大河原克行の「白物家電 業界展望」
累計出荷100万台へのカウントダウンが始まった「アラウーノ」
by 大河原 克行(2015/6/1 07:00)
パナソニックのタンクレストイレ「アラウーノ」シリーズの累計出荷が、2015年度中に100万台に到達しそうだ。
その勢いに弾みをつけることになりそうなのが、6月2日から発売する「アラウーノSII」である。製品価格で19万6,000円と、20万円を切る普及価格を実現したタンクレストイレの新製品。2014年6月に発売した新型アラウーノで実現したトリプル汚れガードなどの基本機能を継承しながらも、ボリュームゾーンに展開することで、さらなる販売拡大を図る。
アラウーノは、2006年12月に第1号製品を発売。同社独自の有機ガラス系素材を使用することで、陶器とは異なり、汚れの原因となる水アカが固着しにくい特徴や、成形に自由度を増すことができるため、デザイン性にも優れた製品を開発できるという強みがある。新製品発売を機にアラウーノにおけるパナソニックの取り組みを追った。
有機ガラス系素材を採用したアラウーノ
パナソニックが、タンクレストイレ「アラウーノ」を製品化したのは2006年12月のことだ。
それまでの便器は衛生陶器で作られているのが常識であったが、後発であるパナソニックは、有機ガラス系素材を採用して、この分野への参入を図った。
陶器は、水アカの付着と、それに伴う汚れの浸透によって、ヌメリや黒ずみが出てしまうという課題がある。それに対して、有機ガラス系素材は、撥水性があり、水アカが付きにくいのが特徴。
また、ひとつひとつを焼き上げる陶器に比べて、精密な金型を使った成形が可能な点もメリットで、デザイン性に優れた成形や、汚れの隙間を作らず、段差がないミリレベルに対応した生産が可能であるといった特徴も見逃せない。
新型アラウーノでは、便器部分を、外側部分のスカート面、内側のホール面、上部のリム面という3つのパーツで構成し、これを振動溶着という独自の張り合わせ技術によって、隙間や段差がない便器を実現している。掃除がしやすく、最も効率的な形状を、有機ガラス系素材の利用によって実現しているというわけだ。
先行する競合他社が、陶器という資産を活用せざるを得ないなかで、陶器にしがらみがないパナソニックは、陶器にこだわらない素材の検討が可能だったのは大きな要素だった。
だが、ガラス系素材には、陶器に比べて傷がつきやすいことや、耐薬品性の問題が課題だった。そこで、パナソニックでは、素材の配合や構造を変えることで、洗剤による変色、劣化が起こらない素材を開発。開発から約3年の歳月をかけて商品化にこぎつけた。この新素材は、水族館の水槽や、航空機の窓にも使用されている素材で、キズだけでなく、割れやヒビにも強いという。
ハネ・タレ・モレの「トリプル汚れガード」を採用
2014年6月に発売したモデルは、汚れをはじく有機ガラス系素材を採用しながら、機能を大きく進化させたのが特徴だ。そして、これらの基本機能は、2015年6月2日からパナソニックが新たに投入する「アラウーノSII」にも採用されている。
「アラウーノSII」では、「全自動おそうじ機能」や「トリプル汚れガード」を採用しながら、20万円という普及価格を実現したのが特徴となる。
パナソニック エコソリューションズ社住環境商品営業企画部水廻り商品グループ主幹の坂本剛氏は、「昨年発売の新型アラウーノでは、戸建て住宅を中心にタンクレス市場において好評であり、順調に販売を伸ばしてきた。この実績をもとに、アラウーノSIIでは、ボリュームゾーンへと展開することで、タンクレストイレへの取り換え需要を喚起するとともに、アラウーノシリーズのさらなる販売拡大を目指す」と意気込む。
新型アラウーノおよびアラウーノSIIの最大の特徴は、「ハネガード」、「タレガード」、「モレガード」による「トリプル汚れガード」の搭載。便器以外の汚れの主な原因である、小便の「ハネ・タレ・モレ」による汚れを軽減することができるのが特徴だ。
ハネガードは、泡のクッションで受けとめて、飛び跳ね汚れを押さえるもの。便座開閉ボタンを押して、便座があがると、自動で水位が下がるとともに、泡が出てくる。これによって、男性の立ち小便の際に発生する落下差の反動で尿が飛び跳ねて、便器の外を汚すという課題を解決するという。
