大河原克行の「白物家電 業界展望」

パナソニック、廃ブラウン管をグラスウールに再生する工場を公開

~10月13日オープンのエコナビハウスの様子も公開
by 大河原 克行
リサイクルを行なう兵庫県加東市のパナソニック エコテクノロジーセンター(PETEC)

 パナソニックは、テレビ用廃ブラウン管のガラスを再生利用した「資源循環型商品」を2012年春以降に投入すると発表した。炊飯器、冷蔵庫、洗濯機、掃除機などをラインアップする計画だ。これらの資源循環型製品には様々な再生技術が活用されるが、なかでも新たな技術として注目されるのが、廃ブラウン管のガラスから、グラスウールを再生し、これを真空断熱材の材料として使用する再生技術だ。

 同社では、滋賀県草津市の同社製造拠点において、グラスウール生産実証工場を設置。このほど、その様子を報道関係者に公開した。一方、同拠点においては、エコナビハウスも新たに設置。「今すぐできる!みんなと省エネ」をコンセプトに、エコナビ搭載商品による節電方法を提案していく考えを示した。

 今回は、パナソニック ホームアプライアンス社の草津地区拠点に設置されたグラスウール生産実証工場と、新設したエコナビハウスの様子を紹介する。

パナソニックが目指す資源循環型商品を支える技術とは?

 まず紹介するのは、グラスウール生産実証工場である。

 ここでは、パナソニックの資源循環型商品の考え方を示しておく必要があるだろう。

 パナソニックの資源循環型商品Sは、一定量の再生資源を活用した商品を指し、2012年春以降、順次製品化されることになる。

 これまでにも再生資源を、洗濯機の台枠や、冷蔵庫のトップテーブルやトレイなどの庫内部品、テレビのキャビネットなどに採用してきた経緯があったが、これをさらに拡大する方針だ。

 パナソニックが資源循環型商品の投入に踏み出す背景には、いくつかの再生技術の進化があることが見逃せない。

パナソニックの再生樹脂への取り組み高精度選別が可能な設備の概要

 1つは、兵庫県加東市のパナソニック エコテクノロジーセンター(PETEC)において開発したプラスチックの単一樹脂を自動選別技術である。

 これまでリサイクルされる場合には、冷蔵庫のトレーや棚などの手作業で仕分けしやすものに関しては、そのまま樹脂として分類され再生していたが、手作業で分別しにくいものはそのまま破砕を行ない、混合樹脂という形で再生されていた。PETECでは昨年、近赤外線識別技術と高精度エア制御技術を活用することで、混合樹脂のなかからPP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)の3種類の樹脂を99%以上という高精度で選別する技術を開発。再生樹脂の用途を広げることに成功した。

 もう1つは、パナソニック ホームアプライアンス社(HA社)が開発した、再生樹脂の劣化を回復させる材料再生技術だ。PETECから持ち込まれた樹脂を、PETECに隣接するHA社加東拠点に設置された樹脂再生工場で材料として再生産。それに劣化回復を施すことで再生利用が可能になる。

 また、HA社東近江拠点には最先端成形工場を設置して、真空圧空成形機や3Dインモールド成形機を活用した新たな工法により、再生樹脂を使いこなす体制を確立。塗装を不要にしながら高品位な外観に仕上げることができるようになるという。「これまで困難だった商品のフロントパネルなどにも再生樹脂の活用が可能になる」(パナソニック ホームアプライアンス社の高見和徳社長)という。

 そして、テレビの廃ブラウン管の再生技術も重要な鍵になる。

 これまで、テレビの廃ブラウン管は、再びブラウン管へと再資源化されていたが、薄型テレビへと移行したことで、再利用の道が途絶えていた。

 ブラウン管テレビの場合、約57%がガラスで構成されており、このガラスの再生はブラウン管テレビにおいて重要な鍵となっている。

 そこでパナソニックは、廃ブラウン管のガラスをグラスウールに再生する新たな工法を約1年半前から開発。その実証実験を行なうためのグラスウール生産実証工場を、2011年6月に草津地区の拠点に設置。2012年2月からは、再生グラスウールの量産を開始する計画だという。

パナソニック エコテクノロジーセンター(PETEC)に設置された樹脂の高精度選別を可能にする設備混合樹脂のなかから選別されたPP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)

 生産された再生グラスウールは、冷蔵庫やジャーポットなどに利用されている真空断熱材の材料として活用。将来的には住宅建材や、鉄道などにも採用することを見込んでいる。

 パナソニックによると、現在、廃ブラウン管ガラスはAグループ(パナソニック、東芝、日本ビクターなど)の回収量だけで、約4万トンの在庫があるとのことで、これらを活用することで、今後10年間はグラスウールへの再生が可能だという。

 250gのパネルカレットから、50cm×50cm程度のグラスウールが再生でき、まずは年間1,600トン程度のグラスウールを再生。これは真空断熱材換算で30万枚になる規模だという。

廃ブラウン管ガラスをグラスウールに

 では次にグラスウールへの再生工程を追ってみよう。

 使用済みとなったブラウン管テレビは、兵庫県加東市のパナソニック エコテクノロジーセンター(PETEC)に持ち込まれ、ここでブラウン管部分の取り外しを行ない、ファンネルガラスとパネルガラスとをレーザーを使用して割断。粉砕後には、整粒工程、乾式洗浄工程を経て、パネルカレットに再生する。

