やじうまミニレビュー

ソニー「USB出力機能付きポータブル電源セット CP-A2LAKS」

~イザという時に手回し充電できるモバイルバッテリー
by 伊達 浩二


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一番欲しいのは情報、窓口は携帯電話

ソニー「USB出力機能付きポータブル電源セット CP-A2LAKS」

 東日本大震災の当日、会社から自宅まで2時間あまりかけて徒歩で帰宅したのだが、その時に一番欲しかったのは情報だった。周りで歩いている人は、ほとんど携帯電話を手にしていた。携帯に内蔵されたワンセグチューナーでTVのニュースを見ながら歩いている人もいた。

 阪神・淡路大震災の頃の防災セットでは、情報の窓口としてラジオが重視されていた。しかし、今の時点で、もっとも重要な情報の窓口といえば、やはりスマートフォンを含む携帯電話だろう。

 今回紹介するソニー「CP-A2LAKS」は、USB電源出力を持つモバイルバッテリーだが、通常のACからの充電に加え、手回しで充電できるところが新しい。これまでも、手回しで充電できる機器は、LEDライトやラジオなどに多くの商品があったが、大容量のモバイルバッテリーは、これが初めてだろう。


メーカーソニー
製品名CP-A2LAKS
希望小売価格オープンプライス
購入場所ヨドバシ.com
購入価格7,040円

 

モバイルバッテリーに手回し発電ユニットが合体

 購入したパッケージは、モバイルバッテリーとしては大きめだ。パッケージの一部が透明になっていて、手回し発電のユニットが見えている。このパッケージなら、他の製品と間違うことはないだろう。

パッケージでは手回し充電器を大きく見せているパッケージ裏面。モバイルバッテリー本体が見えている左からモバイルバッテリー本体、ACアダプタ、手回し充電器

 本体は大きく3つに分かれている。

 まず、リチウムイオン電池が入っているモバイルバッテリー本体部分。次に、この本体と合体するACアダプタの部分。そして、最後の1つが、今回登場した手回し発電ユニットの部分だ。

 普段の充電は、モバイルバッテリー本体と付属ACアダプタを、カチッとハメて、ACアダプタのプラグをコンセントに差し込めば良い。モバイルバッテリーの容量は4,000mAhで、満充電時間は約5時間だ。ここまでは、これまでのソニーの合体型モバイルバッテリーと同じだ。

普段使うのは、モバイルバッテリー本体とACアダプタの組み合わせACアダプタの裏面。プラグは回転して内蔵できる
2つのパーツが合体する合体した状態でコンセントに差し込むとバッテリーが充電される

 なお、いつも持ち歩くのは、モバイルバッテリーだけで良いが、モバイルバッテリーの充電は付属のACアダプターが必要で、パソコンのUSB端子などからは充電できない。何泊かの旅行などの際は、ACアダプターを持って行く事を忘れないようにしたい。

 ちなみに、モバイルバッテリー本体の大きさは、58×26.4×84.5mm(幅×奥行き×高さ)で約145g。アダプターが58×21.5×56mm(同)で約45g。手回し充電器が58×48.2×92.1mm(同)で約126gとなっている。

 実測では、バッテリー本体が147g、バッテリーとACアダプタの組み合わせで193g、これに手回し充電器も加えたフルセットで320gだった。合体型ということもあって、モバイルバッテリーとしては大ぶりな製品なので、見た目よりも実機は軽く感じる。

モバイルバッテリー単体だと147gだったACアダプタと一緒なら193g手回し充電器とのフルセットで320g

 この製品が新しいのは、ACアダプタの代わりに、手回し充電器が合体できるところにある。ACアダプタと同様に、モバイルバッテリーにカチッとはめる。そして、手回し発電機のハンドルをグルグル回すことで、モバイルバッテリーを充電できる。

パッケージ裏にある手回し充電についての説明手回し充電器と合体手回し充電器と合体すると約17cmぐらいの大きさになる
緑色のシャッターで隠されているモバイルバッテリー側の端子手回し充電器側の端子。ACアダプタの端子も同じ形をしている

 実際にやってみると、最初の何回転かは軽く回り、あるところから歯車が噛み合ったような感じで、急に重くなる。いったん重くなると、その重さは一定だ。ハンドルの重さはかなりのもので、全体を支える左手も、ハンドルを回す右手にも、まじめに力を入れる必要がある。


手回し充電のようす。回し始めてしばらくは軽いが数回回すと重くなる。途中で逆回転すると、いったん軽くなり、安定すると重くなる

 取り扱い説明書では、合体した本体を、モバイルバッテリーが上になるように垂直に持ち、もう一方の手でハンドルを回すようにと書かれているが、数分回していると支えている方の手も疲れてしまう。結局、イスに座り、太ももの上でハンドルを水平に回すようにした。この方法だと本体もしっかり固定できるし、ハンドルを回すのに力が入れやすい。

 ハンドルの回転数は1分間に約120回、つまり1秒に2回転が推奨されているが、これはかなりピッチが速い。数分間に渡ってハンドルを回し続けていると、もっと遅くなってしまう。それでも、3分間回していると、上半身に汗が出てくる。単純作業なので、あまりハンドルを回すことに集中するよりも、TVを見ながらとか、歌を歌いながらやると、長時間回しやすかった。労働歌が似合う作業だ。

 手回し充電器はいつも使うものではなく、あくまでも非常用だ。なぜかと言うと、とても効率が悪いからだ。

 取扱説明書に書かれている例では、約3分間ハンドルを回すと、「スマートフォンで約1分間待受(画面照明ON)」または「スマートフォンで約1分間通話」ができる。約5分回すと「スマートフォンで約1分間ウェブブラウジング」できる。

