「太陽光発電を我が国の一大産業に」――JPEA片山代表理事が宣言

JPEA代表理事で、シャープ取締役会長の片山幹雄氏

 一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)は、7月1日から開始される「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」の施行に先立って、記者会見を実施。同協会の代表理事で、シャープ取締役会長の片山幹雄氏が、太陽光発電産業が日本経済を支えうる一大産業になると宣言した。


太陽光発電を、日本経済を支える巨大な1本の柱に

 JPEAは、太陽電池のセル・モジュールメーカーや、素材メーカー、施工会社などが加盟する、太陽光発電における業界団体。2012年6月現在、138の企業や団体が所属している。

固定価格買い取り制度の概要

 7月1日から始まる固定価格買取制度は、再生可能エネルギーの種別毎に買取価格を固定し、一定期間の買い取り価格を法律で義務付けしたもの。また、これまでは発電した施設で使用した電力の余り(余剰電力)が買取対象になっていたが、7月1日からは、10kW以上の非住宅(工場の屋根や遊休地)などの場合、発電した全量が買取対象となる。価格は税込1kWh当たり42円(税抜で1kWh当たり40円)、買い取り期間は20年間となった。

 会見では片山氏が、再生可能エネルギーの固定価格買取制度を歓迎した。

 「当協会ではこれを機に、我が国の一大産業に育てていきたい。すなわち、太陽光発電業界だけの成長に留めるだけでなく、それを雇用の拡大、活発な投資の呼び込みにつなげ、日本経済を支えうる、太くてガッチリとした、巨大な1本の柱にしていきたい。全量買取では、仮に消費税が上がっても価格は上がらないため、予見性を持った投資判断ができる」

 なお出力10kW未満の住宅については、従来通りの制度で変更はない。買取は余剰電力で、価格は税込で1kWh当たり42円、買取期間は10年間となっている。

固定価格買取制度により、太陽光発電の市場は拡大。2012年度は、自然エネルギー全体の8割を占める計算となる

 政府によると、2012年度における太陽光発電の導入見込みは、住宅用は2011年度の約400万kWからプラス約150万kW、非住宅では2011年度の約80万kWからプラス約50万kWに増える予測となっている。再生可能エネルギー全体では、2012年度からプラス約250万kWとの予想で、このうち太陽光が8割(プラス約200万kW)を占める計算となる。

 「これだけの大きな期待をいただいている。当協会でも重く受け止めている。固定価格買取制度と余剰電量買取制度の2つの組み合わせは世界にない。エネルギーが不足した日本において、導入できたのは非常に大きい」(片山氏)

普及に向けて「PV施工技術士」の資格や、点検ガイドラインの策定も

 片山氏は続けて、今後の太陽光発電の普及に向けて「安心・安全」と「長期信頼性の確保」が重要とした。

 「余剰電力買い取りでも最低10年、全量買取では最低20年、あるいはそれ以上の長期間の使用を前提とする。長期信頼性の確保は非常に重要」(片山氏)

新たに「PV施工技術士認定制度」という資格制度もスタートする予定

 そこでJPEAでは、新たに「PV施工技術士認定制度」を、今年度中に開始する予定となっている。これは、JPEAが2009~2011年度にかけて、施工技術の底上げを図るために実施した講習会や施工研修にて得られたノウハウやテキスト、資料などを用いて、試験を実施。合格者に「PV施工技術士」の資格認定を行なうというもの。

 「現在太陽光発電システムの設置は、各パネルメーカーの施工研修を終了した方が行なっている。しかし市場の拡大により 施工者数の増加が見込まれる。認定制度を導入することで、施工品質の維持と向上ために不可欠な施工者の技術レベルの確保が可能となり、全体の施工品質の底上げにつながるものと期待している」(片山氏)

 さらに、PV施工技術士が住宅用太陽光発電システムをチェックする「住宅用保守点検ガイドライン」も、運用の準備を進めるとした。

 「出力50kW以上の発電設備については、法的に点検が義務付けられているが、10kW未満の住宅には点検義務がない。そこで、日本電気工業会(JEMA)による小出力太陽光発電システムの保守点検ガイドラインに加え、当協会独自の施工に関する点検項目を追加し、システム全体を網羅する点検を行なう。正常に稼働していることが確認できれば、点検済みであることを示すシールを貼る、といったイメージになる。今後は運用に向けて議論を深めていく予定」(片山氏)

