大河原克行の「白物家電 業界展望」

パナソニックの白物家電事業が数十年ぶりにAV商品の売上高を上回る

~2015年度にアプライアンス世界トップ3目指す
by 大河原 克行
パナソニック アプライアンス社・高見和徳社長

 パナソニックは、2015年度にアプライアンス事業(白物家電事業)において、世界トップ3入りを目指す方針を示した。2012年度には売上高で前年比3%増の1兆1450億円、営業利益では前年比31%増の800億円を計画しており、「アプライアンスの売上高が、数十年ぶりにAV商品の売上高を上回ることになる」(パナソニック アプライアンス社・高見和徳社長)という。今後、BtoC製品によるグローバル展開を強化する一方、大型空調機器およびコールドチェーンなどのBtoB事業の拡大を成長戦略に据える考えだ。

BtoC事業の拡大に加え、BtoBにも力を注ぐ

アプライアンス事業のグローバル展開。海外47拠点で事業を推進、前年比120%を目指すという

 パナソニックのアプライアンス事業は、2012年1月の事業再編によって、パナソニックの白物家電事業を行なってきた旧ホームアプライアンス社を中心に、旧パナソニック電工の理美容商品および健康商品部門、旧三洋電機の業務用冷熱機器部門を一本化し、新生アプライアンス社としてスタート。国内9拠点、海外47拠点の合計56拠点のグローバル体制で事業を推進していくことになる。

 同社のアプライアンス事業全体をみると、2011年度実績では、エアコンが売上高全体の18%を占め、最も構成比が高い。次いで、洗濯機の10%、冷蔵庫が9%、美容・健康が9%となる。これらを含めたBtoC事業が全体の59%を占めている。

 これに対して、41%を占めるBtoB事業は、主に三洋電機からの事業移管によって増加した分と見ることができる。ここではエアコンコンプレッサーが7%、コンビニエンスストア向けのショーケースに代表されるコールドチェーンが7%、大型空調が5%、オール電化関連が4%などとなっている。

 「今後はコールドチェーン、大型空調、オール電化を伸ばしていく。BtoCは今後新興国で大幅な成長を遂げることになるが、それでもBtoBは40%台の構成比を維持していくことになる」とする。

大型空調や、美容機器を軸としてBtoB事業のグローバル展開も進めていく

 現在、アプライアンス事業全体の営業利益率は5.5%。これを2012年度には7%に引き上げる。BtoB事業の営業利益率は15%と高く、利益確保の面でも重要な事業。これに対して、BtoC事業は、今後、新興国市場への展開が強化されることになり、結果として営業利益率の悪化が懸念される。

 「BtoB事業で、空調、冷蔵庫のキーデバイスであるコンブレッサーを有しており、これを相当な台数をつくり、中国メーカーなどにも供給している。空調用での世界シェアは15%。このデバイスを持っていることでの収益性が高いという背景もある」とする。

 いずれにしろ、BtoB事業の成長が営業利益率を高めることに大きく影響することは確かだ。

燃料電池は2012年度1万台を目標に

 BtoB事業に関しては、大型空調とコールドチェーンを「成長エンジン」と位置づけ、「パナソニックと三洋電機の強みを融合する。三洋電機の商品に、パナソニックの技術を加えることで、商品陣容拡大とコストダウンを図れる」とする。

 大型空調では、オフィス・店舗用・ビル用エアコンと、ガスヒートポンプ、大規模施設空調の3分野において、商品陣容拡大と販売体制を強化。2012年度は前年比20%増を目指す。大型空調では、業界トップの省エネ性能と、材料を25%削減した新製品を投入する。「大型空調は、パナソニックの省エネ技術、小型化技術、コストダウン技術と、三洋電機の大型空調システム事業、ネットワークで統合するエネルギーマネジメント技術を徹底的に融合する。新製品は1年半前から開発しており、これらの製品群を2012年度に一気に投入していく」とした。

 コールドチェーンでは、コンビニエンスストア向けのショーケースや業務用冷凍冷蔵庫および自動販売機で構成。自然冷媒の採用や低消費電力化による環境性能での差別化を強みに、「日本だけでなく、中国、アジアにも販売拡大を図る」という。2012年度は前年比6%増の売り上げ拡大を計画している。

