大河原克行の「白物家電 業界展望」

業績好調な白物家電事業を2011年度決算から振り返る

by 大河原 克行

 大手電機の2011年度決算が出揃った。パナソニック、ソニー、シャープが過去最大の最終赤字を計上する一方、日立製作所が2期連続で過去最大の最終黒字を更新するなど、まさに明暗が分かれた結果となった。

 テレビ事業の不振が大きく響いた弱電企業と、安定的な収益を確保する重電メーカーとの差が明確になった格好だ。

 その一方で、白物家電の好調ぶりも際立っている。国内での需要拡大とともに、海外で事業を拡大するといった動きが業績好調に貢献している格好だ。

 電機各社の2011年度連結業績を通じて、白物家電事業の各社の動向を追ってみた。

白物家電を安定的な収益源と位置づけるパナソニック

 パナソニックは、白物家電や理美容家電などのアプライアンス事業の2011年度売上高が前年比3%増の1兆5,342億円、営業利益は3%減の815億円となった。テレビ事業を含むAVCネットワークスが前年比21%減の1兆7,135億円、営業損失がマイナス678億円の赤字となったのに比べると対照的な結果だ。

 アプライアンス事業の5.3%という営業利益率は全セグメントのなかで最も高く、稼ぎ頭となっている。エアコンの売上高は1%減の2,924億円、冷蔵庫は1%減の1,287億円となったが、洗濯機および乾燥機は10%増の1,433億円と2桁成長を遂げた。

ドラム式洗濯乾燥機「NA-VX-7100」容量552Lの「トップユニット冷蔵庫 NR-F556XV」パナソニックのエアコン「Xシリーズ」の室内機

 好調な業績を支えているのは、国内での安定的な需要と、海外での成長。そして、「アプライアンスは、デジタル機器のようなコモディティ化がなく、地域特性や生活様態により様々な差別化が可能。先進国を含め世界中に生活研究拠点を置き、市場や国の文化・特性にあった商品を提示していくことで差別化が図れる」(パナソニックの上野山実常務取締役)という要因も大きい。

 2012年度は、売上高が6%増の1兆6,300億円、営業利益が23%増の1,000億円。パナソニックは、全社で2,600億円の営業利益を見込むが、3分の1以上をアプライアンスで稼ぐ計算だ。

 「大型空調機器に加え、洗濯機、冷蔵庫のグローバル展開が貢献することになる。海外販売は前年比20%増を見込む」(上野山実常務取締役)と語る。

次期社長に就任する代表取締役専務の津賀一宏氏(右)と、代表取締役会長に就任する大坪文雄代表取締役社長(左)

 大坪文雄社長も、「アプライアンス事業は、安定的な収益源として拡充していく」と位置づけ、「地域密着商品、エコナビ、スモールアプライアンス群展開が成長を支えることになる」とする。

 具体的には、冷蔵庫、洗濯機を新たに北米市場に展開するほか、欧米市場向けに大型空調機器を新たに展開。省エネ性などの商品力を強化するとともに、販売体制も強化する姿勢をみせる。また、中国、アジア市場向けには、Panasonic Beautyによるボリュームゾーン向けの美容健康製品の新製品を群展開する。

 「中国、アジアを中心に相当な伸張を期待している。また、グローバルに省エネ対応。エコナビ商品のラインナップを大幅に拡充することも大きな差別化になる」とする。

 さらに、インドでは、2013年1月に、エアコン、洗濯機の新生産拠点での量産を開始。ベトナムでは2013年4月から洗濯機の量産を開始するとともに、冷蔵庫の生産能力を増強。ブラジルでは2012年8月から冷蔵庫の量産を、2013年5月には洗濯機の量産をそれぞれ開始する予定であり、安定供給体制を整えるとともに、「BtoBを加えたグローバル展開を加速する」(大坪社長)という。

 また、2012年度は、アプライアンスに加え、エコソリューションズ、エナジーも増収増益を計画。「エコソリューションズで約500億円強、エナジー事業は数百億円単位で利益の押し上げ要因になっており、とくにソーラーは、マレーシアに一貫生産の工場を稼働させて需要に対応。引き続き黒字を維持する」と語る。

 過去最大の赤字を計上したパナソニックにとって、「2012年度は財務体質改善のスタートになる」(上野山常務取締役)というのは明らか。そのなかで、アプライアンス事業は利益の源泉としての役割を担うことになる。

 2012年度に、コンシューマー分野におけるAV商品とアプライアンス(白物家電)の売上比率が逆転し、売上、収益ともに白物家電が重要な位置づけを担うことになる。パナソニックは、6月27日付けで、代表取締役専務の津賀一宏氏が社長に就任する予定であり、津賀新社長体制のなかで進められることになる今後の構造改革のなかでも、白物家電の成長が下支えすることになろう。
 

