家電トレンドチェッカー
「変速する・しない」でどれだけ変わる? 距離が伸びるうえに疲れない電動アシスト自転車の乗り方を検証
2020年8月10日 07:00
軽くペダルを踏み込むだけで力強く走れる電動アシスト自転車。最近ではe-bikeというジャンルも登場し、子乗せタイプやシティサイクル、はたまたMTBタイプやロードバイクタイプなどが走っている姿も街で頻繁に見かけるようになってきた。
こうした電動アシスト自転車の多くは、道路状況や乗り方などに合わせて、ギアの変速やアシスト力の切り替えが可能になっている。スピードの乗る平地は重いギアを選び、アシストの弱いモードにしてバッテリーを節約したり、急な坂道では軽いギアにしたうえでアシストを強くしてラクに上れるようにしたり、といった使い方ができるわけだ。
ところが自転車関係者の間では、ギアの変速はせずに、アシスト切り替えの機能のみを使っているユーザーが多い、という話をよく聞くのだとか。つまりもっとも重いギアに固定した状態で、発進時はアシストを強にして、速度が乗ったらアシストを弱め、坂道になったら再びアシストを強める、といった走り方をしているようなのだ。読者のみなさんはどうだろう。そういえば ギアはほとんど操作してないなあ……なんて人もいるのでは 。
たしかに、それでもアシストのおかげでラクに走れるかもしれない。変速操作の手間を省けるのも良さそうだし、軽いギアで走ると速度が落ちて前に進まないような感覚もあって、余計に体力やバッテリーを消費している気もしてくる。でも、本当にアシスト力の切り替えのみで走ることが効率的なのだろうか。ギアを正しく使えばもっと自転車本来の性能を活かせるのでは?
そこで、一切変速しないで走行した場合と、こまめに変速しながら走行した場合とで、疲れ方や走行距離などにどんな違いが表れるのか、実際に電動アシスト自転車を走らせて確かめてみることにした。果たして結果やいかに!?
ヤマハの電動アシスト自転車「PAS With」で検証
今回の検証に利用したのは、電動アシスト自転車でも非常に人気のヤマハ「PAS With」。通勤・通学はもちろん、気軽なサイクリングにも最適なシティサイクルだ。標準で12.3Ah容量のバッテリーが搭載され、アシストのされ方が異なる3つの走行モードを切り替えながら走ることができる。
節電しながら走る「オートエコモードプラス」では最長78km、最大限にアシストしてくれる「強モード」では同48kmもの距離を走行可能。さらに、走行状況に応じて賢くアシスト力を変化させる「スマートパワーモード」も新たに選べるようになり、より効率良く、長い距離を走れるようになった。バッテリーが空になっても、約3.5時間で満充電できる高速充電も特徴だ。
変速機は内装3段で、シマノの「Nexus」と呼ばれるシリーズが装着されている。シマノは一般の自転車から競技用自転車まで、さまざまな自転車用のパーツを供給する信頼性の高いメーカーとしても知られている。タイヤは26インチと24インチの2モデルがあり、比較的大きいタイヤサイズということもあって、細かく変速しながら走ればアシストをオフにしていても軽快に駆け抜けられる。
この自転車を街中で走らせ、変速の有無による違いをチェックしていくわけだが、今回、一般公道を複数回走行して検証する形にしたため、それぞれで条件を厳密に一致させられたとは言えない。交通状況や路面の状態は刻々と変化するし、筆者の体調や体力の消耗度合いによって運転の仕方も変わってくるだろう。
したがって、地形やその日の気候、走らせる人などによって走行距離などは異なってくる可能性がある。ここで紹介する検証結果についてはあくまでも目安として捉えていただき、変速の有無で場合によってはこれだけ変わるかもしれないんだな……程度に見てもらえると幸いだ。
皇居1周半+坂道で、体力の消耗度合いはどれくらい変わる?
