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宅配ロボットが4月から街を走る? 法改正で期待される未来と課題
2023年3月28日 13:15
4月1日に、自動配送ロボットなど遠隔操作型小型車の交通方法などを規定した、改正道路交通法が施行される。これまで原動機付自転車(原付)や軽車両扱いで、ナンバープレートの取得が必須だったが、今後は、一定の条件をクリアして都道府県公安委員会への届出をすれば、自動配送ロボット単体で歩行者同様に公道走行が可能になる。
この改正道路交通法の施行を前に、経済産業省とロボットデリバリー協会は、「自動配送ロボットの社会実装に向けて」と題した記者発表会を実施。自動配送ロボットの実演も行なわれた。
なお「遠隔操作型小型車」とは、主に自動配送ロボットが想定されている。同ロボットは、自律走行を基本としているが、遠隔からの操作が可能であることを必須としている。
2020年度から続けられてきた実証実験
経済産業省によれば、2020年度以降、全国各地で複数の民間事業者による自動配送ロボットの実証実験が実施されており、都市部だけでなく住宅街や地方部でも、活用の検討が進んでいるとした。実証の具体例は以下のとおり。
都市部では東京都中央区の佃・月島エリアで、ENEOSホールディングスやZMPが、飲食店やコンビニなど複数店舗の商品を顧客に配送。その際、ガソリンスタンドを、ロボットの充電やデリバリーに関する拠点としている。
またパナソニックホールディングスは、神奈川県藤沢市の「Fujisawa SST」にて、店舗から個人宅への日用品などの配送サービスを行なってきた。実証実験では、1名のオペレーターが、遠隔で4台同時に監視しながら公道を走行している。
一方の地方部では、福島県会津若松市にて、TISなどがスーパーの商品を、タクシーや路線バスでリレー輸送し、ラストワンマイル部分を自動配送ロボットが配送している。
4月1日以降は、ほぼ歩行者と同様の扱いになる
改正道路交通法が施行される4月1日以降は、都道府県公安委員会への届出制となる。もちろん最高速度や車体の大きさ、公道の通行方法など、一定の条件をクリアしていることが必要だ。
具体的には、最高速度は時速6kmで、車体の大きさは現行の電動車椅子相当の70×120×120cm(幅×奥行き×高さ)を超えないこと。また、通行場所は歩行者と同じで、歩道や路側帯、道路の右側端で、信号や道路標識などに従い、横断歩道を通行する。重要な点として、歩行者に進路を譲らなければならないことが定められている。
走行させるには、遠隔操作型小型車を通行させようとする場所を管轄する、都道府県公安委員会への事前届出が義務。届出事項としては、使用者の氏名などのほか、通行する場所、遠隔操作を行なう場所とともに、非常停止装置の位置、ロボットの仕様などが必要となる。
なお警察官などは、危険防止のため、遠隔操作型小型車を停止または移動させることができる。都道府県公安委員会は、使用者が法令に違反した時は、必要な指示(措置をとるまでの間の通行停止を含む)を行なうことができる。
各メーカーなどが開発した遠隔操作型小型車については、ロボットデリバリー協会が、安全基準への適合を審査し、合格証を交付する。使用者は、合格証を添付して都道府県公安委員会へ届出を行なった上で、道路交通法等の法令と協会のガイドラインに従って、遠隔操作型小型車を安全に運行させる。
ロボットデリバリー協会代表理事の佐藤知正さんに、自動配送ロボットに関する展望をうかがった。
「本当に自動配送ロボットが、例えばUber Eatsのように役に立つという認知が広がっていき、ビジネスとしてどんどん展開されていくことが非常に大事なことです。そうなると、いろんな場面で使われるようになりますよね。同時に、技術的にも進化していき、こんな新しい使い方もあるのかっていうアイデアが出てくると思うんです。そういう意味で、いろんな可能性を秘めていて、今後が非常に楽しみです。逆にいうと、今後の予測がつかないということでもあります」
佐藤さんは、産業技術総合研究所(産総研)の前身の電子技術総合研究所(電総研)の出身。小型ロボット開発を50年以上にわたって研究してきたという。例えば、原子力発電所内などで、作業する小型ロボットの研究などに携わった。
「人の立ち入りが難しい場所なので、遠隔から操縦する小型ロボットです。研究している時には、原発などの危険な場所以外で、使われるなんて想像もしていませんでした。それが、新型コロナ禍になった時に、全世界がある意味、人が立ち入りたくない場所になりましたよね。それで、レストランチェーンなどでは、配膳ロボットなんていうのが結構流行り始めました」
「今は全部遠隔にしなきゃいけない……遠隔作業ロボットの研究って、こんな風に展開するんだって思いました。研究開発している当時は、予想もしませんでしたよ。だから、自動配送ロボットのようなものも、いま予想しているものとは、全く違う展開を、これからしていくかもしれません。始めてみて分かることって、いっぱいありますよね」(佐藤さん)
佐藤さんには、自動配送ロボットが街中を走っていると、例えば子供などが前方を遮り、停止させてしまうようなことが頻発してしまわないか? という質問もしてみた。
「そういうこともあるでしょうね。子供って、意外と敵対的な行動を取るものです。でも、それを僕はいいことだと思っているんですけどね。そういう風に、人とロボットが触れ合うみたいなことは、いいことです」(佐藤さん)
ロボットが街中を走り回るようになり、人とロボットがどう関わりあっていくか、今後が楽しみなところだ。
配送ロボット開発における今後の課題は?