「泡で受け止めるだけで飛び跳ねをかなり削減できた。だが、それだけでなく、通常は5cmの高さで水を張っている水位を3cm下げることで、飛び跳ね防止効果をさらに高めることができた。従来に比べて95%以上の飛び跳ね抑制効果があった」(パナソニック エコソリューションズ社ハウジングシステム事業部水廻りシステムBU 商品企画グループサニタリーチーム・植田慶輔主事)とする。
実験では、1cmや2cmほど水位を下げるといったことも行なったが、最も効果的だったのが3cm水位を下げることだったという。また、3cmの水位の引き下げは別の点でもメリットがあった。新型アラウーノでは、すでに採用していた溜水部分の掃除をするための便器水位ボタン機能で、ちょうど3cmの水位引き下げを行なっており、この仕組みをそのまま利用することができたからだ。
「泡を張っているため、ほとんどの人は、水位が落ちていることに気がつかない。だが、水位の引き下げにより、飛び跳ね防止に効果を発揮している。また、便座をあげる操作をして、用を足すまでには6、7秒かかる。それまでの時間内に泡を張ることができるようにした。これも20人の男性被験者の調査から導きだしたものである」(植田慶輔主事)という。
パナソニックでは95%以上の飛び跳ね削減効果があるとしているが、実際に、約99%の飛び跳ね削減効果があるようだ。
一方、タレガードは、男性の立ち小便の際に、便器手前のフチから垂れるのを防ぐ構造を採用したもので、フチに高さ3mmの立ち上がり部を用意。便器の前側や、便器手前の床汚れを防ぐことができる。これもガラス系素材による成形だからこそ実現できるものだ。
そして、モレガードは、男性が座って小便をする際に、便座と便器の間から漏れ出すのを抑える役割を持つ。便座と便器の間に小便が当たっても、便器内に流れ落ち、さらにそれを乗り越えた場合にも、斜め内側に傾斜した構造としたことで、漏れをせき止めることができる。調査によると、便座に座って小便をする男性は、「いつも」、「たまに」を含めて55%と過半数に達しており、この機能は利用者から評価されているという。
また、女性の小便の際にも飛び跳ねが少なくなるように、便器の手前側の角度を計算して設計。これも汚れを少なくすることにつながっているという。
主婦が嫌がるトイレ掃除を減少
アラウーノのもうひとつの特徴が、「泡」と「水流」でしっかり洗うお掃除機能だ。
直径約5mmのミリバブルで大きな汚れを洗浄後、直径約60μmの潜在入りマイクロバブルで残っている汚れをしっかり落とすという、2種類の泡による「激落ちバブル」により、しっかり汚れを落とすことができる。
「泡で受けとめて、泡で洗う」というコンセプトを打ち出していることからもわかるように、「泡」は、アラウーノの特徴のひとつだ。
さらにスパイラル水流によって、少ない水で一気に流しきるのも特徴だ。
パナソニック独自のターントラップ方式により、便器内を旋回しながら、水を排出せずに排水路に溜め、洗浄時にはターントラップが下方向に回転して、すべての溜水を一気に排出。新スパイラル水流として、勢いよく流し、しかも少ない水でもきれいに洗うことができる。
さらに何度も検証を重ねた結果、便器に独自の立体成型を施し、溜水の無駄をなくし、流れの方向に高低差をつけて、便器内面をしっかりと洗浄できるようにした。
同社の試算によると、ターントラップ方式によって、年間1万2100円の節水が可能になるという。
一方、「激落ちバブル」と「ターントラップ方式」によって実現するアラウーノの「全自動おそうじ機能」は、主婦が嫌がるトイレ掃除を減らすことにつながっている。さらに、「ハネガード」、「タレガード」、「モレガード」による「トリプル汚れガード」も掃除を楽にしている。
同社では、アラウーノの購入者を対象に、トイレ掃除について聞いたところ、掃除が「とても楽になった」と回答した人が45%、「楽になった」と回答した人が48%と、合計で93%の購入者が、トイレ掃除がしやすくなったとしている。
「これまでは毎回ゴシゴシと、タワシでこすっていたが、いまでは2週間に1回、ササッと拭いておしまい」、「床への飛び散りが減って、掃除が楽になった」、「掃除しにくかったフチの溝がないので、周囲をぐるりと拭くだけで済む」といった声が、新型アラウーノの購入者からあがっている。
実際、トイレ掃除の平均回数は、アラウーノ購入前には週4.9回だったものが3.2回に、1回あたり7.6分だったものが3.8分へと、いずれも減少している。また、アラウーノ購入者の8割の人が従来の便器ではブラシを使っていたが、アラウーノにしてからブラシを使っている人は2割強にまで減ったという。
