長期レビュー
ネスプレッソ「ラティシマ」 (1/4)
ネスプレッソ「ラティシマ」 |
家庭でおいしいエスプレッソを毎日飲みたいと思えば、たゆまぬ努力が必要だからである。
毎日、エスプレッソに向いた高性能のセラミックグラインダー(エスプレッソの超細かい粉を発熱させることなく、素早く挽けるグラインダーは非常に限られている)で必要な分だけの豆を挽き(エスプレッソの粉は超細かいので、数時間もすれば風味が損なわれる)、2杯分づつ抽出フィルターに粉を詰めて(この詰め具合次第でも味は変わる)エスプレッソマシンで淹れる。これで終わりではない。抽出フィルターに詰めた粉は、圧力をかけて抽出するため、なかなか簡単にフィルターから取れない。
こんな面倒くさいことを、家事全般で忙しい家人が毎朝やってくれるわけはない。ならば分業と、淹れるのは俺、掃除はカミさんとなればどんなにか幸せなのだろうが、世の中はそうそう甘くない。ということで、我が家で3台目のエスプレッソマシンとなっていたサエコ・マジックカプチーノの稼働率はすこぶる低かった。
そんな我が家の救世主となったのが、今回レビューで取り上げる「ラティシマ」の前世代モデルとなるネスプレッソC290だった。まずは、なぜ筆者がネスプレッソをすっかり気に入ってしまったのか、から書き始めることにしよう。
●手間をとるか、価格をとるか
エスプレッソをおいしく頂くには、高圧の抽出マシンは欠かせない。昔は高価で手が出なかったエスプレッソマシンだが、今ではピンからキリまで、様々な選択肢があるので、置く場所さえあれば電動抽出マシンも手の届く製品だ。中国製ノンブランドで1万円を切る製品を買った友人もいるが、耐久性こそどのようなものか判断できないものの、出来上がったエスプレッソは、ごくごく普通のものだった。
しかし低価格の小型エスプレッソマシンは、どれも抽出フィルター(細かな穴の空いたコーヒー粉を詰める金属カップ)に挽いた豆を自分で詰め、適度にプレスして(これをタンピングという)から抽出。抽出後は金属のフィルタから圧力がかかって堅くなったコーヒー粉を掻き出す必要がある。さらには、前述したように質の良いグラインダーを買って、必要な分を自分で挽かねばならない。
筆者宅はエスプレッソに凝る前はサイフォンでコーヒーを淹れていた。この時点で、“あんたはマニア”と友人からは認定されていたが、その手間たるや低価格エスプレッソマシンに比べれは遙かに楽で比べものにならない。毎日サイフォンでコーヒーを淹れていた筆者でも、忙しいときにはエスプレッソマシンには手が伸びない。
最近はグラインダー内蔵のフルオートマシンもコンパクトかつ安価になってきたが、筆者が買い換えを検討していた時代、十分な機能と性能を持った製品となると実売で20万円近くしていた。いくらなんでも、そこまでとなると簡単には手が出ない。
実は小型エスプレッソマシンにも、簡単にエスプレッソを抽出できる方法が用意されている。それがPODだ。PODはデミスタカップ1杯分のエスプレッソ用コーヒー豆を濾過紙で包んだもので、そのままPOD対応アダプタを使って抽出すれば、すぐにエスプレッソを楽しめる。PODは1個づつ包装されているから、消費期限さえ気にかけていれば、いつでもフレッシュなエスプレッソを堪能できる。
……のだが、筆者が使っていたサエコ・マジックカプチーノだけでなく、いくつかの機種で試してみたところ、どうしても満足できる味で抽出できなかった。どうも水っぽく、濃厚さに欠けるエスプレッソが出来上がってしまう。これならば、多少手間をかけてでも、自分で粉をタンピングした方がいい。
そんな折、何年か前に欧州出張時に見かけて気になっていたネスプレッソが、日本でも本格的にビジネスを開始したのを知ったのである。結論から言えば、筆者には大満足の製品だった。常に90点以上のエスプレッソをコンスタントに抽出してくれる。
おいしいエスプレッソを淹れることにこだわる技巧派やマニアなら、自分にとって100点満点の味を、低価格の小型エスプレッソマシンからでも引き出せるだろう。それに比べれば、ネスプレッソはやや落ちるとも言える。しかし、安定して90点以上のエスプレッソを、しかも驚くほど手軽に飲めるのだから、普段使いには最高のシステムだ。