経済産業省の中庭には、パナソニックや三菱電機、本田技術研究所などの8機種の配送ロボットが集結。いくつかの実演が行なわれた。
まずは本田技術研究所と楽天グループが走行実証実験をしている、自動配送ロボットが登場。指定した配達場所に行くと停止し、人が近づいて暗証番号を入力すると、商品を入れた扉が開けられるようになるというもの。
前述のロボットデリバリー協会代表理事の佐藤さんが、中に入っている食パンなどを取り出してみせた。
また、パナソニックホールディングスは、神奈川県藤沢市「Fujisawa SST」で実験中の自動搬送ロボットを使い、衝突回避機能の実演を行なった。
同ロボットは、東京都千代田区の実演場所から数キロ離れた、東京都港区汐留から遠隔監視を行なっている。その自動搬送ロボットの前に人が飛び出すと、ロボット側が認識して、即座に停止。停止後は、遠隔からロボット周囲の安全確認を行なった後に、改めて走行が開始される。
実演時に解説をしていた、パナソニックホールディングス・テクノロジー本部 デジタル AI技術センター・モビリティソリューション部の主幹技師、藤川大さんに、自動配送ロボットの進化について話を聞いた。
「やはり自動で走行するロボットということで、基本的に自動で走行する車と同じようなシステムが使われています。検知とか認識とか判断とか制御とか、そういうものをロボット側で動かして、安全に自動走行しています。そうして車と同じようなシステムを使っていると、どうしてもコストが高くなってしまいます。そのコストをいかに抑えていくかというのが、メーカーや事業者としては、ポイントになってくると思っています」(藤川さん)
安全走行に関する技術などについては、完成している。また道交法の改正により、法的にも運行しやすい環境になった。だが、気軽に利用するには、コストの問題が立ちはだかってくる。そのコスト面で競争力を備えることが、今後は必要だという。
「例えば、1人が遠隔監視できるロボットが1台だとしたら、それだけコストがかかるため、あまり導入メリットがありません。現在、4台を運用しているFujisawa SSTでは、この遠隔監視を1人で行なっています。今後は1人で、もっと多くの自動配送ロボットを監視できるようにする必要があります」
「さらに運行エリアを増やしていく、広げていく必要もあります。そうした時に、1人から2人で監視管理できれば、働き手を減らせますし、コストを抑えることもできます。こうした省力化に関する開発が、重要になっていくと思っています」(藤川さん)
運用コストが下がってくれば、当然、利用したいという人が増えてくるだろうし、用途も広がりそうだ。例えば街の中華屋さんが、「うちも配達に使いたい」と考えるようになるかもしれない。
「そうですね。そうなったら面白いですよね。ラーメンとか運んでみたいですよ。ラーメンがこぼれないようにするジンバルみたいなものの開発も始めたり」
「でも、そのくらい気軽に利用してもらえるようにしたいです。配達や配送用途だけでなく、自宅に1台の搬送ロボットを持っているなども、将来としては考えられなくもありません。例えば3時になったら、勝手にスーパーへ買い物に行ってくれるとか。または子供の下校時に迎えに行って、子供はランドセルだけをロボットの中に入れて、どこかへ遊びに行くとか……そういういろんなアイデアが、これから出てくると思います」(藤川さん)
自動配送ロボットの開発メーカーも、配送用途だけでは、マネタイズとしては厳しい面もあるだろう。なお現在は、1台いくらという販売方法ではなく、遠隔監視も含めた自動配送ソリューションのリースという形のため「1台いくらくらいするの?」という質問に対しては、利用方法などの導入事例によって異なる、といった答えになる。
自動配送ロボットの利用の広がりとともにコストが下がっていけば、欲しい人が購入しやすい日が到来するかもしれない。4月1日の改正道路交通法の施行は、そんな将来に向けた大きな前進といえそうだ。