長期レビュー

ネスプレッソ「ラティシマ」 (2/4)

~味わいのキーとなる“ミルクの扱い”
by 本田 雅一

 「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)



ネスプレッソ「ラティシマ」
 前回の記事について、いくつかのメッセージを読者から頂いた。その中には、ネスプレッソは興味深いシステムだけど、ラティシマは少々予算オーバーで購入しづらいというものが数通含まれていた。

 その通りラティシマの価格は、実売で6万円前後と、コーヒーメーカーとしては高額だ。しかし、“フルオートカプチーノマシン”という枠組みで見ると、むしろ低価格な製品だ。問題は絶対的な価格ではなく、“フルオートカプチーノマシン”というプラスαを、通常のネスプレッソコーヒーメーカーやエスプレッソマシンと比較して、その価格に見合うかどうか、欲しいと思える製品なのかどうかという点だ。

 最終回に向けて、最後にはミルク泡立て機やパナレロを使った場合との使い勝手の比較なども紹介して、ラティシマにするべきなのか、もしくは同じネスプレッソコーヒーメーカーでも、よりシンプルな製品の方が良いのか、といった点も含めて、読者自身で購入判断を行なう材料を順次提供していきたい。

 と、またも長めのイントロとなったが、今回はラティシマを評価する上で最も重要な“ミルクの扱い”を中心に触れていくことにしよう。

既存のオートカプチーノ機能が持っていた問題

 前回のコラムで述べたように、筆者は普段、C290というオートカプチーノノズル付きのコーヒーメーカーを使っている。同様のノズルはサエコやデロンギとった、ポピュラーなカプチーノマシンの特定モデルも持っているが、大まかな仕組みはどれも同じだ。

 ノズル内に水蒸気を勢いよく通すことで気圧差を作って牛乳を吸い上げ、ノズル内で吸い上げた牛乳と水蒸気、空気を混ぜて温かいフォームドミルクを作る。この時、空気の混ぜ具合でミルクフォームとスチームドミルクの比率を調整できる。

ミルクタンクとオートカプチーノノズル、ノズル洗浄機能などが一体になったミルクカートリッジ。上部手前のレバー位置でフォーム量を調整するミルクは上部のフタを外して注ぐだけ。ノズルは折りたたみ式なので、そのまま冷蔵庫に入れておけばいい。ラティシマにミルクカートリッジを取り付けたところ。給湯ノズル部分に差し込むように取り付けるだけだ

 スチームのレバーを倒しただけで、安定したフォームドミルクが作れるのは、確かに便利だし、ちゃんとスチームを使っての泡立てと温めなので、味の面でも単なるミルク泡立て器で作るより良いと個人的には思う。

 しかし蒸気ノズルは使い始めに水が出てくるものなので、あらかじめ別のコップに少しだけミルクを出してからカップにミルクを注入し始めないと、せっかくのカプチーノがお湯で薄まってしまう。単なるパナレロなら、タオルなどに軽くシュッと出してから作業をやればいいのだが、オートカプチーノノズルだとカップで受けないとミルクが出てきてタオルが臭くなってしまう。

 さらに使用後は水を吸い上げて洗浄しておく必要もあるので、たくさんのフォームドミルクを一度に作るのでなければ、結構、使うのは面倒くさい。前回の記事でも書いたように、オートカプチーノノズルは“面倒くさい”を解決してくれるわけではないのだ。オートカプチーノノズルが解決するのは面倒くささではなく、“パナレロではきめ細かなフォームドミルクを作れない”という人への助けだ。

 よく“オートカプチーノノズル付きだから簡単”という説明書きを見るが、“メンテナンスが簡単”というわけではない事に気付くのは、たいていは購入後。ラティシマに限らず、エスプレッソマシンの購入を検討している人は、その点を気をつけて欲しい。

 話が横道に逸れかけたが、上記のような件があって、筆者はC290のスチームノズルにはオートカプチーノノズルではなく、パナレロを取り付けている。パナレロを使いこなせるようになる方が、オートカプチーノノズルを使い続けるより良いと思ったからだ。

 ではラティシマはパナレロが扱えない、使うのが面倒という人にとっての福音となるだろうか。

とってもシンプルなミルクの扱い

 ラティシマでカプチーノやラテマキアートを作る場合は、本体正面の左にあるノズルを取り外し、オートカプチーノノズルとミルクタンクが一体になったカートリッジを取り付ける。元々付いている方のノズルはお湯を出すためのもので、紅茶などを淹れたいという場合に使うものだが、給湯速度が遅く温度調整もできないので、実用性はあまり高くない。

 ミルクカートリッジの取り付けは蒸気ノズルの繋ぐだけで、とっても簡単。取り付けたらオートカプチーノノズルを斜めに引き出して、グラスやカップに注げるようにセットアップする。

