藤本健のソーラーリポート
なぜ宮崎県は太陽光エネルギーを積極的に導入するのか?

~宮崎県の“ソーラーフロンティア構想”を見る

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


 前回は、「世界で一番細長い太陽光発電所」として宮崎県にあるメガソーラー、「ソーラーウェイ」を紹介した。ソーラーウェイがある宮崎県は、2009年に太陽光発電を推進するための「みやざきソーラーフロンティア構想」を策定し、産学官連携でさまざまなプロジェクトを推進している。今回は、宮崎県庁で、そのユニークな取り組みについて伺ってきた。

全国2位のソーラーパネルの普及率

 宮崎空港を出て、最初に向かったのが宮崎県庁だ。筆者にとって、初めての宮崎県訪問となったわけだが、空港から県庁に向かう道中で驚いたのが、各家々の屋根にソーラーパネルが載っていること。単結晶タイプ、多結晶タイプ、そしておそらくCIS太陽電池と思われるものなど、さまざまなソーラーパネルを載せた家がとにかくたくさんある。普段、電車やクルマで移動中も屋根を気にして見ているのだが、こんなに多くのパネルが並んでいる風景というのは珍しい。

宮崎県庁空港から宮崎県庁に向かう道中で撮影した写真。あいにくの雨で視界が悪かったのだが、ソーラーパネルを載せている家が多い

 それもそのはず。あとで県庁で説明を受けたのだが、宮崎県のソーラーパネルの世帯普及率3.39%で、全国2位(J-PEC「都道府県別住宅用太陽光発電システム導入状況」および平成17年度国勢調査での世帯数より算出)なのだそうだ。宮崎市内が特に多かったのか、感覚的には10%を超えているのではと感じたほどだった。

住宅用太陽光発電システムの県別世帯普及率。宮崎県は3.39%で2位だ。ちなみに1位は佐賀県、3位は熊本と九州の県が占める

 筆者はまったく知らなかったが、宮崎県では古くから「太陽と緑の国 みやざき」というのがキャッチフレーズになっており、県民ならみんな知っている慣れ親しんだ言葉となっているという。

 実際、宮崎県は太陽の恩恵を多く享受しているようで、年間の日照時間が2,116時間と全国3位、年間の快晴日数は53日と全国2位。双方がベスト3に入るのは宮崎県だけという。このような天候の恩恵も受けて、ソーラーパネルの普及が進んできたようだ。また太陽熱温水器の世帯普及率はなんと38.8%で全国1位(総務省統計局「H16全国消費実態調査」より)。確かに、こちらも数多く見かけた。

宮崎県独自の「ソーラーフロンティア構想」を策定

 そんな太陽に恵まれた宮崎県ではあるが、従来からエネルギー・環境分野において問題を抱えていた。それは、宮崎県に原子力発電所がないということもあって、エネルギー自給率が35%と低く、他県から移入していること、また県内の温室効果ガスの排出量が1990年度比でプラス8%と増加している、ということだった。

 そこで、太陽光発電を通じた低炭素社会を実現することによって「“新しい”太陽と緑の国みやざき」作りを目指そうと、2009年3月に「みやざきソーラーフロンティア構想」を策定したのだ。

2009年に制定した「みやざきソーラーフロンティア構想」。単にソーラーパネル設置枚数を増やすというだけでなく、製造や活用まで見据えている
宮崎県 県民政策部 総合政策課 企画担当主査 外山賢氏

 今回、話をして頂いた宮崎県県民政策部総合政策課の企画担当主査、外山賢氏は次のように語る。

 「みやざきソーラーフロンティア構想では太陽光の『製造』、『発電』、『活用』の三拍子揃った太陽光発電の拠点作りをめざしています。それを実行するために宮崎県では3つのプロジェクトを走らせています」