LED照明が貢献した東芝

 東芝の家庭電器事業の売上高は、前年比4%減の5,768億円、営業利益は35%減の57億円の減収減益。

 「白物家電がタイの洪水影響、エコポイント制度終了に伴う需要減などにより家庭電器部門全体では減収減益となったが、一般照明事業においてLED照明が節電、省エネ需要の拡大を受けて好調。LED照明は増益にも貢献した」と東芝の久保誠代表執行役専務は語る。

東芝の広配光タイプのLED電球「E-CORE 一般電球形10.6W」。写真は電球色の「LDA11AL-G」施設やオフィス向けの天井直付けタイプの一体形LEDベースライト「LEDT-48101W-LDJ」東芝のLEDシーリングライト「LEDH95004YX-LC」。使用シーンに応じて全6パターンのモードが用意されている

 2012年度は売上高で11%増の6,400億円と前年比2桁増を計画。営業利益は75%増の100億円とする。LED照明を中心とする一般照明事業が堅調であると見込む一方、白物家電事業も改善し、増収増益を見込む。「確実に100億円の利益確保を目指したい」(久保専務)としている。

太陽電池の収益績回復に挑むシャープ

 シャープは、2011年度の健康・環境機器の売上高が8%増の2,923億円、営業利益は48%増の294億円となった。

 「節電や省エネ、健康志向の高まりによって白物家電は好調。LEDや空気清浄機が堅調な売れ行きをみせた。とくにASEANを中心に環境商品、健康商品の成長が大きい」と、シャープ・大西徹夫常務執行役員経理本部長は語る。

 2012年度の健康・環境機器事業の売上高は10%増の3,200億円、営業利益は9%増の320億円の増収増益を見込む。

プラズマクラスターイオンを放出する「スリムイオンファン PF-ETC1」6月上旬より発売するロボット掃除機「COCOROBO(ココロボ) RX-V100」。プラズマクラスターを放出するほか、スマートフォンとの連携機能も充実している

 「健康・環境機器は引き続き、増収の計画」と白物家電事業の成長に自信をみせる。一方、太陽電池は、売上高が前年比16%減の2,239億円、営業損失がマイナス219億円の赤字となった。販売量は前年比14%減の1,073MWとなっている。「世界的な需給環境の悪化と、年間で半分程度まで価格が下落したことが、赤字の要因となっている」という。

 2012年度は売上高が前年比16%増の2,600億円、営業損失はマイナス100億円の赤字となるが、「上期は厳しい状況が続き赤字になるが、下期は国内では需要の倍増を見込んでおり、赤字は大幅に削減できる」という。販売量は30.4%増の1,400MWを目指す。

シャープ葛城工場の屋上に設置された自社製太陽電池

 国内の成長要因は、7月から開始される全量買い取り制度の開始。「これにより、国内向け事業で大きな市場成長が期待される一方、メガソーラーや発電事業の取り組み強化や高効率単結晶太陽電池を中心しとした技術開発の推進などを計画。事業と収益の構造転換に取り組む」としている。

 太陽電池事業における構造改革では、国内営業およびシステムサポート体制の強化により、メガソーラーと発電事業の強化推進、パワーコンディショナーやHEMS、蓄電池などのシステム機器開発や販売強化、伊エネル社との連携をはじめとするビジネス展開の強化。地産地消型ビジネスの推進の海外工場における生産体制の強化、国内マザー工場機能の強化と高付加価値生産ラインの集約を図るという。

 「太陽電池を取り巻く環境は大変厳しい状況にあるが、国内での需要拡大により、成長を見込む」と語る。

着実に白物家電のシェアを拡大する日立

 日立製作所は、白物家電を含むデジタルメディア・民生機器部門の売上高が10%減の8,588億円、営業損失はマイナス109億円の赤字。売上高の減少幅は同部門が最も大きい。

 だが、赤字の要因は、光ディスクドライブ関連製品や薄型テレビの価格下落の影響によるもので、白物家電事業は堅調に推移している。

 白物家電事業を担当する日立アプライアンスによると、日立は国内主要白物家電5品目(冷蔵庫、洗濯機、掃除機、ジャー炊飯器、電子レンジ)において、2011年度までの5年間でシェアを9ポイント上昇させており、市場シェアは26%に達しているとする。

縦型洗濯機で存在感を示す「ビートウォッシュ」高級オーブンレンジ「大火力焼き蒸し調理 ヘルシーシェフ MRO-LV300」

 同社では、「『日立はエコにたし算』をキーワードにプレミアム戦略を推進。国内白物家電事業をベースに、海外白物家電事業と環境分野、オール電化を切り口に、事業拡大をはかる」などとしている。

 2012年度の売上高見通しは、前年比3%減の8,300億円、営業利益は109億円の改善を見込み、ブレイクイーブンとする。ここでも薄型テレビの構造改革や大幅な減少が影響するが、白物家電や業務用空調は引き続き堅調に推移。これら製品群の収益改善も進むとみている。