 あとはカプチーノボタン、あるいはラテマキアートボタンを押すだけ。通常、カプチーノを作る場合、エスプレッソをカップに抽出しておいてからフォームドミルクを注ぐが、ラティシマではラテマキアートの作法と同様、必ずミルクを注いでからミルクフォームの中央に“染み”を付けるようにエスプレッソが注がれる。

ミルクカートリッジを取り付けるとカプチーノボタン、ラテマキアートボタンが点灯する。まずはカプチーノボタンを押してカプチーノを作る。手元に適当なサイズのカプチーノカップがなかったので、背の低いマグに合わせ、あらかじめ流出量を決めておいたまずはオートカプチーノノズルからミルクが注入される。フォーム量調整レバーを固定している限り、抽出量は安定している。ノズルからお湯交じりのミルクが出てくることも無かったミルクの注入後にエスプレッソが自動抽出される。一般的なカプチーノを淹れる順番とは逆だが、出来上がりの味はいい。ミルクジャグで注ぐわけではないので、丸い底のカプチーノカップじゃなくとも仕上がりは変わらない

 出来上がり具合などについては後述するとして、ここでは使用後の仕舞い方について書き進めることにしよう。

 オートカプチーノノズルの掃除は、ミルクカートリッジ前面にあるボタンを押すだけ。正確にはノズル先端からお湯が出てくるので、グラスかカップで受けておき、ボタンを押すとお湯が出てきてノズル内がキレイに洗浄される。

ミルクカートリッジを取り付けていない時には、給湯させることもできるオートカプチーノノズルの洗浄はカートリッジ前面の「Clean」ボタンを10数秒押すだけ。オートカプチーノノズルからお湯が出てくるため、何かで受けておく必要はあるが、手間のうちにも入らないほど簡単

 あとはミルクカートリッジを取り外し、ノズルを格納してそのまま冷蔵庫に入れておくだけだ。何日かに一度はカートリッジごと洗浄しら方が良いが、そのままミルクカートリッジを冷蔵庫保存というのは使い勝手がいい。ノズルを洗浄する場合も、簡単に分解して洗うことができるので、面倒さはほとんど感じられない。

 この手法ならば、オートカプチーノ機能を面倒くさいと思わずに使うことができるだろう。実際、毎朝の食事で使っていたが、煩わしさを感じることはなかった。

 なお、C290(あるいはD290)のオートカプチーノノズル用には、オプションでノズルに直結でき、使い終わったらそのまま冷蔵庫に保存しておけるステンレス製のミルクジャグが用意されている。これを使えばラティシマに近い(フォームドミルクを作る量をメモリできないので、完全に同じというわけではない)使い勝手を実現することが可能だが、C290、D290は既にモデル寿命末期で価格も49,800円。さらに前述の専用ミルクジャグは5,250円もするので、これからネスプレッソを使うという人にはお勧めできない。

 ネスプレッソコーヒーメーカーでパナレロを備える機種はC290、D290しかなく、新製品はすべてパナレロがない。カプチーノ派に対してはフルオート機としてラティシマを提案し、それ以外の機種のユーザーに対してはエアロチーノという泡立て機能付きのミルクウォーマーを提案する方向へと徐々に移行しようとしているのだろう。

おいしさは確実ながら、ミルクフォーム量の調整にやや難

 さて、前述したように本機にはミルクを使ったドリンクの抽出ボタンが2つあり、1つはカプチーノ、もう1つはラテマキアートだ。この2つの違いはエスプレッソボタンとルンゴボタンの関係に近い。つまりグラスやカップに注がれる量が異なるだけで、動作のプロセスは全く同じ。デフォルトでメモリされているミルク量や抽出量が異なるだけと言い換えた方が判りやすいだろう。

 カプチーノボタンを押した場合は、一般的なカプチーノカップ(すり切り170~200cc程度)よりも少なめの量で作られる。おそらくネスプレッソクラブで販売されているカプチーノカップ(すり切り110cc)に合わせているのだろう。カプセルの抽出は1/2抽出(いわゆるリストレット抽出)にフォームドミルク80cc程度(スチームドミルクとミルクフォームがほぼ半々)のレシピだ。

 一般的なカプチーノのレシピは1/2抽出のエスプレッソに120~130cc程度のフォームドミルクの組み合わせなので、やや濃いめとなる。ネスプレッソのカプセルで言うとリストレット(黒)やインドリヤ(灰緑メタリック)だとわずかに濃いめ、アルペジオ(紫)でちょうどいい感じだろうか。

 これに対してラテマキアートのデフォルトメモリは本体に付属(もちろんオプション販売もある)350ccのレシピグラスに合わせてある。フォームドミルク300cc(やはりスチームドミルクとミルクフォームは半々)に、エスプレッソは標準抽出量(40cc)。