 その3つのプロジェクトのうちの1つ目、「メガーソーラー全県展開プロジェクト」として生まれたのが前回のソーラーウェイ

 また2例目、3例目としてソーラーフロンティア株式会社の太陽電池工場の敷地内にもメガソーラーを設置している。具体的には2010年10月に宮崎市清武町の第2工場敷地に「宮崎ソーラーパーク」(1MW)、2011年3月に国富町第3工場屋上の2MWのものを完工しているのだ。

ソーラーフロンティアの工場敷地内に設置されている「宮崎ソーラーパーク」こちらは2011年3月にできたばかりのメガソーラー

 これに留まらず、宮崎県ではさらなるパートナー企業との協働による立地推進を行なっている。また単にメガソーラーを作るだけでなく、メガソーラーで発電した電力の上手な使い方を研究したり、発電施設を活かした地域振興、エネルギー教育の推進を進めていくという。

 2つ目は「ソーラー住宅普及促進プロジェクト」。こちらは現在2位となっている世帯普及率の全国1位奪取を目指そうというもので、県で「住宅用太陽光発電システムに係る助成制度」を2009年度に創設している。

 この助成制度には大きく2つあり、1つは国とは別に行なう県の補助制度。もう1つはソーラーパネル設置に用途限定した融資制度だ。前者は2011年度においては「太陽光発電システム及びLED照明器具を複合的に導入する場合」と限定されるが、1kWあたり3万円、上限8万円という枠で実施され、7月末からの募集開始となる。

 融資制度については、住宅用太陽光発電の設置用であることを限定した上で、融資限度額が300万円、融資利率は1.9%(固定)で、地元銀行を窓口として行なっている。太陽光発電システムの導入には、初期コスト150万円以上かかるだけに、うれしい制度だ。

世界最大規模のソーラーパネル工場が宮崎にある!

九州には、宮崎県以外にもソーラーパネルの工場が数多くある

 3つ目は「ソーラー産業育成・集積プロジェクト」。これは一言でいえば宮崎への企業誘致ということだが、実はこれが大成功している。もともと九州にはソーラーパネルメーカーの工場が数多くあったのだが、宮崎には、ソーラーフロンティア株式会社がソーラーパネルの生産工場を作っており、2007年に年間生産規模20MWの第1工場を稼動、2009年に60MWの第2工場を稼動させた。

 そして、今年2011年には900MWという大工場を稼動させてしまったのだ。単位が大きすぎてよくわからないが、生産規模でいうと日本最大で、おそらく世界でも最大だろう(中国メーカーで生産規模を明らかにしていない会社があるため、世界一と言い切れない)。

 日本にはシャープ、パナソニック、京セラ、三菱電機といった太陽電池の大手メーカーがいろいろあるが、それら企業の生産規模を超える工場を作ってしまったのだ。ちなみに2010年に日本国内で設置された全ソーラーパネルの総量が約1,000MWなので、それとほぼ同等のパネルを第1工場から第3工場までで賄えるという計算になる。

 今回の取材では、この世界最大規模の工場にも行ってきたので、これについてはまた後日詳しくリポートする予定だ。その前にちょっと気になったのが、その会社の名称。みやざきソーラーフロンティア構想において誘致したのがソーラーフロンティア株式会社というのはちょっと出来すぎな気がする――。

 しかし、これは完全に偶然の一致だったという。ソーラーフロンティアは、昭和シェル石油の100%出資の子会社で、旧社名は昭和シェルソーラーという。国内での社名変更は2010年3月であったが、もともと海外ではソーラーフロンティアの名称で展開しており、それを国内でも採用しただけなのだとか……とはいえ、この名前の一致はうまい相乗効果を生みそうだ。

太陽熱から水素を? 新しい研究にも積極的に関与

宮崎大学が開発した、集光型太陽光発電。これについては次回じっくりご紹介する

 このような官民連携に加え、宮崎大学も加わって産学官と連携して太陽光発電に取り組んでいるというのも、みやざきソーラーフロンティア構想の面白いところだ。

 宮崎大学の詳細については次回詳しくリポートする予定だが、ここでは集光型太陽光発電という独自のシステムを開発している。さらにこの宮崎大学や県外を含む55企業、そして県・関連団体の計86団体で2009年に「宮崎県太陽電池関連産業振興協議会」を設立している。