まずは変速の有無で体力の消耗度合いがどれだけ変わってくるかを検証してみよう。「体力の消耗度合い」というのはかなり曖昧な指標ではあるけれど、ここでは同一コースを周回した場合の心拍数や消費カロリーの差を見て、より高い心拍や消費カロリーが記録されれば「消耗している」と判断することにしたい。計測にはガーミンのスマートウォッチを使い、GPSと心拍計測をオンにしてアクティビティを記録した。
コースは都心の皇居外周を1周半ほど走り、ライブコンサートや大相撲などで有名な日本武道館がある九段下の坂(九段坂)を上りきるまでの約8.4km。皇居外周は1周するとちょうど5kmになることと、車道を横切る箇所や信号もほとんどなく走りやすいことから、ランナーに人気のコースとなっている。緩い上り・下りもあるが、心拍の上昇具合を見るにはより急な坂も走るべきと考え、皇居の北側にある九段坂(平均勾配約5%程度)までのルートも加えることにした。
ただし、基本は車道を走行する自転車であることから、皇居外周であっても信号はいくつか存在する。赤信号では必ず停止線、もしくは前方車両の後ろに停車し、交通状況に応じて安全のため歩道を走行したり、急停車・急発進したりする場合もあったことをあらかじめお断りしておく。
最初は「3速固定」状態で走行し、次に「1~3速を状況に合わせて細かく切り替えた場合」の走行を試した。2パターンで連続走行した場合、どうしても2回目の走行のほうが心拍は高くなりがちなので、重いギアで脚に負担が大きい(心拍が高くなる)と考えられる「3速固定」を先に行なった。その後、心拍が高くなりがちな状態で「1~3速」で走行したとき、それでも負担が少ないという数値データが得られれば、より確実に「1~3速」のほうが体力の消耗が少ないと言えるだろう。
なお、走行モードはいずれも「オートエコ」モードとし、「3速固定」走行では最初から最後まで一切変速操作をせず、できるだけ一定の力でペダルを踏み込むようにしている。また「1~3速」走行では、停車時は必ず1速まで戻し、発進して加速するに従って2速、3速と順番にシフトアップしていく形とした。上り坂などで速度が落ちた場合は、ペダルを踏み込む力が大きく変わらないよう2速、もしくは1速に切り替えるなど、積極的に変速操作するようにしている。結果は以下のとおりだ。
予想どおり「1~3速」のほうが体力的な消耗度合いは少ないということになった。「3速固定」時は消費カロリーが200kcal、心拍数が平均104/分、最大138/分。対して「1~3速」では、それぞれ180kcal、心拍平均94/分、最大122/分。「1~3速」のほうは20kcal消費カロリーが少なく、心拍数も平均で10、最大では16も抑えられていることがわかる。ある意味、全体的に消耗を10%程度抑えられた、と言い換えることもできるだろう。その他、スマートウォッチが推測する呼吸数や運動負荷の数値(高いほど負荷が大きいことを意味する)を見ても、差ははっきりしている。
負担が少ないぶん、移動速度は落ち、移動時間(停車時間を除いた純粋な移動時間)は伸びてしまっているが、8.24kmを走行しての2分は相当に小さなものと言える。わずかな遅れで済むのであれば、体力の消耗を少しでも抑えられたほうがいい、と思うことのほうが多いはずだ。
ちなみにこの検証で得られた 差の20kcalというのは、洗濯などの家事をしたときの消費カロリーと同等 のようだ。数字だけ見るとあまり大きな差には見えないが、8.4km走行してまだ洗濯する体力が余っている、と考えれば、日常生活を少しでもラクに過ごせるように普段の走行時から上手に変速したい、と思えるのではないだろうか。
バッテリー50%消費までに走破できる距離は?
