大河原克行の「白物家電 業界展望」
海外事業強化を打ち出すシャープのプラズマクラスター事業
シャープ 健康・環境システム事業本部プラズマクラスター機器事業部・鈴木隆事業部長 |
シャープのプラズマクラスター機器事業部は、2010年10月に新設してからちょうど1年を経過した。その間、プラズマクラスター搭載製品のラインアップをさらに拡充。現在、同社から発売される主要白物家電製品の50%以上にプラズマクラスターが搭載されているという。
また、海外事業への足がかりにも取り組んだ1年であり、来年度以降の事業拡大に向けた準備が整いつつある。そうしたなかで、新たに投入したのがプラズマクラスター史上最高峰の空気浄化機能を達成したとするKI-AXシリーズ。加えて、イオン発生機も、寝室用モデルの強化や、デスクトップ用という新たな用途提案も開始。
今後も利用者ニーズにあわせた新たな提案を進めていくとする。プラズマクラスター機器事業部を新設してから1年で同事業はどう成長したのか、また今後のプラズマクラスター事業はどう進化するのか。シャープ 健康・環境システム事業本部プラズマクラスター機器事業部・鈴木隆事業部長に話を聞いた。
■空気ケア市場は冷蔵に匹敵する市場規模に
シャープ 健康・環境システム事業本部プラズマクラスター機器事業部・鈴木隆事業部長は、1つの数字を提示する。
それは、空気ケア製品の国内出荷台数が、2010年度実績で年間400万台を突破したことだ。
空気ケア製品は市場が右肩上がりで成長している。500万台の大台も近い |
ここでいう空気ケア製品とは、空気清浄機とイオン発生機をあわせたもの。日本電機工業会の調べによると、空気清浄機の市場規模は249万台。逆算すれば、イオン発生機は年間約160万台の市場規模に達すると想定され、空気ケア市場全体で2007年度比2.8倍という大きな成長を遂げている。
「今後2~3年で、国内空気ケア市場は約500万台の市場規模に達するだろう。500万台の市場規模とは、いわば冷蔵庫の年間出荷台数と同じ水準。空気ケア製品が、これだけ大きな市場へと育ってきた証し」と、鈴木事業部長は語る。
空気清浄機の国内における世帯普及率は約38%。これにイオン発生機を加えると約43%の普及率になる。これもあと数年で50%という大台を迎えることになろう。
その先にはエアコンの年間700万台、テレビの年間1,000万台という市場規模への到達時期が想定される。1家に複数台という利用が見込まれる製品だけに、テレビと同じ市場規模に達する要素を持ち合わせた製品だともいえる。
「空気清浄機は、家族が集まるリビング用として利用する例が多い。一方で、寝室や書斎には、空気清浄機では大きすぎるために、小型化したイオン発生機を置きたいという需要もある。リビングには空気清浄機、小さな部屋にはイオン発生機といったような使い分けのほか、寝室には高級製品を揃えて快適な眠りを実現するという女性を中心とした新たな需要のなかでイオン発生機が利用される場合もある。
さらには、これまでに利用していた空気清浄機を書斎などに移動させ、リビング用には最新機能を搭載した空気清浄機を新たに購入するという、機能進化を捉えて買い換えをするといった動きも出ている。空気清浄機およびイオン発生機の効果を実感していただく人たちが増えていることが、こうした購買につながっている」と、鈴木事業部長は分析する。
プラズマクラスターイオンは、除菌、脱臭、さらに美肌という点でも効果があることが第三者機関の認定によって実証されている。そして、これらの効果をユーザー自らが体感しているということが、買い換え、買い増しという需要を生み、空気ケア製品の市場拡大にもつながっているといえよう。
そのほかにも、プラズマクラスターイオンが拡大していることを裏付ける数値がある。
例えば、シャープの白物家電の拠点である八尾工場で取り扱う製品の50%以上にプラズマクラスターイオンが搭載されており、国内向けに限定すれば、それは65%にまで達する(いずれも売り上げ金額ベース)。八尾工場では、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、エアコン、オーブン(ヘルシオ)、LEDなどを取り扱っている。シャープでは、プラズマクラスターイオンを搭載した冷蔵庫、エアコン、掃除機、洗濯機、扇風機などを相次ぎ投入。まさに様々な製品領域において、この技術が利用されていることを表している。
現時点では、シャープの基幹製品である液晶テレビAQUOSには、プラズマクラスターイオン搭載モデルはないが、これはファンを利用するプラズマクラスターイオンが、音質を楽しむAV機器には向いていないという背景がある。しかし、これもいつかは解決されるだろう。
