カデーニャ

幅広い工業製品で使われる素材「ABS」の長所とは

 ABS(えーびーえす)とは、アクリロニトリル(Acrylonitrile)、ブタジエン(Butadiene)、スチレン(Styrene)の頭文字を取った、「プラスチック」と呼ばれる樹脂素材の一種。「ペレット」と呼ばれる小さな固まりを加工して製品の筐体などを製作する。

ABSのペレットが入った袋

 耐熱温度70~100度と比較的耐熱性が高く耐衝撃性にも優れることに加えて、加工性も高いことから、家電製品や自動車、家庭用品など幅広い工業製品に用いられる。一方で耐光性は低く日光や紫外線を受けることで劣化する、耐熱温度は高いが素材そのものは可燃性のため燃える、といった短所もある。

 素材の耐性以上に加工性の高さが幅広い製品に使われるゆえん。高温に加熱したペレットを金型に押し込んで成型する「射出成型」で多用される。また、塗装をせずに光沢などの質感を生むこともできるため、プラスチックながら高級感ある製品の筐体などにも使われる。

ずらりと並んだ成型機。上部についている白色の容器にABSペレットをざらざらと入れる

 このように工業製品の素材として非常に優秀なABSだが、ABSにもいくつも種類があり、素材ごとに難燃性などの特徴も異なるほか、材料メーカーごとに名称もわかれるため、製品の品質を管理するためには「どのメーカーの何というペレットを使ったABS」というように細かく選定する必要がある。

 なお、成型のために加熱したABSを冷却、液体から固体に変化する際には体積が縮む「成型収縮」が発生するため、設計時にはこの収縮も考慮したサイズにする必要がある。しかし、実際には収縮により想定する寸法と異なる場合も、一般家電製品に求められる精度であれば温度の調整や射出圧といった成型条件の調整でカバーできることも多い。Cerevoのエンジニアによれば「ABSの収縮はガチャみたいなもの。CAEで緻密にシミュレーションすることもできるが、家電製品程度であればガチャを引いてみて当たればラッキー、だめなら成形条件を微調整というレベルで何とかなっちゃうことがほとんど」とのこと。

この記事は、2017年10月31日に「カデーニャ」で公開され、家電Watchへ移管されたものです。

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