同じルート、同じ距離でも、変速機をしっかり活用することで体力的にはラクに走れることはわかった。しかし気になるのは、変速機をそうやってうまく使ったところで、バッテリーの消費が激しくなりアシストされる距離が短くなってしまわないか、というところ。
たとえば軽いギアで低速走行していると、アシストの時間が長くなってバッテリーも消費しやすくなるように思える。とはいえ重いギアにしていると、そのぶんアシストに必要なパワー(電力)も増えて、バッテリーの減りが早くなるのではないか、とも考えられる。実際はどちらが正しいのだろうか。
そんなわけで今度は、バッテリー残量が半分の50%になるまでに走行できた距離を計測してみることにした。平地や上り坂がある一定の周回コース(1周約14km)を設定し、満充電の状態から先ほどと同じように「3速固定」もしくは「1~3速」で走行。PAS Withのファンクションメーターに表示されるバッテリー残量が10%減るごとにその距離を記録して、50%になった時点での最終的な走行距離がどうなったかを比較してみたい。パワーモードはバッテリーの消費がわかりやすくなるよういずれの場合も「強」としている。結果は以下のとおりだ。
この周回コースは、前半がほぼフラットもしくは下り坂で、後半は上り坂が多くなる。そのためか、前半でバッテリーを10%消費した90%時点ではアシスト力があまり変わらないようで「3速固定」と「1~3速」とでほぼ同じ距離となっている。8.89kmと8.99kmの0.1kmの違いはもはや誤差と言ってもいいだろう。ところが、急な上り坂もある後半からは差がつき始め、80%時点で「1~3速」のほうが1km長く走行。70%時点では下り坂が多かったため累積で1.4km、区間距離では400m上積みするのに止まったものの、最後は約2.5kmもの差がついた。
「3速固定」だと特に上り坂ではペダルを強く踏み込まなければならず、おそらくその際にアシストする力も最大限に発揮する状態になっているのだろう。1速や2速のように軽いギアでは、アシスト力自体も軽く済んでいるのかもしれない。低速走行で長時間アシストされているとどうしてもバッテリーが多く消費されているように感じ、検証中もヒヤヒヤしながら走行していたのだが、結果としては「1~3速」のほうが走行距離が伸びる、ということになった。
付け加えると、12.3Ah容量のバッテリーを搭載するPAS Withは、仕様上は「強」モードで48km走行できるとしているにも関わらず、検証結果では50%消費の時点ですでに40km以上走行できている。満充電から電池切れまで走ったとすれば、単純計算で80km以上にもなる。つまり、「3速固定」と「1~3速」とを比べれば、 最終的には2.5km×2=5kmもの違いが生まれる可能性があるわけだ。自動車でいえば6%ほど燃費がいい 、ということになる。これは決して無視できない差だ。
自転車に優しく、そして安全運転という観点からも変速は積極的に
「3速固定」ではなく「1~3速」をまんべんなく使って走ることは、検証した体力面や走行距離以外にも、いくつか大きなメリットがある。たとえば1つのギアを使い続けるということは、そのギアだけ消耗が激しくなり、修理が必要になる時期が早まるということでもある。しかし適宜変速しながら走行すれば全体としてギアの摩耗が抑えられ、パーツの寿命が長くなる。結果的には自転車を長く乗り続けられることにつながるのだ。
また、「3速で強モード」のような状態だと、発進時に強力にアシストが働いて一気にトップスピードに到達してしまう。急いでいる人にとっては助かる電動アシスト自転車ならではの機能とも言えるけれど、いきなりスピード出しすぎの状態になるということは、それだけ危険も増えるということ。安全運転の面からも、正しく1速、2速と順番にシフトアップしながら走ることが大切だ。
というわけで、今回の検証結果からあらためて見えてきたポイントは、以下の4つ。
・1~3速のギアをしっかり使うことで、体力の消耗が抑えられる
・さらにバッテリーの持続時間が長くなり、より長い距離を走れるようになる
・しかもパーツの故障も減って長持ちする
・滑らかに発進でき安全運転にもつながる
3速固定で走り続けるよりも、1~3速を適切に使いながら走ったほうがメリットは多い。電動アシスト自転車に変速機が搭載されているのには、きちんとした理由があるというわけだ。できるだけラクチンに長い距離を走れるようにし、故障や事故を防ぐためにも、今一度自分の自転車の乗り方をチェックして、こまめに変速しながら走らせる運転を心がけよう。
協力:シマノセールス株式会社