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花王、殺虫成分を使わず蚊を濡らして駆除する新技術
2023年6月22日 06:05
花王のパーソナルヘルスケア研究所は、蚊の体表面に着目した新技術の情報を公開した。界面活性剤水溶液をミスト状にして蚊に噴霧するだけで、簡単に蚊を駆除できるという。
これまで培ってきた界面科学の知見と蚊の行動、体表面の観察から、界面活性剤を用いることで蚊を濡らして駆除できることを発見。界面活性剤による物理的殺虫技術は、従来の蚊の駆除に用いられていたピレスロイド類をはじめとする殺虫剤とは異なる作用機序を持つため、抵抗性を獲得しにくいと考えられ、蚊の駆除へ持続的に利用できることが期待されるとする。
近年ピレスロイド類に対する抵抗性を持ち、殺虫剤で死なない蚊が増加していることが東南アジアなどで確認されており、蚊が媒介する感染症の拡大を抑えるために、新たな駆除方法の開発が求められていた。
蚊の体の表面は、非常に細かい凹凸のある構造をしており、ワックスなどの疎水性の成分で覆われ、極めて水になじみにくいという特徴がある。そのため、蚊の羽や体の表面は水をはじき、雨でも濡れることなく、水場で産卵・羽化することができるという。
同社は2020年に、蚊の脚をシリコンオイルで濡らすことによって、肌への降着を抑制し、蚊に刺されなくする技術を開発。この知見から、蚊の体や羽を濡らすことで蚊の飛行行動を変えられるのではないかと考え、界面活性剤に着目した。
界面活性剤には、物質と物質の境界面(界面)に作用して、性質を変化させるという働きがあるため、水に界面活性剤を添加すると、その水溶液の表面張力は低下し、水をはじく表面にもなじみやすくなるという。さらに、表面張力低下能の高い界面活性剤を用いると、効率的に蚊の表面を濡らすことができるとする。
結果、水を蚊に噴霧しても、蚊は水をはじくため飛行行動に影響が出ることはないが、効率的に蚊の表面を濡らすことができる界面活性剤水溶液は、ミスト状に噴霧して吹きかけるだけで簡単に蚊を落下させることができた。
また、水あるいは界面活性剤水溶液を付着させた時の蚊の羽ばたきの様子を解析すると、水を付着させた場合には、羽で水をはじくことができるため、蚊は飛行を続けることができた。一方で界面活性剤水溶液を付着させると、羽が濡れて動かすことができなくなることが確認できたという。
蚊は他の飛翔昆虫と比べて速い羽ばたきにより、正確な飛行と姿勢を維持しているが、界面活性剤水溶液は、蚊の羽や体をすばやく覆うため、蚊が正確な飛行行動をとることができなくなり落下する可能性が考えられるとする。
さらに、表面張力がより低い液体を蚊に付着させることで、蚊をノックダウン状態にまで至らせることができるという。気門と呼ばれる体表面の穴に、表面張力が非常に低い液体が付着すると、酸素を含む空気の取り込みができなくなり、ノックダウン状態を引き起こすと考えられるという。
本研究は、特定国立研究開発法人 理化学研究所脳神経科学研究センター 知覚神経回路機構研究チームと共同で行なわれている。