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一人暮らしに食洗機は必要? パナの「ソロタ」何がすごいのか聞いた

SOLOTA(ソロタ)「NP-TML1」

パナソニックから2月中旬に発売された、一人暮らし向けの食器洗い乾燥機「SOLOTA(ソロタ) NP-TML1」。20〜30代の一人暮らしをしている人たちをターゲットにしており、工事不要でコンパクトな点が特徴だ。今回は同機の開発メンバーから、一人暮らし向け食洗機の開発に至った経緯や、食洗機のデザイン秘話などを聞いた。

SOLOTAは単身世帯の狭いキッチンでも置けるように、本体の接地面積はA4ファイルほど。また、一般的な食洗機で必要になる分岐水栓の工事が不要な給水タンク方式を採用。賃貸住宅での一人暮らしでも置けるような仕様としている。

価格はオープンプライス。店頭予想価格は38,000円前後。直販サイトでの価格は37,620円で、サブスクリプション型の定額利用サービスでは、月額1,290円で使用可能。

そもそも一人暮らしでも食洗機が必要なのか?

SOLOTAに繋がる製品開発のプロジェクトがスタートしたのは、2年半前のこと。プロジェクトのスタート時には、ターゲットと同世代の、20〜30代を中心としたチームが結成された。そして企画を練り上げていく中で、同世代がどんな食生活をしていて、どんな家電製品またはサービスを欲しているかが話題になったという。

そこでまずは、メンバー間で「きのう何食べた?」という軽い感覚で、それぞれの夕食の写真を持ち寄ることになった。製品デザインを担当する松本優子さんも、自身の平日の夕飯を写真に撮って、開発ミーティングに参加したという。

「当時は、コンビニで買ったパウチのハンバーグだったり、お惣菜であったりというような、まさに中食メインの食生活でした。そのため使う食器の数は、多くありません。それでも、その食器洗いというのは面倒で、後回しにしがちなところがありました。特に私は食器を溜めがちなタイプなんですよね。

『洗い物せなあかんな』っていう、その意識自体が、ちょっとしたストレスになっているなという気づきが、その時にありました」

パナソニック くらしプロダクトイノベーション本部 デザインセンター 松本優子さん

特に洗い物は、「やらなければいけないこと」の1つである一方で、いつまでに終わらせなければいけないという、締め切りがない。それだけに、多くの人が食器洗いを後回しにしがちなはず。そして後回しにするため、いつまで経ってもタスクが終了せず、「やらなければいけない」ことを「やっていない」ことに対するストレスを、抱えたままにしがちだ。

そのストレスは、洗い物が少なくても発生するもので、一人暮らしでも常にストレス発生の原因が存在している。そこでプロジェクトチームは、“中食中心”の“一人暮らし”にターゲットを絞った、食器洗い乾燥機「SOLOTA」の開発をスタートしたという。

目指したのは“食器が洗える食器棚”

プロジェクトチームは、中食中心の食生活を送る一人暮らしでは、どのくらいの食器を洗うものなのか、またどのくらいの本体サイズであれば、許容されるのかの検討に入った。

洗える食器の種類や点数などについても、一人暮らしのメンバーが持ち寄った、自宅での食事風景を参考にしたという。

「やはり一人暮らしだと、決して多くの食器を使わないことが分かりました。大きめなプレート皿が1枚か2枚で、朝食と昼食で同じ食器を使う人も多いです。そのため、小皿やお椀などを加えても、1日に使う食器は6点程度だと推定しました」

そう語ったのは、技術担当の楠健吾さん。6点が洗える食洗機であれば、例えば朝食に、トーストと目玉焼きをのせた大きめの皿と、サラダをよそった小皿、それに飲み物を入れたマグカップなど、洗い物は多くても3点+αといったところだろう。食後は、それらを食洗機に入れて、ワンボタンで洗浄がスタートして、ユーザーはそのまま仕事に出かけてもいいし、在宅勤務日であれば仕事に取り掛かることもできる。

さらに在宅勤務日や休日であれば、昼食+夕食分の皿を、夕飯後に一度に洗える。また出社日であれば、昼食は自宅以外で食べることになるため、朝食と夕食分という1日分の洗い物を、一度に洗える可能性も高くなる。

そうした食洗機があれば、食器を洗う時間そのものが自由になるだけでなく、前述したような「洗い物をしなくては」というストレスを、溜め込むこともなくなる。

パナソニック キッチン空間事業部 食洗機技術部 楠健吾さん
単身世帯の使用食器数
6点が洗える食洗機があれば、1日1〜2回の洗浄でOK
SOLOTAは、食器6点と箸などのカトラリー類を一度に洗える

設置のハードルを極力下げる

SOLOTAのターゲットは、20〜30代の単身世帯。つまり、これまでに食洗機をキッチンに置こうとは思わなかった人たちだ。そうした人に使ってもらうには、前項で記した食洗機のメリットを示したうえで、設置が容易であったり、物理的に無理のないサイズであることも求められる。

