やじうまミニレビュー

朝日出版社「大地震あなたのまちの東京危険度マップ」

~23区内の避難を考えるための地図
by 伊達 浩二


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自分の避難場所知ってますか

朝日出版社「大地震あなたのまちの東京危険度マップ」

 前回、都心の会社から自宅へ徒歩帰宅するかどうかを検討する地図として「震災時帰宅支援マップ 首都圏版」をご紹介した。今回は、同じ震災対策関係の地図だが、その場所から避難すべきかどうかを考えるための地図を紹介しよう。

 こういう地図をまじめに読むようになったきっかけは、昨年にマンションの管理組合の防災担当理事を務めてからだ。まず、びっくりしたのが、自分たちの町会(地区)の避難場所が、自分が考えていたのとは違っていたこと。一番近くの小学校が避難場所だと思っていたのだが、実はそこから200mほど離れた、図書館脇の公園が避難場所だった。町会の避難訓練に参加して初めて、自分が誤解していたことがわかったのだ。

 私が住んでいる東京都台東区では、地区ごとに避難経路と場所を示した防災地図を配布しているのだが、リビングの隅に置いてあるだけで、中身は読んでいなかったのだ。

 

台東区 防災地図。PDFファイルでも公開されている浅草寺を中心とした部分。避難場所が記載されている

 

 そのあたりをもう少しわかりやすく表示した地図はないだろうか。また、自分の会社がある千代田区では、どこに避難するのだろう。近所にある小学校と一体になった公園だと思っていたが、それは正しいのだろうか。そんな疑問もあって、この地図を買ってみた。


メーカー朝日出版社
製品名大地震あなたのまちの東京危険度マップ
希望小売価格1,000円+消費税
購入場所Amazon.co.jp
購入価格1,050円

 

23区が中心、危険地帯と避難場所を表示

 この地図は、A5版、72ページ平綴じの、ごく薄い地図だ。内容は、東京23区の区が単位で、2p見開きで表示される。付録として多摩地区の広域避難場所地図(2ページ)や、「東京の地盤と液状化予測図」(同)なども付いているが、全体の3分の2は、23区の地図だ。つまり、この地図が役に立つのは、23区内に通勤、通学、居住している人ということになる。

 この地図が優れているのは、地図の編集というか、見せ方がとても上手なことだ。

 まず、「建物倒壊危険度の高い地域」が水玉で、「火災危険度の高い地域」が赤で表示されている。水玉と赤なので、重なりあってもお互いが混ざることがない、両方指定されている危険な地域もよくわかる。

 逆に、避難の必要がない「地区内残留地域」は緑で塗られている。避難場所は、非常口のピクトグラム(絵文字)に似たアイコンで表示されている。だいたいの避難の方向は緑色の矢印で示されているので、どっちの方向に逃げればいいのだなというのが、一目でわかる。

 ちなみに、一番大きな地区残留地域は千代田区で、区域全体が指定されている。つまり、比較的安全な地域であり、あわてて広域避難場所などに避難する必要はないというわけだ。千代田区の防災計画を確認しても、避難所は準備されているものの、そこへの避難は重視されていない。

台東区の例。赤と水玉と緑が混ざっている千代田区の例。全地域が緑色23区外の地域は、見開き1つにまとめられいるので実用性が低い

既存のデータを活用しながら、わかりやすい情報を提供

 実は、この地図のデータ自身は、すでにあるものを利用している。

 まず、基本となる地図は、国土地理院の2万5千分の1地図を使っている。データは北海道地図という会社のデジタルデータを使っているそうだ。

 危険な地域の指定は、東京都都市整備局が2008年に公開した「地震に関する地域危険度測定調査(第6回)」のデータだ。

 これは、建物倒壊危険度、火災危険度、総合危険度の3つを、それぞれ5段階評価したもので、数字が大きいほど危険度が高くなる。この数字は、Webでも公開されているので、町名から検索すると、「3、2、3」などという数字がすぐにわかる。

東京都が公開している「地域危険度報告書」。PDFファイルがダウンロードできる区名から検索して、目的の地域の危険度がわかるそれをまとめた「総合危険度ランク図」。地名は入っていない

 また、調査の報告書全体もPDFでダウンロードでき、その中には地図形式の表示もあるのだが、地名が入っていないので、自分が必要としている地域を探すのが難しい。

 しかし、この地図帳では、それが一目でわかる。既存のデータを元にしながら、それを地図に落としこむ際の編集の手際が優れているのだ。すでにあるデータを利用しやすい形にして提供したということだけでも、価格だけの価値はあると思う。

 ちなみにこの地図では、5段階のうち、地域危険度が5段階中4・5にあたる地域が「危険度の高い地域」として表示されている。

被害は1種類だけではない

 日本の地震対策は、大きな震災ごとに、少しずつ変わってきている。

 まず、関東大震災(1923年)では、地震の揺れそのものよりも、火事による死亡者が多かった。墨田区本所の横網公園になっている、約10万人と言われる死傷者のうち、6万人前後が焼死者だったという。

 次に、阪神・淡路大震災(1995年)では、建物の倒壊による圧死者が多かった。また、埋立地では、地盤の液状化による被害が目立った。そして、東日本大震災(2011年)では、津波による被害が大きかった。

 つまり、この「大地震あなたのまちの東京危険度マップ」で表示されているのは、関東大震災の経験による「火災危険度」と、阪神・淡路大震災で強く意識された「建物倒壊危険度」であり、液状化と津波に対する危険度は表示されていない。

 なぜなら、地震による危険は、1つだけではなく、この地図ですべてがわかるわけではないからだ。この地図を利用する上で、その点だけは意識しておいた方がよい。現状では、「大地震23区危険度マップ(倒壊/火災編)」または、「大地震あなたのまちの倒壊/火災危険度マップ(23区編)」という名称の方が内容に即している。

 ぜひ、出版社と監修者には、付録に甘んじている「液状化予測図」と「地盤分布図」、そしていま検討されている南海トラフを中心とした大型地震の際の「津波予測」の情報も取り入れた地図を期待したい。そのときこそ、この地図が、「東京危険度マップ」という名称に、真にふさわしい内容となるだろう。

「液状化予測図」と「地盤分布図」は、付録扱いになっている付録には、防災資料集や、防災メモなどが用意されている巻末は個人情報などを記入しておく欄になっている


2012年 4月 12日   00:00