大河原克行の「白物家電 業界展望」

パナソニックが本気で踏み出す「スマート家電」とは?

~アプライアンスマーケティングジャパン本部・原本部長に聞く
パナソニック グローバルコンシューマーマーケティング部門 アプライアンスマーケティングジャパン本部 原昭一郎本部長

 「2012年は、スマート家電元年になる。その潮流に対して、パナソニックは積極的に展開していく」――パナソニックグローバルコンシューマーマーケティング部門アプライアンスマーケティングジャパン本部・原昭一郎本部長はそう切り出す。2012年6月には、スマートフォンと連携する電子レンジや炊飯器を市場投入したが、さらに踏み込んだ製品群の投入を計画している模様だ。

 パナソニックのアプライアンス(生活家電)事業にとっては、家庭などの「住宅空間」と、個人を対象とする「パーソナル」領域が重要な領域になる。80カテゴリー、8,000品番もの製品を展開する同社のアプライアンス事業は、今後、どのように展開していくのか。原本部長に、パナソニックの白物家電事業の方向性について聞いた。


パナソニックの復活には、世界中が「ハッ」とする商品を出す必要がある

――パナソニックでは白物家電事業を、成長を下支えする事業と位置づけていますね。そのなかで、アプライアンスマーケティングジャパン本部はどんな役割を果たしますか

 パナソニックの白物家電(生活家電)や理美容商品、環境商品などに関して、日本市場を対象としたマーケティングを担っているのが、アプライアンスマーケティングジャパン本部です。ここでは、約80カテゴリー、約8,000品番の商品を扱っています。

 生活家電事業の理想型は、地産地消のビジネスモデルです。キーデバイスは共通であるが、それぞれの市場において深く根ざした商品をつくり、マーケティング活動をする必要があります。白物家電にしても、理美容製品にしても、生活、文化、人種によって求める要素が異なります。

パナソニックが中国に向けて販売しているシェーバー。それぞれの市場に合わせた仕様が求められるという

 例えば男性向けシェーバーの場合、日本人とほかの国の人では、ヒゲの性質が異なるため、それぞれの市場にあわせた刃の作り方が求められる。こうしたモノづくりを行なうために市場の声を反映させ、さらに多くの方々に訴求していく必要があります。

 パナソニックの復活のためには、世界中のお客様が「ハッ」とする商品を出していかなくてはなりません。モノづくりを担うパナソニック アプライアンス社の高見和徳社長は、かつてマーケティング本部長を経験していますし、マーケティング本部の役割を非常に重視しています。緊密に情報交換を行ない、商品企画や開発、そして市場への提案手法に、アプライアンスジャパンマーケティング本部の知恵を生かしています。

 すでに現時点で、2014年度に向けた商品づくりが始まっていますし、この2014年度の商品づくりは、そのまま2018年度に迎える創業100周年の時の商品づくりをイメージしたものとなっています。

 もちろん、足下のPSI(Production・Purchase[生産と調達]/Sales[販売]/Inventory[在庫]を表す略語)についても、徹底した管理を行なっています。マーケティング本部は、市場がどう動くか、それに向けてどんなシナリオを作り、どう対処していくか。マーケティング本部には、アプライアンス社から商品を仕入れて、市場に投入していくという権利と義務がある。市場の変化を全身で感じながら、アプライアンス社と緊張感を持った関係を維持して、成長性と収益性にこだわっていきたいと考えています。


「AV商品を白物でカバー」する流れが、過剰な商品供給を生む恐れも

――成長性、収益性という観点で、懸念する材料はありますか

家電メーカーが、AV機器の売上減を白物家電でカバーしようとする場合、商品が過剰に供給され、販売価格が乱れる恐れがあるという

 ご存じのように、各社ともAV商品の販売減が大きく響いています。昨年7月の地上デジタル放送への移行を前にした旺盛なテレビの買い換え需要が、今年に入って反動となって、各社の業績に大きく影響しています。

