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ダイキン、2020年度に向けた経営計画を発表、売上高2兆9,000億円、営利率12%を目指す

 ダイキン工業は、2016年から2020年までの戦略経営計画「FUSION20」について、後半計画を6月5日に発表した。

短期の収益力と長期の成長性を両立させながら取り組んできた「FUSION20」

 まず2020年度の目標として、売上高2兆9,000億円、営業利益3,480億円、営業利益率12%を掲げた。3年間累計のフリーキャッシュフローは3,150億円。また、AIやIoTなどの新技術分野やソリューション事業の拡大、工場生産能力の増強などを目的に、2020年度までの3年間累計で3,600億円を投資。また、研究開発投資は2,200億円を予定している。

 ダイキン工業の十河 政則社長兼CEOは、「FUSIONは、短期の収益力と長期の成長性を両立する、ぎりぎりの接点を考えて取り組んできたものであり、市場変化に合わせて、短期の収益を徹底的に重視したり、長期の成長を優先するなど、柔軟な判断で経営を進めてきた。また、経営環境や市場動向、ライバル動向が当社の事業に大きな影響を与えるときには、変化を先取りして、重点戦略として定めたものであっても見直していく。

 定量的な目標については3年先を明確に設定し、これをきっちりと達成していく。1996年以降、FUSIONで掲げた定量的な目標は、リーマンショック時を除いて、すべて達成しており、これによってステークホルダーからの信頼を勝ち得てきた」と振り返った。

2020年度の目標は、売上高2兆9,000億円、営業利益3,480億円、営業利益率12%
「FUSION20」は、短期の収益力と長期の成長性を両立させながら取り組んできたという
リーマンショック時を除き、定量目標は達成

 そして「FUSION20は、既存事業を徹底して伸ばす一方、新分野に挑戦して、事業構造を変革していくことにも取り組むものである。後半計画においても、基本方針は不変であり、成長発展に向けて必要な投資を引き続き行なっていくが、取り巻く環境は変化している。

 IoTやAI技術の急速な進歩とビジネス展開の拡大、グローバルにおける環境規制の強化や環境意識の高まり、そして、モノからコト、所有から利用へといった変化もある。この変化をチャンスとして捉えて、その要素を後半計画に取り込むことにした」と語った。

ダイキン工業 代表取締役社長兼CEOの十河 政則氏

 時代を先取りする取り組みとしては、省エネ機器やサービス、ソリューション事業の展開と、低炭素社会の実現に貢献するという2点から投資を加速する。事業環境の変化に素早く対応し、エネルギー、サービス、空間エンジニアリング、低GWP化に向けた取り組みを重点的に強化。空調、化学、フィルターによる既存事業の一層の強化を図る考えだ。

時代を先取りする取り組みとして、省エネ機器・サービス・ソリューション事業の展開と、低炭素社会の実現貢献が挙げられた
「FUSION20」の重点戦略テーマ

 十河社長兼CEOは、「今後3年間の投資額は、研究開発投資を含めて約6,000億円規模となり、従来のペースに比べて大きなものになる。M&Aは、この投資計画のなかには含まれていないが、今後3年間も積極化していきたい」と述べ、「ありたい姿として掲げた売上高3兆円という目標は、あきらめたわけではない。まずは2兆9,000億円へ確実に達成し、3兆円にも挑戦したい」と意欲をみせた。

 また、「2020年度に向け、新たに構築した事業基盤の上に立ち、真のグローバルエクセレントカンパニーを目指す。だが、グローバルエクセレントカンパニーの営業利益率の水準はもう少し高いところにある。それを目指すことも視野に入れたい」とも述べた。

3年間の投資計画は6,000億円を見込む

「FUSION20」の前半では、将来の成長に向けた先行投資を積極的に展開

 2016年度にスタートした「FUSION20」は、5カ年の長期経営計画で、2018年度はその中間年度にあたる。

 FUSION20前半計画では、米国およびアジアでの生産能力の増強、サービス、ソリューションやフィルターなど重点戦略事業を中心としたM&Aの実施など、将来の成長に向けた先行投資を積極的に展開。原材料市況高騰の影響を受けるなかでも、販売力強化、高付加価値商品の拡販やトータルコストダウンの推進で収益力を強化してきた。