■用途に最適化した製品ラインアップに踏み出す
そうした中、シャープは、空気清浄機の最上位製品として、高濃度プラズマクラスター25000イオン発生機能を搭載した加湿空気清浄機「KI-AX80」および「KI-AX70」を発表。これを「プラズマクラスター史上最高峰の空気浄化機能を実現した製品」と位置づけた。
シャープが投入するプラズマクラスターイオン搭載空気清浄機、イオン発生機のラインアップ | プラズマクラスター史上最高峰の空気浄化機能を達成したとするKI-AXシリーズ |
これまでの空気清浄機ではプラズマクラスター7000イオン発生機能を搭載していたが、新製品では25000のデバイスを搭載。浮遊菌抑制スピードで約1.5倍、付着臭の脱臭スピードでは約1.3倍としたほか、独自の循環気流により吸塵スピードを約20%向上させた。
「これまでにも、高濃度プラズマクラスター25000イオン発生機能を搭載したいとは考えていたが、いくつかの理由から時期尚早だと考えていた。例えば、発生デバイスそのものが大きいことから、空気清浄機の本体そのものが1.5倍程度大きくなっていまう可能性があること、さらには2008年にイオン発生機を発売し、空気清浄機との差別化を明確に図るという意味でも、イオン発生機に最上位のデバイスを活用するマーケティング的要素もあった。そして、販売店の方々がこれを付加価値として自信を持ってお客様に勧めていただける環境を作り上げることも必要だった。だが、この3年間でプラズマクラスターイオンに対する認知度が高まり、デバイスの進化もあり、昨年の段階で、いよいよ加湿空気清浄機にも高濃度プラズマクラスター25000イオン発生機能を搭載することを決定した」と語る。
イオン発生デバイスは、社内で7.5世代と呼ばれるものを採用。小型化しながら、より効果的なイオン発生が可能になるデバイスだ。
市場想定価格は、21畳用のKI-AX80で95,000円、17畳用のKI-AX70は75,000円。従来の空気清浄機に比べて2万円ほど割高だ。
「12畳用のイオン発生機の市場想定価格は45,000円。これを組み合わせて2万円の価格差であれば、市場でも受け入れていただけるのではないかと考えた。この価格差ならば販売店の方々にも勧めていただけるはずと確信している」と語る。
一方、寝室用の加湿機能搭載プラズマクラスターイオン発生機のIG-DK100では、設置場所に制約がある寝室でも設置が可能な約620平方cmの筐体サイズとし、20~40代の子育てママ世代が中心だったこれまでの需要層に加えて、今後は20~40代の独身、DINKS層に対する訴求を図る考えだ。
さらに新たな利用シーン提案として、オフィスの机などに設置可能なデスクトップ用保湿機能搭載イオン発生機「IG-DK1S」を投入。オフィスの自分のまわりだけを手軽に加湿、保湿したいというニーズに応える製品で、USBポートからの給電を可能としたことで、PCと接続した利用が可能になるのも特徴だ。
「ホームユース、パーソナルユース、カーユース、モバイルユース、そしてコーポレート/パブリックユースにもラインアップを広げてきたが、これからも新たな利用シーンを想定する製品を引き続き投入していきたい。そして、製品を見ただけで、用途を想定できるといったモノづくりにも取り組んでいく。シャープは様々な形でユーザーの声を聞き、それを製品に反映させている。だからこそ、的確な用途に向けた製品化が実現できる。これからもニーズに則した製品を投入していく」と、鈴木事業部長は自信をみせる。
寝室用途を想定した加湿機能搭載プラズマクラスターイオン発生機「IG-DK100」 | 新たに投入したデスクトップ用保湿機能搭載イオン発生機「IG-DK1S」 | イオン発生機は様々な領域に製品が広がっている |
■なぜシャープはデザインの変化に取り組んだのか
昨年から、シャープのプラズマクラスターイオン搭載空気清浄機およびイオン発生機のデザインが変化しはじめている。
ラウンドフォルムを採用したデザインとしたことで、部屋のなかでも存在を発揮せず、馴染むことができるようにしたのが特徴で、今回発表した新製品でもこのデザイン性を踏襲している。
このデザインを社内では「テクノロジー&スキン」と表現し、「プラズマクラスターイオンという中核となる『実』を、『皮』で覆うようなデザイン」とその狙いを語る。
「女性や赤ちゃん、お年寄りにも安心して使ってもらうには、テクノロジーが前面に出るよりも、入口としてのデザイン面からの安心感が必要になる。その安心感をイメージできるフォルムであること、それでいながら、テクノロジーとしては、その中核にプラズマクラスターイオンがあることを、『ぶどう』のマークで表現する。リビングに置いても、ベッドサイドに置いても、机の上に置いても、存在感を強く発揮するのではなく、自然に馴染むザザインを指向した」と鈴木事業部長は語る。
