藤本健のソーラーリポート

ついに実現! 太陽光発電所を富士山麓に設置(前編)

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 トータル2年8カ月に渡って右往左往しながら画策してきた「大きな太陽光発電所を作る」という夢が先日5月19日、ついに実現した。富士山の麓、富士河口湖町に出力52kWの太陽光発電所が稼働することになったのだ。

 もっとも52kWというのは、一般家庭約15件分程度の電力を作り出すシステム。決して大規模というものではないし、実は諸々の事情から自分の持ち分は半分の契約となっている。

 とはいえ、それでもようやくスタートできたという嬉しさはいっぱいだ。自分の太陽光発電所設置計画の中では、その第一歩目という位置づけではあるが、実際これがどんなものなのか、そしてここに至るまでの道のりについて、紹介してみたい。

ついに太陽光発電所を稼働
富士河口湖町に設置

 ご覧いただいた方もいると思うが、昨年8月「九州で50kWの太陽光発電事業を始めてみた」という記事を3回に渡って書いた。タイトルとしては「始めてみた」と過去形ではあったが、そこでも書いた通り、実際には全額借金による2,000万円の契約を行なったものであり、発電所の設置はおろか、発電所の場所さえハッキリしないという曖昧な状況だったのだ。

 しかし、その記事の直後の9月にいわゆる「九電ショック」という事案が発生。そこから日本の太陽光発電事情は暗転していったのだ。九電ショックとは、九州電力が「電力の需給バランスが崩れる」などとして、太陽光発電の系統接続の新規接続契約保留を宣言したもの。

 それが北海道電力、東北電力、四国電力、沖縄電力と波及していった大きな事件であった。解釈の仕方はいろいろあると思うが、その後の太陽光発電バッシング報道や原発再稼働の動き、政府が示した2030年のエネルギーミックスなどを見ても、再生可能エネルギー、とりわけ太陽光発電がものすごい逆風の中にいるのは間違いない。

“九電ショック”の実害はゼロ、進展もゼロ

 筆者の場合、そもそも熊本県か鹿児島県に設置しようというモノだったので、各所で経産省からの設備認定は降りていたものの、九州電力による実質的な接続拒否という状況により、完全に頓挫してしまったのである。

 こうした状況から、知人達からは「藤本は大丈夫なのか?」、「破産して大変なことになっているのでは……」と心配されていた。その後、会った人からは「マズイことになっているのでは……と思って話題に出せなかった」なんて言われたが、実はまったく大丈夫。というのも、結んだ契約では「発電所が完成し、電力会社との連系ができて、売電がスタートしたところで引き渡しとなり、その時点でお金を渡す」という内容になっていたからだ。したがって、借金もしてないし、頭金すら支払っていないので、実害というものはなかったのだ。

 それどころか、九電ショックが起こる前の時点で、「リスクはないはず」という読みの元、契約していた業者ともう一口追加契約までしてしまったのだ。つまり2,000万円×2口=4,000万円。まあ、リスクがないといっても、家を担保に入れた上で、人生すべてを掛けるような大冒険ではある。冷静に、客観的に考えればかなり危険がいっぱいではあるところだが、突っ走ったら止まらないというのが筆者の性格でもあるのだ。

茨城県の太陽光発電システムの見積書

 九電ショック以来、物事はまったく前に進まなかった。毎週のように業者に連絡をするも、進展がない。決して業者側が悪いわけではないのだが、お互いなす術もないという状況だった。そうした中、11月になり、業者側からの1つの提案がやってきた。

 「九州はどうにも動かしようがないですが、親会社が確保している用地が茨城県にあるので、そちらはいかがでしょうか?」というのだ。話を聞いてみると九州が2,000万円だったのに対し、茨城は2,322万円と少し割高だけど、売電単価は九州の36円に対してこちらは40円。そう考えると悪くない話だ。ただし、2口分はないので、1口で我慢してほしいとのこと。ほかに選択の余地はなさそうだし、ほかの業者を見ても、さほどいい条件の話はないため、その条件で再契約をしたのだ。

