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メーカー視点で考える「5GHz帯」無線LANのメリットとデメリット

 PCやスマートフォンといった電子機器のワイヤレス通信技術である無線LANは、下表の通り、2.4GHz帯の周波数を使うタイプと、5GHz帯の周波数を使うタイプの2つがある。なお、60GHz帯を利用する新たな無線LANの規格「IEEE 802.11ad」も策定されており、2017年以降の普及が見込まれているが、現状における無線LANは2.4GHz帯か5GHz帯のどちらかと考えてよい。

 5GHz帯の優位性は電波の安定度にある。2.4GHz帯はほぼすべての無線LAN機器に搭載されているだけでなく、「ISMバンド」と呼ばれる免許不要の帯域で、無線LAN以外にも電子レンジやBluetoothでも使われている。そのため、周囲にスマートフォンなどの無線LAN機器が多数存在したり、自宅で電子レンジを使って調理した場合などは無線LANがつながりにくくなったり、場合によっては電波が遮断されてしまうこともある。

 一方、5GHz帯は無線LAN専用の帯域であり、他の無線技術を搭載した機器との干渉は“基本的に”発生しない。また、2.4GHz帯で利用できる無線LANのチャネルは13チャネルだが、実際にはチャネル同士が重なりあっているため、他のチャネルと干渉せず独立して利用できるのは実質3チャネルしかないのに対し、5GHz帯のチャネルはそれぞれが最初から独立しており、チャネル数も19と多いため、同じ無線LAN機器同士でも電波の干渉を受けにくくなっている。

 チャネルについては下記サイトの図が参考になる。
 無線LANよろず講座|無線LANのチャンネルの割り当て方

 総じて5GHz帯のほうが良く見えるかもしれないが、電波の性質上周波数が高いと直進性が高く曲がりにくいという特性があるため、屋内で使う場合は一般的に2.4GHz帯のほうが電波が届きやすい。とはいえこれは無線LAN機器の出力でカバーできるため、実際には利用する機器の仕様次第でもある。

 また、前述した5GHz帯のチャネルは「W52」という5.2GHz帯の4チャネル、「W53」という5.3GHz帯の4チャネル、「W56」という5.6GHz帯の11チャネルで構成されているが、このうちW52とW53は屋内利用に限定されており、屋外はW56しか利用できない。一方、2.4GHz帯は屋外、屋内を問わず利用できる。

 無線LANの普及により2.4GHz帯の混雑も進んでおり、無線LANを用いた製品の5GHz対応を望む声も多いが、ハードウェア開発の面からはそう簡単に対応できないという現状もある。

 1つは5GHz帯が独自に対応しなければいけない機能だ。W53とW56については気象レーダーや軍事レーダーでも使われている帯域のため、これらレーダーと干渉した場合にはすみやかにチャネルを変更するための「DFS」という機能を搭載することが必須となっており、この機能を実装するための開発コストが2.4GHzよりもかかることになる。なお、DFS動作中は少なくとも1分間は通信ができなくなるというユーザー的なデメリットもある。

 また、技適やFCCといった各種試験の費用も忘れてはいけない。電波の輻射、強度などの試験は、基本的に対応周波数の多さに応じて費用が発生する。5GHz帯対応はそのほとんどが同時に2.4GHzも対応しているため必然的に対応チャネル数が多くなり、そのぶん各種試験の費用が高くつき、結果として製品の価格に跳ね返ってくる。

 ワイヤレス接続の安定性を考えるのであれば5GHzだが、開発コストの面からは2.4GHzが有利。また、屋外での利用が中心となる機器の場合は、5GHzでは屋外でごく一部の帯域しか使えず、DFSによる通信停止のデメリットなどを考えると2.4GHzのほうが使いやすい。メーカーは製品のコストや利用目的によって、どの帯域をサポートするのかを判断しているのだ。

この記事は、2017年10月24日に「カデーニャ」で公開され、家電Watchへ移管されたものです。

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