そして、このデザインにはもう1つの狙いがある。それは、海外戦略を加速する上で世界共通で受け入れられるデザインを目指したということだ。海外戦略でも、安心感を感じさせることができるフォルムが必要だと鈴木事業部長は語る。
「ひと目で見て安心という印象を持ってもらえること、さらに、フォルムを見ただけで直感的にどんな用途で使えるかを想定してもらえることが、海外で事業を展開する上では重要な要素になる。空気ケアという考え方が薄い市場に、フォルムという観点からも訴求していく」とする。
プラズマクラスター機器事業の重要なテーマの1つに、海外事業の拡大がある。
2010年度において15%だったプラズマクラスター事業における海外売り上げ比率を、2013年度にまでに30%へと構成比を倍増させる計画を掲げており、それに向けて徹底した準備を進めたのが、事業部設立以降のこの1年だったともいえる。その1つに、デザインの変更があったわけだ。
プラズマクラスターイオン搭載機器は、全世界100カ国で販売されており、2009年1月時点の58カ国での展開に比べると、大幅に増加している。そのなかでも、プラズマクラスター機器事業部では、インドネシア、シンガポール、タイ、マレーシアによるASEAN4カ国と、中国、香港、台湾を重点地域に定め、この1年間に渡り、これら地域での地盤づくりを進めてきた。
今年1月からは、日本未発売のヘルメットの脱臭/除菌を可能にする専用モデルをインドネシアで発売。4月からはマレーシア、シンガポールでも発売した。さらに、ASEANや中近東向けには、実売価格で1万円前後の小型空気清浄機を発売。ミドル層を狙ったプラズマクラスターイオン機能搭載製品としてラインアップした。
また、中国では2001年から空気清浄機を、2009年からイオン発生機を投入。19機種をラインアップしていたが、今年に入ってプラズマクラスターイオン機能を搭載した加湿空気清浄機が中国政府衛生部から「空気消毒機」の認証を得たことで、更に積極的な拡販を開始。「攻防一体」、「空気超新鮮」をキーワードに、積極的に市場訴求できる体制が整った。
余談ではあるが、「プラズマクラスター史上最高峰の空気浄化機能を実現した製品」と位置づけた日本で発売する今回の高濃度プラズマクラスター25000イオン発生機能搭載加湿空気清浄機「KI-AXシリーズ」のカタログには、「攻めるパワー プラズマクラスター25000」、「防ぐパワー フィルター浄化」という言葉が使われている。これは中国での「攻防一体」のキャッチフレーズを活用したものであり、いわば逆上陸ともいえるものだ。
「北米ではフィルター型の製品が中心となり、プラズマクラスターイオンの効能を打ち出した訴求にはまだまだ時間がかかる。ここは焦らずに展開していきたい。また、韓国、中国では空気ケアに関して一定の市場規模があり、とくに中国では空気に対する生活者の関心が日増しに高まっている。海外展開においても、日本と同様に、アカデミックマーケティングにより、第三者機関による効果の認証を訴求する手法が必要な条件となる。国によっては、その国の研究機関における認証のみを訴求に使えるという場合もあり、国ごとにあわせたアカデミックマーケティングを展開していくことになる」と語る。
■次の1年は市場創造に取り組むフェーズに
鈴木事業部長は、プラズマクラスター機器事業部としての1年を、「今までやってこなかった領域に手を伸ばしてきた1年。従来は、プラズマクラスターイオンの効果を知ってもらうことが重点課題だったが、さらに購入しやすいイオン発生機を投入し、グローバルを視野に入れた製品づくりにも着手するといったことに取り組んできた。今後は、これまでの延長線上にはない発想で事業に取り組むことが重要になる。これからの1年は市場創造や需要創造を軸とした製品づくりにも取り組みたいと考えている」と鈴木事業部長は語る。
現時点では具体的な製品の姿については言及しないが、「これまでの加湿空気清浄機とは土俵が異なる製品も投入したいと考えている。また、コンシューマ向け製品の強化とともに、業務用製品の強化、様々な製品への採用といった点も視野に入れ、プラズマクラスター事業全体としてさらなる市場創造に取り組みたい」とする。
空気ケア市場は、まだしばらくの間は、成長が期待される分野でもある。その市場に向けてシャープが、これからどんな「市場創造」型の製品を投入するのかが楽しみだ。
2011年10月18日 00:00