 とはいえ、これもいつ稼働するか分からないという点では、従来と変わらない。東京電力管内なので、九州のようなことはないはずだが、どの電力会社も太陽光発電に対しては積極的に動かないことは周知の事実。動きがとっても緩慢で、いつスタートできるかというメドはまったく立っていなかったのだ。

 以前の記事でも書いた通り、筆者の太陽光発電プロジェクトでは、その昔、リクルートで働いていた当時の同期の同僚である友人Aとともに行動してきた。別に一緒に会社を運営するというわけではなく、それぞれ単独ではあるが、一人ですべてを行なうのに比べると断然心強い。筆者が比較的太陽光発電のシステム知識があるのに対し、友人Aは週刊住宅情報の出身ということもあって不動産関連に強いので、お互い補完し合える関係でもあったのだ。

 その友人Aも筆者と歩調を合わせて、九州で2口の契約を結んでいた。そのため業者からは茨城県で1口という話が降りてきて、こちらも同じように再契約したわけだが、実質的なメドが立たない状況には変わりない。そのため「これからどうやって進めていこうか……」などと先行き不安な会話をしていたのだった。

業を煮やして自ら発電所の設置を画策したが……

千葉県に発電所用の土地を購入

 ただ筆者としては、すでに「50kWの発電所を2つ作りたい」という思いが強くなっていたので、いつになるか分からない茨城の発電所1つだけを待っているだけでは物足りない。そこで12月にさらなる冒険へと打って出たのである。すべて業者任せでは面白くないので、自ら土地を見つけて購入し、そこに発電所を設置してしまおうという手段である。

 これについては、もう少し進展があった時に改めて詳しく記事にしたいと思っている。だが、結論から言ってしまうと、千葉県の畑が並ぶ土地のど真ん中にあった資材置き場300坪を300万円で購入した。それと同時に、別の業者に頼んで太陽光発電所を作るべく設備認定を経済産業省へと申請したのである。

 この土地探しにおいても、友人Aとクルマで回ったりしたのだが、結局購入できたのは発電所1つ分のみ。そのため、結果的には筆者単独行動となったわけだ。この千葉の発電所予定地もほどなくして経産省からOKの通知はもらえたものの、問題は東京電力側。状況としては茨城県と同じように東京電力からの返事がないため、いつできるか予想もつかないという状況のまま時が過ぎているのだ。

経済産業省から設備認定の通知

富士山麓で本格スタートの兆し

 そこへ3月頭の深夜、友人Aから「1年ほど前に問い合わせをした、太陽光発電用地を扱っている不動産屋から突然連絡が来て、4月連系予定の物件があるとのこと。売電単価は36円で、土地代込み2,200万くらい。こんな話ってあり得るのかな?」と、Facebookのメッセージを通じて連絡がきたのだ。聞いてみると場所は富士山麓であり、いわゆる太陽光発電システムを手掛ける業者がやっているわけでもないようなのだ。

 筆者としては茨城と千葉の案件を抱えているだけに、もうこれ以上手を出すことは不可能なので、資料などを読みつつ、気になる点などをアドバイスしていったのだ。でも、なぜ4月に連系ができることが確定していたのかというと、すでに東京電力側がOKを出し、系統連系負担金を提示するとともに、土地所有者側が1月に負担金を払い込んでいたからだ。

富士山麓の土地
連携予定の物件があるとのこと

 逆にいうと、茨城も千葉も、その系統連系負担金の提示が来るのを待っている状況だったので、ここなら確実にスタートできるというわけだ。富士山麓の原野ということだけあって、土地自体はかなり広く、計画ではここに31の発電所を作り、区分所有者を募って分譲していくとのこと。ただし、諸々の状況から先行して設置するのは端っこの4区画のみで、そのうち2区画が空いているので、どうだろうか? という提案だったのだ。

 ある程度の資料と写真もメールで届いていたので、それを見てみたが不安もいろいろあった。まずは、やり取りする相手の窓口はただの不動産屋であり、あまり突っ込んだ詳しい話もできない。資料上は大きな問題はないものの、友人Aは「そもそも詐欺の可能性はないだろうか?」と疑っていたほどなのだ。