実は、これらの調査を行なう中で、新型アラウーノを導入してから、「掃除の回数が増えた」という回答があったという。しかも、「毎日掃除することになった」というのだ。
パナソニック社内は、この声を聞いて焦った。パナソニックの「全自動おそうじ機能」で目指したのとは、真逆の結果が出ていたからだ。商品企画担当者は、慌ててそのユーザーと連絡を取った。すると、そこで思わぬ声を聞いたという。
「すぐにキレイにできるから、毎日ササっと掃除をしてしまう」
従来はブラシを使ってしっかりと掃除をするために、今日は掃除の日と決めてトイレ掃除に臨んでいたが、新型アラウーノにしたことで、サッと拭き掃除できてしまうので、楽しくて毎日掃除をしてしまうというのだ。キレイ好きにとっては、掃除が楽しくなるという新たな世界を提案してしまったといえるだろう。
トイレ掃除という嫌な作業が減り、むしろ、それが楽しくなるという状況が生まれているのだ。
粘度を変えた擬似“便”により、検証実験を繰り返す
これまで触れたように、パナソニックの新型アラウーノは、様々な検証を重ねながら、有機系ガラス素材の成形のしやすさを活用して、製品化につなげている。その検証における取り組みにもこだわりがある。これは、「アラウーノSII」にも共通したものだ。
たとえば、便器において、全自動おそうじ機能の効果を検証するため、パナソニックでは疑似便を開発。粘度を変えて、細かく検証するという実験も行なっている。
当初は、ピーナッツバターや味噌などを利用していたが、その効果をより適格に検証するため、5種類の異なる粘度の疑似便を活用。さらに落とす速度や量も変えて、自動おそうじ機能が最も有効に働く状況になるように検証を繰り返したという。
「疑似便には色素を加えることができるため、油分は赤、水分は青に着色し、どちらが残りやすいか、どうしたら両方ともきれいに掃除ができるのかといった実験を繰り返した」という。
また、ハネガードにおいても、同様にパナソニック独自の検査を行なったという。
男性の立ち小便の場合、立っている位置から、便器の溜水に着水する際に、2回転半の軌道を描くという。ストレートの水では飛び跳ねがないが、この回転が加わることで飛び跳ねしやすくなるという。これも長年の実験によって導き出したものだ。また、成人男性の尿は、平均的に12秒間に250ccという量であることも算出。2回転半の軌道を描きながら、それを再現できる試験機も用意している。
そして、女性の場合の飛び跳ねについても試験を行ない、最適な形状での便器の設計が行なえるようにしている。
タンクレス市場でのシェアナンバーワンを目指す
一方、新型アラウーノは、エコナビを搭載。ひとセンサーを活用して入室後すぐに便座を温める。これにより、年間で2,000円の節電を可能としている。さらに最新のアラウーノSIIでは、便座や温水の温度調節に「エコモード」を搭載。設定時には消費電力を約27%削減して電気代を節約する。また、新たに「チャイルドロック機能」を搭載して、リモコン操作において、子どものいたずらなどによる誤操作を防ぐなど、普及価格帯の製品でありながら充実した機能を備えている。
さらに、排水位置に柔軟に対応できる部材を採用したことにより、従来のトイレの設置状況にも幅広く対応できるため、拡大するリフォーム市場にも配慮しているという。
「普及価格帯を実現していながら、さらなる節水やトイレのお掃除性、省エネ性、快適性のニーズに対応し、リフォームにも配慮した製品」と位置づける。
パナソニックでは、アラウーノSIIの発売にあわせて、「全自動おそうじ機能」や「トリプル汚れガード」などの機能の特徴を、実演を交えて訴求できる展示品を、全国61カ所のパナニックリビングショールームに配置。さらに、パナソニックの専門店や量販店においても展示を行なう予定だ。
「新型アラウーノでは、専門店で約1,800台、量販店では約2,000台の展示を行なった。アラウーノSIIでも、6月2日以降、全国61カ所のパナニックリビングショールームのほか、主要専門店および量販店において、積極的な展示を行なっていきたい」(パナソニック エコソリューションズ社住環境商品営業企画部水廻り商品グループ主幹の坂本剛氏)とする。
同社では、普及価格帯の製品を新たに投入することで、現在、15%のシェアを占めるタンクレストイレ市場において、ナンバーワンシェアの獲得を目指すという。
普及価格帯に多くの機能を搭載した製品を投入したことで、今後、アラウーノの販売に弾みがつくことになりそうだ。累計100万台出荷に向けてのラストスパートが始まる。