 となると、各社が共通に考えるのが、AV商品の落ち込みを、白物家電でカバーしようという考え方です。裏を返せば、白物家電市場において、商品の過剰供給が始まり、販売価格が乱れる可能性がある。各社が付加価値のない同質化競争をすれば、価格はダウンしますし、過剰な商品供給は販売現場の疲弊にしかつながりません。

 ですから、いまこそ、他社との差別化策が求められ、付加価値型の商品が必要になる。使うだけで節電になる当社独自のセンサー技術「エコナビ」のような差別化だけでなく、エネルギーマネジメントを含めた家まるごとの提案や、次世代のスマート家電というのは、その切り口の1つだといえます。


ラムダッシュ/ポケットドルツ/プチ食洗のヒットの裏に、マーケティングの後押しがあった

――ところで、これまでに、アプライアンスマーケティングジャパン本部が関わることによって、成功した事例にはどんなものがありますか

 例えば男性用シェーバーでは、“お風呂シェービング”といった提案をしました。彦根で開発をしているビジネスユニット部隊にしてみれば、シェーバーに防水機能がついているのは当然のことだと思っていたのですが、これを市場に訴求する際に前面に打ち出したところ、これまでとは異なる顧客層を獲得することにつながりました。

 また、小型電動歯ブラシ「ポケットドルツ」についても、開発した携帯性のある商品を単に持ち運べるといった提案に留めるのではなく、働く女性などをターゲットに、ランチ磨きの提案や、ポーチに入れることができること、女性が気に入るデザイン性を追求し、これを訴求しました。

男性用シェーバー「ラムダッシュ」では、“お風呂シェービング”をアピールすることで、新たな顧客層を獲得したというポーチに入る小型の電動歯ブラシ「ポケットドルツ」(写真中央)。働く女性をターゲットとした
コンパクトな食洗機「プチ食洗」は、ターゲットを従来の4人家族ではなく2人暮らしとした。この結果、食洗機の販売台数は2~3倍に拡大したという

 一般的な製品よりもコンパクトな食器洗い乾燥機「プチ食洗」についても、これまでは4人家族をターゲットにしていたのを、2人家族に変更してみました。これまでの経験から、食洗機を使用するのは大量に食器を洗う4人家族が主要なターゲットになるだろうと、勝手に思いこんでいたのです。

 しかし、実際にはシニア世代の人口拡大とともに、2人暮らしの世帯が半分以上になっている。それならば小さくして、キッチンに置けないといったこれまでの課題も解決してしまおうと考えました。実際、その後の食洗機の販売台数は2~3倍に拡大しました。普及率が2割程度の商品ですから、提案の仕方によってはまだまだ成長する商品領域だと考えています。

 各商品の開発、生産を担っているビジネスユニット長は、背負っているものが重たい(笑)。それは当然のことです。そこに我々がマーケットの声をもとにして、決断を後押しする。そして、それを新たなビジネスチャンスへと変えていく。こうした仕組みが構築できていることは、パナソニックにとっても大きな強みになります。


新体制では“エコナビ群”をはじめとした、商品カテゴリーを超えた訴求も

――今年6月にスタートした津賀一宏社長体制になり、パナソニックは、4つの「空間」に対して、ビジネスを行なっていく方針を打ち出しています。アプライアンスマーケティングジャパン本部の注力点はどこになりますか

 新たに打ち出した「空間」とは、家庭などの「住宅空間」、オフィスや工場、店舗などの「非住宅空間」、自動車や飛行機、自転車、あるいはモバイル性の高いPCなどの「モビリティ」、そして、個人の「パーソナル」という4つの領域です。アプライアンス事業においては、このうち、「住宅空間」、「パーソナル」の領域が主要なエリアとなってきます。

 「パーナソル」分野においては、男性用シェーバーや、パナソニックビューティーとして展開する女性用理美容商品が代表格といえますが、これらの商品では、市場シェアが50%を超えるなど、圧倒的ともいえるシェアを確保しているものが多い。これを引き続き維持していきたい。