太陽光発電事業を強化する三菱電機

環境配慮型住宅「大船スマートハウス」の実証実験では、太陽光発電にとどまらずHEMSを中心としたシステム開発に重点が置かれている

 三菱電機は、家庭電器事業が前年比8%減の8,492億円、営業利益は47%減の223億円。国内の薄型テレビの駆け込み需要の反動、欧州を中心とした海外向け太陽光発電システム、国内向け給湯器およびIH調理器の減少が響いたという。

 同社では、開発、製造、販売面におけるグローバル事業推進体制の強化、各地域ごとのニーズに対応した製品開発の推進、環境・省エネ関連製品などの高付加価値製品の拡販などを進める考えであり、2012年度の家庭電器事業は、前年比5%増8,900億円、営業利益は30%増の290億円を見込む。

 太陽光発電事業では、住宅用システムでHEMSとの組み合わせによって提案力を強化。公共・産業用ではSE力と高施工性による短工期などの総合メリットを生かす姿勢をみせる。日本の住宅向けでは、機器の10年保証なども特徴に掲げる考えだ。

好調な空調専業のダイキンと富士通ゼネラル

 一方、エアコンを主体とするダイキン工業と富士通ゼネラルは、いずれも好調な業績だ。国内空調機市場は、業界全体で、エコポイント需要があった昨年度に記録した過去最高の出荷台数に匹敵するほどの販売台数になっているという。

ダイキンはアイデアに富んだ商品が多い。卓上型リモコンが付属する「らくらくエアコン ラクエア Wシリーズ」帯電してホコリを吸着するモップが付いた空気清浄機「光クリエール キレイのしっぽ」

 ダイキン工業は、売上高が前年比5%増の1兆2,187億円、営業利益が8%増の811億円、経常利益が9%増の817億円、当期純利益が107%増の411億円と増収増益の好調な決算となった。

 そのうち、空調・冷凍機事業の売上高は4%増の1兆413億円、営業利益は7%減の601億円となった。

 国内の住宅用空調機器では、下期はエコポイントの反動の影響があったものの、住宅着工の持ち直しによるプラス効果のほか、節電効果を訴求した高付加価値製品の拡販により堅調に推移。国内業務用エアコンでは、節電効果の高い製品が高い評価を得て、好調に推移したという。また、中国、インド、ベトナム、トルコなどの新興国での売り上げ拡大が寄与したという。

 2012年度は売上高で13%増の1兆3,800億円、営業利益で23%増の1,000億円、経常利益で19%増の970億円、当期純利益で29%増の530億円を目指す。そのうち、空調・冷凍機事業は、売上高が12%増の1兆1,700億円、営業利益は25%増の755億円。営業利益率は6.5%を目指す考えだ。

 中国市場向けに住宅用マルチエアコンの投入や、新興国向けボリュームゾーン製品の展開、国内および欧州では差別化製品の投入によるシェア向上とともに、トータルコストダウンをはかるという。

 とくに国内では復興支援に向けた補助金制度の再開、住宅ローンの優遇税制などの需要回復の材料が予想されること、快適性と使いやすさを追求した住宅用エアコン「ラクエア」などの新製品投入を計画。国内住宅用空調機市場全体が前年比12%減の730万台が見込まれるなか、前年比4%増の成長を見込んでいる。

省エネと暖房の基本性能で“業界No.1” を謳う「nocria Zシリーズ」

 一方、富士通ゼネラルは、売上高が12%増の2,035億円、営業利益が21%増の133億円、経常利益は13%増の98億円、当期純利益は7%増の51億円となった。

 空調機部門では、売上高が12%増の1,754億円。そのうち国内は2%増の512億円。海外向けは16%増の1,233億円。個人需要が堅調なロシアに加え、期初の好天に恵まれたフランス、ドイツを中心に欧州市場が好調。国内では節電意識の高まりにあわせて、節電効果が高いリビング向け大型クラスのエアコンの販売が好調だった。

 2012年度の見通しは、売上高が6%増の2,150億円、営業利益が13%増の150億円、経常利益は33%増の130億円、当期純利益は64%増の85億円。空調機部門の売上高は2%増の1,785億円を見込んでいる。

 空調機部門は上期は欧州、国内市場での大幅な成長の反動もあり、売上高は半減すると予想しているが、通期では北米での需要拡大、専門店ルートの開拓を進めているオセアニアや、インバータ機種の販売拡大が進んでいるロシアや中国でのルームエアコンの販売拡大を見込んでいるという。

海外での成長が期待される2012年度

 このように各社の白物家電の業績は好調なものとなっている。また、利益確保という観点でも電機各社の業績を下支えしている。

 今後の各社に共通した課題は、海外での事業拡大だといえよう。

 ボリュームゾーン製品の展開や、地域特性が強い白物家電製品において、より地域に密着した製品開発が求められており、それに向けた体制づくりが注目される。中国やASEAN地域での生産体制の強化は、日本市場向けの製品づくりだけに留まらず、それぞれの地域に向けた製品づくりの重要拠点としての役割も担うことになろう。

 2012年度は海外における白物家電事業の成長に注目したい。






2012年5月30日 00:00