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みんなが知りたい「販売店への価格」他社は何%? どう決める?

 メーカーなどの製造元が販売店や代理店などへ販売するときに設定する商品の価格を、仕切価格(しきりかかく)という。下代(げだい)、卸価格、ネット価格と呼ばれることもある。なお、下代に対してメーカー希望小売価格を上代(じょうだい)とも呼ぶ。

 メーカーが自社サイトや直営店で製品を販売する場合、製品の価格イコールほぼ売上となる※が、他社のECサイトや販売店で製品を販売する場合、当然ながら他社も製品を販売することで利益を得なければいけない。※厳密には直販の場合も現金取引でない限りクレジットカードや代引きの手数料などが発生する。

 そのため、販売店に対しては製品の販売価格に対して一定の率で割り引いた価格で販売することで、割り引かれた分の金額が販売店の利益となる。これが仕切価格の仕組みだ。

 例えば定価1万円の製品に対し、70%となる7,000円の価格でメーカーが販売店へ販売、販売店が1万円で販売すると、販売店は3,000円の利益が得られる。このときの7,000円が仕切価格であり、70%を仕切率と呼ぶ。

 仕切価格は基本的に一定台数を仕入れることを条件として設定することが多いが、長年の取引や過去の販売実績がある、今後一定数の販売を見込むという予測に基づく場合など、仕切価格は契約形態に応じて柔軟に設定される。時にはまったく取引のない販売店が製品1台を初めて購入するのに「特価対応で」と要求してくることもあるなど、ビジネスの世界は奥が深い。

 販売店はメーカーから直接仕入れるだけでなく、代理店などの中間事業者を経由して仕入れることもある。販売店の規模が大きい場合、官公庁・学校関連など取引できる会社が決められている場合などがその例だ。

 この場合はメーカー、代理店、販売店と中間事業者が増えるため、それぞれが利益を得られるよう、メーカーの仕切価格はさらに下げる必要がある。

 中間事業者がいなければメーカーは幸せなのに、と思うかもしれないが、実際には小さなメーカーなどは過去の実績がないため、取引に必要な口座を開いてもらえないことも多い。

 また、販売店としても、あまたあるメーカーと1社1社対応するのは工数がかかりすぎること、製品を仕入れたメーカーが倒産してしまう、不良品が多すぎて問い合わせが殺到するなどの問題があることを考えると、メーカーと販売店の間に入って対応してくれる代理店もメーカーにとっては大事な存在なのである。

 ハードウェアスタートアップからは「家電量販店に自社製品を置きたい」という目標を聞くことも多いが、前述の通り大手量販店は基本的に代理店を介しており、直接のやり取りは非常に難しい。

 また、直接契約ができた場合も、全国の販売店からのオーダーを一手にやり取りする、故障に関するサポート対応の窓口が増えるといった工数もかかるため、なかなか思い通りにいかないのが現実だ。大手販売店の場合、やり取りは昔ながらのFAXや電話での問い合わせ、時には販売店独自の発注システムを利用するということもあり、メールやチャットでのやり取りになれたスタートアップにとってはこうした対応も大きなハードルとなり得る。

 それでは具体的に「どれくらいの仕切率でマージンを渡しているのか」というポイントへ切り込んでいこう。なぜマージン議論がWebにあまりないのかというと、それは商品のカテゴリーによって大きく異なるからである。

 大前提として、伝統的な商品ジャンル別の業界通例というものが挙げられる。大手家電量販店で扱っている電化製品のなかでも、テレビや白物家電といった伝統的な家電製品は仕切率が低く(販売店マージンが大きい)、45~65%程度で設定されることもままある。

 一方、オーディオ機器やカメラ類などはこれらと比べると若干仕切り率が高めで、50~65%程度という数値はよく聞く値。PC周辺と言われるPCパーツやPC周辺機器はその歴史上家電とくらべて仕切り率がかなり高く、70%前後からはじまり、時には80%を超える場合も。

 ただし、これはあくまで大前提となる基本ライン。ここから「商品の唯一無二性」によって数値が変動していく。

 希望小売価格が同じで、仕様もほぼ変わらない透明なiPhoneケースを仕入れる、というシーンを考えてみよう。どちらを仕入れて販売しても、販売店に来店するお客様の満足度はさほど変わらない。となると、高い仕切り価格を提示してくるA社より、安い仕切り価格のB社製を仕入れようと思うはずだ。

 しかし、ここで特別な性能を持ったiPhoneケースがあるとどうだろう。仮に「充電速度が3倍早くなるすごい技術が採用されたiPhoneケース」というものがあったとしたら、このケースをみんな欲しがるだろう。しかし、このケースを提供するC社は商品ジャンルにしては相当高めの仕切り率を要求してきた……、となっても、恐らく販売店は取引を前向きに検討してくれるはず。なぜなら、このiPhoneケースはこの会社から買って売るしか方法がなく、しかも誰もが欲しがることが明確な商品だからだ。

 もちろん性能的なものだけではなく、特徴的な意匠であったり、世界的なブランドをバックにこういった交渉ができるケースもままある。グッチのiPhoneケースがどんな仕切り率か想像もつかないが、きっと何の変哲もない透明なiPhoneケースよりも高い仕切り率であることは想像に難くない。つまり、販売店との交渉は基本の数値を理解しつつ、商品の希少性をしっかりと説明した上で製品の仕切価格を交渉していく、というのがメーカーの基本スタイルだ。

 もっとも、商品ができあがり、商談に商品を持っていった時点で交渉の結果はもう出ている、という側面もある。製品を企画・開発する段階でどれだけ希少性が高く、多くの人が欲しいと思う製品になっているかが、結果として仕切価格(仕切率)の交渉に最も重要なピースになるのである。先に例に出した3倍早く充電できるiPhoneケースは存在しないが、仮に商品化できたとすれば仕切率が90%でも扱いたい、といってくれる販売店・代理店が現れてもおかしくない、というわけだ。

 なお、他社を経由して販売を行なわず、製品はすべて自社サイトと自社の店舗で販売する場合、仕切価格は一切考える必要がないため、製品の販売価格を大幅に下げることができる。Amazonのみで取り扱っているEcho DotやFire TVなどは、一般的な電化製品よりもはるかに原価に近い価格で販売されている、と予想される。

 自社の製品を販売して利益を得る場合、直販と販売店の比率を考えることは非常に重要。直販比率を上げれば製品単位の利益率は上がるが、流通経路が限られる。一方で販売店経由で販売すれば、流通経路は大きく拡大できる一方で、仕切価格での提供となるため利益率は下がることになる。

 開発費を回収するためにはただ製品を売ればいいというわけではなく、こうした流通経路まで考慮に入れて販売計画を検討しなければいけない。これがハードウェアならではの難しさでもあり、逆に面白さでもある。

この記事は、2017年11月28日に「カデーニャ」で公開され、家電Watchへ移管されたものです。

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