 「ソーラーフロンティア構想に基づき、太陽電池関連産業振興を図るため、県内の産学官が連携し、地場企業の参入支援、人材育成、研究開発などを推進しています」(宮崎県県民政策部総合政策課の企画担当主査 外山賢氏)と語る。

 その産官学連携という中で、ユニークな研究も進められている。それが「ビームダウン式集光装置」というもの。これは太陽電池を使って発電するのではなく、太陽による熱で直接、水素を作り出そうというものだ。

太陽による熱で直接、水素を作りだそうという「ビームダウン式集光装置」

 従来から太陽熱を鏡で集めて発電するというというものは実用化されていた。ポピュラーなのはタワー式といって、地上にたくさんの鏡を設置して太陽の光を反射させ、タワーの上に集めるというもので、ここで作り出される熱でタービンを回して発電するものだ。

 もう1つがトラフ式といって曲面鏡を使い、鏡の前に設置されたパイプに太陽光を集中させることで液体を加熱して発電するというもの。効率的にいうと、タワー式がいいが、タワーの上にタービンを設置するのはなかなか困難でコストも高くなってしまう欠点があった。そこで、その光をいったん地上に跳ね返す=ビームダウンして活用しようというのが宮崎での研究だ。

 しかも面白いのは、それでタービンを回すという従来の考え方ではなく、その熱を使って直接水素を製造してしまうというのだ。作った水素は燃料電池に活用できるほか、直接水素自動車などにも利用できるわけで、用途は広そうだ。

 この研究に取り組んでいるのは宮崎県と宮崎大学、新潟大学、そして東京の宇宙機器メーカーである三鷹光器の4者。三鷹光器はヘリオスタットと呼ばれる太陽の動きを追尾する反射鏡と、10mの高さを持つビームダウン用のタワーを開発している。

2020年度の実用化に向け、宮崎大学、新潟大学、三鷹光器でそれぞれ研究、実証を進めている

 また宮崎大学では、宮崎県の日照条件の良さを背景に、実験装置を設置するとともに、熱処理、熱部分・制御、素材の研究開発を担当。さらに新潟大学では水素製造のための技術研究を行ない、2020年の実用化を目指すというものだ。これまでにない太陽エネルギーの活用法であり、実用化を楽しみに研究成果を見守りたいところだ。

 そのほかにも、三鷹光器が絡む形で「温室ハウス冷暖房用太陽熱蓄熱システム」という研究も進められている。こちらは、2009年に宮崎県の農業発展に向けた研究を積極的に行なう民間企業等を公募したところ、三鷹光器が応募し、採用されたというもの。

 宮崎県の特産品であるマンゴーは、ビニールハウスで栽培が行なわれているため、冬には暖房費が、夏には冷却用の水が必要となる。そこで冬は昼間の熱を蓄熱して暖房に利用し、夏は夜間の放射冷却によって水を冷やして冷房に活用しようという試みだ。これがうまくいけば、かなり省エネなハウス栽培が可能になるというわけである。

太陽熱の蓄熱、放熱をうまくシステム化することで、省エネタイプのビニースハウスを作るという試み実際に実証しているところ、蓄熱タンクと、吸熱板、放熱板などを使用している

 以上、宮崎県では行政が率先しながら太陽エネルギーを活用するさまざまな施策を行なっている。単に太陽光パネルの設置住宅を増やすために補助金を出すといったことに留まらず、実際にソーラーパネル生産の企業を誘致したり技術開発にまで取り組むなど、非常に多角的で、あまり聞いたことのないユニークな動きだと思う。

 口蹄疫や鳥インフルエンザ、そして新燃岳の噴火など最近は苦難が続いていた宮崎県だが、近い将来、太陽エネルギーにおいて日本の中心地になっていくという意気込み、勢いを非常に強く感じだ。




2011年7月7日 00:00