● 手軽にハイレベルのコーヒーを楽しめる最小のシステム
筆者が所有するC290とラティシマ(F320)。マンションの狭いキッチンカウンターでも邪魔にならない。両者の設置面積はほぼ同じだ |
その点、筆者が3年前に入手したC290は220×355×310mm(幅×奥行き×高さ)と、なかなかのスリムなプロポーションだ。フォームドミルク、スチームドミルクを作るパナレロ(コーヒー屋さんでバリスタが“シュッ!シュッ!”と蒸気を出してミルクを温めている、あのノズルのこと)ももちろんついているが、さらに自動で泡立てるオートカプチーノ機能を持つノズルも備えている。
なかなかラティシマの話に辿り着かないが、まずは“ネスプレッソ”というシステムを3年間使ってきたユーザーとしての感想を織り交ぜながら、紹介することにしたい。
さて、ネスプレッソの仕組みを簡単に言えば、専用コーヒーカプセルを用いて手軽にエスプレッソとルンゴ(別記の解説参照)を楽しむためのシステムだ。ユーザーは全員、ネスプレッソクラブに加入して、専用カプセルを購入し、専用のコーヒーメーカーでコーヒーを楽しむ。
同様のシステムは企業向けなどにいくつかあるが、筆者が感心したのは、その味のレベルがとても高いこと。ネスプレッソにはレギュラーで用意されているブレンドカプセルが12種類あり、そのうち9種類がエスプレッソ用、3種類がルンゴ用だった。さらについ最近、特定産地からの豆を用いたシングルオリジンのエスプレッソカプセルが3種類が追加され15種類、ルンゴも1種類がモデルチェンジされ、さらに新作ブレンドも1種類追加されて4種類となった。
ネスプレッソマシンで抽出する際、カプセルには3本の針が刺され、そこから高圧をかけたお湯を一気に流し込む。すると反対側のアルミホイルのようなシートで塞がれたフタが、押しつけられた網目状の突起物に沿って“プシュ!”と細かな穴が空き、そこからエスプレッソが出てくるという仕組みになっている。
つまり、通常のエスプレッソマシンにおける抽出フィルターの役目を、コーヒーカプセル自身が担っているわけだ。抽出後のカプセルは回収容器に自動的に入ってしまうので、あとでまとめて捨てればいいだけ。抽出フィルターの掃除もする必要がない。普段のメンテナンスは、水が少なくなったら注ぎ足し、カプセルの回収容器がいっぱいになったらカプセルを捨てるだけでいい。
エスプレッソ用カプセルで抽出したコーヒーの味わいは、誰がどう飲んでも、明らかにちゃんとしたエスプレッソ。抽出の圧力や豆の挽き方や量、タンピングの塩梅で味を調整することはできないが、言い換えれば何もしなくても、常に安定したエスプレッソが出てくるのである。
自分で味わいを変えられない代わりに、ネスプレッソには前述したように多数のコーヒーカプセルが用意されている。リストレットもルンゴも関係なく、カプセルを選んでボタンを押せば、それだけでおいしいエスプレッソ。しかもメンテ不要でマシンも比較的安く、コンパクト。実際使ってみると、そりゃぁ、ウケがいいのは当然だと強く感じた。
ちなみにネスプレッソで淹れるルンゴの味だが、誰もが普通に想像するおいしいコーヒーに仕上がってくれるので安心して欲しい。来客の時などは、なかなか細かく好みを訊いてエスプレッソのバリエーションメニューをお出しする、なんて対応はなかなかできないから、ルンゴがおいしくできるのはうれしい。
「コーヒーでいいですか? 深煎り、浅煎り? それともデカフェ(カフェインレス)がいいでしょうか?」と尋ねてカプセルを選ぶだけだ。
今度はロングカップを置いてルンゴを抽出。エスプレッソボタンの下にルンゴボタンがある | 抽出中。エスプレッソと同様、途中で抽出を中止したい場合はもう一度押せばいい。カップの大きさに合わせたメモリの方法も同じ。標準量は110ccだ。 | 抽出終了。ルンゴにも、やっぱりきめ細かいクレマ。ヨーロピアンコーヒーをお手軽に楽しめる |
●気になるランニングコストは?