 その一方で、エアコン、冷蔵庫、洗濯機といった白物家電商品群は、エコナビなどの当社の付加価値を前面に打ち出すとともに、さらに新たな提案を通じた展開も加速していきたいですね。ここは一歩も引けない商品領域ですから(笑)、積極果敢に打って出たい。

パナソニックの男性用シェーバーや女性向け理美容家電は、50%を超える圧倒的なシェアを獲得している(写真はドライヤー「ナノケア」)エアコンや冷蔵庫、洗濯機は、エコナビなどパナソニックとしての付加価値とともに、新たな提案方法も考えているという

 私は「面積」と表現しているのですが、商品の「面積」を増やし、裾野を拡大したい。ここでいう「面積」の定義は、「市価×台数」。シェアが高い領域においても、気を許すことなく「面積」を拡大したいと考えていますし、まだまだ普及率が低いような商品領域でも、我々の強みを生かしながら「面積」拡大に臨みたいですね。

 今度は更に、「群」による展開を進めていきたいと考えています。すでに“エコナビ群”というような表現ができるように、縦軸だけではなく、横軸での商品ラインアップも揃ってきましたから、これまでの商品カテゴリーごとの訴求ではなく、カテゴリーを超えた訴求も活発化させたいと思っています。


スマート家電はあらゆる意味でユーザーに変化を与える

――津賀社長は、「もはや、テレビも白物」という表現をしていました。その考え方が、アプライアンスマーケティングジャパン本部の動きに、なにかしら影響を及ぼすといったことはありますか

 「住宅空間」に入るという点では、テレビも白物であるという言い方はできると思います。

 また、今年は「スマート家電元年」というタイミングにも入ってきます。これまではスタンドアロン(単体で動作すること)が基本だった白物家電が、テレビやスマートフォンと接続するといったように、ネットワーク化が前提となる。そうなると、これまでは白物、AVと分かれていた組織も、これまで以上に緊密な関係を取る必要が出てくる。住宅空間やパーソナルといった領域において、アプライアンスマーケティングジャパン本部と、AVCマーケティングジャパン本部が連携して、まるごと提案を行なっていくといった動きは、これから加速していくことになるでしょう。AVCマーケティングジャパン本部の吉清和芳本部長とは、常に情報交換をしていますよ。

――「スマート家電元年」という流れのなかで、パナソニックはどんな提案を進めていきますか

 現時点では、2012年6月に市場投入したオーブンレンジ「NE-R3500」と炊飯器「SR-SX102/182」において、スマートフォンを通じて、調理メニュー設定や調理の操作を行なうといった提案に留まっています。外からみると、「まだこの程度なのか」という認識かもしれません。

スチームオーブンレンジ「NE-R3500」では、スマートフォンでタッチすることで、簡単に調理設定ができる機能を備えている炊飯器「SR-SX102」でも、スマートフォンとの連携機能を搭載。炊飯コースや予約設定など、各種設定ができる

 しかし、この領域においては、パナソニックは本気になって取り組んでいきます。商品同士をつなげ、新たな世界を提案していくことにも取り組んでいきます。ただ、詳細については、もう少し待ってください(笑)。

 スマート家電は、ちょっと先の「夢」のような世界の話であったともいえます。しかし、それが現実のものになりつつある。そして、我々はそれにあわせて原点に立ち返る必要がある。スマート家電によって、「なにをつくるのか」「なぜ、それを作るのか」という原点に立ち返り、モノづくりそのものを問い直す時期に入ってきたといえます。そして、商品に関する情報を発信する手法も、変化させていく必要がある。スマート家電はあらゆる意味で、我々に変化を及ぼすものになると考えています。

 世の中では、スマートフォン、スマートシティといった言葉が使われています。これに続く、“第3のスマート”が、スマート家電になる。ここでは、白物家電や理美容商品、AV商品だけでなく、太陽光発電やエネルギーマネジメントを加えた、「省・蓄・創」という3つのエネルギー商品や環境商品への取り組みも重要になります。ここにパナソニックの総合力が発揮されることになります。

 パナソニックらしい、スマート家電の提案をしていきたいと考えていますので、ぜひ楽しみにしていてください。







2012年8月10日 00:00