次にラテマキアートを作ってみる。まずはカップの置き台部分を本体に押し込み、レシピグラスを置くスペースを作る(2枚写真)レシピグラスをセットしたらラテマキアートボタンを押すミルクの抽出そのものはカプチーノを淹れる場合と変わりはない。もちろん、量は異なる
ほぼミルクで一杯になったレシピグラスにエスプレッソが抽出されるこれが出来上がりの様子。製品写真ほどキレイにミルクの層が分かれてくれるわけではないが、それでもなかなか美しい。デフォルトでは付属のレシピグラスぎりぎりまで注がれるが、若干、好みでフォーム量を減らしたので少なめに入っている

 エスプレッソの流出量が25ccと50ccと違うため、単にミルク量が多いというだけでなく、味わいそのものが違うという印象だったが、もちろん、この組み合わせはカスタマイズできる。

 それぞれのボタンを2秒以上押し下げてミルクを注ぎ始め、適量で手を離す。するとミルク量がメモリされ、もう一度押し下げ続けてエスプレッソを抽出。こちらも適量になると手を離すことでメモリされる。元のメモリにはいつでも戻すことができるので、好みのグラスを使い、好みの味を模索してみるのも楽しいものだ。

カプチーノ、ラテマキアートともに、そのまま来客に出しても恥ずかしくない仕上がり

 どちらのモードでドリンクを作ったとしても、そのおいしさは確実だ。上に乗るミルクフォームはやや粗く硬い印象だが、スチームドミルクは滑らかで、柔らかく甘みを存分に引き出した味になる。フォームが硬めのため、全体的なバランスや仕上がりは、シアトル系のハードカプチーノ(上に乗った泡をスプーンで食べるぐらい硬めのミルクフォームに仕上げたもの)に近い。

 スチームドミルクとミルクフォームの割合は半々と書いたが、これはデフォルトでの話で、ミルクカートリッジにあるレバーを調整することで、フォームの量を調整することができる。フォームが多い方が同じカップやグラスでも使うミルク量を増やさなければならないが、一番少ないレバー位置と多い位置は別にして、中間が好みとなるとレバーのストロークが短すぎ、目的の位置を憶えておくのが難しい。

 たとえばカプチーノボタンを押した時はフォームを少なめ、ラテマキアートの時は最多の位置で量を調整してしまうと、カプチーノで淹れる時に正確に元のフォーム量を再現しづらい。調整レバーを固定していれば、牛乳の質を大きく変えない限り(無脂肪乳やビタミン添加ミルクはフォームが少なめ、豆乳は多めになるなど、ミルクによってフォーム量が変化する)安定した質のミルクが得られる。

 筆者の場合、結局一番フォーム量が多い位置で固定して使うことにしたが、イタリアン系コーヒーショップではカプチーノよりラテの方が好きという人は、フォームが少ない位置に固定して抽出量とミルク量を調整した方が好みの味に仕上がるだろう。

オートカプチーノ機能のまとめ

 作られるフォームドミルクの質は、規定値になっている最もフォームが多い状態だとシアトル風ハードカプチーノに近い風味だが、スチームドミルクの部分も舌触りが滑らかでほんのりと甘い、質の高い仕上がりになる。よほどこだわりを持たない限り、充分においしいと感じるはずだ。

 “よほどのこだわり”とは、フォームドミルクの質へのこだわりである。たとえば、泡の固さ、細かさ、量を自分の好みで細かく調整したいと思ったら、パナレロ付きのマシンを使い、自分でミルクジャグを使って温める方が、趣味としてエスプレッソを楽しむ幅は広がる。パナレロが使えるネスプレッソコーヒーメーカーは、現在は流通在庫のみとなっているC290、D290だけだ。

 ただ、もともとネスプレッソというシステムは、“手間をかけずに本物のおいしさを”求めたものだ。そう考えるなら、やはりここは趣味としての幅や奥行きの広さよりも、手軽に本格的なラテやカプチーノを楽しめる方を評価すべきだと思う。

 たった1つのボタンを押すだけで、すぐにおいしいラテやカプチーノが飲め、しかもミルクのメンテナンスがイージー。難しいことを考えず、その心地よさを求めたいと思ったならば、あなたはラティシマは素晴らしい製品となるに違いない。

 評価の前までは、“どうせミルクの管理は面倒なんだよねぇ。この手の製品は”と斜に構えていたものの、なかなかどうして、期待以上によくできた製品だった。

 次回はもっとさらにラティシマについて掘り下げるとともに、標準レシピ以外のドリンク類をラティシマで作ってみることにしよう。




2009年4月16日 00:00