もっとも、こうしたネスプレッソの良さについては、もう購入前に十分予習できるだろう。今ならばネスプレッソを実際に体験できるネスプレッソ・ブティックが全国にあるので、足を運べば味も含めていつでも確認できる。しかし、十分に予習していたとはいえ、ネスプレッソを導入する当時は、1つだけ懸念していたことがあった。
それは妻の反応である。コーヒー好きは同じながら、今まで何度もエスプレッソマシンの買い換えに突き合わせてきたこともあり、買い換えには慎重だった。しかもネスプレッソの場合、お気に入りのコーヒー豆で……というわけにもいかない。さらに、常にネスレから専用カプセルを買わなければならない運命だ。
ちなみにコーヒーカプセル1スリーブ(10個入)の価格は税抜き750~800円。深煎りで風味の強い2つのコーヒーカプセル(リストレットとアルペジオ)、それにルンゴの4種類が750円、シングルオリジンカプセルが800円で、残りはすべて700円だ。ちなみに、この価格設定は先日、ネスプレッソを日本で発売してから初めての価格改定があり、値上げされたばかりのもので、筆者が飲み始めた頃はリストレットが700円だった。
1杯あたり70~80円(プラスここに消費税が加わる)という数字を高いと考えるか、それとも安いと考えるかだが、コーヒー豆を買ってきてペーパーフィルターで淹れる場合に比べれば、1杯あたりの値段が高くなるのは確かだ。
しかし、我が家では次のような理由で、ネスプレッソは高くないと結論づけた。
まず、いくつもの味わいの中から、好みの味わいのカプセルを同時に複数種類、自宅に在庫していても、ほとんど豆の風味が劣化しない。コーヒーカプセルのスリーブには半年の消費期限が記載されているが、このギリギリのタイミングで淹れてみても、製造直後のものとの風味差を感じない。
我が家にはほとんど毎週、誰かがゲストにやってくるが、ネスプレッソは大変に好評。帰宅途中に買って帰りました、なんて報告も。顧客にはルンゴをメインに出している |
また、インスタントコーヒー並に楽ちんでコーヒーを楽しめるにも関わらず、その味は店を開ける(?)ほどちゃんとしたものだ。スチームドミルクを作ってカプチーノにすると、某有名コーヒー店のラテと変わらない(いや、好みに合わせてカプセルを選べるという意味では、それ以上の)結果が得られる。ルンゴの味わいも深く、下手な喫茶店に行くよりずっとおいしい。
では、それらお店で買うコーヒーは1杯いくらするだろうか。それを考えれば、決して高いとは思わない。
ネスプレッソクラブのコーヒーカプセル注文画面。基本的に注文を受けてから3営業日以内には到着する。消費量がほぼ一定の場合は、定期注文をかけておくことも可能 |
●待望のフルオート・カプチーノマシン「ラティシマ」
F320に付属していたスターターキット。マニュアルやネスプレッソクラブへの入会案内の他、12種類のお試し用コーヒーカプセルとマキアートグラス、エスプレッソグラスが付属していた |
ネスプレッソのコーヒーメーカーは、しばらく前に新しいメカニズムを導入した新世代になり、デザイン面でシンプルになった上、価格も安くなってもっとも低価格なC100、D100、C110、D110ならば29,400円(税抜き)から購入できるようになった。最新のCitiez(C110、D110)ならば、設置幅もわずか13cmしかなく、狭い部屋でも設置場所を見つけられるだろう。
そしてシンプルな構造になった最新世代のネスプレッソ・コーヒーマシンのメカニズムを活用し、さらに簡単にカプチーノとラテマキアートを楽しめるようにしたのが、ラティシマ(F310、F315、F320)である。この3機種は表面の仕上げが異なるほか、F320にのみカップの保温機能があるという違いがあるが、基本的なコーヒーマシンとしての機能は同じだ。
ネスプレッソ・コーヒーメーカーには通常、エスプレッソボタンとルンゴボタンが配置されており、それぞれを押すとワンプッシュで目的のコーヒーを淹れることができる。ラティシマでは、これにさらにカプチーノとラテマキアートのボタンが追加され、それぞれにミルクとコーヒーの量を最適に記憶。ワンボタンでおいしいカプチーノができる、という、カプチーノファンにはたまらない製品だ。
このミルクを自動的に必要量作ってくれる機能を除けば、コーヒーメーカーとしての機能は同じで、使い勝手は変わらない。筆者のC290に比べると、水タンクが背面から底面に変更されるなど、見た目のデザインや構造配置の違いが主である。
別売りのテイスティングボックスが、ラティシマの試用キットに入っていた。各カプセルの特徴は製品に同梱される冊子にも記載されている。基本的には煎りの深さ、味の濃さの違いが主だが、各カプセルは微妙に香りが異なり、それぞれに楽しみ方も変わる。デカフェ用カプセルの出来もいい |
次回はラティシマでカプチーノやラテマキアートを作る際の詳しい手順や、メンテナンスについて話をすることにしたい。
・用語解説
・ルンゴ
イタリア語で“長い”の意味。通常、エスプレッソの抽出量は40cc程度だが、それを100~110cc程度まで“長め”に抽出すること。普通のコーヒーにクレマ(抽出時にできる泡)が乗った、いわゆるヨーロピアンコーヒーと同様のものが抽出できる。ネスプレッソではロングカップ用に専用のカプセルが用意されており、エスプレッソに対して別の飲み物としてルンゴを位置づけている。ちなみに少なめに抽出することをリストレットといい、特に濃厚で豊饒な香りと味を持つエスプレッソが得られる(1カプセルで25ccほど抽出する)。なお、ネスプレッソでは一番濃く味わいの深いエスプレッソを抽出できるコーヒーカプセルに、リストレットという名前を付けているので混同しやすい。この短期連載では少量抽出の事は“リストレット”ではなく、“1/2抽出”と今後表記することにする。
・ラテマキアート
エスプレッソに対して、3倍程度のスチームドミルクと多めのミルクフォーム(ミルクの泡)を組み合わせた飲み物。通常、ミルクフォームの乗ったスチームドミルクが注がれた大きめのグラスやカップに、エスプレッソをクルリと輪を描くように注いで作る。マキアートとは“染みを付ける”のことなのだそうで、エスプレッソを使ってフォームドミルクに染みを作るように見えることから、この名前が付いたようだ。
2009年4月9日 00:00
「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)