 「2010年度以降は8期連続で増収増益を達成し、5期連続で過去最高の業績を更新中」(ダイキン工業・十河社長兼CEO)という。

 2015年度には売上高が2兆437億円、営業利益が2,179億円だったものが、2017年度実績では、売上高が2兆2906億円、営業利益は2,542億円となっており、営業利益率は、10.7%から11.1%に拡大している。

 「FUSION20前半計画では、販売力、サービス力の強化や高付加価値商品の拡販、トータルコストダウンの推進などを進め、既存事業強化と事業領域拡大の両輪で事業を拡大。成長投資を積極的に実施し、将来のさらなる発展に向けた事業基盤を構築することができた。生産設備の増強についても、能力の強化だけでなく、どこよりも高い品質、どこよりも高い生産性、どこよりも低いコストを実現する最新の生産技術も導入した。重点事業における積極的なM&Aも実行できた」(十河社長兼CEO)と総括した。

 成熟市場である国内では、デザイン商品やアイデア商品を発売して事業を拡大。米国では、新工場やR&Dセンターの設立、販売、サービス網の強化などにより売上げを拡大した。またアジアでは、販売網の拡大や市場ニーズに合わせた商品投入のほか、インド第2工場、ベトナム新工場の建設などにより生産能力を増強。サービスソリューションの強化を目的に豪エアマスターを買収した。さらに中国では、住宅用マルチの販売や小売市場を重視して事業を拡大。欧州では、商業用冷設事業の拡大に向けて、伊ザノッティを買収している。

「FUSION20」後半では、時代の変化に対応しながら、積極的・具体的な投資と施策でさらなる事業拡大を

 今回発表した「FUSION20後半計画は、2018年度から2020年度までの3カ年を対象としたものであり、米国、アジアを中心とした既存事業の強化に加えて、IoTやAI技術の進歩普及をチャンスと捉えた空調ソリューション事業の拡大や、環境技術の強化など、時代の変化に対応した積極的な投資および具体的な施策を追加し、さらに事業を拡大させることを目指すという。

 ダイキン工業 経営企画室長の足田紀雄執行役員は、「IoTやAI技術の急速な進歩や、環境への意識へ変化は、当社事業にも大きな影響を与える。とくに、IoTやAIにおいては当社は知見が少ないため、キャッチアップが難しい領域であると認識している。だが、これをうまく事業に生かすことができれば、大きなチャンスになる。空調機器を単なる機器として販売しているだけでは、今後、事業が成り立たなくなってくるという危機意識を全社で共有し、新たな価値を提供するコト売りへのシフトを図る絶好の機会と捉えていきたい」と語った。

ダイキン工業 執行役員 経営企画室長の足田紀雄氏

 後半計画では、全社の重点戦略として、5つのカテゴリーからなる、13のテーマを設定している。

後半計画では、重点戦略として5つのカテゴリーからなる、13のテーマを設定

 「事業領域拡大/事業構造転換」カテゴリーには3テーマがあり、1つ目がIoT/AI技術を活用した空調ソリューション事業の加速として、環境規制強化や意識の高まりを背景に、省エネ・環境技術を生かしたエネルギー・サービス・ソリューション事業、安心、安全、健康、快適といったニーズの高まりに対応した空気・空間エンジニアリング事業の強化。

IoT/AI技術を活用した空調ソリューション事業の加速
エネルギー・サービス・ソリューション事業

 2つ目が環境をリードする取り組みとして、業界で初めてR32を採用した業務用マルチエアコンを投入した実績をさらに加速させることで、低GWP化に向けた取り組みを推進するとともに、2050年に向けた環境長期ビジョンに取り組むこと。