設置に関する資料。見積書も届いた
具体的な条件など
収支予測

 「とりあえず現地を見に行かないと、本当に物件が存在しているのかも分からない」ということで、2日後、友人Aが一人で見に行った。その報告によると、確かに現場は存在し、ちょうど基礎工事を行なっているところだったのだ。

 現場の人に話を聞くと、「3月20日にはパネル設置工事を行なうため、急いでいるけれど、基礎が固まるのに2週間はかかるので、ギリギリのタイミングだ」という。4月連系の話が来ているから、それに向けて急ピッチで進めているのは間違いなさそうである。

 ちなみに、見積書を見るとパネルは中国のレネソーラーという会社の多結晶シリコンのもので、250Wのパネル×208枚=52kW。パワコンについてはメーカーや型番の記載がなかったが、不動産屋に確認をしたところオムロン製とのことで5.5kW×9=49.5kWとなっている。ただし、エコめがねのようなモニタリングシステムはなく、保険なども整備されていないようだし、オプションとして用意されているわけでもない。「必要あれば各自で用意してくれ」とのことで、大丈夫なんだろうか……と思うところだった。

友人Aが物件の下見に
ちょうど基礎工事を行なっていた

 また、購入するにあたってはいくつかの付帯条件もついていた。1つは3月中に現金での決済が必須である、ということと。2つ目は現在の土地所有者である売主が運営する会社とのメンテナンス契約が必要で、月額8,000円であるというのだ。友人Aが調べた結果、その運営会社はサッシ屋さんであり、太陽光発電とは無関係。そんなこともあってか、メンテナンス内容は草刈りと雪下ろしが中心とのこと。もっとも気になる電気系統のメンテナンスは含まれていないようなので、大丈夫なのか不安に思えたのだ。

 3月10日、友人Aとランチミーティングという感じで、そんな話をしている中、彼は購入することを決断。すでに日本政策金融公庫を通じて資金も調達できる段階にあったので、3月中に決済することも可能だと手続を進めていったのだ。不安材料はいろいろ感じるものの、友人Aのほうが確実に先に太陽光発電事業をスタートできるとなると、ちょっと悔しい気もする。そもそも茨城も千葉もいつになるか分からないので、ますます羨ましい。

破産ギリギリ、全財産をかき集めて追加投資

 経済的には、これ以上投資する余力はないものの、ここで、さらなる大冒険が頭によぎったのだ。「丸ごと1区画は無理でも、友人Aと半分ずつなら可能性があるのでは……」という無謀すぎるプランだ。前述のとおり茨城と千葉は全額借金の形で資金調達できることは確定している。ということは自分の個人会社である有限会社フラクタル・デザインが持っている全資金を投入するとともに、個人で持っている全財産をかき集め、さらに小規模企業共済からお金を借りれば1,100万近くまで手が届くかもしれないという皮算用である。

 小規模企業共済というのは、筆者のような零細企業の社長や自営業者のために、国が用意してくれている退職金の積み立て制度。これまで積み立てたお金を担保に、その9割までを1%の利息で借りることができるという仕組みがあるので、これを使ってしまおうという算段なのだ。別の見方をすれば退職金の前借り。まさに崖っぷちの戦いである。

 もちろん、共同所有プランを友人Aが断れば、もう手はないのだが、そのランチミーティングの夜に電話で切り出してみたところ、即答で「乗る」というのだ。自分よりは資金力のあるヤツではあるが、「いいのか? それで!」と言ってしまったほど。自分としても、一歩間違えれば破産は間違いないので、今回ばかりはかなりのリスクとなる。

 でも、思い浮かんでしまうと、もうその衝動は自分でも止められなくなってしまうのだ。さっそく、翌日、不動産屋に問い合わせてみたところ、まだ2区画残っているという。もともと売り先が決まっていた2区画のうち1つがキャンセルとなったようで、空いていたのだ。

 現場見学をしてきた友人Aによると「どこも条件的な違いはないけれど、万が一にも、この原野で隣に建物などが立って影ができるリスクを考えると、そうした影響のない内側がいい」という。すでに、彼が購入する区画4番は埋まっているので、その隣の区画3番を購入することを電話越しの口頭で伝えたのだった。(後編へつづく)

藤本 健