明

ついに声出し応援が解禁になった2023年シーズンのプロ野球。多くのファンが詰めかける全国各地の球場では、連日、大歓声が鳴り響いている。なかでも阪神タイガースは、主催試合での平均入場者数が12球団で唯一、4万人超(記事執筆時点)となり、たくさんのファンが選手たちに声援を送っている。

そのタイガースの本拠地こそ、ご存じ阪神甲子園球場だ。この球場では、2022年に照明をLEDに切り替えた。LEDにすることで得られるメリットは、従来の照明(HID照明)に比べて大幅に省エネ化して、環境に配慮できること。ナイター照明の場合だと、排出するCO2を約60%も削減できるという。

阪神甲子園球場は、2021年12月に環境保全プロジェクト「KOSHIEN “eco” Challenge」を宣言。エネルギーやリサイクルなどに関する様々な取り組みを行ない、「環境にやさしい球場」を目指している。2024年8月に誕生100周年を迎えるこの球場は、次の100年も愛される球場であり続けられるように“チャレンジ”を進めており、その一つであるCO2削減に大きく貢献しているのが、このLED照明というわけだ。

また、照明がLEDになったことによる新たな特徴として、瞬時に点けたり消したりできる滅点灯や、投光器の個別制御にも対応した。この切り替えによって、かつての甲子園ではできなかった照明演出で、今まで以上にファンを楽しませることが可能になった。

今シーズンも繰り広げられた熱い試合に想いを馳せながら、どのようにして甲子園にLED照明が導入されたかを振り返ってみたい。

“カクテル光線”をエコなLEDで再現する、前例のない挑戦

阪神甲子園球場にLED照明が導入されたのは、2022年シーズン開幕前のことだ。甲子園の照明といえば、オレンジと白の光が混ざった「カクテル光線」。LED照明の導入にあたっては、この色の光を再現することが至上命題に掲げられていた。

同球場では2007年から2009年にかけて大改修が行なわれ、そのときもLED照明の導入検討があったものの、カクテル光線の再現が当時の技術では不可能だったことから、見送られたという経緯がある。“伝統を継承しながらエコを実現する”ためのLED照明によるカクテル光線の再現は、2022年当時でも前例がなく、大きな挑戦となった。

その挑戦的プロジェクトを担ったのがパナソニックだ。同社は、2年もの開発期間を経て、甲子園専用のLED照明を開発。温かみのある暖色系の2,050Kと、白色系の5,700Kの、異なる色温度の明かりを混ぜることによって、その課題を解決した。

2つの異なる色温度のLEDを組み合わせて“現代のカクテル光線”を生み出した

さらに、テレビ中継で観戦する人にとっても、より自然な映像を届けられるように「演色性」を高めた。つまり、照らす対象である選手や芝生などの色を映像でも忠実に見られるわけだ。

そして大切なのは、照明の眩しさが選手たちのプレイに悪い影響を及ぼさないこと。実際に設置する前に「VRシミュレーション」によって照明の投射角度を綿密に1台ずつ調整。甲子園にしかないオリジナルの照明環境を作り上げた。

実際に阪神甲子園球場で使われている2種類の投光器
阪神甲子園球場のLED化の特徴や演出の例

LED照明だからこそ生まれた、ファンの新たな楽しみ方も

LED照明の導入によって、新たに可能になったことがある。それが、照明演出によるファンの盛り上げだ。LEDは従来の照明とは違い、瞬時の滅点灯や投光器の個別制御ができる。これにより、照明塔のなかに文字を出現させる、球場の照明を一斉に落とすなどの演出が可能になる。

照明塔のなかに浮かび上がる、阪神のTHマーク

阪神甲子園球場では、LED照明の特性を活かし、ホームランが出たときには照明塔に「HOMERUN」の文字を流す、7回のラッキーセブンでは、「7」の字を大きく表示するといった演出を、2022年から導入した。こうした演出はその登場時からファンを驚かせてきたが、今シーズンからはLED照明のおかげで実現した新たなイベントが、阪神ファンの間で親しまれている。それが「Panasonic presents VICTORY DISCO」(以下、ビクトリーディスコ)だ。

ビクトリーディスコは、阪神タイガースが勝利した試合後、ヒーローインタビューの前に行なわれるイベントだ。ディスコの名の通り、イベント中は場内に音楽が流れるのだが、このとき照明塔では音に合わせて波を打ったり星が流れたり、様々な演出が行なわれる。観客はオリジナルペンライトの「VICTORY DISCO LIGHT」を振って、勝利の余韻に浸りながら盛り上がる。その様はまるでライブ会場だ。

声出し応援が可能になったとはいえ、コロナ禍の前に名物だったジェット風船が禁止になるなど、従来の野球観戦の楽しみがなくなってしまった部分は確かにある。そんな状況下にあってビクトリーディスコは、球場の新たな楽しみ方を観客に提案している。

タイガースの野球中継を見ていて、ビクトリーディスコを体験した解説者が「昔はこんな演出考えられなかったですよね」などと発言するシーンも少なくない。それくらい、革新性のあるイベントなのだ。パナソニックのLED照明は、その革新性の一翼を担っている。

バックスクリーンのビジョンと照明塔のなかを、同時に虎が駆ける演出も2022年から導入されている

なお、今回の甲子園球場のLED化は、照明に関わる優れた技術を表彰する「第41回日本照明賞」にも選ばれた。カクテル光線をLED照明で再現したことや、高い演色性、「DMX」制御で試合を盛り上げるダイナミックな演出ができるようになったことなどが評価されている。この賞は直近数年で1年に受賞件数が1件だけと審査が厳しいことから“2023年で最もスゴい技術の照明”に選ばれたともいえる出来事だ。

阪神甲子園球場のLED化が「第41回日本照明賞」を受賞

CO2排出量を60%削減。環境にやさしい球場へ

阪神甲子園球場が取り組んでいるプロジェクト「KOSHIEN “eco” Challenge」は「廃棄物発生の抑止とリサイクルの推進」「再生可能エネルギー等の活用」「CO2排出量の削減」という3つの柱からなる。そのうちのひとつ、「CO2排出量の削減」を支えているのがLED照明だ。前述したとおり、LED照明へ切り替えることによって、従来比60%ものCO2排出量削減に成功している。

「CO2を6割減らす。でも感動は増やしたい。」

パナソニックのスポーツソリューションのCM「甲子園ソリューション篇」には、こんな言葉がある。阪神甲子園球場のLED照明は、その言葉に込められた想いを如実に叶えた。“LEDカクテル光線”は、興奮が渦巻く球場を、これからも温かく照らしていく。

(協力:パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社)