太陽光発電システムの運転状況を確認する仕組みの導入も検討しているという

 また、片山氏は「検討を始めたばかり」と前置きしたうえで、太陽光発電システムの運転状況を確認する仕組みも導入する予定とした。

 「太陽光発電システムは屋根に設置されており、動作しても音が発生しない。異常が発生しても、お客様はわかりにくい。システムに異常があった場合 確認する仕組みがあればお客様の安心・安全につながるとしている。ただ現在はまだ、何をモニタリングするか検討しているところ」


新ビジネス「屋根貸し」で、マクロ経済にも好影響を

 片山氏はさらに、太陽光発電がマクロ経済にも好影響を与えることを、液晶事業と比較して説明した。

 「液晶は太陽光発電と同様に、極めて長い歴史を持つ。しかし、さまざまな用途拡大を計った結果、パソコンやテレビといったアプリケーションで、一気に巨大な産業に成長。現在は1,000億ドルを上回る規模になったが、この数値はパネルの出荷だけを取り出したもので、パソコンやテレビなど、液晶に関わるすべての産業を含めれば、もっと巨大な市場になる。これとまったく同じ、それ以上のポテンシャルが、太陽光発電にはある。

 太陽光発電は材料や製造装置、パネルの他にも、パワコンや架台などが必要になる。さらに、建設や施工、保守、投資や融資といったファイナンス、発電事業など、極めて広い産業分野に及んでいる。施工には多くの雇用が生まれ、遊休地や地方の活用により、地方の活性化にも寄与する。金融商品のように取り扱われ、多くの資金を集めることにもつながる。また、20年に渡って同じ金額での買い取りが保証されると、年金など長期資金の運用に適している。民間からも再生可能エネルギーのファンドやビジネスモデルが出ることを期待している」

片山氏が例として挙げた、液晶産業の四半世紀。業界で1,000ドルを売り上げる産業に成長した太陽光発電は産業領域は、液晶産業よりも広いという発電からファイナンスなど、様々な分野に波及効果が出るという
「屋根貸し」という新たなビジネスモデルも構築できるという

 ここで片山氏は、「屋根貸し」というビジネスモデルを例に挙げ、その可能性を示した。

 「これまでの太陽光発電では、住宅のオーナーが自ら導入し、余剰電力と売電を行なっている。しかし、住宅ローンに加えて太陽光発電を導入するという追加の負担がある。一方、事業者にとっては、用地確保の問題がある。

 そこで、パネルが設置されていない屋根を貸与するビジネスモデルに注目が集まっている。住宅オーナーは、屋根の賃料として安定した収入が得られ、事業者側は設置場所ができる。このビジネスモデルが本格的になれば、住宅のみならず、太陽光発電の普及が加速的に広まっていける」


日本全体の起爆剤に

国内経済の活性化につながるというイメージモデル

 片山氏は最後に、新制度のメリットについて「太陽光に投資を増やすことで眠っている資金を呼び起こす。投資が拡大すれば、広い範囲の産業に波及効果を与え、雇用を拡大、経済が発展し、多くの産業分野に再投資がされる。お金がぐるぐる回れば、日本はやがて元気を取り戻すに違いない。固定価格買取制度を、日本全体を良くしていくための起爆剤として、必ず成功に導いて行きたい」と説明した。

 今後のロードマップについては、累積設置発電容量が2010年時点で3.5GWのに対し、2020年には28GW、2030年には100GWに成長すると見ている。

 「100GWは、日本の総電力消費量の約10%以上に当たる。これだけのエネルギーを、国産のエネルギーでまかなえるという点では、エネルギーセキュリティの面でも重要。また、日本国内で100GWを実現するころには、日系企業は世界で約10兆円、日本以外で2兆円の市場規模になっている。世界では200万人、日本で40万人の雇用を創出すると見込まれる。まさに一大産業といえる」(片山氏)

 

2030年には、日本の総電力消費量の約10%に当たる100GWまで伸びるという国内だけでなく、国外へも産業が拡がり、雇用が創出されるという

 また、固定価格買取制度は「(制度開始から)3年間は特に配慮されることになっており、進めていくうえで政策的な課題も出てくる。それをまとめて、政府にも提案していきたい」と、制度自体の検証も行なっていくとした。






(正藤 慶一)

2012年6月29日 19:37