 手回し充電器の仕様が、毎分120回転の状態でDC4.1V/500mAという小さい出力なので、仕方がないところだ。

 そして、「手回し入力部での充電は、AC入力部が使用できない場合の一時的なご利用を想定して設計されております。日常の受電にはAC入力部を使用して充電してください」と明記されている。つまり、モバイルバッテリーを満充電するというレベルではなく、「どうしても誰かに電話をかけて安否を確認したい」というときに、頑張ってハンドルを回せば通話できるようにするための手回し充電器なのだ。

単体のモバイルバッテリーとしても優れた機能

 「手回し充電」が、話題になりやすいこの製品だが、単体のモバイルバッテリーとしても、良くできている。ざっと整理すると、次のような特徴がある。

・2,000mAhの充電池を2個内蔵しており、合計で4,000mAhの容量がある
・USB出力が2ポートあり、同時に2台の充電ができる
・2ポート合計で最大1.5Aの出力が可能
・ボタンを押すと、4個のLEDでバッテリーの残量がわかりやすく表示される
・MODE 1/2と2つの充電モードがある

 最近のスマートフォンは、内蔵バッテリ容量が2,000mAhを越えるものもあるが、本機なら余裕を持って充電できる。また、2つの機器を同時に充電できるのは便利で、私のように通話用とスマートフォンの2台持ちをしている人間にはありがたい。バッテリ残量がわかりやすいのも、実際に使うとポイントが高い。モバイルバッテリーの残量管理は、意外に面倒な作業なのだ。

モバイルバッテリー本体には4つのLEDがあり、残量やモードが表示されるモバイルバッテリーの裏面には詳しい説明があるUSB出力は2口あり、2台の機器を同時に充電できる
初代iPadも、ある程度バッテリーが残っている状態であれば充電できたiPadの画面右上で充電中であることがわかる

 最大1.5Aの出力は、最近のスマートフォンに備わっている高速充電モードに対応するためのものだ。スマートフォン内蔵バッテリーの容量が増えるにしたがって、USBの規格どおりの出力では充電時間がかかりすぎてしまうのだ。このあたりにきちんと対応しているところが、モバイルバッテリーとして世代が新しい利点が出ている。

 充電モードの切替については、取扱説明書には「通常はMODE1で充電、充電できない機器があったらMODE 2を試す」とあるだけなので、あまりありがたみがわからない。本誌のインタビューによると、一般的なUSB電源として使うならMODE 1で良いが、相手がどんなバッテリーか確認しているようなインテリジェントな機器の場合はMODE 2が必要になるということらしい。具体的な例としてはPlay Station 3のコントローラーが挙げられている。もう少し、取扱説明書に具体的な情報がほしいところだ。

スマホって大食いだ

 ソニーの手回し充電機器といえば、ポータブルラジオの「ICF-B03」が有名だ。その前モデルである「ICF-B01」を使ったことがあるが、1分間手回し充電すると、ラジオを約1時間聞くことができた。LEDライトも10分以上使えた覚えがある。

 それに比べると、本機の“3分間手回し充電して1分間通話”というのは、発電作業という労働に対しての見返りが少ない気がしてしまう。

 しかし、これは本機のせいというよりも、スマートフォンがいかに大量に電気を使うかということなのだろう。

 ちなみにICF-B03では、一般の携帯電話では1分間の手回し充電で3分間の通話ができるが、スマートフォンの場合は、同じ3分間の通話のために5分間手回し充電を行う必要がある。つまり、それだけスマートフォンの消費電力が大きいのだ。

 ちょっと話がそれるが、ICF-B03ではiPhoneには充電できない。iPhoneは電源の安定度などを厳しく見ており、安定していないと充電を止めてしまうだと、ICF-B03の開発者の方に聞いたことがある。それに対して、本機では、大容量のリチウムイオン電池に充電する方式なので、iPhoneにも対応しているし、手元の実機でも充電できた。

備えに対するコスト

 本機の一番のメリットは、どうしても通信したいときにスマートフォンの通話が確保できるということにある。これまで可能性がゼロだったのが、可能になったというだけで大きな意味はある。それしか方法がなければ、効率が悪いのどうのと言うまえに、ハンドルをグルグル回すことをためらわないだろう。

 ただし、実際に東日本大震災の時のことを考えれば、音声で通話することは難しいとも思える。TwitterとかSNS経由でメッセージを送るというのが実用的な対応なのだと思う。この場合は、Webブラウジングを約1分行なうためには、約5分間手回し充電を行なう必要がある。専用アプリを使う場合も同じぐらいの比率と思っていいだろう。

 結論としては、非常時の備えとして、本機を導入するメリットはある。ただし、手回し充電で、モバイルバッテリーがフル充電できるわけではなく、用途が限定的であることは覚えておいたほうが良い。

 たとえば、本格的に防災のために通話手段を確保するのであれば、本機を買うことよりも、通話用にフィーチャーフォンを持つという選択肢の方が有効かもしれない。そのあたりは回線料も含めて個人の事情によるところが大きいだろう。

 私自身としては、使用頻度が低いことは承知のうえで、「備え」に対するコストとして、手回し充電機能が付いた本機を選ぶ。ただ、手回し充電器を常に持ち歩くのはたつらいので、会社に置くか自宅に置くか悩ましいところだ。

 なお、手回し充電器というアイデアが出てきたのも、合体型モバイルバッテリーという優れたアイデアがあったからだ。せっかくのアイデアなのだから、次はソーラーとか風力発電ユニットなどがほしい。コネクター部分の仕様を公開してもらい、いろいろな充電器を出している会社が対応してくれると面白いと思う。





2012年 7月 13日   00:00