 また、BtoBでは環境・エネルギー分野も大きな成長を見込む。

東京ガスとパナソニックが開発した、第2世代のエネファーム

 2009年度から市場投入している燃料電池では、2011年度は前年比2倍となる6000台強を販売。2012年度は、前年比1.4倍の1万台を販売するほか、売上高では7%増を計画している。欧州市場への商品投入の準備も進める考えだ。

 カーデバイスでは、充電ケーブル、電動コンプなどのEV向け商品の強化とグローバル展開により、売上高は前年比11%増と2桁成長を計画。ガスメーターデバイスでは、超音波メーターの提案を推進する一方、フランス、スペイン、イタリアでガスメーカーと共同で、スマートメーターのフィールドテストを実施。「安全性、正確性で高い評価を得ており、2013年度以降に本格的に成長することになる」とした。この分野では2012年度は、前年比14%増の成長を見込んでいる。

白物家電では新興国での事業展開に注力

 一方、BtoC事業においては、海外ビジネスの拡大が重要な鍵になる。

 2012年度のアプライアンス市場全体を俯瞰すると、成長率は前年比1%増となる。国内市場も前年比1%増、北米市場では7%減と前年割れが見込まれている。

 これに対して、アジア市場は前年比4%増、中国でも4%増。インドでは15%増という大幅な成長が予想されている。

 「BRICs+V(中国、ブラジル、インド、ロシア、ベトナム)では、市場全体で前年比5%増という高い伸びが見込まれている。また、当社の市場シェアはグローバルではまだまだ低い。最もシェアが高いエアコンでも12.3%。アプライアンス商品の世界需要は平均5000万台以上のものばかりであり、新興国を中心にまだ伸びる。当社の販売機会が大きいともいえる。とくにインド、ブラジル、ベトナムでは工場を建設し、生産体制の強化も図っていく。グローバルでの事業拡大に向けて、積極的な投資を惜しまずにやっていきたい」とする。

 インドでは、2013年1月にエアコンと洗濯機の量産を現地で開始することでコスト競争力を強化。さらに将来的には隣接する敷地に冷蔵庫の生産拠点を展開することも明らかにした。ブラジルでは冷蔵庫の量産を2012年8月から、洗濯機の量産を2013年5月からそれぞれ開始。現地生活研究に基づく商品投入を開始する。冷蔵庫の生産拠点では、建屋はほぼ完成しており、あとは設備を導入する段階にあるという。またベトナム市場においては、ASEAN事業のさらなる拡大に向けて、2013年4月から洗濯機の量産を開始するとともに、ハノイの既存拠点においては冷蔵庫の生産体制増強に取り組み、さらに冷蔵庫および洗濯機の開発拠点を設立するという。

 「韓国、中国メーカーは積極的な投資をしており脅威であるのは事実。しかし、対抗できる。省エネ技術やデバイス技術などでは圧倒的に強い技術を持っている。これの技術を使って、いかに速く海外で展開できるかが鍵。ブラジルでは韓国メーカーよりも早く現地生産を開始している」と自信をみせる。

エコナビは世界90カ国で約270機種を展開

 同社では、BtoC市場における製品別の戦略も明らかにし、そのなかで、エアコン、冷蔵庫、洗濯機の主力3商品は、アプライアンス事業全体の成長を牽引するために、3つの取り組みを行なうという。

「トップユニット」構造のエアコンで省エネ性と横方向への送風性能が向上したエアコン「Xシリーズ」トップユニット冷蔵庫 NR-F556XVドラム式洗濯乾燥機「NA-VX-7100」
センサーを用いることでユーザーが意識しなくても、自然に節電できている「エコナビ」機能

 1つは、エコナビのグローバル展開である。これまでは国内を中心としていたエコナビを、2012年度はグローバルに本格展開。「2012年度は世界90カ国で約270機種を展開する」という。