 また3つ目の事業領域拡大では、欧州を暖房マザー拠点として開発強化や販売、サービス網を構築し、ヒートポンプ暖房市場を創造する暖房・給湯事業、空調技術を生かしたCO2熱回収システムの開発、販売の強化を軸にした商業用冷設事業の強化を図る。

 ダイキン工業の足田執行役員は、「IoTおよびAI技術の急速な進歩をチャンスとして捉え、すべての機器をネット接続し、大量のデータを解析することで新たな顧客価値を生み出すことになる。エネルギー・サービス・ソリューション事業は建物全体の省エネの提供や空調のバリューチェーン全体を対象にしたサービスを提供することで、循環型ビジネスを展開。さらに新たなビジネスモデルを構築にも挑戦する。また、R32化を推進するとともに、次世代の冷媒および機器の開発に取り組む。そのほか、商業用冷設事業では、ショーケースの獲得やCO2熱回収システムの開発などを進め、大手食品チェーン、小売店舗に対するトータルソリューションも提供していく」などとした。

 また、「既存事業の強化」カテゴリーでは、北米空調事業、アジア空調事業、化学事業、フィルタ事業の4つのテーマに取り組み、「技術・モノづくりの高度化」カテゴリーでは、TIC(テクノロジー・イノベーション・センター)を核とした切れ目ない差別化技術・商品の創出と、空調事業を支えるモノづくり力の強化の2つのテーマに取り組む。

空調バリューチェーンで提供される価値の例
北米空調事業
アジア空調事業
科学事業
フィルタ事業
TICを核とした切れ目ない差別化技術・商品の創出
空調事業を支えるモノづくり力の強化

 「北米では、ソリューション事業の拡大を加速し、北米ナンバーワンへの礎を築く。また、アジアでは、継続的な販売網の拡大や業務用事業の強化、強靱な生産および供給体制を確立し、さらなる販売拡大を図る。中国も重要な拠点であり、ユーザーダイレクト型の新たなビジネスモデルに取り組む。中国は、空気清浄におけるグローバルマザー拠点に位置づけていく」とした。

空調事業の中国での取り組み

 また、十河社長兼CEOは、「インドは旺盛な成長が見込まれており、ルームエアコンでは50万台の生産体制を100万台に拡大したが、まだ足りない。2020年度までにあと100万台上乗せしたい。アジアではフィリピンを除いてトップシェアだが、まだまだ成長の余地はある」と強気の姿勢をみせた。

 さらに、「化学事業では、自動車分野を最優先としながら、フッ素材料と他素材を融合させた複合材料の開発を進め、提携や連携、M&Aを含めた展開によって、100億円規模の事業化を目指す。フィルター事業に関しては、フィルタ事業本部を新設し、体制を強化。将来の事業発展に向けて、空調と化学とのシナジーを生かしていく」(足田執行役員)と語った。

 「経営管理の高度化」カテゴリーでは、身軽で強靭な固定費構造の実現、キャッシュフロー極大化を狙いとした在庫の徹底圧縮、グローバルでの経理業務の標準化とIT統合の3点をテーマとしてあげ、「当社独自の企業理念の実践」カテゴリーでは、人を基軸におく経営を基盤とした人材力強化に取り組むとした。

 ここでは、2020年度までに、700人のIoTおよびAI人材の確保を目指すことも明らかにした。また、「IoT、AI、ソリューション技術」、「空調コア技術」、「化学コア技術」、「IAQ、フィルター、空気・空間技術」を4つの重点技術領域と定め、社内外とのオープンイノベーションを推進する姿勢も示した。さらに、全世界90カ所の全拠点の設備をネットワークでつなぎ、データを活用したグローバルの生産体制の全体最適化を実現するデジタルファクトリーの構築にも取り組み、まずは、業務用機器を対象にマスカスタマイズ生産をスタートすることも明らかにした。

 ダイキン工業の十河社長による、都内での会見は約2年ぶりだったが、新たな3カ年計画によって、成長戦略をさらに加速させることに強い自信をみせた内容であった。