そうした本体サイズの決定は、非常に難しかったと、製品デザインを担当した前述の松本さんは語る。

「メンバーの1人から『このくらいなら置ける』ということで、キッチンに靴箱(スニーカーの空き箱)を重ねて置いた写真が、送られてきました。その写真を見ながら、このくらいにしたいなとは思うものの、本体サイズは小さければ小さいほど設置しやすくなる一方で、小さすぎると必要な食器点数が入らなくなります。そうした点を考慮しつつ、サイズを決めていきました。

またキッチンに食洗機を置いたうえで、軽い調理作業ができるようにしたいと考えました。そこで、特に本体の薄さ(奥行き)に関しては、非常に突き詰めていったポイントです」

製品サイズが決まると、次はそのサイズで実際に製品を作れるのか? という課題を解決する必要がある。そうした技術面での難しさを、技術担当の楠健吾さんが語ってくれた。

「これなら置いていただける、これなら十分な容量だという製品サイズが決まった時に、技術者としては『本当にこのサイズでできるかな?』ということが、脳裏をよぎります。そして、目標とするサイズを達成するためには、あらゆる部品の小型化が必要です。

SOLOTAの開発にあたっても、ヒーターポンプやノズル、操作基盤など全ての部品を小型化しました。例えばノズルに関しては、ファミリー向けモデルの2まわり、もしく3まわり小さくしています。小さくするだけでなく、小さな部品を使っても、庫内の隅々まで洗い切れる、高い洗浄性能を担保する必要がありました」

小さな部品でも洗浄機能を高めるために、コンピューターによる流体解析を行なうなど、検証を続けていったという。

左がファミリー向け機種のノズル。右がSOLOTAのノズル
庫内底部に設置されたノズル

さらに設置のハードルを下げるため、分岐水栓の工事が不要な給水タンク方式を採用。給水タンク自体も、本体に収納できる必要があるため、洗浄に使える水の量が限られるのだ。ちなみに同機の給水タンクの容量は、約2.5L。

「その限られた水量で、洗い切れるものにしなくてはいけない、というのが難しいポイントでした」

SOLOTAの場合は、洗浄がスタートすると、給水タンクから出た水が庫内ヒーターで温められる。その後ノズルから噴射されて、食器の洗浄に使われる。噴射した水は食器に当たった後に、排水せずに庫内で回収されて、またポンプからノズルに向かって送り出され……というのを繰り返して食器を洗っていく。

スタートボタンを押すと、ノズルから温水が噴射されて食器を洗浄。噴射された水は回収されて、またノズルから噴射される

開発が進み、製品の本体サイズが、最終的に約310×225×435mm(幅×奥行き×高さ)に決まっていく。あとは、デザインをどう考えて決めていったのか? 再度、松本さんが説明した。

「できるだけ小さく見えるようなデザインにしたいという思いは、開発メンバーと共有していました。そこで私が注目したのが、見せる収納です。オープンシェルフですね。ああした軽やかでスッキリとしたたたずまいを、SOLOTAでは目指したいと考えました。そこで、食器を洗える棚というのをコンセプトにして、デザインを進めました」

具体的には、上下のツートンカラーを採用。オープンシェルフのエッセンスを加えつつ、キッチンに置いた時にも物量感を軽減できると考えたとする。また、本体の前方だけでなく背面にも、クリア窓を大胆に配置しているのもポイントだ。

「本体の前だけでなく背面もクリアにすることで、抜け感を実現して、さらなる物量感の軽減につなげたいと考えました」

背面にもクリア窓が配置されているため、食器を入れていない状態では、抜け感が実現。見た目は、ヒョイと持ち上げられそうな軽量感を感じる

前述の楠さんによれば、庫内で激しく水を噴射させる食洗機で、前後方の両面にクリア窓を配置するのは、水漏れの問題などもあり技術的に難しい。だが、楠さん自身も、製品のターゲット世代の1人として、また一人暮らしをしていた経験から、『このデザインだったら置いていただける』と強く感じたそう。そこで「なんとか松本デザインを実現したいという一心で、取り組みました」と振り返っていた。

クリア窓だけでなく、細かいところまでデザイン的な配慮が施されているのが、SOLOTAの特徴。その代表例が、製品をぐるりと周って確認しても、ビスなどの部品が見られない点だ。

デザインの良し悪しは好みによるが、製品を目の前にして分かるのは、非常に無駄のないシンプルなデザインだということ。SOLOTAであれば、狭いキッチンにでも置いてもいいかな……と思う人は多いだろう。

操作ボタンは、2つだけとシンプルな設計
本体の背面に回り込んで見ても、スッキリとしたデザイン。ビスなどの部品も見られない