 2つめはボリュームゾーンの展開。各国の顧客ニーズにあわせた新コンセプトの商品を創出。インド市場ではスプリット型エアコン「CUBE」が、計画に対して80%増で推移していることを示しながら、「インドネシアや中国でも地域密着型の製品が受け入れられている。各国において、革新的商品を連打するする。省エネ技術とマーケティング力で勝てる」と自信をみせた。

 3つめがODMの積極活用である。自前主義から脱却することで、短期間での商品ラインアップを拡充。ODMの活用によって、欧州では冷蔵庫で8機種、洗濯機で5機種、インドでは冷蔵庫で8機種、洗濯機で8機種をそれぞれ品揃えし、市場における存在感を高める。

 「欧州市場においては、デザイン性や省エネ性の強みを生かしたハイエンド商品から展開し、ブランド力認知に務めてきたが、課題はその下のゾーンの商品。ODMにより品揃えを強化したが、欧州で拡大するにはM&Aも必要になると考えている」とする。

 だが、高見社長は、「M&Aについては具体的に検討しているわけではない」とも語る。「欧州市場への商品供給でベストな場所はどこか、グローバルで狙うべき市場はどこかを考えながら進めていきたい」とした。

美健と調理小物を統一化した「群」展開を開始

国内で展開しているPanasonic Beautyシリーズ。スチーマーや美顔器など様々な製品がラインナップする

 一方、美健(美容、健康)、調理小物におけるグローバル市場への「群」展開についても加速する姿勢をみせる。

 美健では、Panasonic Beautyシリーズにおける中国、アジア市場での事業拡大、欧州発となる「ミラノシェーバー」をグローバルに展開することで、若年層を開拓。また、調理小物に関しても、欧州市場への本格参入に続き、ロシア、中国、アジアなどへ展開。日本では炊飯器およびベーカリーを核に事業を拡大する姿勢をみせる。

 「美健と調理小物を1つの『群』としてグローバル展開し、この領域でのPanasonicブランド確立を目指す。これを、BtoC事業における新たな成長の柱と位置づけ、2012年度においては、海外において15%以上の売り上げ成長を目指す。現時点では、デザインが揃っているわけではないが、今年から来年にかけて全世界でデザイン統一した形で揃える。2012年度後半からこうした製品が登場することになる。2012年9月に開催される予定のIFAで商品群を発表する予定」などとした。

2013年度までに製造工数を30%削減

 モノづくり力強化も、2012年度のアプライアンス事業の重要な取り組みだとする。

 コア技術として、「省エネ技術」、「美容・健康技術」、「資源循環モノづくり」の3点をあげ、「省エネにおいては、ヒートポンプ技術、インバータ技術は、世界トップレベルの技術。圧倒的な省エネナンバーワンを実現するものである。また、美容・健康分野においては、旧パナソニック電工が、大学機関とともに取り組んできた生体研究を、すでにドライヤーやマッサージチェアに活用しているが、これを冷蔵庫や洗濯機などにも活用して、複合展開していく。そして、資源循環ではブラウン管からグラスウールを生産するなど、社内において資源再生を進めている」などと語った。

 また、コスト力強化に向けては2つの方針を打ち出す。

 1つは、原材料高騰への対応として、レアアースや銅などの代替推進、リサイクル材の活用のほか、海外の材料の活用やグローバル集中契約の拡大を図るという。

 もう1つは、全世界48の製造拠点において、2013年度までに総工数を30%削減するという取り組みだ。設計起点で全製造工程を抜本的に検証するとともに工数の見直しを行ない、部品点数の削減、自動化などにも乗り出す。

 「作業工数を30%削減するということは、部品点数が30%無くなるのと同じ効果が出る。また、リードタイムが短くなり、在庫が減り、資産が資金に変わる。強い体質で経営ができるようになる」とする。

 こうした取り組みを通じて、「出荷のぎりぎりまでデザイン、品質を鍛えていく。2012年度は、商品にこだわり、商品で事業を伸ばす」と意欲をみせた。

 パナソニックのアプライアンス事業は、「安定的な収益源」と位置づけられ、同社の成長戦略を下支えするものといえる。

 グローバル展開の強化、BtoB事業による収益確保が、アプライアンス分野における成長戦略の鍵になりそうだ。






2012年7月4日 00:00