 パネルカレットは、草津地区に設置されたグラスウール生産実証工場でグラスウールになる。

リサイクルラインに投入された廃ブラウン管テレビテレビから取り外されたブラウン管レーザーを使用してファンネルガラスとパネルガラスとを割断
割断されたパネルガラス部再生されたパネルカレット。これがグラスウールへの再生原料となる

 グラスウール生産施設は、防火壁で囲まれた3階建て構造となっており、3階部分からパネルカレットをガラス溶融炉に投入。1,000℃以上の温度で一気に溶かす。溶解したガラスは、2階部に設置された繊維化施設のスピナー(回転台)へと液状のまま流し込まれる。スピナーは高速で回転しており、スピナーの側面に開いた0.数ミリという無数の穴から、グラスウールが綿状になって吹き出され、遠心力によって引き伸ばされる。綿菓子を作るようなイメージだ。

パナソニックホームアプライアンス社の滋賀県草津地区の拠点草津地区に設置されたグラスウール生産実証工場

 スピナーは、熱風バーナーで高温に熱されており、吹き出しから0.01秒後には750℃だったグラスウールは、遠心力で太さは4ミクロンまで細くなる。吹き出したあとには、冷風で急速に冷却。これにより、固い繊維になり、断熱性能を高めることができるという。

 グラスウールは、1階部のコンベアシート上に収れんされ、プレス、切断、巻き取りが行なわれるシートとなる。

ガラス溶解炉で溶かしたブラウン管のガラスをスピナーへ流し込む(パナソニック提供)スピナーから出てきた再生グラスウール。綿状になって出てくる(パナソニック提供)裁断前のシート状態になった再生グラスウール。コンベアで搬送される(パナソニック提供)
グラスウールを使用して完成した真空断熱材「Vacua」は、今後住建材料としても利用される

 巻き取られたグラスウールのシートは、隣接する真空断熱材の生産工程へと持ち込まれ、真空断熱材のVacuaとして再生。冷蔵庫やジャーポット、エコキュートなどに利用される。

 Vacuaは、内部の90%を真空にすることで、断熱性能を得られるという。繊維の合成を高め、空間部を広げるほか、繊維の方向を熱の流れる方向と垂直にすることで熱が伝わりにくい構造にしている。

 グラスウール生産実証工場においては、今後、より品質の高いグラスウールの生産を目指すとともに、コスト面での改善を図っていく必要があるという。


自分でできる省エネとエコナビによる省エネを紹介

 一方、同社が草津地区に新設したエコナビハウスの様子も紹介しよう。

 2011年10月13日にオープンしたエコナビハウスは、「今すぐできる!みんなと省エネ」をコンセプトに、エコナビ搭載商品による上手な節電方法を提案する施設だ。

パナソニックホームアプライアンス社の滋賀県草津地区構内に設置したエコナビハウスの外観

 自分でできる省エネ方法にはどんなものがあるのか、一方で、エコナビでできる省エネにはどんなものがあるのかといったことを紹介。エコナビによって実現できる、人にはできない省エネとの組み合わせにより、さらに省エネ効果が高まることを訴える施設となっている。

 エコナビハウスは、リビング、キッチン・ダイニング、バス・サニタリーなどで構成。屋外には太陽光パネルや燃料電池システムなどを展示。ハウス内に展示されている各製品には、パネルで自分にできるエコの方法と、エコナビが行なうエコをそれぞれに紹介。マイスターと呼ばれる同社社員が、それぞれの製品によるエコな活用方法を教えてくれるという仕組みだ。

エコナビハウスの概要エコナビハウスのフロア構成図。リビング、キッチン・ダイニング、バス・サニタリーで構成

 例えば、エアコンでは、自分でできる省エネとしては、6畳の部屋で設定温度を1℃低く設定すれば、年間1,840円の節約が可能であること、カーテンを使用し直射日光を避けること、室外機にそばにモノを置かないことなどで省エネが可能とし、「室外機は気にしない人が多いが、実は省エネの要になっている。通気口をふさがないことや直接日光に当てないことが大切」とする一方、エコナビによる省エネでは、日射センサーにより、日差しが強い日に暖房運転の制御したり、ヒト・モノセンサーにより、人の居場所を中心に暖める効率暖房の事例を紹介する。

 さらに住居の断熱材には真空断熱材Vacuaを使用しており、省エネ家電で作った熱を逃がさず、さらなる省エネを実現。太陽光発電と燃料電池による自宅で使用する電気を自ら作る地産地消の姿も実演しているという。

 なお、エコナビハウスは、現在は一般公開されてはいないが、今後、検討していくという。

 以下、エコナビハウスの様子を写真で紹介しよう。

エコナビハウスの玄関自分にできる省エネと、エコナビにできる省エネを紹介するのがコンセプトマイスターと呼ばれる社員がそれぞれの商品のエコ方法を紹介する
リビングには薄型テレビやエアコン、住宅用換気システムなどを展示キッチン・ダイニングの様子。冷蔵庫のほか、ジャーポット、炊飯器、電子レンジ、食洗機などが展示される冷蔵庫は1分間開けっ放しにすると、元に戻すにの2Whの電気が必要だという
バス・サニタリーではドラム式洗濯乾燥機や便座、お風呂のエコキュートなどを紹介
真空断熱材を住居に使用した際の壁構造もカットモデルで紹介している庭には太陽光発電システムを設置してあるエコナビハウスの屋外に設置された燃料電池システム




2011年10月21日 00:00